公共交通機関経営構造改革論
人間は自由である。故に人間は自分の意志のみであらゆる場所へと自由に移動する権利を有する。この権利はいわゆる交通権と言われ、いわゆる新しい人権の一つであり、日本国憲法第22条(居住・移転および職業選択の自由)、第25条(生存権)、第13条(幸福追求権)などの憲法を論拠にしている(交通権学会1998)。そのため、国家政府は万人の交通権を擁護する義務を持ち、交通権の行使に差があることは本来はあってはならない。
然るに、現在の日本国の交通網はバス、鉄道を問わず多くの路線の維持が厳しい状況にある。最近では留萌本線の留萌〜石狩沼田間、久留里線の上総亀山〜久留里、弘南鉄道大鰐線が廃止された(留萌市2022・NHK2024・日本経済新聞2024)。バスも日本第二位の路線距離を誇る路線バス松阪熊野線の廃止(NHK2024)は記憶に新しいところであろう。それにバスの場合は地方だけでなく首都圏でも減便・廃止がなされその数は枚挙にいとまがない。これらの鉄道路線は赤字路線である。故に廃止されるわけだが、実は多くのローカル鉄道は少なからず赤字を出している。本州の本線級の路線でも赤字路線はある。特に羽越本線の村上~鶴岡間は年間49億6800万円の赤字を出している(JR東日本2023)。しかし、この路線は貨物列車が走っており、この路線の廃止をすれば日本海縦貫線は途切れてしまうことになる。これは運輸の危機であると考える。確かに我が国の輸送の割合は1位のトラックと2位の船舶でほとんどが独占されており、3位の鉄道輸送は5%ほどしか輸送していない。だが、鉄道輸送の利点である大量輸送などを考えるとモーダルシフトが起こる可能性もある。それにそもそもとして、湖西線、北陸本線、信越本線直江津~新津・新潟間、白新線新潟~新発田間、羽越本線、奥羽本線で構成される日本海縦貫線は北陸地方、山形、秋田を支える国土軸であり、国家戦略上かなり重要な位置にある。日本海縦貫線の部分的廃止は国防上リスクの高い行為である。バス路線の方は夜間バスを除いて地域交通が基本である。故に多くの地域でバスが蜘蛛の糸のように細かく張り巡らされている。しかし、最近は地方から東京に至るまで多くの場所でバス路線の廃止が取りざたされている。この廃止の多くはバス運転手不足であるといわれている。この運転士不足のせいで廃止になった路線は数多い。この運転士不足はバス運転手の賃金が低く、労働時間が長いことにある。故にこの問題は労働環境の改革を行わなければならない。しかし、多くのメディアのいうようにバス会社は資金不足に陥っている。そのため、労働環境の改革は不可能に近い。そのため、多くの路線で行われなかった運賃の値上げは不可欠である。しかし、それだけでは労働環境の改革は不可能である。そうなると、行政からの手厚い支援が必要だ。そのためには国庫から捻出するための税金を国民から課税する必要がある。課税失くして追加の社会政策は基本的にありえないのだから。
ここで交通税の全国導入の必要性を訴えたい。交通税とは交通を守るための税金である。この税金によって国民はこの課税のために交通のあり方をより知的に議論するはずだ。なぜなら、国民は自身の資産から徴税されたお金の行き先を誰もが気にするからである。だから、あらゆる政治に関するお金の問題は大きな問題となるのだ。(もっとも昨今の野党・マスメディアのそういった問題の追及だけしか目立たないほどだ。これは逆に本来議論すべき問題から国民の関心がそれてしまう。これこそ国家政府が恐るべき事態ではなかろうか。)この交通税の根本的意義はただ公共交通機関の保護・発展のみならず国民の交通に関する議論を喚起して、現在存在する大小問わず様々な交通問題ー2024年問題から鉄道路線の廃止の問題に至るまでーを国政の大きな議論とすべく存在するものである
ただ、多くの税金を投入するため全ての路線になんの議論もなく今ある路線を保護していたらそれはX非効率性になってしまう。確かに国内の鉄道を守ることは大事だ。しかし、山田線のように代替できる既存の交通があり、地元住民から完全に見放されている路線はそれなりにある。それを保護するのは非効率的であると言わざるを得ない。また、芸備線のように必殺徐行(JR西日本が赤字路線で行っている25km/h制限)によりまともな交通になりえない路線についても同じことがいえる。仮に必殺徐行をしても乗客はふえるであろうか。また、本数を増やしても乗客は増えるだろうか。こういうのはX非効率性に陥らないために重要なことである。この交通税の導入で大事なことはどの路線を守り、どの路線を廃止するのか。これを検討せず存続を訴えるなど言語道断である。そして、我々はそれを言う権利を有することになり、さらにはそれを国家政府は反映させる義務をより重く持つことになる。なぜなら、この問題のために全国民は課税されるからである。そのため、交通税によって我が国の交通問題における民主的な議論が行われるのだ。
そもそも、交通税とは何か。これについて話さなければならないだろう。まず、交通税とは全国の赤字路線のある程度(全額にするとX非効率性になりかねない)の補助と普段の生活における公共交通機関の建設・改善・再編などをするための計画(交通計画)を街に応じて制定してその実現のために利用される。
日本国内では滋賀県が令和4年から近江鉄道の保護を契機に県民が負担を巡る議論を通じて、地域の将来像を描くための参加型税制と交通税を位置付けた上で交通税の導入を検討している。公共交通機関の利用の有無にかかわらず滋賀県民から課税を行い、令和5年に広報活動に専念。そして今年の令和6年~7年にかけて滋賀県の交通計画である滋賀地域交通ビジョンを制定し、早ければ令和8年ごろから課税を開始するそうだ。(滋賀県制作年不明、滋賀県減税会制作年不明)。課税方法は住民税(県民税)、固定資産税、自動車税のいずれかへの超課税方式が検討されているそうだ(滋賀県減税会制作年不明)。今後どのように滋賀県が交通税を導入するのか、とても注視して見る必要があるだろう。
次に紹介する事例は日本国外、フランスで行われている「Versement Mobility(VM)」である。これは1982年に制定された制度で交通計画を実行するための資金を確保するための税金でフランスの企業の中で従業員数10人以上の企業から課税する仕組みだ。制定当時のフランスは他国と同じようにモータリゼーションが進んでおり、公共交通機関が相次いで廃止となっていた。公共交通機関に頼らざるをえない人が不便になっていった。これでは彼らの交通権を保護することができない。そのため、「Versement Mobility(VM)」をフランスでは導入したのだ。フランスでは特に交通に関わる権利を交通権として保護されており、広域連合(複数の自治体にまたがって政策を実施する行政機関)が都市将来のビジョンを達成するための交通計画を立案して施策を行う。また、全国共通ではなく都市圏が徴税するかどうかを判断する。フランスにおける交通計画を基にした政策により自動車中心の政策は見直され、車道を減らし、歩道やバス専用レーンが作られた。また、郊外では高規格道路の建設も行われ、郊外の道路網の整備もより進められるようになった。
さて、では交通税の課税でどれだけの金額を使えるようになるのだろうか。これは交通税の税制がどうなるのかを仮定しなければならない。ではここで森林環境税と同じように住民税納税義務者約6200万人を対象に年1000円の課税としよう。すると一年に約620億円ほどの予算を計上することができる。では約620億円ではどれくらいか。JR北海道の赤字が約310億円(北海道新聞2025)、JR四国の赤字が136億円(読売新聞2024)、JR貨物の赤字47億8200万円(Nカーゴニュース2024)を全額支払っても余る額だ。しかし、全国には多くの赤字路線はほかにもあり、それらに対するある程度の補助をしたうえで交通計画の実現など果たしてできるであろうか。それはできない。ゆえにこの制度を導入しようとすればより多くのお金が必要になる。先述の滋賀県地域交通ビジョンでは理想の予算が127億円であり、滋賀県民の数で割ると年間9000円(月額750円)になる(滋賀県減税会制作年不明)。このことから次に住民税納税者が年間9000円納めると仮定しよう。すると、5580億円を予算に計上できる。このお金があればある程度の交通計画を施行できるのではなかろうか。
ところで、日本の公共交通機関は民間経営が基本である。これは行政の計画する交通計画を施行する際にここが大きく邪魔になる。だからと言って民間から公営に戻すのはあまりにも非効率的だ。ここで、多種多様な公共交通機関の運営企業-鉄道・バスのみならずタクシー・ライドシェアの統括企業まで-が交通連合を組織して、行政と共に交通計画の実施をする。これが全国的に行政が交通税を基に交通計画などを立案する際に効率的になると考える。なぜなら、もし企業同士に何らつながりがなければ交通計画のための資金の運用で各企業が行政側にすり寄って同じ地域の公共交通機関の事業者と資金獲得闘争を行うことになるからだ。だから、交通連合を組織して、資金運用を行政と手を取り合いながら実施すれば効率よく交通機関の実施を行うことができる。私はそう考える。
以上で私の持論を終える。交通税というと恐らく多くの人間が反対するだろう。なにせ、納税額が増えるのを許容せよ。そう言っているようなものだからだ。しかし、交通権とは生まれながらにして世の人民が持っている権利である。万人の交通権の保護は国家政府の義務である。また、交通の整備は新たなる発展を喚起する。特に一年ほど前の宇都宮LRTもこの路線の建設により宇都宮全域を大きく改造することができた。宇都宮LRTほどの大成功を必然のことのように語るのもあまりよろしくはないが、少なくとも交通は万人が平等に運営されなければならないことは確かだ。私はこの小論で無条件に路線を存続させよとも国家政府が非効率的な交通計画を立案・実施することを許容するものではない。この小論は国家政府の作る交通計画を全国民が月額750円のために活発に議論して、月額750円のためによりよい交通網を建設することを期待するものである。すなわち、私は国民がより良い交通網建設の議論に意欲的に参加することを目的としてこの案を出している。
【参考文献】
交通権学会(1998年)「交通権憲章前文」
http://kotsuken.jp/charter/preamble.html
留萌市2022年「JR留萌本線の廃止について」『広報るもい』2022年(令和4年)10月号,留萌市
NHK2024年11月27日「赤字続く久留里線 JR東日本が久留里~上総亀山 運行取りやめへ」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241127/k10014651591000.html
日本経済新聞2024年11月28日「青森・弘南鉄道、「大鰐線」を27年度末に廃止へ」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC27DJF0X21C24A1000000/
NHK2024年6月13日「三重交通 本州で2番目に長い路線バス「松阪熊野線」廃止へ」
https://www3.nhk.or.jp/lnews/tsu/20240613/3070013054.html
JR東日本2023年11月21日「ご利用の少ない線区の経営情報(2022 年度分)の開示について」
https://www.jreast.co.jp/press/2023/20231121_ho01.pdf
滋賀県制作年不明『滋賀県地域交通ビジョンと参加型税制について』https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5412789.pdf
滋賀県減税会制作年不明『滋賀の交通税』
https://www.shigagenzeikai.com/kotsuzei
北海道新聞2025年2月7日 「JR北海道営業赤字310億円 4~12月期連結 観光客増で赤字幅縮小」https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1120977/
読売新聞2024年11月9「JR四国の赤字44億円縮小、コロナ前の水準に…赤字額最大は土讃線」
https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20241108-OYO1T50021/
Nカーゴニュース2024年5月16日「JR貨物/24年3月期 微増収もコスト増で利益は赤字に」https://cargo-news.co.jp/cargo-news-main/4783
ここでこのような記事を投稿した理由は学校の発表で書いたポスターの発表が諸事情でできなかったからどこかで発表したく思い、ポスターを文章化したうえでこのように投稿する形になった。本文でも述べたように私は純粋にこの案が国家社会をよりよくするという確固たる自信に基づいている。ただ、私は交通社会学を学んだわけではなく、ド素人の戯言すなわち、一小市民の戯言に過ぎない。そのため、大きくなってより学を積んだ時にもう一度再検討したうえでまた、寄稿するのも悪くないだろう。あと、最後に私が増税派などというデマゴーゴス的批判はお控えいただきたい。ただ、これは治安維持法のような反対派を決して認めないという反学術的な行動ではない。私個人への攻撃でなく、この記事に関する質問・批判であればドシドシ申しつけてほしい。気が向いたら返信したりするかもしれないから。




