ギルド長の薦め
リュクスの予想通り、フレウはベードに乗っていることで気配を一緒に消せるようで、特に門で止められることもなかった。とはいえそのまま素通りというわけにもいかない。リュクスはまだギルドでの本登録をしていないフレウの従魔証を水晶にかざして通過したのだ。
街中でも問題は起きずリュクスたちは冒険者ギルドに到着。受付で従魔登録できるかわからなかったリュクスは、ギルド長に会えるかと受付役員に相談したのだが、ギルド長は忙しいようでテーブルで待つように言われた。10並べられているのに誰も座っていないテーブル席の一つをリュクスは使う。
1刻半くらいベードをなでたり、フレウの胸毛をつついたりして暇つぶしていたリュクスに、受付横から出てきた強面顔の人が近寄ってきた。
「待たせた、ギルド長が会えるそうだ。向かってくれ。」
「ありがとうございます。」
ギルド長室へと階段を上る際にリュクスは、悲壮感漂う項垂れたヒュマの四人衆とすれ違う。リュクスのほうに見向きもしなかったが、真ん中を進む彼らを避けるようにリュクス達はできるだけ端を歩いた。そしてギルド長室をノックするとすぐに入室を促された。
「おう、入ってくれ!」
「失礼します。」
「待たせて悪いな。昇格試験で結構時間かかっちまってな。」
「大丈夫ですよ。ギルド長が昇格試験するんですね。」
「いやぁ、俺じゃなくても担当職員がいればいいんだが、ちょうどCランクにあげれる権限のあるやつが今いなくてな。相手も相手だったし、まぁいいんだけどよ。」
「何か問題のある相手だったんですか?」
「問題はねぇよ。ただ来訪者ってだけさ。」
「僕と同じ来訪者ですか。」
「不安そうな声を出すなよ。問題はないって言っただろ。そもそも来訪者かどうか判断するなら、来訪者の装具付けてないとわからねぇしな。ただこの街の職員だと結構な人数がそいつが来訪者かどうか覚えちまってるってくらいさ。」
「なんというか来訪者がなにか問題を起こしてるのかと思ってしまって。」
「あー、問題っていう問題じゃないんだがな。来訪者が好意的じゃないって住人からの声が上がっててな。さっきの四人も少しそういう面があったからCランクに昇格させれなかったわけだ。」
「好意的じゃないですか?どういうことなんでしょう?」
「君はそんなことないんだけどな。なんでもひどい奴だと、原住民風情がという発言をしたやつもいたらしいな。」
「それは、なんというか申し訳ありません。」
「あん?なんで君が謝る必要がある?というか来訪者ってひとくくりにしちまってるけど、他の奴は他の奴だ。そもそも来訪者じゃなくても難癖つけてくる奴はいるからな。」
「なるほど、そんなもんなんですね。ところでCランク昇級試験って何なのですか?」
「なんだ気になるのか?まぁCランクとなることで、二階依頼板を使える一流冒険者といえるからな。俺としてはDランクでも十分色々任せられるけどな。」
南端の街でも二階にはいくつかの個室以外に大きな掲示板が一つ張り出されていたのを思い出す。階段近くでないのでわざわざ見に行ったりしていなかっただけだ。
「二階の依頼板って何か違うんですか?」
「依頼金額が全然違うな。期日指定も短いものが多い。指定日依頼とか一日拘束依頼なんてのもあったりするからな。あと指名依頼も来るようになる。指名は断れるが入る額は更に良い。」
「指名依頼はちょっと困ってしまいますね。」
「まぁそういうやつも多いから断れるようになってるんだ。そんでCランクの昇格試験だったか。要は一つの指名依頼を丁寧に達成してもらうのが試験になる。今回は対応した俺からの依頼だったんだが、指名依頼ってのは指名した相手に敬意をもってやってもらわなきゃ困る。立場的には依頼者が下じゃなく受けたほうが下になるわけだからな。」
「何というか、指名してまでその人がいいということなら、普通立場は逆になる気もするんですけど。」
「君もそう思うのか。やっぱ考え方の違いは難しいところだなぁ。まぁそういうもんだと納得してもらうしかねぇな。」
ミエスギルド長の言葉で先ほどすれ違った四人も同じように、立場についての勘違いをしてしまい試験に失敗したのかとリュクスは考えたが、いまだにどこかゲーム感覚の人もいるとは知る由もない。
「それもそうですね。僕がCランクに昇格する時が来た時の参考にします。ありがとうございます。」
「いいってことよ。んで本題はその鶏くんだろ?」
「そうでした。フレウの従魔登録をお願いしたいんです。」
リュクスのほうが本題のことを忘れていた。フレウは伏せたベードの上で寝てしまっている。ずっと話で飽きたのだろう、むしろ伏せてはいるが起きたままのベードは偉いとリュクスは内心褒めた。
「従魔登録は王都に行くまでは他の街でも必ずギルド長通しておけ。王都なら職員でも普通に仕事で経験あるからいいかもしれないが、俺ですら受付での従魔登録なんて、上級職員試験の時に一回やったきりだからな。まぁギルド長クラスならやり方は覚えてるだろうし権限もある。王都への書類報告だけでいいから受付仕事より楽だしな。んじゃあ口頭で教えてくれ、こっちで書くほうがいい。」
「はい、わかりました。種族はラウンドバーンチキン。名前はフレウです。」
「おーけー。あとは君の情報と合わせて転送して終わりっと。楽なもんだな。この後の従魔証記録との照らし合わせ作業が必要ないからな。」
「従魔証記録って、僕が従魔証作っちゃってますけど、平気なんですか?」
「あん?門を通る時にかざしてるだろ?そのときにちゃんと登録記録されてるからな。」
「なるほど、それならよかったです。」
「それにしても、この書類送りも楽なもんだ。王都が開発した空間術の術式と、魔素のみで発動する術式を合わせた、魔素動高位術式ってやつを魔道水晶に組み込んでるらしいんだけどな。本音で言えばこういうのできるならもっと街に配ってほしいと言いたいが、あっちはあっちで大変だろうからなぁ。」
「空間術の術式ですか。そういえばアーバーギルド長はかなりの空間術の使い手でしたね。何か関係あるんですかね?」
「どうなんだろうな。俺はあんま仲いいわけじゃねぇからな。そういえば空間術といえば、君は帰還石は持ってるか?」
「いえ、持ってないですね。」
「やっぱそうなのか。一応帰還石持っておいたほうがいいぞ、使えばパーティー単位で最後に祈った神殿にまで帰還できるからな。一応アーバーのじじいから書類連絡は来ている。空間術を使えるんだろ?」
「そうですね。でも帰還場所は自宅にしておきたいんですよね。」
「あー、なるほどな。まぁでもそうだな、祈らなくてもいいから、一度この街の教会には寄っておいたほうがいい。ここからさらに北に行って北門前にあるからよ。」
「わかりました。この後向かってみます。あまり長居してもあれなので、これにて失礼しますね。」
「おう、それもそうだな。お疲れさん。」
一度教会に寄っておいたほうがいいと言われたリュクスは、冒険者ギルドを出て北門前の教会に到着。南端の街と違い全体が外に出てるのだが、リュクスが元の世界でテレビだのアニメだのでよく見た三角屋根の上に十字架が乗った建物で、一目で教会とわかったのだ。
中に入ると南端の街の教会より広々とした椅子もない空間。奥の台座に鎮座する一つの像以外は壁明かりの装飾しかないシンプルさ。入り口横に立つ神官服の男が奥を見つめるリュクスに気が付き話しかけてきた。
「おや、参拝者ですか?イリハアーナ様の縛り地をここに定めに来ましたかね?」
「いえ、ちょっとギルド長に言われて見学に?」
「ギルド長にですか。では満足いくまでごゆっくり見学してください。もし縛りの地を定める参拝をする場合は、教会内のどこでも大丈夫ですのでこのポーズをとり、半刻ほど祈りをささげるとよいですよ。」
神官服の男はリュクスに説明するために、右片膝をつき、胸の前で両手を組んで首を下ろすポーズをとった。だがリュクスは自宅の簡易神殿でそのポーズをとっていない。祈ったのはアールグレンだけだ。
「あの、それって自宅の簡易神殿を作った後にも行ったほうがいいのですか?」
「なるほど、そういうことですか。自宅の場合はその土地の神官が代わりに祈りをささげているはずなので、他の土地で祈りをささげていなければ大丈夫ですよ。そしてこの地のこの教会内の光景をぜひ覚えていってくださいね。」
「あの、この教会内の光景を覚えるんですか?」
「朧気でも大丈夫ですよ。思い出として覚えている程度でいいのです。そうすれば転移石を使った際に自宅だけでなく、こちらの教会にも転移できるでしょうからね。ここからはすこし秘密の話なのですが、今はまだ王都神殿から他の教会への転移しか行えないのですが、街教会から街教会への移転を行える術式が開発中らしいですよ。」
つまり転移の魔法をリュクスが使えるようになれば、この街に自由に行き来できるということでミエスギルド長が見に行くように伝えたのだ。しかも王都で街教会同士をつなぐ術式が完成すればリュクスが全く他の場所から何度も移動しても変には見えなくなる。
「もしかして、その術式が完成したら、自宅の簡易神殿にも飛べるようになるのですか?」
「そうなりますね。この話は他言しないでくださいよ?ギルド長がこちらに来るように伝えた方ですので、お教えしたのですから。」
「わかりました。ありがとうございます。」
リュクスが転移のスキルアーツを覚えるのが先か、術式技術ができるのが先かはわからなかったが、この街には肉類を買ったり狩ったりしに来れるようになるはずだとリュクスは教会を出る際に一度振り向く。そして暮れ始めた日を見て宿にと足を進め始めた。




