南熊壁街を目指す道
雨のせいで足場は少し悪いが、ベードは気にもとめず日中は馬車を追い越した以外は特に何事もなく進む。雨がやみ雲の裂け目から日が落ちた後も、ベードはさらに駆け抜けていく。食事はベードは走りながら器用に食べ、他のリュクス一行はベードの上で食べれたので快適な旅といえるだろう。
夜も走り続けるのは馬車も同じのようで、街道上を3台の並んだ馬車が南熊壁街へ向かい進んでいくのを見つける。輸送馬車と護衛馬車だろうとリュクスは考え、魔物襲撃と勘違いされても困ると、街道からさらに膨らんで追い越す。
雨であったというのに、ここまですれ違ったり追い越したりした馬車はこれで5組となった。南熊壁街に向かう馬車が多く、さらには街道沿いにテントが張ってあるのをリュクスは見つける。徒歩勢の冒険者が眠っているのだろうと、ベードに指示して大きく回避して進む。
実は夜になったことでベードの調子は上がったようで、さらに速さが増していた。種族的に暗いところのほうが真価が発揮できるのだろうと思いつつ、リュクスは一応注意する。
「飛ばしすぎないでね。フレウとかが落ちちゃうかもしれないし。」
「ココ?」「ばぅ?」
ベードもフレウも落ちるわけないといわんばかりの返答だった。固定もされていないがいつも頭の上とはいえ平気なのだろうかとリュクスは不安に思ったが、結局一日中フレウの安定度は高かった。
日が昇ったがリュクスから見えるのは眠りの地の赤土ばかり。さすがに一日程度では境につかなかったが、ベードには疲れはないようだ。リュクスもフリップスペース維持のため起き続けていたが、疲れも眠気も今のところない。モイザも平気そうだがフレウはいつのまにか寝てたようで、日の光で目を覚ましていた。
「ベードがきつくなったらか、僕がきつくなったら休もうか。ずっとフリップエリアを出し続けてるからね。でもできれば眠りの地を抜けるまでは休まず行きたいよね。テント内なら眠りの力も平気だけど、ベードがテントに入れないだろうし。」
「ばぅわぅ!」「ココ。」「――――。」
「じゃあ特にベードは頼んだ!」
みんな大丈夫だと言わんばかりに返事する。ベード頼りになってしまうがこのままどんどん進もうとリュクスも気合を入れる。リュクスはずっとベードの背に乗ってるわけだが、ベードの毛のおかげもあるのか尻の痛みは今のところない。
夜の速さなど始めに乗った時よりも早いのに、一番初めにあった風による耳の痛みもないのは、フリップエリアのおかげもあるのだろうとリュクスは考え、まだ持続できてるとはいえ辛くなってからでは遅いと、一応ポーチから魔素補填ポーションを取り出して飲んでおく。
苦味草の丸薬よりはましだったが、魔素補填ポーションもすこし苦めだった。しかし丸薬の時のただただ苦いだけとは違い、体の中がすっきりした感覚が広がる。この調子なら明日までは持つだろうという感覚だ。
張る瞬間には一気に消耗したのだが、張り続けてる分にはそんなに消耗しないようで、リュクスとしては持続させる集中力はいるが辛いと感じるものではなかった。
しっかり張り続けてることにも意識してたが、夕暮れ時から再び太陽がぶ厚い雲にかかり、夜が近いからか出発の時よりもさらに暗くなる。
さらに雨も降り始めてしまうが、フリップエリアによって雨ははじかれていく。これならば濡れることはないが、明日以降もまた雨なら魔力補填ポーションは必須だろうと考える。またあのポーションの飲むのかと気落ちしたリュクスだったが一つ思い浮かぶ。
「モイザ、魔力補填ポーションとリンゴジュースって合成できそうか?」
「――――?」
首をかしげたモイザの言葉はできるかわからないという感じであった。合成はリュクスよりモイザのほうが経験者である。ポーションは出発時に買い足した20本数だけで実験として使える数はない。
翌朝暗すぎるから薄暗いほどになったころに、リュクスはベードに止まってもらい、雨の中 フリップエリアを少し広げつつ、錬金セットを用意していた。
用意している最中、地面が赤土一色じゃなく、緑のある場所や白めの土の場所、薄い青色の石の場所の4色の混ざる土地に入ってたことにリュクスは気が付く。いつの間にか四色の地までついたようだ。
「眠りの地を抜けてもこの雨じゃフリップエリアは欲しいよね。それじゃあモイザ試してみて。」
「――――。」
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対象:魔素補填リンゴジュース
魔素補填薬とリンゴジュースと混ぜたもの
飲むと体内魔素量をほんのり補填する
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すぐにモイザが取り掛かり、あっという間に出来上がったのは魔力補填リンゴジュースというのであった。識別したリュクスはさっそく飲んでみる。魔力補填の時の苦みが消えて、さっぱりしたリンゴ味のジュースになっていたが、魔素を補充できた時の体がすっきりした感覚は半減していた。
四色の地に2日ほどで到着できたことで、なにもなければ南熊壁街まで3日以内には着くだろうとリュクスは考える。自分の残り魔素もどれほどかわからないが、モイザに8本分をリンゴ味で作ってもらうよう頼む。
もちろん作ってもらってすぐ飲むわけではない。そんなことをすれば腹がちゃぽちゃぽと音を鳴らすようになるだろう。製作終了するとリュクスは全てポーチにしまい、エリアを最低限の広さに縮めて再出発した。
半日ほど進んだところでリュクスはまた魔素補填リンゴジュースを一本飲んだ。魔素切れでフリップエリアが切れたとしても、ずぶぬれになるだけとはいえ、濡れないほうがいいに決まってる。
出発から3日目となった夕刻頃にリュクスにも眠気が出始める。眠りの地は通り過ぎているので単に疲れからくる眠気である。眠気で集中力が切れれば、フリップエリアが消えてしまう。雨もいまだに降り続けており、雨音がリュクスの眠気を誘うかのようだ。
仕方なしにとせっかくベードのスピードが出る夜なのだが、リュクスはテントを張って寝る準備をしていた。そしてテントの大きさとベードの大きさを比べる。
「ベード、僕はテントで寝るけどどうする?狭いけど無理やり入ってみる?」
「ばぅわぅ。」
「んん?入らないの?雨でぬれちゃうけど外でいいの?」
「ばぅ。」
どうやらベードは外でいいようだ。リュクスも森にいたときはずっと外だったんだと思い出し、雨で外で寝るのも経験済みなのだろうと納得した。
モイザとフレウもテントにと入りリュクスはフリップエリアを解く。テントに雨が当たり始めるが魔道具でもあるこのテントは雨が入り込む心配はない。敷布団が敷かれているのみだがそのうえでリュクスが横になると、フレウは足元に、モイザは離れるようにテントの片隅に、レイトはリュクスの頭の横で寝つき始める。かなり真横のレイトを見て少し笑いながらもリュクスも眠りについた。




