卵を求めて
冒険者ギルドに到着したリュクスはベードをギルドの隅に待機させ受付の列に並んでいた。受付への要件は資料室に従魔とともに入っていいかということだ。
さすがに受付役の強面男も少し渋い顔をし、少し待てと連絡魔道具で通話し始める。どうやら相手はギルド長のようで、一度ギルド長室に向かうようにとリュクスは伝えられ、仕方なしにと向かうとすぐにミエスギルド長が迎え入れた。
「おぅ来たな。資料室が見たいんだろ?別に従魔と一緒に見てもいいんだが、その前に一つ言いたいことがあってな。」
「なんでしょうか?」
「君がいまだに冒険者ランクFなのはなんでだ?」
「なんでといわれても、依頼をこなしていないからですかね?」
「依頼をこなしていなくても、君は王都にまで有益になるような情報をもたらしたんだぜ?普通その時点でもっとランクアップしなきゃいけないわけだ。アーバーのじじいは固すぎるんだよな。もっと柔軟にいかねぇから南端の街は商業者ギルドが有利になっていっちまうんだよ。」
「はぁ、そうなんですか。」
自分のランクが低いという話かと思いきや、南端の街がトレビス商長が有利だという話になりリュクスも困惑する。
「君も気づいたと思うけど、この街の大通りは露店少ないだろ?あれ露店出してるのは実は金商クラスのお抱えになってる商業者くらいなんだぜ。他は全部横道に出させてるのさ、俺の権限でな。金商クラスだと大通りの露店部分まで土地権限持ってるから手が出しにくいけどな。それでも有利になりすぎないような品しか出せてねぇぞ。」
「大通りの露店が少ないのはギルド長が制限してたからなんですか。」
「そういうわけだ。南端の街みたいに大通りで買い物させまくるのもいいとは思うんだが、この街でやると露店に並んじまったりでもしたら人が多すぎて道が狭くなる。しっかり広い道でないと君みたいな場合とか、馬車通る時とか困るだろ?」
「まぁ、それもそうですね。」
確かに人通り数は圧倒的に南端の街より多い。大通りの両端に露店があったら人混みがさらに悪化するだろうとリュクスも納得する。
「そういうこった。おっと話それちまったな。君のランクをDとするからよろしく。これでいちいち受付に確認しなくても、どこの街でも勝手に資料室入って大丈夫だぜ。もちろん狼くんや兎くんも一緒にね。」
「なるほど。でもFの時と違ってほんとに何もしてないですが、Dランクに上がっていいのか不安ですね。」
「あん?大丈夫だろ?魔物を未確認種に進化させたんだぞ?それも2匹もだ。功績としちゃ十二分すぎる。」
「どっちもあんまり僕が何かしたわけじゃないんですけどね。まぁいちいち資料室を借りてもいいか聞かなくていいのはありがたいです。早速借りますね」
「おう、じっくり見ておけ。あとおすすめはイビルブルより先にラウンドチャビーチキンだぜ。」
「あれ、僕ってミエスギルド長にイビルブルを倒しに行くって話しましたっけ?」
「ん?さぁどうだったっけな、どうでもいいだろ?別にどっちから行こうが自由だしな。」
「確かに、調べてから自分で決めることですよね。あくまでおすすめというだけで。」
「そういうこった。」
ギルド長室を後にしたリュクスは、資料室で南肉の街周辺についての情報を集めた。街の東側に広がる丸々草原、南が突進平原、西が魔牛荒野、北が眠りの地と呼ばれ。それぞれの場所に名前通りの魔物が生息しているようだ。
そしてリュクスはギルドを後にした後、東にすすみ丸々草原に来ていた。ラウンドチャビーチキンの討伐はもちろん、狙いはもう一つ卵であった。
商業ギルドの店でも売っていた卵だが、リュクスは野菜に夢中で購入していなかった。卵は万能食だからもしここで集まらなければ購入しようとリュクスは考えていた。
というのも卵の収集方法はただ討伐するだけじゃ手に入らない。一日のちょうど光の刻のころ、つまり丁度リュクスが来た日の高い今頃になると鶏たちは卵を産む。産んだ卵にはラウンドチャビーチキンは見向きもしないらしく、回収し放題だと資料に乗っていたのだ。
ただし丸々鶏も縄張り意識の強い魔物で、仲間意識も高いらしく、お互い不干渉な兎や豚と違い、一匹が敵に気づくと周囲の何匹もが襲い掛かってくるようだ。
一匹一匹は豚と同じ程度で大した強さではないが、数が数なので対処を誤ると面倒な相手とのこと。そして当然、門の近くなほど卵確保の冒険者の競争率も高い。なのでリュクスは人が少ないかなり奥のほうまできて、体を伏せて待機中であった。
「コッコココ!」
軽快な鳴き声とともに鶏たちは卵を産んでいく。生んだ後はなぜか少しだけ走りその場を離れてしまうが、この走り去る瞬間が狙いだ。
リュクスはできるだけすばやく卵を回収していく。そこらじゅうの鶏がどんどん卵を産んでるので急ぐ必要があるが、気配を消していないといけない。
「コ?ココ!コココ!」
気配を消すのを怠ると警戒した声をあげて気が付かれてしまうのだ。リュクスは30個回収したところで気づかれてしまった。全てを即座にポーチに詰め込んだリュクス。ポーチ内なら割れる心配はしなくて済むと戦闘態勢をとり相手を識別する。
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対象:ラウンドチャビーチキン
丸々とした鶏
その丸さを武器に転がる攻撃を得意とする
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情報通りの転がるのを得意とする魔物であることを確認し、鳴き声に反応して何匹来るか正確には把握できなかったリュクスだが、一人で行けるはずと気合を入れた。ベードは卵回収中から遠くで待機中、レイトもリュクスの頭上ではなく今はベードの上なのだ。
ベードが援護するかどうかをレイトが決めてくれるということであったが、リュクスとしては援護を貰わなくとも戦いきるつもりでいた。
「行くぞっ!」
一匹が気づけば周囲の30を超える鶏たちもリンクしてリュクスに向かってくる。草原の中を進んでいたリュクスは包囲状態というわけだ。
だがラウンドチャビーチキンとの距離はあると落ち着き、まずリュクスは見つかった一番近い一匹に左拳を突き出し、照準を定めて火を引き絞る。
「ファイアアロー!」
火の矢が貫いたラウンドチャビーチキンはその場に転がり、完全に動かなくなった。前情報通り火への耐性もないし、一匹を倒すのは容易だと一安心したが問題は数だ。
イグニッションでは火力足らずになり、マイティイグナイトを使えば倒せるだろうが素材回収は見込めないとリュクスは悩む。火術系を攻撃に使う場合、威力の高いスキルアーツも多いが、素材が残りにくい難点があるというのはリュクスも理解していた。
だからこそ近寄られる前にできうる限り倒すとリュクスはファイアアロー乱れ打ちを始める。正面の10匹を狙いつつ、どんどんファイアアローを放つ。
転がりながら近づいてくる鶏たちの体をファイアアローが貫き次々と倒していく。次は左の8匹に打ち込み、さらに右の7匹にも放つ。最後に背後の11匹と振り向いた。
だがすでに背後の相手にはかなり近づかれていた。ファイアアローは構えて打つ動作があるとはいえ3匹くらいには間に合うと打ち出し、リュクスはすぐに杖を手にする。
膝ほどもの大きさのある鶏が転がってくるのは結構怖いものだなんて考えつつも、8匹がほぼ同時にリュクスの足元に転がり突っ込んできたのを、飛び越して一番後ろの個体を冷静に杖で一殴りした。
「ゴゲっ。」
ひどい声を上げたがまだ息がある、動きを止めたところにリュクスは追撃とばかりに杖を三連打し、ラウンドチャビーチキンは絶命した。だが軽く手間取ったせいで残りの7匹が引き返してきていた。
しかも今度はリュクスは飛んで避けたのに対処してか、少し跳ねながら転がってきていた。あの動きでは飛び越そうとしたら足に当たるかもと、リュクスは対応を変えた。
「マイティイグナイト!」
ゴッっと7匹は一斉に燃え始めるが、そのまま構わずに突っ込んできた。しかしリュクスも想定済みで、思いっきり横に飛ぶと、ちょうど横に広がるよう引き返してきた7匹が一列に見える。リュクスは即座に思い切り杖を振り目の前の一匹を吹き飛ばした。振りかぶった杖の先にはゆがみのようなものができていたようにリュクスは感じた。
殴りつけられたラウンドチャビーチキンがきれいに吹っ飛び、隣の鶏にとぶつかる。さらにその鶏がぶつかりと、まさしく玉つきに7匹を吹っ飛ばした。
玉つきで吹っ飛んで行った7匹は、マイティイグナイトの火が消えていたが、リュクスの想定と違い体が無事に残ってた。燃え尽きる前に絶命したからだろうかと少し悩んだが、これなら素材も取れるだろうと、リュクスはあたりのラウンドチャビーチキンも含めて解体せずにとりあえず死体回収していった。
回収を終えたリュクスは先ほどの杖の歪みの感覚を思い出す。あの瞬間少し魔素を持っていかれたと感じたのだ。もう一度吹き飛ばしをイメージしながら杖を振ってみたリュクス。魔素を少し持っていかれる感覚とともに、杖の先にちいさな歪みのようなのが発生した。
すぐに歪みは消えたが、どうやらこの力が作用しうまい具合に吹っ飛んだようだ。歪みにはリュクスが初めて作った弾き飛ばすスペースボールを作った時と似た感覚を得ていた。
「弾き飛ばす空間、フリップスペース?」
イメージしながら声に出したためか、杖を振っていないにもかかわらず、杖の先に同じように歪みができていた。さらに歪みも少し大きくなってる。
時空術の一つを無意識に発動するとはリュクスも意外だったが、少しずつ夜にスペースボールで練習してた成果だろうとひとまず満足した。
「僕はこれでよし。ベードはどうしたい?狩ってみたい?」
「ばぅ!」
「行きたいのね。他の人に迷惑はかけないように。とりあえずご飯作ってるからその間自由にしていいよ。それとも先にベードだけ食べる?」
「ばぅ。」
ベードは首を振って食事は拒否。そしてさっそうと駆けて行ってしまった。レイトはというと駆けていく寸前にリュクスの頭にと飛び乗っていた。飛び乗られても不思議と痛くも重くもないのだ。
ベードには自由行動させて、リュクスは少し遅めの昼食をと料理セットを取り出す。モイザは錬金セットに夢中だからと持ってきていたのだ。卵を手に入れたなら卵サンドだと早速準備に取り掛かる。
鶏系の魔物の産む卵はすべて無精卵だとギルドの資料に乗っていた。雄だろうが雌だろうが卵を産むらしい謎生態で、なぜ卵を産むのかはいまだに解明されてないとのことだが、リュクスにとって卵がおいしく、食しても安全という検証結果があれば些細なことであった。
出来上がった卵サンドをほおばりなかなかのおいしさだとリュクスは満足する。帰ったら野菜と卵と肉で何かサンドじゃない料理を作るのもいいなと考える。
ただそのまま焼くだけじゃない料理と考え、目玉焼きのせハンバーグが浮かぶ。リュクスは自分の持つ調味料を確認。塩はあるがコショウがない。商業ギルト店に売っていたかと思い出そうとしたが、野菜にばっかり目に行ってたことしか思い出せなかった。
そこで頭を切り替え、食事を終えても戻らないベードに少し不安になり始めたが、すぐに遠目にベードの姿を確認したリュクスだったが、なにかベードに乗ってるように見えた。
「ばぅ…」
「コココ。」
「えっと、なんで連れてきたの?」
リュクスも少し頭を抱えた。ベードの頭の上に鶏が乗っていたからだ。ラウンドチャビーチキンとは少し色が違う。普通のは茶色だがベードの頭上のは赤茶色で、リュクスに突っ込んできたラウンドチャビーチキンと比べて丸っぽさもあまりないように見え、識別をかけてみた。
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対象:ラウンドバーンチキン
火の力を持つ丸々とした鶏
火を纏う体当たりだけでなく、口から火を吐くこともできる
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どうやら資料にもあったラウンドチャビーチキンの変異種だとリュクスは確認する。まれにこの草原に現れ、ラウンドチャビーチキンと違い火の耐性もあるので、初心者は注意するようにと記載されていた。
しかしなぜ連れてきたのかとリュクスも悩む。今のところ火術メインの戦いをするリュクスとしては苦手な相手なのだ。もっともリュクスが仕留めるために連れてきたとも思えなかったが。
「きゅ…」
「ばぅばぅ!!」
今の会話はリュクスにもなんとなく理解できた。レイトがまさか負けたのかと言い、そしてベードがまさか違いますよと首をぶんぶんと振ったのだろうと。ベードが首を左右に振るのに合わせて鶏も揺れるのだが、動じずに頭の上に鎮座しつづけた。
「それで、ベードは僕にどうしてほしいの?」
「ばぅ!」
「コココ。」
先ほどと違い、さすがに鳴かれるだけでは何を欲してるのかリュクスでもわからなかったが、鶏は口を開くと、翼を口の中を指すように動かした。
「まさかご飯がほしいの?」
「ココ。」
「お腹すいてるのか。ベードはこいつが空腹で倒れてるのを助けたってことかな?」
「ばぅ。」
ベードが小さくうなずいた。ベードが助けたいと思ったのならそれもいいかとリュクスは考えたが、問題はある。何を食べたいのかがわからないのだ。
「それじゃあ何を食いたいの?普通の鶏なら種を餌にしてたような気がするけど。」
「コココ。」
「種じゃない?さすがに何が食べたいのかわからないとどうしようもないけど?」
「コ、コケ。コ…」
鶏が翼を口の前に出し、すごく小さな火を出し口の中に運ぼうとしたのだが、すぐにぐったりとして、火を口に運こびきれなくなっていた。火がほしいのかとリュクスはファイアボールを両手に包むように出してみる。
「コ!コココ!」
「え、うぉ!?」
鶏が興奮するように大きく口を開けると、リュクスの手のファイアボールから火が吸われていく。リュクスもまさかとは思ったのだが、本当に火が食事のようだ。これでは火耐性どころか吸収だ。
バスケボールほどの火球があっという間に吸い尽くされ、鶏も腹いっぱいといった感じに胸を膨らませながら何度もうなずいている。満足いったようだ。
ベードもどこか安心したようなあきれたような表情で、いなかった短時間に何があったのかとリュクスは悩んだが、満足げだった鶏がリュクスを真剣な目でじっと見つめていた。その目は青くモイザ達と同じ感覚であった。
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対象:ラウンドバーンチキン
種族:ラウンドバーンチキン
主人:リュクス・アルイン
スキル:〈転体〉〈炎魔法〉〈卵産〉〈炎食〉〈聖族言語〉
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改めてリュクスが識別するとやはりテイムされていた。ならば名前を付けてやらなくてはと考える。バーンというのも浮かんだが、ドーンのことを思い出して切り替える。ならば炎からすこし名前をもらうかとリュクスは決めた。
「よし、おまえはフレウだ。問題ないか?」
「ココ。」
「きゅ。」
「ココッ!?」
こうして新たにフレウが従魔となったが、レイトがリュクスの頭上から降り、フレウに何か言い放った。するとすぐにフレウはベードからおりてきた。
「きゅ。」
「ココ?コッ!」
「なにはなしてるの?っておぉ!」
レイトが何か催促するようにフレウに声をかけると、フレウは体全体に少し力を入れる。尻付近を翼でごそごそとした後に、リュクスにと卵を差し出してきた。フレウも卵を産めるようだが、鶏系の魔物なので無精卵だろうと識別してみる。
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対象:ラウンドバーンチキンの卵
温かみのある卵だが無精卵である
熱を持つ卵は若干の熱耐性があり、加熱調理の際は強火でないと半熟になる
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熱のある卵と出て大丈夫かとも思ったリュクスだが、強火ならば通常調理できるのだろうと識別結果になっとくする。ラウンドチャビーチキンの卵と比べても大きさもあり、卵の艶も綺麗に見えた。
「そういえば卵作って消耗してない?火術でよければもっと食べる?」
「ココ。」
「それより眠いのね。でも寝る前にちょっとまって。モイザの作ったこれを付けよう。」
フレウは首を横に振る。どうやら食事はもういいようだが、少し眠たそうに感じた。すぐにリュクスはモイザ作の帯巻きを取り出す。あまり長くないがモイザがいろいろ試行錯誤して作っている中の一つで。フレウの頭にちょうどいいと、ベードの首輪に触れつつ、帯巻きに同じ力を入れる感覚をイメージして従魔契約の力をこめる。
「コンフォームプルーフ。」
帯の一面に淡い黄色の光で文字が浮かび上がり、うまくいったようだ。リュクスは文字が内側になるようハチマキのようにフレウに巻いてやれば完成。そして持ち上げてベードの頭上にとまた鎮座させた。
赤い姿に白の鉢巻も似合うのだが、色付けしてもいいかもしれないと、リュクスはモイザに染色も習わせてみるといいかもと考えた。
「ベードの上でなら寝てていいよ。ただ街のギルドにまで行って、勝手に従魔登録しちゃうけどいいかな?」
「コ。」
そのままうなずくのと同時にフレウは眠ってしまった。ベードも困惑気味だがモイザと同じように気配を消すならベードの上しかないからとリュクスは諭す。
「まぁベードが連れてきたんだし、上にのせて一緒に気配消すくらいは面倒見てよ?」
「ば、ばぅ。」
ベードがうなずきながらも少ししょぼくれるようにうなだれたが、なぜか頭から落ちないフレウを見たリュクスはレイトみたいに安定しているんだと安心した。
round ⇒ 丸い
chubby ⇒ ぽっちゃり、太った




