お嬢様と三人娘。 エピローグ
首藤さんたちの一件が落着してから、数日たったある日のこと。
麻生くんと二人で廊下を歩いていた時に、彼が私にこんなことを言ってきた。
「――今度のことでは僕もいろいろと考えさせられたよ」
「今度のことって?」
「僕が百合岡くんのこと、泣かせてしまったことで、回りまわって五十嵐さんに迷惑がかかっちゃったでしょ? 僕も考えが足りてなかったよ。配慮のない行動が、僕に返ってくるだけじゃなくって、一緒にいる人にも迷惑がかかってしまうこともあるんだって……。だから、行動には慎重にならないと、いけないんだなってことを、今回のことでつくづく感じたんだ。だから、今度のことは、本当にごめんなさい、五十嵐さん」
そう言って、麻生くんは私に深々と頭を下げてきた。
「ああ、首藤さんが私に攻撃してきたこと? でも、あれに関しては首藤さんも後で私に謝ってきたし、百合岡くんへの思いが強すぎた首藤さんの暴走みたいなものだから、麻生くんがそんなに気にしなくってもいいと思うけど。私も別に気にしてないし……」
「でも、僕も反省したよ。何事もやりすぎちゃいけないって。いくら相手が悪くても、逃げ道をなくすまで追い詰めてしまうと大変なことになるんだって。首藤さんのことにしても、もし、あのことが原因で五十嵐さんが大けがとかしていたら、僕は、一生後悔すると思う」
そう言って、申し訳なさそうにうなだれる、麻生くん。そんなに気にすることも、ないのにな……。
――だけど……。
どういうわけか、私はそんな申し訳なさそうにしている麻生くんの様子を見ていたら、私はちょっぴり、イタズラな気持ちが湧き上がってしまった。
そして、気がついたら私は、普段の私では絶対に言わないような大胆なセリフを麻生くんに対して向けてしまっていた。
「……それじゃあさ、もし、あの時、私が傷が残るような大ケガとかしていたら、麻生くんは、責任取ってくれていたの?」
普段の私だったら、絶対に言わないような、恥ずかしいセリフ。だけど、この時の私は、なぜだかそう麻生くんに言わずにはいられなかったのだ。
すると、麻生くんは、そんな私のセリフに対して、間髪入れずに力強い言葉で私にこう返してきた。
「そんなの、責任取るに決まってるじゃないっ! ううん、ケガとかしてなくても、僕は一生、五十嵐さんのことを――」
そこまで言ったとき、麻生くんは何かに気づいてしまったようだ。――そして、私も。
「あっ……。何か、勢いで変なこと言って、ごめん……」
「うん……私の方こそ、なんかごめんね……」
そう言って、顔を真っ赤に赤らめる麻生くんと、それにつられて真っ赤になる私。
そしてそのままなんとなく二人とも恥ずかしくなってしまい、その話は何となくうやむやになってしまった。
そしてそのまま二人、なんとなく無言で廊下を歩いていたら…………。
「……あれ?なんか教室の方から焦げ臭い……。っていうか、なんだかいい匂いがしない?」
「そうだねなんかいい匂い……。っていうか、どっかで嗅いだ気がしない?このにおい……?」
そう思って教室の方を見てみたら、なんと教室の中から煙が上がっていた。
――えっ⁉ まさかこれって、火事っ⁉
そう思った時だった。
「――何考えてるのよあなたたちはっ!」
教室の中から、委員長の三田さんの怒鳴り声が聞こえてきた。
その声に、私と麻生くんが慌てて教室の中を見てみると、そこではとんでもないバカ騒ぎが繰り広げられていた。
「あなたたち、バカなんじゃないのっ⁉ 教室の中で焼き肉をするだなんて、あなたたちの頭の中には常識ってものがないの、常識がっ!」
教室の中にグリルを持ち込んで焼き肉をしていた真凛とゆかりが、三田さんに怒られていた。
「えーっ? いーじゃねーかよ? 結女のの快気祝いだよ、快気祝い。どうだ? うまいだろ? 結女」
三田さんの怒りなど意に介することもなく、悪びれもせずに首藤さんに同意を求める真凛。
「うん。すごくおいしい。しびれる味だわ。真凛さんちのホルモンって、こんなにおいしかったのねっ! 今度は家族で……ううん、七夜くんと一緒に焼き肉デートに行くねっ!」
そう言って幸せそうな表情で焼き肉をもりもり食べる首藤さん。
「おーっ、毎度ありっ!いつでも待ってるぜっ!」
百合岡くんや三人組も一緒になって焼き肉を食べている。
「あの品行方正だった結女さんまで一緒になって……。もう、このクラス、どうなっちゃうのかしら……」
真凛たちの蛮行にため息をつくことしかできない三田さん。
「そういうなよ、三田。ほら、お前の彼氏もうまそうに食ってるぜ?」
そう言って真凛が指さしたのは、真凛たちと一緒になって焼き肉を食べている、片岡くんと伊達くん。
「勇士くんっ!あなたまで一緒になってっ!」
「いっ……。いやっ、藍里、これはその……。うまいぜ?」
「そういう問題じゃないでしょっ!あなたまでこの人たちに染まっちゃって……。名門聖玉館の生徒としての誇りはどこに行ってしまったのよっ!」
怖い顔で彼氏に対してお説教をする、三田さん。
「まあまあ三田。そんな怖い顔しないで、お前もホルモン食ってみろよっ!」
そう言って、三田さんの口に無理やりホルモンを突っ込む真凛。
「……おいしい」
真凛ちのホルモンのおいしさに、思わず怒りを忘れる三田さん。
「だろう?まだまだあるから、お前もどんどん食っていいぜっ!」
「ありがとう。それじゃいただきます……。じゃ、な―――――いっ! 教室がホルモンの油で臭くなっちゃうじゃないのっ! せめてやるんだったら、外でやりなさいよっ!」
「えーっ?教室の中でこそこそ焼き肉を食べるのが面白いんじゃんかよ……」
「そうそう♡ それに教室がホルモン臭くなったら、その匂いで弁当のコメが進んでいいじゃん♡」
そんなアホなことを言っているのはもちろん、御門くんと大井川くんのオバカーズの二人。
そんな二人の言葉に、もう卒倒しそうな表情の三田さん。
……なんだかもう、みんな大騒ぎで、収拾がつかなくなってきた。
「なんかもう……。メチャクチャだよね……」
私があきれながら麻生くんにそう言うと、麻生君は笑ってこう言った。
「でもさ。このクラスって、いつも賑やかで、とっても楽しいよね。僕、このクラスが大好きだよ。五十嵐さんはどう?」
「――そんなの、決まってるじゃないっ! 私だって、このクラスが、大好きだよっ!」
そう言って、私と麻生くんは、お互いに微笑みあった。
――私も、このクラスが大好きっ!
思っていた名門私立校のお嬢様ライフとはかけ離れた生活になったけど、みんなでバカやって、笑いあって暮らす日常は毎日とっても充実してる。
ゆかりに理愛ちゃん、真凛に澪ちゃん。オバカーズにほかのみんな。みんなと一緒に過ごす、毎日が楽しくって、たまらない。
――そして、麻生くん。
あなたと出会ってから、この物語のすべてが始まった。これからもきっとこの学校でいろいろな事件や出来事が起こるだろうと思う。だけど……。
麻生くんと一緒だったら、きっとどんな出来事も楽しい思い出になる。
麻生くんと一緒だったら、どんな困難も乗り越えていける。だから――
「――これからも、よろしくねっ、麻生くんっ!」
思わず、麻生くんにそう声をかけてしまった。
「どうしたの? 五十嵐さん、改まって?」
私の唐突な言葉にきょとんとしている麻生くん。
「ううんっ! ちょっと、言ってみたくなっただけっ♡」
「そうなんだ。なんだかよくわからないけど……」
「いいんだよ。私が言ってみたくなっただけなんだから。これからもずっと、麻生くんとこんな楽しい学校生活を送れたらいいなって思っての、あらためましての、ご挨拶だよっ♡」
「そっか。それじゃあ、僕も。――これからも改めてよろしくねっ、五十嵐さんっ!」
そう言って、麻生くんも笑顔で返事を返してくれた。
「おーいっ、由奈ちゃん、麻生くんっ! 早く来ないとお肉がなくなっちゃうよ?」
理愛ちゃんが笑顔で私たちに手を振る。
「うまいぞ、由奈。お前たちも早く来い」
澪ちゃんがもしゃもしゃと肉をほおばり続ける。
「ちゃんとあんたたちの分も確保してあるから早く来なっ!」
……ゆかりにしては、気が利くじゃん。
――みんなが呼んでいる。
「早くいこ? 麻生くん。 早くいかないと、お肉が全部食べられちゃう」
「そうだね、五十嵐さん。 急がないとねっ!」
そして、私たちはみんなと合流し、おいしく焼き肉を食べた。
――先生には思いっきり文句を言われたけど、教室で焼き肉なんてめったにできない経験ができて、めっちゃ、楽しかった。
ホント、うちのクラスって、最高っ!
――明日は、どんな出来事が、あるのかなぁ……?
長く続きました真凛の話からお嬢様のダイエット騒動に至る話はこれにて終了です。
最初はサブタイトルを「じゃりン子真凛ちゃん」で統一するつもりでしたが、結女のダイエットの話あたりの真凛の出番があまりなかったこともあって、途中から後半部分を「お嬢様と三人娘」に改題してしまいました。どうにもみっともない話で申し訳ありません。
さて、この一か月ほど毎日更新してまいりました、この『ゆな×ともっ!』ですが、今回のお話を持ちまして、いったん「休み時間」とさせていただきます。
実はこの毎日更新に当たってはまったくストックのない状態でガチで毎日毎日一本ずつの話を書いては更新していたのですが、さすがにこの方法では書いている私の体力と精神力にかなりの負担がかかり、また、作品のクオリティ自体も話の推敲をしている時間がなかったこともあり、ほぼ毎日行き当たりばったりで書いているような感じになってしまい、書いている本人が書いててわかるレベルで文章の質が下がってしまっていたのもあって、話の切りがいいこの段階での中断をさせていただくことと相成りました。
最初に「由奈の中学卒業まで描く」と大見えを切っておきながら申し訳ございませんが、この話自体はちまちまと書き進めていき、また新たな形で発表したいと思いますので、その時はまたお付き合いのほどを、よろしくお願いいたします。
最後になりましたが、小説家になろうにおいてほぼ読まれることがないといわれるストレートな学園コメディにお付き合いしていただいた皆様、本当にありがとうございます。
ブックマークをしていただいた方、星評価をしていただいた方には本当に感謝しております。
特に星評価をしてくださった方、あなたのおかげで現代恋愛ジャンルでランキングに入ることができました。本当にありがとうございます。
それでは皆様、ごきげんよう。
再び由奈たちと出会うことがありましたら、どうぞ、彼女たちをかわいがってあげてください。
根岸佳孝




