第四十層
リュクスは朝から40層に突入する。情報通り一面の砂地地帯が広がっている。太陽ではない謎の大きな光が照り続けるが暑くはない。しかしベードにとってはきつい場になりそうだとリュクスは不安になる。
「ベードにはこの明るさはきつそうだね。足は取られない?」
「ば、ばぅぅ…」
「明かりは大丈夫だけど、今までみたいに走るのは無理なんだね。今のところボスの姿は見えないけど、気配消して歩けそう?」
「ばぅ…」
「やっぱわからないか。」
「きゅきゅ。」
「え?今まで通りはベードでは難しい?」
「きゅ。」
ベードと話すリュクスにレイトが加わる。草地での気配の消し方は十分だが、ここまで明るい砂地では今のベードは難しいようだ。
ある程度の魔物相手なら問題ないだろうが、ここにいるのはボス格の魔物。しかも相手は砂地に慣れているどころか、この砂地の下に潜んでいるという情報だ。いつもは奇襲による先制攻撃だったリュクスが、奇襲を受ける可能性があるのだ。
「階段付近には気配はないみたいだし、この辺の砂地で走る練習しよう。レイトは砂地での気配の消し方も教えられる?」
「きゅ…」
「ん?教えられるけど、僕のいる前では無理な感じ?」
「きゅ。」
「わかったわかった。じゃあ任せるね。モイザとフレウもつきあってあげて。できるだけ乗ってる方が練習になるだろうし。」
一番重いのはリュクスなのだが、3匹乗ってるだけでもベードとしては集中力を使うだろうとの考えだ。階段前で取り残され、久しぶりのひとりの時間が出来たリュクス。
生産器具は料理セット以外は50層突破後に回収すればいいと宿に置いてきている。こういう時はやはり時空術の練習だと考えつつも、この後の戦闘を考慮し本格的には行わないと決める。
特に空間術の練習はダンジョンでも寝る前に行っているほどだ。やればやるほどに少しの時間では成果が出てこなくなってるが、それでも継続は力といえるだろう。
スペースボールを手元に出し、どんどんと大きくし、できるだけ長い時間継続させるのが、リュクスの最近の練習方法だ。
一番単純なボール系術法だが、大きくするのにはコツがいる。リュクスはバスケットボールほどの大きさまではすぐできるが、そこからもっと大きくするとなると難しい。
スペースボールに至っては、バランスボールの大きさくらいまで膨らませることができるが、余計な意思が入ると危ないものに変化する。無害なゆがんだ空間をボール状に作り出すことだけなのだが、集中力が必要なのだ。
1刻ぶん行うと消耗してしまうので、半刻ほど維持し続けたところで霧散させて終了。とはいえリュクスにとっての時間つぶしにはあまりならなかった。
他の時間つぶしを考えていたが、ここのボスが地面を潜っているので、索敵しないとひどい奇襲を食らうと資料あったことを思い出し、リュクスは索敵の練習をするべきかと考え始める。
索敵ということで空間術で何かできないかと思考する。フリップエリアを大きく広げ、悪いものを弾くのではなく、入った異物だけを見つけるようなイメージを思い浮かべる。
始めはソナーのようなものを思い浮かべたが、ソナーは水中のイメージが強く、どちらかといえばサーチかと魔法を唱える。
「よし、サーチエリア。」
できるだけ広くすることに集中。そこに何かいる、そしてどれくらいの大きさなのかがわかればいい。
うまく広げることはできたが、目を開いたままだと視界情報と察知情報が重なり、意識が持っていかれそうになる。仕方なしにと目を閉じるが、慣れるためにも練習が必要だろうとリュクスは集中する。
丁度階段を出て右側の壁沿いに、何かいることを感知する。この大きさはベードだろうとリュクスは思ったが、立ち尽くしたままじっと動いてないようだ。
潜伏の練習があれなのかと少し疑問になる。伏せたり座ったりもしないのかと思いつつ、あまり気にしてもしょうがないかとリュクスが考えていたその時、明らかに大きな存在がちょうど察知範囲に入ってくる。しかもベード達のほうに近づいていっているのだ。
リュクスは慌てて目を開き、ベードを察知した場所にと走る。かなりの速度で砂の中を進んでいた。
間に合うかと焦るせいで余計に砂地に足をとられ、リュクスは思うように走れない。
「見えた!ベード!モイザ!フレウ!ってあれ?」
ピカッっと紫の光が砂地を貫いた。リュクスはすぐに何が起きたかわかる。ベード達にはレイトがついているのだ。変に心配する必要もなかったかと、光が貫いた位置を見る。
砂地が大きくへこみその中から飛び出していたのは、丸焦げだからか元からなのか、黒くデカイサソリであった。
大きな両手の鋏と二本の尾の先の毒針は受けたらひとたまりもないだろう。資料にあったとおりの見た目である。
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対象:マウンテンツインテイルサンドスコーピオン
山の砂漠に住む二尾を持つ蠍。
砂の中を潜り進み獲物を凶悪な鋏でとらえ二尾の毒針で貫き殺す
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歩くように近寄り、ぎりぎり識別範囲にはいったが、蠍はすぐに消えてしまった。
「き、きゅぃ…」
「いやいや!護ってくれてありがとう。落ち込むことはないよ。僕が仕留めたかったとかはないから。」
レイトもリュクスを見て、やってしまったと言ったような顔で小さく鳴く。仕留めたかったとかはないと言いつつも少し消化不良感がリュクスには残った。
今まで通りならボス部屋には一匹しかいないだろうが、リュクスは油断せずベードに乗ると察知空間を広げる。広大な砂漠の中に自分たち以外の気配は何もしないので、リュクスは頭上のレイトに声をかけた。
「そういえばレイト、あの蠍はあれだけ遠くからベードに気がついて近づいてきたのかな?」
「きゅきゅ、きゅ。」
「この階層全部が縄張りだったのか。それで砂地の沈んだ音で気が付かれたってかんじ?」
「きゅ。」
レイトが肯定したことで、かなり危険な相手だっただろうとリュクスは改めて思う。感知はできたがあまりの速さで先手を取られていた可能性もあり、砂地にもぐられた場合の対処も、モイザに頼り砂をどうにかするかくらいしかリュクスには思いつかなかった。
この先の階層も砂漠が続くのは必然と、40層でベードの足慣らしもしつつ進んだ要因もあり、何もいない砂漠を進むのも時間がかかってしまった。とはいえ最低限ではあるがベードの歩みはレイトからも及第点を貰っていた。
祭壇の青い炎が灯ったのを確認したリュクスは悩む。ここから先は冒険者ギルドに情報の乗ってない魔物になるわけだが、ギルド長ならば何かしらは知ってるのだろうかと。
砂漠に潜られたらの対策を考える必要もあり、焦って進むこともないと、一度宿に戻ることに決めた。




