お嬢様と三人娘。6 体育館の風景
――今日の三・四時限目は体育。
今日は体育館で再びバスケ。
私たちはいつものヒルメシーズの仲良しチームで適当に勝負。
……とはいっても、うちのチームは運動神経抜群の真凛がいるし、澪ちゃんや意外なところでは理愛ちゃんも運動神経は良かったりするので、結構私たちのチームは強かったりする。
一方男子の方を見てみると、麻生くんと伊達くんが仲良さそうにバスケのフォーメーションのことについて話している。前回の試合以来、本当に二人は仲良くなったみたいで、ちょくちょく二人で話すことも増えてきているようだ。
前は授業中でもいつも一緒に組んでいた伊達くんと片岡くんだが、最近は授業ではあえてコンビを組まずに別々のチームでやりあうことが多くなった。
麻生くんたちとの試合を通じて、いろんな人と組んで試合を組み立てることの大切さに目覚めた二人は、部活の外では武者修行と称してそれぞれ別々のチームで競い合うことが多くなったようだ。
そして、そのことが部活内での二人のコンビネーションにいい影響を与えているようで、それによって二人のゴールデンコンビはそれによってますます進化を遂げているらしい。
――まあ、その一方で……。
「……やっぱいいよね。麻生くんと伊達くん……♡」
……相変わらず、一部の女子の邪な目線は気になるところではあるけれど。
――それからもう一人。
昨日、麻生くんにコテンパンにやられた百合岡くんは今日は何事もなかったかのように、相変わらず偉そうな感じで取り巻きの男子たちと一緒に話をしていた。
だけど……。
「……どうしたんだよ、七夜様?」
「いや……。なんでもねぇよ。……話を続けてくれ」
百合岡くんが時々ビクビクした表情になる。
その原因は……、麻生くんだ。
麻生くんが百合岡くんの前を通り過ぎる度に、百合岡くんの顔色が変わる。
何事もないかのように振る舞っているが、麻生くんと絶対に目を合わせないようにしている。……明らかに、麻生くんに対して怯えている。
そんなことを知らない取り巻きの男子たちは、百合岡くんに向かっていつものように気になる女子の品定めなんかをしたりなんかして、軽口をたたいている。
百合岡くんはそんな取り巻きの話にいつものように尊大な感じで付き合ったりしているけど、その一方で彼は麻生くんがさっさと向こうに行ってくれないかと気が気でないようだ。
麻生くんの存在が、これまで自分たちの殻の中に閉じこもっていた内部組の男子たちに強烈なインパクトを与えているらしい。
伊達くんや片岡くんにはプラスの影響を、百合岡くんは……、正直、まだどうなるかはわからないけど、少なくとも、クラスの風通しは少しは良くなってきている感じはする。
――と、そんなことを、つらつらと考えていたら……。
「おーいっ!由奈―っ!次、あたしらの番だぞーっ!」
――ゆかりが呼んでいる。
私たちの試合の順番が回ってきたようだ。
私たちの相手は……。首藤さんと三人組を含むチーム。
「――ゲッ。次の相手、あんたたちなの?」
私たちの姿を見るなり、ヤバいものを見た時のような顔になる坂場さん。
……だが、いつもだったらそれに反応してケンカになるはずのゆかりが、今日は妙に穏やかな表情をしている。
絶対にゆかりが何か言い返してくる、と思って身構えていた三人組もこれはちょっと予想外だったようで、
「……どうしたのかしら、園宮さん。なんかおかしくない……?」
と言って、突っかかってこないゆかりのことを気持ち悪がっている。
「……どうしたのよゆかり。アンタ、今日は妙におとなしいじゃないの」
私もなんか妙だな、と思ってゆかりに声をかける。
するとゆかりは、私に対して何とも言えない慈悲深いような(気持ち悪い、とも言える)表情を浮かべながらこう言った。
「あたしはね……。今日はすべてを許せる気分なんだよ。……あの三人の友情に免じて、ね」
「友情? ……ああ。昨日のこと、ね……」
「……そう。三人の熱い友情を目の前で見て感動してしまった私は今、彼女たちに対して仏のような慈悲の心でいっぱいなんだよ……♡ だから今日はケンカなんてしないの」
「仏って、勇者ヨシ〇コの?」
「――誰が佐藤二朗じゃいっ!」
ゆかりがいつものゆかりに戻った。
「……まあ、二朗さんは置いといて、とにかくあの子たち、この後百合岡くんの所に直談判に行くっていうんでしょ? だったら、こんなところであたしとけんかして体力を使ってる場合じゃないもんね♡」
そう言って、私にウインクするゆかり。
……なるほど。ゆかりなりに、気を使っているということか。
……そういえば、体力といえば、首藤さんは大丈夫なんだろうか。
ダイエットのし過ぎでふらふらになっているんじゃないのかな、と思って彼女のことを見てみると、首藤さんの動きが妙にキビキビしている。三人組に対して頑張ろうと気合を入れている。
……あれ? なんか意外と調子、良さそう……? と、思っていたら――
「……なあ、首藤のヤツ、なんかさっきっから、俺たちのこと、メッチャにらんできてねぇか?」
首藤さんの事を見た真凛が私に対してそんなことを言ってきた。
「そうなの? 気のせいじゃない……?」
そう思ったので、もう一度、彼女のことを見てみると……。
……確かに。……なんか知らないけどこっちの方をじーっと見つめてきている。
なんでかわからないけど、私たちのことを鬼気迫る目でメッチャにらんできてる。
……て言うか、「私たちのこと」って言うか、「私」のことをにらんできてなくない? 気のせい?
……よくよく見ていると、目がウサギみたいに真っ赤に充血してるんだけど、あれって大丈夫なの? もしかして、全然寝てないんじゃないの?
――なんか怖い怖い怖い。
勝つにしろ負けるにしろ、さっさと終わらせてしまいたい。
「……どうしたの由奈? 顔色悪くない?」
「……あ、うん。なんでもない。大丈夫。……多分」
「……たぶん?」
何とも言えない気持ち悪さと一抹の不安の中、私たちの試合のホイッスルが鳴った。




