砂漠対策
宿屋に戻ったリュクスは、いつものようにリプレさんにアイテムを売り払っていた。
「今日もまたいっぱいあるわねー。それにこれ!マウンテンツインテイルサンドスコーピオンの二尾毒針!40層突破おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「そうね、全部合わせて10800リラでいかがかしら?」
「かなりの額になりましたね。」
「二尾毒針が5000リラが相場だからねー。」
「なるほど、やっぱり相当な相手なんですね。」
蠍を倒したレイトを思い出し思わずリュクスは苦笑いしたが、リプレには不思議に感じた。
「あらま?何かあったのかしら?」
「あー、すいません。そのあたりは教えられないです。」
「それはそうよねー。」
「それと40層より先の情報がギルドの資料にもなかったので、アピエギルド長に相談に行ってみたいんですよね。」
「あらま。それは難しいと思うわよー。」
「なぜですか?」
「いけばわかるわよー。姉も何かしらは教えてくれるだろうから、無駄足ではないはずよ。」
「わかりました。とりあえず行ってみます。」
はぐらかされたとは言え、リュクスは予定通り冒険者ギルドの受付で並ぶ。ギルド長はちょうど部屋にいるらしく、今ならば話ができると言われギルド長室にと入り話し始めていた。
「あらら、41層からのことが知りたいのねー?私としては教えてあげたいのだけど、あなたはDランクなのよねー。Cランクになれば魔物の個体名くらいなら教えてあげられるわ。詳しく教えるならBランクはほしいわねー。」
「えっと、知ってはいるけど教えられないということなんですか?」
「そうなのよ、ごめんなさいねー。面倒くさい規則なのだけど、勝手に教えたことがばれたら私ここにいられなくなっちゃうから。私じゃなくて他の冒険者に教えてもらうのはどうかしら?情報は確信できるものとは言えなくなるけど、対価次第では教えてくれる人はいると思うわよー。」
「対価次第、ですか。」
「そうねぇ。ギルドとして教えてあげられるのは砂漠の進み方くらいなのよ。歩き方のコツとか、砂地にもぐられたときの対処とか。」
「ほんとですか?それならそちらはぜひ教わりたいです。」
「でも依頼という形になるから対価はもらうわよ?それはいいのかしらー?」
「ギルドの手ほどきなら、南端の街でもいい手ほどきだと感じたので信頼しています。」
「わかったわー。じゃあさっそく教えるわね?基本的には二つの方法があるわ。一つは風術を使った砂地対処法。もう一つは土術を使った対処法よ。ちなみにどちらかの属性は持っているかしら?」
「いえ、僕は炎と水しかもっていないですね。」
「そうなのね。炎ってことは火属性じゃないのねー。もしかしてだけど、炎よりもさらに上位のスキルを目指しているかしら?」
「どうでしょう?上のスキルもあるんだろうなとは思っていたんですけど、目指していたわけではないですね。火から炎になったのも偶然でしたし。」
「ふんふん、そうなのねー。それじゃあ3つの道をあなたに教えるわ。まずはそのまま一つの属性か二つの属性を集中して強くする。絞れば絞るほど属性そのものの威力が増しやすいわよー。上位を目指すのも早いわね。二つ、新しい土と風の属性を覚えるだけ覚える。これだといろいろできるようになって便利だけど、反面上位スキルになるのはとっても遅くなるわよ。特にほかに上位スキルがあるとかなり苦戦するわね。そして3つ目、土と風の属性を覚えて、さらにそこから火、水、風、土を合わせた四属術というスキルを覚える道よ。ただ今あなたは一つ炎となってるから、四属術を覚えるのはかなり苦労すると思うわー。でもそれだけの価値はあって、どの属性を使ってもスキルが上がっていくわ。上げやすさは単体のスキルには及ばないけど、覚えられるスキルアーツの幅も広がると思うわー。でも基本属性と言われてる四属性に恩恵がない場合もあるわ。その場合どんなに頑張っても覚えられないからごめんなさいねー。」
「えっと、四属術っていうスキルになったら炎は使えなくて火になっちゃう感じですか?」
「それはないわよ。ちゃんと炎のまま。でも他のスキルが上位になるには四属術が上位になるのを待つことになるわね。」
「それなら、できれば四属術を覚えたいですね。可能ですか?」
「ええいいわよ。ちょうど今日の予定が開いててよかったわー。私が直接教えてあげられるものね。」
「え?」
「さぁさぁいくわよー!久しぶりの訓練所でしっかりしごいてあげるわー!」
アピエギルド長はそそくさと準備して部屋を出てしまった。いろいろとやばい発言だとリュクスは思いつつ、リュクスは慌てて追いかける。
ベードにモイザとフレウが乗ってリュクスを追いかける。リュクスの頭上からフスンというため息が聞こえ、レイトも定位置にいるのだろう。
ギルド一階にアピエギルド長が下りてくると、並んでいた冒険者も受付の人たちも、待機所の机で話してたはずの人たちも、急にしんと静まり返り、背筋を伸ばして固まりシンと静まり返る。
ついていくリュクスとしては目立つのは勘弁と思いつつ、アピエに続いて受付の横奥の扉にと入っていく。扉の先の通路を抜けると、大きな扉をがあり、その先は何度か見た訓練場だった。
「この街の訓練場はギルド裏に併設してあるの。設備もかなり充実させてるわよ。死者の臭気に耐えるための訓練。湖での戦闘を考慮した水中訓練。溶岩の煮えたぎる火山環境への訓練。もちろん砂上訓練もあるわよー。王都の訓練場はこれよりもっとすごいけど、ここもしっかりやらないとディヴィジョンマウンテンでもバレーカタコンベでも素材集めなんて夢のまた夢だからねー。」
「なかなかハードな訓練そうですね。訓練で命を落とすことはないんですか?」
「あらら、不安にさせちゃったかしら?でも大丈夫、通常は訓練で命を落とすことは絶対にないわよー。ただ対人訓練で故意に相手を殺そうとしたらその限りではないけど、あなたはそんなことはしないわよねー?」
「そんなことしたくもないので大丈夫です。」
住人間でそんな事件があったのだろうかとリュクスは余計に不安にはなるが、アピエギルド長がやってくるなどありえないだろうと思い直した。
訓練場の一角の柵の中にと入ると、アピエギルド長が水晶をいじって十字の的を出現させた。訓練する準備万端という雰囲気でリュクスに振り返った。
「それじゃあまずは風術と土術を覚える訓練から始めましょうかねー。これを渡しておくわ。」
「なんですか、これ?」
リュクスが渡されたのは矢印型の緑と黄色の透明な石であった。
「それは攻撃用の魔道石よー。商業者ギルドのお店で売ってるのだけど、見てはいなかったのかしら?」
「見てなかったですね、すいません。」
「いいのよいいのよー。用意しておいて正解だったわ。今は貸すだけだから、必要なら後で買っておくといいわよ。この魔道石は持っている人から魔素を吸って、無理やり属性をつけて放つものなの。一回ごとに魔素はたっぷり吸われちゃうけど、恩恵があれば確実にスキルとして覚えられるわ。ただスキルとして発現してもちゃんとスキルアーツが使えないとかよくあるのよ。だからこれをそのまま使ってしばらく攻撃用スキルアーツを使うのよ。」
「なるほど、例えばどんな感じの攻撃スキルアーツが使われるんですか?何か指定があったりとかしそうなものなんですけど。」
「そうね、一番多いのはアローのスキルアーツね。この矢印は矢がイメージされたもので、アローの形を形成しやすいように一応作られてるのよ。あとは扱いやすいって理由でボールを作ってる人もいるわね。他のを作る人もいるでしょうけど大体この二つを使うと思うわ。でもあなたは好きにやってみていいのよ。ただ風か土かのスキルを覚えるまではどっちか一つに集中してね?」
「わかりました、何となく土から入ってみます。あ、でもその前にちょっといいですか?」
「あらら、何かしら?大丈夫よー、時間はあるから待ってるわ。」
「ベード、フレウ、モイザは見てるだけじゃ退屈でしょ?何かする?」
「ばぅ!」「――――…」「コ。」
ベードは待機上等と言わんばかりにその場で伏せる。モイザは申し訳ないけど何かしていたいという。フレウは当然暇すぎ勘弁、だったら寝るといった感じであった。
「ベードは見ててもいいけど危ないから端によっててくれよ?モイザとフレウは…」
「あらら、なら私がもう一つの場所で見ててあげちゃおうかしら?的あてでもしてれば少しは気が晴れるかしら?」
「良いんですか?」
「いいのよいいのよー、せっかくだし蜘蛛ちゃんと鶏くんの力も見ておきたいし。本当は兎くんの実力を見たいのだけどねー?」
「きゅ。」
「それは、勘弁してほしいみたいですが、モイザとフレウをお願いしちゃいます。」
「わかったわー。訓練場の的の操作方法とかはわかる?」
「大丈夫です。何度か使ったことがあるので。」
「そう!それじゃあ奥のあっちにいるから、土と風、どっちも覚えたら柵をたたいて声をかけて頂戴?言っておくけど、そんなすんなりとは覚えられないからねー?」
「そうでしょうね、がんばります。」
「あ、言い忘れてたわ。1000回やってもスキルが発現しなかったら、それは恩恵がないということが確定するわ。その際も言ってちょうだいね。」
アピエギルド長はリュクスに手を振ると、モイザとフレウを両腕に抱え、奥の柵にといってしまった。二匹ともあたふたしていたので、抱えるのは勘弁してあげてほしいと言おうとしたリュクスだったがすでに遠い。
頭を振り自分のことに集中しなおすリュクス。やはり矢が一番イメージしやすいようで、黄色い矢印の石を右手の2本の指で挟み、左手を構えて弓を引くイメージ腕を動かす。
スッと体から力が抜けていくのをリュクスは感じ、魔道石に魔素が吸われているんだろうと思いながらも、しっかりと魔道石から左手にかけて茶色い土の矢ができ上った。リュクスは的に向けて土の矢を放った。
「あ、やば!」
リュクスは放つ瞬間にいつものように指を開いてしまい、挟んでた魔道石を落としかけた。落とす前にキャッチできたのだが、拾う動作のせいで的ではなく地面に土の矢が刺さっているのをリュクスは見てしまった。
これじゃだめだとリュクスはもち方を変える。放つイメージのために指を開いてしまうのはもはや癖。ならばと魔道石は小指と薬指の間に挟む。土の矢をつがえた後、人さし指と中指を開いて放った。
「よし!うまくいった!」
ガツンという音とともに十字の的に土矢が命中する。貫けずに少し刺さっているだけ。消滅後は刺さり跡も残らないほどであった。
「うーん、とにかく続けないと…ん?」
リュクスは後ろから違和感がすると思い振り向く。そわそわとリュクスよりさらに奥を見てるベードの姿が見えた。
「ベードもあっちに行っておく?」
「ば、ばぅばぅ!」
「僕のことを見ておきたいのはわかったから、そんな焦らなくてもいいよ。」
ベードはそわそわした感じを消してしっかり地面に伏せなおす。リュクスは苦笑いしつつ、術法習得にと集中しなおした。




