じゃりン子真凛ちゃん8 花札の鬼
「よっしゃあ!来た来た任天堂っ! これで五光が成立だっ!」
「……御門、強すぎる。……でも、花札って面白い。……もうひと勝負、お願いできるか?」
「んだよ朝菜。すっかりお前も花札にはまっちまったのな」
「うん。はまっちまった。……みんなでするゲームは面白い」
なんか、すっかり澪ちゃんは花札の花合わせにはまってしまったらしく、何回やってももっとやろうもっとやろうとほかの子にせがんでくる。
……覚えたてのゲームって妙に楽しかったりするから、澪ちゃんの気持ち、よくわかる。
――だが、そんなみんなの様子を、じーっと見つめている大人が一人。……大鉄さんだ。
「――なァ坊主?」
大鉄さんが、御門くんに声をかける。
「どしたん?テッちゃん」
「……オメェ、花合わせだけじゃなくって、カブの方はやるのか?」
「株? ……資金ができたらやってみたいなあとは思うけど、なんで?」
「いやいや、株式の話じゃねぇよ。花札やってんだからカブっつったらよぉ……」
「ああ、オイチョカブのこと? ……もしかして、テッちゃんも好きだったりするの?」
……御門くんが獲物を狙っている猫のような、何とも言えない悪い顔をした。
彼がこの顔をするときは、大体ろくでもないことを考えている時だ。
そんなロクでもなさそうな御門くんの問いに大鉄さんは、
「……ああ。好きなんてもんじゃないな。……正直言って大好きだ。俺は昔『賭場ぁ……ホニャララ荒らしのテッちゃん』って言われてたくらいのカブ好きだったんだよ。流石に今は大っぴらにそんなことするわけにもいかないから、家族とか仲間内でささやかに罪にならない程度のアレを楽しんでるくらいだけどな」
……なんか、また大鉄さんのヤバそうな話が聞こえてきた。もしかしてこれってバク……いや、聞かなかったことにしておこう。
「……そっかぁ……。ささやかな、ねぇ……♡」
……御門くんが舌なめずりをするような目をした。
「ねぇ、テッちゃん。それじゃあさ、せっかくだからおいらと一勝負、しない?」
「勝負って……。ガキが俺とやろうってんのか?……やめとけやめとけ。お前と俺とでは踏んでいる場数の数が違うんだから。……それに、真凛のクラスメートとそんなことやったなんて知られたら、真凛にブッ飛ばされちまう」
「なんだテッちゃん。おいらとやって負けるのが怖いの?」
「怖いなんかあるかよっ!……ただ、あれだ……。ガキ相手にアレを賭けてカブをやるっていうのは、さすがになぁ……?」
大鉄さんの目が、泳ぎまくっている。
「違うよ違う。 さすがにオイラもこんなとこでテッちゃんに危ない橋は渡らせたりしないよ。……オイラが言ってるのは、テッちゃんがさっき言ってた仲間内のささやかなアレってやつよ」
「それってどういうこったよ?」
……大鉄さんが乗ってきた。
それに合わせて御門くんも耳打ちをする。
「じつはさ、おれ、この…………ってやつを…………したいんんだけどさ……」
「うん。……そりゃあいい考えだ」
「どう?テッちゃん。やってみない? ……男と男の、アッツ―い、勝負ってやつをさ……♡」
「おっ、男と男の勝負か……。……うん。……オメェ、若けぇのに分かってるじゃねぇか……♡」
……二人の間で、何らかの勝負が成立したようだ。
「……ねぇねぇ由奈ちゃん? 御門くんと大鉄さん、ほっといていいのかなぁ?」
御門くんたちの様子を見て不安な表情を浮かべる理愛ちゃん。
「別に大丈夫じゃない? 大鉄さんも大人なんだし、子ども相手にお金賭けたりとかのギャンブルなんて、しないでしょ」
「……うん。……でも、なんか不安なんだよね、相手はあの、御門くんだし……」
……しばらくすると、血相を変えた真凛が私たちの座敷に怒鳴り込んできた。
「誰だ―――――っ!『高級霜降りザブトン』なんてクッソ高いやつ注文したバカはっ! 俺はこんな高いもん食っていいなんて言った覚えはないぞっ!」
「あ、注文したのオレオレ。持ってきてくれた?」
「――やっぱりテメェか御門っ! テメェオマケのくせに何ずうずうしい真似ブッこいてやがんだよっ!」
そう言って鬼の形相で御門くんをどやしつける真凛。……だが彼は真凛の剣幕には動じずに、土下座をしている大鉄さんのことをニヤニヤしながら指さしている。
「……すまねぇ。ザブトンを頼んでいいって言ったのは俺だ。……ワリィけど真凛。コイツに何も言わずにザブトンを出してやってくれ。……金は俺が払うから」
「何をバカなこと言ってやがんだよ、オヤジ……?」
次の瞬間、真凛の目に畳の上に散らばっているものが目に入った。
「…………花札?」
畳の上の花札を見た瞬間、何事かを察したのか真凛の表情が冷ややかなものになる。
「……オヤジ。……やっちまったのか」
「……ああ、やっちまった。……こいつらが花札をやっているのを見たら、我慢できなくなっちまった」
「……で、負けたのか」
「……ああ。完膚なきまでにやられちまった」
「……で、親父がコイツにザブトンをおごってやる羽目になった、と……」
「ああ、その通りだ……。面目ない」
土下座をし続けている大鉄さんの姿に、真凛はもうどうしてくれようコイツ、と言う表情になっている。
「ったく……。弱いくせにすぐ熱くなるんだから、このギャンカスは……」
「……ギャンカスって……何?」
聞きなれない言葉に私が真凛に質問をすると、
「……ギャンブル中毒のカスってこと。パチンコパチスロ競馬に競輪、競艇にオートレース……。ありとあらゆるギャンブルに熱くなってのめり込んでは全く勝てないのがウチのオヤジなんだ。……あんまり言いたくなかったけど、俺の名前はオヤジがパチンコをしていた時にめずらしく勝ってた時の台の名前が由来らしい」
「……パチンコ台?」
「ああ、あれじゃない?テレビのCMででよく流れてる、海の……」
「……ああ、あれね……」
私の頭の中に、金髪ポニーテールで海の中を泳ぎまわるビキニの女の子の姿が思い浮かんだ。
「……この際だからもう一つ恥をさらすと、ウチのオヤジ、創業者のばあちゃんの一人息子なのに会社の経営の中枢にいないで一店舗の副店長格なんて変だと思わなかったか?」
「……まあ、確かに言われてみれば……」
「なんでかって言えば、現場の方が向いてるってこともあるけれど、要するに経営の中心みたいな金のある所に置いとくと危なくてしょうがないからなんだよ。よその会社でも社長のバカ息子とか会計責任者が会社の金をギャンブルで溶かしたって事件は結構あるみたいだしな……」
「……なんか……いろいろと大変だね……」
「……御門。……テメェ、やりやがったな? 欲望と勝負と、両方の意味でギャンブルに弱いオヤジを利用して、高い肉をせしめようとするなんてよォ…………」
「おおっと。真凛さんよォ。暴力はいけないぜ。……俺はテッちゃんと男と男の勝負をして勝っただけ。それを外野からとやかく言うのは、ちょーっと、無粋なんじゃないのっ?」
「くっ…………!」
「……それに、別に俺はタダで肉をせしめようだなんて考えてないぜ? 最初にテッちゃんと約束したのは『負けた方がザブトン代を払う』ってこと。つまり、テッちゃんが勝ってたら俺が自腹を切ってザブトンを食うって話だったんだよ。だから真凛やこの店のフトコロは決して痛まないってこと。……どう?別に悪い話じゃないでしょ?」
「……まぁ…………。確かにそう言われればそうなんだけどさあ……。……なーんか、納得いかねぇんだよなぁ……」
「えーっ? さっき御門『ザブトン食べたいけど金が全然ないからどうにかしてタダで食べられないか』って言ってなかった?」
「ばっ……!大樹、余計なコトゆーんじゃねぇよっ!」
御門くんが大井川くんの口をふさぐ。
「やっぱ金無かったんじゃねーかっ! お前が負けた時はどうするつもりだったんだよっ!」
「そのときは…………。うん。皿洗いでも何でもして、体で払うつもりだったんだよ、アハハ……」
……御門くんの目が泳いでいる。
「それよりも早くっ、ザブトンっ! 勝ったのは俺なんだから有無を言わせねーぞっ!」
「あーっ、もーっ、しかたがねぇなぁ……。冷蔵庫からもう出しちまったし、持ってきてやるよっ」
納得のいかない表情をしながらも、しぶしぶ御門くんの要求を受け入れる真凛。
……と、その時だった。
「……にーなちゃんは、酔っぱらっちゃいましたよっ、と……。……あら、みんな、どうしたの?」
トイレに行っていたおかあさんが、何があったのかと私たちの座敷を覗き込んできた。
「……なるほどねェ……。真凛ちゃんのお父さんと高級なお肉をかけて勝負して、見事に御門くんが勝った、と言うわけかぁ……」
「……メンボクねぇ……。まさかこんなにもツキに見放されるとは思ってなかったぜ……。三回勝負して、三回ともやられちまった」
「それで大鉄さん。そんなに強かったの?御門くんって」
「ああ。強かった。……コイツはチビでへらへらしているように見せかけて、勝負の時は容赦なく大人の俺とも駆け引きをしてきやがる。正直、コイツは生粋の、ギャンブラーだぜ……」
「ふーん、そうなんだぁ……」
……大鉄さんの言葉に、なにごとかを考えているおかあさん。
「……ねぇ、御門くん?」
「なァに? ニーナ先生?」
「ニーナちゃんと、もう一度、勝負してみない?」




