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農民救済論

 近年のコメの価格の上昇は史上稀に見る程だとニュースではやっている。NHKによると農林水産省の発表で5月12日から5月18日にかけてコメの5kgあたりの価格は4285円となり過去最高を更新したそうだ(NHK2025)。同じ記事のグラフを見るとこの価格は去年の同じ時期の2倍ほどの高騰していることになる。消費者である都市住民などもこれには音を上げている。youtubeのコメント欄ではこれに怒りを覚えてJAを自民党と癒着して民衆から財産を奪いつくす国民の敵と位置付けて攻撃するコメントも多くあった。これに関しては最近の報道に対する私見に過ぎないがマスメディアの報道には農家の側に立ったものなどなく、このコメ価格の上昇を無条件に国民の苦難の一つとして位置付けて報道している。

 しかし、このコメ価格高騰は早く元通りにしなければならないものなのだろうか。私はそうは思わない。三菱総合研究所によると米の農家はそのほとんど(約95%)が赤字であり、市中の半数の米は赤字農場で生産されたものである(三菱総合研究所2023a)。ただ、同シンクタンクの別の記事では自家用の米の生産という観点などから実質的な収支はトントンであるとの指摘もある(三菱総合研究所2023b)。しかし、近年は物価高や輸送費高騰などもありその収支の均衡も破られていると考えるべきだ。そう考えると逆に値上げをしなければ農家にとってこの物価高や輸送費高騰は相当な大ダメージとなっていたことだろう。もともと農家というのは我ら都市市民が米を安く買おうとして、地方から近代世界システムと同じような要領で都市が中核地域のように周辺地域たる農村から搾取をしているのだ。これが為にJAは農家から安値で米を買い、農家は大変収支が低く赤字となる場合も多い。そして何よりかなりきつい仕事である。それでも値上げは悪なのだろうか。

 ここまでは農家の目線で話してきた。しかし、都市市民として話してはいない。故に次は都市市民として米を安値に戻すことがどれ程危険な行為化を述べていく。先ほど述べた通り、農家にとっては現在の価格こそが適正価格なのである。実際に農家に対する民間の調査によると38.4%が「適正な価格」と答えたそうだ。他にも「少し安い」と答えたのは35.7%、「とても安い」と答えたのは16.1%である(食べチョク2025)。この調査では農家にとっては現行の価格は適正価格であるどころかできたらもっと高くしてほしいとさえ思っていることがわかる。故に現行の価格では農家にとってはかなり無茶をしているということである。そのため、農家の経営が行き詰まり離農する人も増える可能性がある。そうすれば、日本の米農家は激減して、日本の食料自給率はさらに低下して国家防衛上のリスクになるだけでなく、日本人が国産米を食べられなくなる可能性さえ出てきてしまう。これは日本国という全体像を見たときに、あるいは私たちの生活の近い将来を想像したときに、米の価格をまた元通りにして我々消費者による農家への搾取、あるいは東京を中心とした都市による地方への搾取体制がそのままになれば日本の農業というものは立ち行かなくなり、日本国内の農業のノウハウは完全に死に至り、日本の食料安全保障はより危険な段階に移行することになるだろう。

 故に我々日本の都市市民は農業の苦しい現実を理解することが必要だ。そして、前までの安価なコメ価格は都市市民による農家、または地方への搾取体制により成り立ってきたことを知らなければならない。その上で、我々は謙虚になってこのコメ価格の高騰をある程度許容することが大事なのである。

 それなのに、江藤農水大臣に変わり石破内閣より任命を受けた小泉進次郎農水大臣はこの構造を理解せずに、あまつさえ備蓄米を2000円で市中に投入するなどというおぞましい事さえ言い始めた(毎日新聞2025)。彼は同記事において現行のコメ価格である5キロあたり4285円を「異常な高値」と評している。しかし、農家にとってはこの価格こそが適正価格であり、さらに高くしてほしいと考えている農家もいる。そのことを考慮していないように思われるこの発言は農水大臣として如何なものであろうか。さらに、これが自民党のためのパフォーマンスならばまだよかったが、本気で実施しようとしている点で最早手に負えない。この小泉農水大臣はもっと農家の惨状を理解して、その上で政策を実施すべきだ。そして、彼の行動を賞賛したり、JAを物価高の元凶と位置付けて避難している人もまた同じである。

 ただ、彼の言に「消費者のコメ離れが深刻になりかねない」とあるがこれはある程度の評価をしよう(毎日新聞2025)。先ほどから主張しているように農家は近代世界システムの要領で都市に搾取されている。しかし、現行の価格がさらに高騰すれば本格的にコメ離れが起こる可能性も否定できない。確かに、経済学上、米は生活必需品であるために価格弾力性は低いと考えられる(計算はデータ集めなども含めてめんどくさいので、各自でしてください。気が向いたら私もします。)。しかし、それは理論上(しかも確かめていない)の話であり、今後もそのように動くかは分からない。それに国産米の価格高騰が海外の米の価格を越えた場合は需要が海外米に移行する可能性も否定できない。故に消費者との兼ね合いを考えなければ結局農家の首を絞めることになりかねない。

 いま国家が成すべきことは無理やりこの米高騰を元に戻して都会を中心とした搾取体制の再構築を行うことではなく、消費者が国産米離れを起こさないようにしつつ、農家の為に米の価格を維持することではなかろうか。そもそも、このような価格高騰は我々が失い続けた30年もの間に我々の心の中に生産者の生活を無視してでも安いものを求めようとする気持ちが生まれ、何時しか「良い物であろうとも廉価であることが当然」と思うようになったことが原因ではないだろうか。この考えをずっとし続けていれば、良い物というものは日本から無くなり、我々はまたも失い続けなければならなくなるであろう。

〈参考文献〉

NHK2025年5月26日「スーパーのコメ平均価格 5キロ 4285円 2週連続 過去最高更新」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250526/k10014816921000.html

三菱総合研究所2023年7月10日a「コメ農家はみんな赤字なの?」

https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20230710.html

三菱総合研究所2023年7月12日b「コメ農家が赤字でもコメを作り続ける理由」

https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20230712.html

食べチョク2025年5月23日「お米の価格変動と生産現場のいまー持続可能な生産のために知ってほしいこと」

https://www.tabechoku.com/feature_articles/rice_Investigation202505

毎日新聞2025年5月26日「小泉進次郎農水相 備蓄米2000円で投入の意図 生産者に向け「コメ離れが深刻に」「ご理解を」」

https://mainichi.jp/articles/20250526/spp/sp0/006/390000c

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