麻生くんは、スゴいのだ。7 男の友情と……?
――伊達くんが三星くんに押しつぶされたことで、体育館の中は阿鼻叫喚の大騒ぎになった。
「――何やってんのよ、このクソデブっ! 伊達くんの上から、早くどきなさいよっ!」
伊達くんのファンたちが、発狂しそうな勢いで叫んでいる。
「そんなぁ……おれだって巻き込まれただけなのにぃ……。……ごめんね?伊達ェ……」
女子たちに罵倒されながら、哀しい目で伊達くんの上から離れる三星くん。
「――おいっ、みんな大丈夫かっ⁉」
天道先生が慌てて駆け寄ってくる。
「弓騎、しっかりしろ、弓騎っ!」
片岡くんが伊達くんを助け起こす。
「…………ああ、大丈夫だ、心配ない。一瞬、気を失っただけだ。 ……痛てっ……」
立ち上がろうとする伊達くんが痛みを訴える。
「……足を痛めたの?」
麻生くんが心配そうに尋ねる。
「ああ、そうみたいだ。だが、これくらい……」
「無理しちゃだめだよ。この辺?どの辺……?」
真剣な表情で伊達くんの足を触りながら患部を探っていく麻生くん。普段のニコニコしている麻生くんでは想像もできないようなテキパキした様子に、先生を含め、周りのみんなはあっけにとられている。
「なんかさぁ……あれ、よくない?」
「うん……ちょっと、いいかも……」
…………麻生くんが伊達くんの足に触れるたびに、伊達くんの取り巻きの女子たちが、熱い視線を麻生くんたちに向けている。……もしかして、麻生くんのすごさに、気づいたのかなぁ……?
「多分捻挫してるっぽいね。早く冷やさないと。 先生、コールドスプレー……いや、僕が保健室に連れていきます」
「保健室って、麻生一人で大丈夫なのか……?」
……と、先生が言い終わる間もなく、麻生くんが十センチ以上身長差のありそうな伊達くんの体をお姫様抱っこで軽々と持ち上げた。
小さな麻生くんが大きな伊達くんを持ち上げる意外な姿に、みんな言葉を失う。
「それじゃぁ、伊達くん、行くよっ?」
「おっ……。おぉ……っ…………。分かった……」
持ち上げられてる伊達くんの方も、自分が小さな麻生くんにお姫様抱っこされている現実に、今一つ、実感が湧かないようだ。
「――それじゃ、保健室に行ってきます」
そう言って麻生くんは、伊達くんを抱きかかえたまま、風のように去っていく。
「ああ……。気を付けるんだぞ……」
先生も、あっけにとられている。
「……ねぇ、これって、アリかなぁ……」
「アリかナシかって話で言ったら、アリ寄りの有り、じゃない……?」
「――なんか私、新しい扉が、開いちゃいそう……♡」
……伊達くんの取り巻きの女子たちが、伊達くんを運んでいく麻生くんの姿を見送りながら、妖しい笑みを浮かべている。……なんだろう。なんだかイヤな予感がしてきた。
――麻生くんたちの伝説の?ジャイアントキリングから数日後。
……いつもの教室は、何とも言えない、ピンクの空間に満ち溢れていた。
「……だめだよ勇士くん、そんなに近くにいたら、私のメガネが曇っちゃうよォ……♡」
「いいじゃねぇかよ。俺は、藍里のメガネが曇るぐらい間近でおまえの顔を見ていたいんだよ……」
「もう……バカバカバカっ、知らないっ♡」
「いいじゃんか、俺はずっと藍里とイチャイチャすんのを我慢してきたんだぜ?……ほら、俺たちのラブラブなところを、クラスのやつらに見せつけてやろうぜ……?」
……教室の中には、すっかりバカップルと化して寄ると触るとイチャイチャしている、片岡くんと三田さんの姿があった。
「……〇ねばいいのに」
樫村くんがそんな二人の様子を憎らしげに見つめながら、相変わらず陰気につぶやいた。
「……爆破しましょう」
理愛ちゃんも無表情につぶやいた。
そんなピンク色の毎日が日常になってしまった教室にて――
「……麻生」
伊達くんが、麻生くんの席のところにやってきた。
「あ、伊達くん、足の調子は大丈夫?」
「ああ、おかげさまでな。麻生の処置が適切で治りも早かったよ」
「よかったね。これでバスケができなくなったりしたら、イヤだもんねっ♡」
「ああ……そうだな、本当にありがとう、麻生。お前のおかげだよ」
伊達くんがそう言って小さく微笑んだ。……なんだ、スカシた顔だけじゃなくって、ちゃんとそんないい笑顔も、できるんじゃない。
「――それから麻生。この間のことは、本当に済まなかった」
そう言って、伊達くんが深々と頭を下げた。
「どうしたのっ⁉ ……僕、謝られるようなこと、されたっけ?」
「――この間の試合で、お前のこと、引っ張ってしまって悪かった。……あんなことするつもりじゃなかったんだ。素人だと見下していたお前らに負けそうになって、くやしくて、つい、手が出ちまった」
「いいよぉ、あんなの、不慮の事故みたいなものだったんだし。そんなにあやまらなくっても……」
「……いや、謝らせてくれ。反則をしたことだけじゃない。お前らを見下していたことにもだ。俺は、……俺たちは今まで自分たちのことを無敵だと思っていた。先輩たちも含めて俺たちより強い奴なんて、今まで会ったことがなかったから、いい気になってたんだ。……でも、そうじゃなかった。世界にはまだまだ強いやつがたくさんいる。そのことをお前が身をもって教えてくれた。……俺の目を、覚まさせてくれたんだ。そんな強いお前のことを弱いと決めてかかって見下していたこと、本当に、済まなかった。」
そう言って、麻生くんに深々と頭を下げる伊達くん。
――すると、麻生くんは、
「強くても弱くても、相手のことを、見下しちゃ、ダメだよ。……スポーツマンだったら、相手のことをリスペクトしないとね♡」
と、微笑みながら伊達くんに優しく言った。
「……ああ、そうだな。……また、お前に教えられたな。 ……それでだ、麻生」
「何?」
「……今度は正々堂々、お前たちと勝負させてくれ。………できれば、アイツらのいないところでな……」
そう言って、伊達くんが後ろを振り向くと、そこにはタコ踊りをしながら伊達くんのことをニヤニヤと見つめている御門くんと大井川くんの姿が。
「えーっ、オイラたちがどうかしたってェ……?」
「おれたちが○○○したってェ……?」
……彼らを無視して話を進める伊達くん。
「この間は最後グダグダになって決着がつかなかったしな。今度はお前ときっちりと決着をつけたいんだ。……いいだろ?」
「……そんなこと言っても、僕はそもそもバスケ、そんなにうまくないよ? この間はみんなのチームプレイで何とかなったようなもんだし。……多分、今度やったら、伊達くんのこと、がっかりさせちゃうかもよ?」
「よく言うぜ。あんなハンパない身体能力持ってるくせに何謙遜してるんだよ」
「体力と技術は別物だよ。きちんと真っ向勝負をしたら、僕なんて伊達くんの足元にも及ばないよ……」
「……まったく。お前はどこまでも謙虚なやつなんだな。……俺も、お前のその謙虚さを見習って、もっともっと、強くなってやるよ」
――そう言うと、伊達くんが自分の右手を麻生くんに差し出した。
「――お前は、俺の目標だ。これからも、俺のライバルとして、仲良くしてくれるか?」
「……ライバルなんて……照れくさいよ。……でも、友達だったら、いいよ?」
「……わかった。……これからも、よろしくな、智」
「よろしく、……弓騎くん」
そう言って、二人は固い握手を交わした。
――いいなぁ、こういうの。「男の友情!」って感じがして……♡
「かっこいいじゃん。二人とも」
ゆかりと理愛ちゃんも微笑みながら二人を見つめている。
……だが、そんないい雰囲気の中、二人を見ている伊達くんのファンの女子たちの様子がなんか変だ。
「……やっぱいいよねぇ、男子同士の堅い絆……」
一人の女子が二人の握手を熱いまなざしで見つめている。
「……でもさぁ、麻生くんて伊達くんの相手としては、ちょっと幼すぎる感じじゃなぁい?」
「えーっ? あと二年もしたら、バランス良くなるんじゃん?」
「その場合、どっちが攻めなのかなぁ、やっぱり伊達くん?」
「いやいや分かってないなぁ、やっぱりここは麻生くんの方が攻めでしょ。普段はほわほわしている子がいざとなったら豹変するのが萌えるんじゃん♡ ちょうどこの間の試合みたいにさっ♡」
「そうだよねーっ! 伊達くんがケガした時に麻生くんがお姫様抱っこしたの、めっちゃドキドキしたもんねっ! そうなると、やっぱうちらの公式カプとしては麻生×伊達で決まりかなっ♡」
――なんか後ろの方で、とんでもない会話が繰り広げられている気がする……。……ちょっと待ってよ。 ……攻めとか受けとか……。麻生×伊達とかそれって、もしかして……。
……私の背中に、背筋が凍り付くような悪寒が走った。
……そんな彼女たちを見ながら、ご愁傷さま、と言った表情でゆかりが言った。
「……よかったじゃん、由奈。お望み通り麻生くんが人気者になってさ。 ……一部の層にだけど」
「こんなの……」
「……ん?」
「……こんなの、私が望んでたことじゃな―――――いっ!
麻生くんのことを汚れた目で見るな―――――っ! うわ―――――んっ‼」
――私の叫び声が、澄みきった青空の中に、消えていった。
「まぁまあ由奈ちゃん……」
……理愛ちゃんが、私の背中を、気の毒そうな顔でポンポンとした。
麻生くん編の物語はここで一区切りです。なんか……前半がちょっといい話っぽく終わったのに対し、後半はドタバタしっぱなしでしたね……。特に男子キャラがここまで大暴れするとは思ってもみませんでした。……特に御門くんと大井川くん。
さて、この『ゆな×ともっ!』、ある意味ここまでは主人公二人のチュートリアルみたいな話となっております。次回以降は由奈たちと同級生や先輩との人間関係をめぐるお話が中心になっていく予定です。
連載を始めて一週間になりますが、予想以上の方々に読んでいただいているのをうれしく思っております。
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これからも由奈たちの物語に、どうぞお付き合いください。




