じゃりン子真凛ちゃん6 ……謎の美人さん?
「――どれもこれもおいしいっ! ……真凛よ。本当にありがとう! 澪は今、とっても幸せだ……」
次から次へとやってくるお肉の波状攻撃に、焼肉屋初体験の澪ちゃんはすっかりとろけたような表情になっている。」
「それはうれしいぜっ! こんなに喜んでくれるんだったら食わせがいがあるぜっ。……ほら。こっちのやつも食いな?」
澪ちゃんの言葉に、真凛もすっかり気をよくしている。
「ほんとだよね。こんなおいしいホルモン初めてだよ。ほかのお店でもホルモンは食べるけど、ここのは別格だよね。お箸が止まらなくなっちゃう」
「僕もだよ。食べてるだけで自然と笑顔になっちゃう。こんなホルモン、食べたの初めてだよ」
普段はおとなしい理愛ちゃんや麻生くんも、今日はちょっぴり興奮気味だ。
御門くんと大井川くんは……。言うまでもないか。
うめぇうめぇとひたすら肉をむさぼりまくり、皿までペロペロとなめている。
そんな中、いつもは騒がしいゆかりは、今日は妙におとなしい。
「……まったく、みっともないなぁみんな…………」
なんか気持ち悪いしゃべり方で、小芝居を始めた。
「……みんな落ち着きなって。まだまだだなぁ、キミたち……。あたしみたいな常連になるとね、なんていうか、こう……救われてなきゃいけないんだなあ、ホルモン焼きを食べている時間は。こう、なんと言うかね……」
……ここの店の常連だと言っていたゆかりが、常連らしいことを言ってカッコつけようとしているが、ネットで見かける某五郎さんのマンガの画像のコピペみたいになってしまっている。
……もちろんそんなものは誰も聞いてない。
……そりゃそうだ。いまの私たちは五郎さんは五郎さんでも松重さんのドラマのようにただひたすらワシワシと食べ進むモードになっている。ゆかりの小芝居なんか相手している暇などない。
「……アンタ、早く食べないと、肉がなくなるわよ」
「あーっ!なにしてんだよーっ!あたしの分もちゃんと取っときなさいよっ! ……まだ、ゆかりちゃんの語りが終わってないでしょうがっ!」
……そんなの知るか。こうなったら早い者勝ちだ。
「……しっかし、真凛のダチっていうから、またこきたねぇヤローばっかが来るのかと思ったら、こんなべっぴんさんばっかり連れてくるとは思わなかったぜ。オメェも中学に入って色気づいたのか?」
「……なんだよ、色気づいたって……。それじゃぁまるで、俺が初めて家に彼女を連れてきた男子みたいな言い草じゃんかよ……。……俺にだって女友達の一人や二人くらい、いるんだよ」
……珍しい。真凛が照れている。
「そっかぁ? 俺は初めて見るけどな。お前の女友達……。……いや、そうでもないか。ほら、バレンタインの時にお前にチョコくれた子たち……」
「わーっ!わーっ!わ―――っ! テメェっ!余計なこと言ってんじゃねぇよっ! ブッ飛ばすぞっ!……ったく……。」
「何照れてんだよ。……こいつ、男子よりカッコいいからさ、めちゃくちゃ女子に人気があってさ、毎年山のようにチョコレートもらってやんの」
「あ、それ、なんかよくわかるーっ♡」
「……分かるじゃねぇよ、まったく」
「女子にはモテたけど、男子には全くモテなかったよな。ダチや舎弟はいっぱいいたけど。外でケンカしてくるたびに、コレクションのように舎弟を家に連れてきてたよなぁ……。……たまには彼氏でも連れて来ればいいのによって思ってたのによ、そういう色気のある話はコイツの場合皆無なんだよな……」
「……なんだよそれ……。……フツー、男親だったら娘に悪い虫がつかないように心配するもんじゃねェのかよ?」
「……あんまりにも色気がねぇと、それはそれで親は心配になるもんなんだよ。 ……どうだ?中学に入って女友達だけじゃなくって、好きな男の一人くらい、できたか?」
「まだ入学したばかりじゃん。まだ、そんなのわかんねぇよ」
真凛があっさりと受け流す。
「たとえばさぁ……この智とかはどうなんだ?」
「……えっ?…………僕?」
――なんですとっ!
……大鉄さん、余計なことは言わないでよろしい。
「――智みたいなのがお前の彼氏だったら俺も安心だぜ。なんてったって俺の親友の子供だから身元は安心だし、それに、母親みたいな度胸の据わったいい目をしているから、お前にピッタリだと思うんだけどなぁ……」
……大鉄さんがとんでもない爆弾を放り投げてきた。
「智か……うーん……」
……真凛、断れっ!
「……智と結婚したら、いい配合ですっげぇ強い子供が生まれそうだよな」
……なんじゃそりゃ。配合ってモンスターを生むんじゃないんだから……。
「でもダメだな。……智には俺なんかよりももっとふさわしいやつがいるだろ。俺なんかが邪魔したら、そいつにも智にも申し訳ないよ。……そう思うだろ?由奈」
……そう言って真凛はみんなにわからないように私に小さくウインクをした。……ほかのみんなも、私たちのことをニヤニヤと見つめている。
「……そんなこと私に言われても……。……ねぇ、麻生くん」
「……うん、そうだね……」
……麻生くんは、顔を真っ赤にして、自分の顔を手であおいでいる。
「ちぇーっ、そうか、残念だなぁ……」
……大鉄さん一人、がっかりした顔をしている。……もしかして大鉄さん、結構本気だった?
「――すみません、店長、テツさん、こっちの人手が足りなくなってきたんで、手を貸してもらってもいいっすか?」
食事時になって店が混んできたんだろう。向こうのメインホールの方を切り盛りしていた店員さんが真凛たちに助けを求めてきた。
「わかったっ!今行くっ! ……そんじゃ悪いけど、俺らはあっちの方で仕事をしてくるわ。肉は置いておくから自分たちで焼いて適当にゆっくりしてってくれや」
「うん。分かった。行ってらっしゃい」
「もしまだなんか食べたいもんがあるんだったらそこの呼び出しを押してくれ。俺かオヤジが注文受けてやるから。じゃあ、行ってくるぜっ!」
「頑張ってね~っ!」
「おうっ!」
――そう言って、真凛と大鉄さんはメインホールの方へと向かっていった。
「働き者だね、真凛ちゃんは」
理愛ちゃんが感心したように言う。
「すごいよね。僕たちと同い年なのに、お店の仕事に誇りを持っている感じだもんね」
麻生くんも感心している。
「そうだよね……」
私も感心しながら、ホールで働く真凛を見つめる。
「いらっしゃいませっ! こちらのお席へどうぞっ!」
……ただでさえ大きい真凛の背中が、今日はさらに、大きく見えた。
「……なァ、大樹?……この『高級霜降りザブトン』って食いたくねぇか?」
「うんっ!食いたい食いたいっ! 次はこれ、頼んでみるかっ!」
「……あんたたちは少しは自重しなさい。……つーか、そんな高いもの、真凛がタダで出してくれるわけないでしょう……」
「えーっ!何だよケチーっ!」
「けちーっ!」
「……何で私がケチって言われにゃならんのよ。真凛に同じこと言ってみなさい。ブッ飛ばされるから」
――なんだろう同い年なのにこの幼稚さは……。
……いや、真凛が大人っぽいってだけで中一としてはむしろこれが普通なのか?
――その後は、真凛がいなくなった後のお座敷で私たちはまったりと過ごした。
……なぜか、御門くんと大井川くんが座布団の上で花札を始めた。
その様子を澪ちゃんが興味深そうに見ている。
「……なんだ御門。そのきれいな絵のカードゲームは?」
「花札だよ。朝菜、見たことないのか? だったら教えてやろっか?」
「ぜひ頼むっ!」
「あ、花札やんのーっ? あたしも混ぜて―っ! 花合わせだったら四人いた方が人数的にキリがいいでしょ」
ゆかりも加わって四人で花合わせをやることになったようだ。
それからしばらくして――
「――珍しいなぁ……」
新しい肉を持ってきてくれた大鉄さんがぽつりとつぶやいた。
「どしたの?テッちゃん」
「……おっ、若いのに花合わせなんてシブい遊びしてるじゃん。……いやさ、今来たお客なんだけどよ、あんな清楚な感じの美人が一人焼肉だなんて、珍しいなって思ってよ……」
大鉄さんの言葉に、網を取り換えている真凛も続ける。
「ああ、すっげぇ美人のお客さんが一人で来てるよな。あれは女優かモデルかな」
真凛の「美人」と言う言葉に、御門くんと大井川くんがすかさず反応する。
「えっ!まじかまじかっ!大樹、ちょっと見に行こうぜっ! 勝負は中断なっ!」
「おーっ!びっじん美人♡」
「お客様の邪魔すんじゃねーぞっ!」
「「わかってるってっ!」」
「……まったく、二人ともみっともないんだから……。どうして麻生くんみたいにおとなしくしていることができないのかしら。……ねぇ、麻生くん♡」
「あはは……」
私の言葉に何とも言えない表情をする、麻生くん。
――しばらくすると御門くんたちが大興奮で戻ってきた。
「――ガチですっげぇ美人だったぜっ!……でも誰だろ。どっかで見たことある気もするんだけど、あんな女優、いたっけな……? なァ、妹尾?お前、役者に詳しかったよな。ちょっと見に行って来て、誰だか確かめてきてくれよ」
「やめときなよ、理愛ちゃん、そんなミーハーな真似……」
「うん……。だけど、私もちょっぴり気になるから、ちょっとだけ、見てきてもいい? ……この辺って、役者さんが結構住んでるんだよね」
そう言って理愛ちゃんも美人さんを見に行った。……理愛ちゃんも結構ミーハーさんだったか。
「……あれ?理愛っち、なかなか戻ってこないね」
ゆかりが訝しがると、飲み物を持ってきてくれた真凛が、
「理愛だったら美人さんと話し込んでるよ? なんか『すっごいファンです』って言ってた」
「ふーん……」
――やっぱり、女優さんだったのかな。
しばらくすると、理愛ちゃんが戻ってきた。
「おかえりーっ、理愛ちゃん。誰だったの? なんかその人と話し込んでたらしいけど……」
「うんっ。由奈ちゃんのこと、これからもよろしくね、って言ってたよ?」
――えっ……? それってどーゆーこと……?
……理愛ちゃんの言ってる意味が分からない。何で女優さんが私のことをよろしくっていうわけ……?
「――知らなかったよ。由奈ちゃんのお母さんって小説家の五十嵐仁奈先生だったんだね」
(ブ――――っ!)
……私は、口に含んだウーロン茶を思いっきり吹き出してしまった。




