じゃりン子真凛ちゃん5 これがウチの実力だっ!
「――よっしゃぁっ!焼けたぜっ! どらン猫亭自慢の朝どれ新鮮、シロコロホルモンのコロちゃんだっ!」
「「「「「「「お―――――――っ!」」」」」」」
――焼きあがったホルモンを見て、みんなっで一斉に感嘆の声をあげる。
……何これ。おいしそうを超えておいしそう。油のにおいが鼻から直接胃袋をを刺激している。みんなの前……特に麻生くんのいないところだったら何も考えないでかじりつきたい。……そんな乙女にあるまじきことを考えるくらい、このホルモンは魅力的。
「ほら、一番最初だから、みんなに公平に分けてからなっ! ……特に御門と大樹。自分だけ抜け駆けしようとしたら、店からおっぽり出すからな。 ……よし、みんな行き渡ったな? それじゃあせぇーので――」
「「「「「「「いっただきま―――――――すっ!」」」」」」」
――まずは、このプルプルに輝く黄金の宝石を、一気に口の中に、放り込むっ!
……口の中で油がはじけ、うまみの塊が、ダイレクトにのどの奥にしみわたっていく。
「――うわっ、めっちゃプルプルっ♡ 油も載っててジューシーっ! ……さすが真凛が言うだけのことはあるわっ!」
「だろぉ? まだまだあるからなっ!どんどん食ってくれっ!」
私の言葉と表情に、真凛は満足そうな表情を浮かべている。
「……なんだ、この、食感は……。澪は今まで一度も食べたことがないぞっ! じゅんわりとジューシー、弾力は抜群なのに口の中でプチっとかみ切れて口の中でとろけていく。……こんな食感、生まれて初めてだ……」
澪ちゃんがうっとりした表情で、感嘆の声をあげている。
「うまうまうあーいっ!何だよこれっ!おれ、こんなん食ったことないぞっ!」
「つーか米どこだよコメっ!この油を受け止めるコメが必要だろっ!」
大井川くんと御門くんが大騒ぎをしている。
「騒ぐんじゃねぇよ、コメなら今、用意させてるぜっ、と」
「ほらよっ、坊主っ! 腹いっぱい食いなっ!」
バツグンのタイミングでテツさんがごはんを持ってきた。
「うひょーっ!おっちゃん、分かってるじゃんっ! そうだよ、これだよこれっ!(パクっ!)……やっぱり最高っ!」
私もごはんと一口……。……合わないわけないじゃない。
焼肉にとってごはんは永遠の恋人。じゅんわりジューシーなこの油をごはんが優しく包み込んでくれる。……まさに、ホルモンと言うワガママな彼女を包み込んでくれる、理解のある彼くんだ。
そんなことを考えながらふと、私の隣の理解のある彼くんの顔を覗き込む。
「――おいしいね♡ 五十嵐さん」
そう言ってにっこりと微笑む、麻生くんと目が合う。……ホルモンの油でぬれた唇がセクシー♡
……私も、きっと麻生くんにはこんな感じの唇に見えているんだろうな。……ちょっぴり恥ずかしいけどもう今さらこうなってしまったらしかたがないよねっ♡
……焼肉で一線超えた気分に、なってしまった。
「――次はホルモン焼きの王道にして定番、牛のマルチョウとシマチョウ、――テッチャンだッ!」
「……ワシだワシ」
……と、テツさんが自分のことを指さしている。
「……テッちゃんって、……おっちゃんを食うのか……?」
大井川くんが不安そうな声で真凛にたずねる。
「違う違う。こんなヤニ臭くて不健康なヤツの肉なんて危なくて食えるかよ。このテッチャンはシマチョウ、牛の大腸のことだな。……んでもってマルチョウは牛の小腸の方。こっちもテッチャンに対してコテッチャンって言ったりもするな」
「ああ、スーパーで売ってる、あれ?」
「そうそうあれあれ。スーパーのやつは日持ちさせるために味付けをたっぷりつけてあるけど、店で食べるやつは素材の味を生かしてるから、また一味違ったおいしさだぞっ!」
……こちらももちろん速攻でパクリ。
……やっぱりおいしい。めっちゃとろける。
マルチョウはさっきのシロコロホルモンにも似てるけど、食べ比べると豚と牛ではこんなに味わいが違うものなんだと実感させられる。ぶたくんは濃厚でありながらどこかスッキリとした味わいだったけど、それに比べると牛さんはずっしりとした重厚な味わい。
……どっちがいいとか悪いとかの問題じゃない。
どっちもおいしい。どっちも一等賞!
「よーしっ!次はおっちゃんを食ってやるぞーっ!」
大井川くんが叫んでいる。 ……その言い方はなんか誤解を招きそうだから、やめようね……。
……それはさておき。私も、テツさん……じゃなくってテッチャンを口の中に。
……めっちゃ濃厚♡
噛めば噛むほどにうまみがしみだしてきて病みつきになる感じ。……幸せ♡
「シマチョウはホルモンの中でも下処理が大変なんだよ。ヘタな奴がやると臭みが残って食えたもんじゃなくなるんだ」
「そうなの? でも、このテッチャンは全然臭くないよ?」
「そこはオヤジの腕の見せ所さ。朝どれの新鮮なホルモンをオヤジが店内で丹念に処理をしてるから臭くならないんだ。うちのチェーンは基本ホルモンの処理は各店舗でやってるからそれぞれの店舗には熟練の職人が配置されているんだけど、親父の腕前はその職人たちの中でもトップクラス、頂点と言っていいくらいの腕なんだぜっ! ……まぁ、ぶっちゃけそれ以外は人としてクズなんだけどな」
「真凛……。何でオメェはせっかく俺のことをほめた後に下げるんだよ⁉ そこは『うちのパパはこんなにすごいんだぜっ!』だけでいいじゃねぇか……」
「……オヤジはそれくらいの評価でちょうどいいんだよ。……それにクズでないオヤジなんて、俺のオヤジじゃねぇもん」
そう言って真凛は、テツさんに笑いかける。テツさんもそれを見て、少しだけ照れた表情をする。
――なんだろう、この二人。
……憎まれ口を叩きあってるけど、お互い仲良しなのが、伝わってくる。……なんか、こういうのって、いいなぁ……。
……そんなことを考えていたら、ゆかりが私にこんなことを言ってきた。
「……いいよね。真凛とテッちゃん。 まるで由奈とニーナちゃんを見てるみたいでほんわかしてくるよね」
「……え―――っ、どこがぁ⁉ 全然違うじゃん。あの二人にはなんて言うか、信頼の絆があるじゃん。それに比べて私とおかあさんは……。なんて言うか、うん。親子が逆転した感じ? ……私がいないとおかあさんが際限なく脱線していく感じ? ダメダメなおかあさんにいつも私が振り回される感じ? ……とにかく、あの二人と私たちとでは、全然違うわよ、うん。……まあ、どちらの親も仕事はきっちりしている、という点では同じかもしれないけどさ……。……って、何ニヤニヤしてんのよ」
「……べっつにーっ♡ ……ただ、自覚ないんだって、思ってさ」
「……何よ自覚って……?」
「……それよりもさ」
ゆかりが話を変える。
「……ママって呼ばなくなったんだ。ニーナちゃんのこと」
「だってェ……。 中学生になってまで『ママ』はちょっと恥ずかしい……って言うか、ちょっと痛いじゃない?」
「……ニーナちゃん、寂しがってたよ? 由奈がママ離れしちゃったみたいでさみしいって」
「……ゆかりにまでそんなこと言ってたの?」
「……外ではしょうがないけどさ。家の中くらい、『ママ』って呼んであげてもいいんじゃない? たった二人きりの親子なんだしさ。ニーナちゃんのささやかなお願いくらい、聞いてあげてもいいんじゃない? ……中学生になったからってさ、大人ぶって全部急に変えようとしなくっても、いいんじゃないかな。 ……だってうちら、まだまだ未成年なんだし、子どもなんだしさ」
「………………考えとく」
「……そか」
――それ以上、ゆかりはそのことについては何も言わなかった。
「よーしっ!次はコリッコリのハツ、いっくぞーっ!」
――真凛のかけ声に、みんながやんややんやと声をあげるのが聞こえた。




