1.タヌキ、なんです。
「タヌキ、なんです」
そのコは言った。ちらっと、尻尾を見せながら。
「そうやろねぇ。その尻尾のかんじは」
キツネではなさそうだと思った。一瞬アライグマかとも思ったけど、やつらは、しましまフサフサの長い尻尾だ。このコの尻尾は、こげ茶色っぽくて、短い。
僕は、続ける。
「で? 何で、ここに来たん?」
「あ。トラックの荷台にこっそり」
「いや、乗り物じゃなくて、理由。どうして、ここに?」
「それは、話せば長いことなので」
そのコは、ちょっと目をパチパチさせながら言った。
「長くてもいいよ。話して。っていうか、立ち話もなんだから、入ったら」
「え? いいんですか。知らない人、っていうか、タヌキ、部屋に入れて後悔しませんか?」
「後悔するようなことするつもり?」
「いえいえ。滅相もありません」タヌキを名乗る、そのコは、あわてて顔の前でパタパタと手を左右に動かす。
「じゃあ、いいよ。ただね。ちょっと化け直してくれへんかな」
僕は、そのコを見下ろす。尻尾さえ見えなければ、高校生くらいの可愛らしい女の子の姿なのだ。ゆるやかなウェーブのかかった茶色の髪が、肩先で揺れている。顔は……どっかで見たことあるようなないような。
「あきませんか?この格好……」ため息をついている。
「いや、あかん、ってことはないけど、可愛すぎて、なんかこっちが落ちつかへん。小学校低学年くらいの男の子でどう?」
「う~ん。……これ、気に入ってるんですけどね。ここに来る途中、トラックの荷台にあった雑誌の表紙のコを見て化けたんですけど」
「それ、あかんやん。うっかりしたら、スキャンダルとまちがわれて、その人にえらい迷惑かけてまうで」
「あ。そうか」
「まあ、とにかく入り」
僕は、アパートのドアの前で、少し困った顔で立っている、そのコを急いで部屋に入れる。階段の下から人が上がってくる声がする。姿を見られたら、雑誌の表紙を飾るようなアイドルかモデルさんが、僕んちに訪ねてきてる、ってスキャンダルになってしまうかも。……なんてな。
部屋の中に入ると、そのコは、きょろきょろ、と周りを見回して、
「案外、きれいにしてはりますね」
「案外は、余計」
僕は、きれい好きなのだ。そうじは嫌いやけど。そうじをしたくないから、極力散らかさないし、汚さない。
コンロも使ったらすぐに、とんだ油とかを拭き取るし、排水溝は、流しを使うたびにそうじする。そうしておけば、そんなに汚れがこびりついたりしないから、楽なのだ。
「意外にマメなんですね。驚きました」
褒めてるんだか、なんだか。微妙な言い回しだ。
うなずきながら、そのコは、隣のリビングに行く。リビングの隣には、6畳の和室がある。
和室をチラリとのぞきながら、そのコはリビングのソファに座った。
「で。話せば長いことなのですが」
そう言って、長い足をさっと組んだ。




