第十層
翌朝からダンジョンに足を運んだリュクスは、1層から4層まではベードの気配を消して鼠を回避して進む。5層からは逆に気配を出して猫を散らして進んでいく。ベードはどうしても逃げていく猫が気になるのか目線だけは追っていた。
「うーん、やっぱりベードは猫を狩りたいの?」
「ば、ばぅわぅ!」
「コ!?」
慌てるように首を左右に振るベードのせいで、フレウも慌てて羽ばたき何とか体勢を保つ。一瞬足を止めてベードとフレウが顔を見合わせたが、そのあとからはベードの足が早くなった。
何とか乗りこなすリュクスだが、これでも始めに乗った時の最高速の風を切る感覚はない。あの速さに慣れたらもっと早く抜けれるだろうとうっすら思い出していた。
第6層へ入り、再びの猫たちの姿を見て少しぽかんとした様子のベード。ちゃんと言ってあったはずなのだがとリュクスは思いつつ、7層も同じだよと声をかけて進み始めてもらう。
ベードは5層のスピードそのままに、6層と7層を突破したが、リュクスの気のせいか、ベードは少し目をつぶっていたようにみえた。
第8層まで数日かかるどころか、おおよそ一層二刻で光二の刻に来れてしまった。このまま駆け抜ければ10層超えても夜までにはつけるだろうと考え、8層で犬とすこし戦うのもいいかと進んだリュクスだったが、思わぬ光景に困ってとりあえず犬を識別していた。
----------
対象:フットマウンテンドッグ
山のふもとに住む犬。
獲物と思う相手には容赦なく襲い掛かるが
より上位の犬や狼に出会った場合にはその存在に服従する
----------
ベードに戦ってもらって、そのあとは自分が戦うかと考えていたリュクスだったのだが、丁度識別した犬はベードの姿を見た瞬間には、その場にがっつり伏せて、まるで命を捧げますと言わんがごとく首を差し出すように上を向いているのだ。
他の犬までいつの間にかベードに近づいてきて、転がってあおむけに腹を出したり。伏せてたり、礼をするがごとく座った状態で深く顔を下に下げてたりとしている。
これにはリュクスだけでなく、ベードも含めみんな唖然として、戦う気も失せてしまったようだ。しかたなしにリュクスは8層も戦わずに進みはじめる。
ベードが走り始めると、ついてこようと犬たちも走り始める。しかし早さが全然足りずにすぐに置いてけぼりになる。ついてこられても困るのでこれでいいかとリュクスは思っていた。
しかしどういうことなのか8層の階段前には10匹の犬たちが座って待機していた。情報網でもあるのだろうか。リュクス達の行く手を塞いでいるのかと思ったが、そいつ達はササッと横に退いて、階段の左右に5匹ずつ配置。まるで王への道といわんがごとしだ。
ベードは止めた足を進めて、その間を駆け抜けた。むず痒かったのだろう。9層と10層はしっかり隠密状態になって駆け抜け、犬たちは近くを通ってもこちらを気にかける様子はなかった。
予定外のこともあったが、10層でボスらしき姿もなく突き進んだわけだ。ここの犬たちは何かに仕えたかったのかもしれないとリュクスは勝手に想像しながら、全部テイムとかにならなくてよかったと安心した面もあった。
リュクスは自分から何かしてたらテイムになっていただろうと不干渉を貫いたのだ。もっともダンジョン内の魔物をテイムできるのかなど、リュクスの知るところではなく、試したい相手がいたら試すでいいと思い至った。
10層の階段を上ったリュクスは、踊り場に宿にあった物と同じ祭壇を発見する。手を触れてみると、飾ってあった蝋燭に青い火が付いた。これでここを記録したのだろうと、リターンアルターで宿に帰宅した。すでに夕食時だからと、リュクスは受付のリプレとはあいさつだけかわし部屋にと戻った。
さすがにこれから作るのではなく、作り置きのを食べるだけで済ます。今日は丸々鶏肉のから揚げだ。リュクスがポーチから出したタッパーのようなガラス容器、この街で売ってた新しいタイプの器だが、液漏れなど気にせずポーチに入れることができる。来訪者由来らしい商品で、伝えたその人にリュクスは軽く感謝した。
もちろん皿のまま入れて、皿ごと取り出すこともできるのだが、リュクスとしては気になっていたのだ。従魔の4人にはそれぞれ夕飯にありついている。リュクスも一口大のから揚げをパクリ。止まった空間内にあったのもあり、カラっとジューシーで熱いくらいだ。
腹ごなしを終えたリュクスは、従魔たちを部屋に残し、寝る前に受付にと足を運んだ。
「あらま、さっきぶりね。ごはんは終わったの?」
「おわりましたよ。先ほどはすいません。」
「いえいえ、いいのよー。今日はどういう御用かしら?」
「そうですね、10層まで進んだので11層からの魔物の情報を知りたくて。」
「あらま!本当に早いのねー、今日は素材は売っていかないのかしら?」
「残念ながら何とも戦っていないので、犬たちもベード、うちの狼に服従しちゃってなんか倒す気にはなりませんでした。」
「あらま、そんな習性があったのねー。そういう逃げたり服従したりする魔物でも倒しちゃったりする人も多いのだけど、あなたは違うのねー。」
「えぇ、まぁ。」
リュクスとしても魔物は魔物と思う人は少なからずいて、倒してしまう人はいるだろうとはわかっている。彼らが服従したのでリュクスが倒すのをためらっただけだ。
「あ!そうじゃなかったわね、ごめんなさいねー。11層と12層は確かフットマウンテンゴートよ。むやみやたらに突進してくる獰猛な感じだったはずだから気を付けてねー。でも山羊皮を落とすから、よければいっぱい倒してきて頂戴ねー?」
「まぁそれなりには狩るかと思います。明日は10階の祭壇に飛んでみたいのですが、部屋でうまく飛べない場合は祭壇部屋を借りますね。」
「祭壇ね、あなたなら自由に使って構わないわよー。」
「ありがとうございます。では今日は寝ますね。」
「お疲れさま、良い夢見てねー。」
部屋に戻って風呂も済ませたリュクスはベットにとダイブインする。明日からのダンジョンを考えながらゆっくりと眠りについた。




