解体屋と端材
闇十の刻を過ぎたころにリュクスは目を覚ます。長く寝てしまったと思いつつもまずは借りた部屋の設備を見て回る。広さはあれどリビングと生産スペースにトイレがあることは以前の宿と同じ。大きく違うのは風呂があることだ。
風呂といっても石でできた湯舟と木の桶に、お湯の出る魔道具が付いている程度だが、この世界に来て初の風呂だとリュクスは思い切り湯浴びをする。備え置きの石鹸はなかったがこの街の店なら売っているのかと気になった。
しかしリュクスはこの街について始めにやることは決めていた。使い慣れた豚肉をせっかくなのでリュクス自身で集めてみるつもりだったのだ。
持ち歩き分のサンドもあり外で料理することはないと、料理セットを宿に出した。するとモイザは宿で待機して料理を作りたがったので、リュクスは買い足した脚立を取り出し、料理素材として豚肉入りと野草入りのポーチそしてリンゴと緑甘樹の入りポーチを渡しリュクスは宿を出た。
ベードはリュクスのすぐ後ろについてきており、気配を消して歩く。レイトは当然のようにリュクスの頭上に乗り南門を目指す。
南門の近くで解体屋を見つけたリュクスは、以前にベードが狩った兎を特大ポーチに移してそのままなことを思い出すが、今日も別行動させるからと帰りに寄ることに決めた。
ベードと別れたリュクスは平原を見渡しながら進む。兎と違い豚たちは突っ立っているのでよく見る。逆に豚も聖族を見つけると遠くから襲い掛かって来るようで、他の冒険者らしき人たちが対応してるのを見ていた。街道は聖域だからか豚が襲ってくることはない。
豚狩りの冒険者はかなり広く分散していたが、平原は広く街からかなり離れれば人のいない場所もある。人の気がなくなりリュクスが街道から離れると豚が気が付いたようで突っ込んできていた。
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対象:ラッシュホグ
ただただ敵を見つけると突進する豚
強力な嗅覚で餌や敵をすぐ見つける
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識別を終えたリュクスだがまっすぐ突っ込んでくるだけの相手にあたるようなことはない。横に飛びのきつつ、左手を握り前に突き出す。突き出した拳に右手を添え、魔力をつまむようにイメージし胸元に引っ張る。拳から右手まで火の矢が出来上がると、リュクスは豚に向かい放つ。
「ファイアアロー!」
放った火の矢は豚を貫き、豚は燃えずにピギッという声を上げて倒れた。ファイアアローは当てた対象を燃やすことなく貫くだけである。リュクスの放った矢がまっすぐ飛んだのは、元の世界のVRゲームでアーチェリーを経験してたのが役に立ったのだろう。
袋型特大ポーチがあるからと、リュクスはラッシュホグの解体し始める。兎とは大きさも違うが解体ナイフで足と頭を切り離した後、肉と皮をはがしていく。
ラッシュホグについての情報は南端の街で仕入れており、皮は素材にもならないとあったのだが、実際に剥いだ皮は緑甘樹の蔕と同じで識別しても用途無しと出る。緑甘樹の蔕は畑の肥やしになるかと地面に埋めてしまっていた。
「まぁ使い道無しでもとりあえずポーチに入れておいて次行こう。」
リュクスが少し歩けばすぐに遠目に豚が見え、すぐに豚も突進してくる。かなりの距離があるが匂いで察知したのだろう。だがこの距離なら避けてから狙うなんてせずともいいと、左手を構え魔力を引いてファイアアローを放った。
まっすぐ突っ込んでくるだけの豚を火の矢が貫き絶命する。レッサードッグのような知能もないような相手なら豚肉稼ぎには対処には困らないとリュクスは軽く笑う。
次の豚が突っ込んできたので、リュクスはもう一つの魔法を試す。本来は範囲魔法で複数相手用の魔法だが、一匹を射程範囲まで引き付けた。
「マイティイグナイト!」
イグニッションと同じ性質をもちつつ、火力を上げるための技である。しかしイグニッションよりもさらにひきつけないと射程範囲にならない。火の玉になった豚は威力を落としながらもそのまま突っ込んできたが、リュクスは即座に飛びのいて様子を見る。
豚だったものは少し進んだ先で倒れ燃え尽き、灰も残らなかった。元々威力重視の魔法なのでリュクスとしても満足な結果だった。そこで一旦街道にと戻るとベードもリュクスにと合流してきた。
「お帰りベード、その体での狩りは調子よかった?」
「ばぅ!」
問題なく動けたようで、袋型中サイズポーチがもう全部詰まっていた。時間的には光二の刻であり昼時は過ぎているが朝が遅かったのだからと、ベードには豚肉をレイトにはノビルを、リュクス自身はサンドをほおばりつつ一度解体にと向かう。
解体屋に入るとカウンターは一つで、肘をつきとてつもなく気だるそうなあくびをしている犬系のビスタが一応は出迎えてくれた。
「解体依頼か?」
「えっと、ラッシュホグとアタックラビットの解体をお願いしたいんですけど。」
「個体数はどうする?」
「それぞれ200です。豚は中型袋に入ってます。」
「袋ごと預かる?個別に出す?」
「じゃあ兎とおなじ特大ポーチに移しちゃうので袋ごとお願いします。」
「1200リラだ。証明。」
「はい。」
そっけない対応だがリュクスは証明をだし1200リラを払う。そして袋も預けるとちらっと中を覗く。
「半刻もあれば終わる。待つか?」
「半刻なら待たせてもらいます。」
「わかった。」
受付のビスタは袋を持って奥へ。袋の中身はリュクスしか取り出せないはずだが、何か取り出す方法があるのだろうと、座る場所もないので立ったままリュクスはベードとレイトと待つ。そして半刻後に袋を持って戻ってきた。
「食える肉だけを詰めた。端材の皮と頭と足も渡せるがどうする?」
「えっと、端材って何ですか?」
「端材か?素材とならないもの、用途不明といえば聞こえはいいが、本当に用途なし。価値を見出せる端材はごく一部。」
「なるほど、通常はそういうものってどうするんですか?」
「廃棄肥料。」
廃棄肥料ということはリュクスが緑甘樹の蔕を地面に埋めたのと同じ用途だろう。ある意味リュクスは正しい判断をしたということだ。
「じゃあ足だけもらっていきます。」
「わかった、受け渡す。」
ビスタも特大ポーチをすぐ後ろから取り出す。ポーチ同士を触れ合わせると、リュクスの特大ポーチに豚の足200が追加された。どうやらポーチ同士で受け渡し処理をして解体する魔物を取り出したようだ。
ちなみに豚足を受け取ったのは、端材とはいえ豚足料理作れるかとすこしリュクスは考えたのだ。
「ありがとうございました。」
「まいど。」
愛想悪いかとリュクスは思っていたが、質問にはしっかりと答えたビスタに礼をする。そして端材の確認とモイザの様子を見るためにも一度宿にとリュクスは帰ることに決めた。
リュクスが宿に戻り部屋に入ると、肉の焼けるいい匂いが漂ってきた。いつも作ってる醤油で焼いた豚肉の匂いだ。
料理スペースではモイザが豚肉をフライパンで焼いていた。器用にも糸で足とフライパンを固定しているのだが、熱で糸が溶けた様子もない。サンド用に白パンが切り分けてあり、ちょうど焼きあがった肉をサンドの片側にと乗せた。そしてマヨ瓶を器用に開けると、スプーンですくい肉の上に塗り、白パンを折り曲げてサンドした。
リュクスに気づいたようで、モイザは出来立てを差し出してきた。昼にも同じようなサンドを食べたのだがせっかくだからとリュクスは食べることに。
モイザの作ったサンドには野草は挟んでおらず、マヨとしょうゆとパンというシンプルなものだ。作り立てだからか、それだけでもおいしいとリュクスはうなずいた。
「あんまりありすぎてもしょうがないし、これくらいでいいぞ。」
「――――。」
料理用にと渡した袋型小サイズのポーチにはすでに26個も出来上がっている。一応料理素材として渡しておいたのだが、モイザが肉を焼いたのはこれが初めてである。以前は微妙な顔をして受け取りもしなかったのだ。扱えるようになったのは進化した影響だろう。ついでといわんばかりに糸玉も20個入れられていた。
素材用にと渡した豚肉入りポーチに野草入りポーチそして木の実入りポーチをモイザはリュクスに返そうとしたが、リュクスはそのまま持っててもらうことにした。
モイザが脚立から退いたためリュクスは一旦どかす。そしてリュクスは豚足の処理を試みる。豚足を扱ったことはなかったが、まずは試しに茹でることに決めた。
沸騰した鍋の中で足一本を茹で始めたのだが、あっという間にドロドロに溶けてなくなってしまった。蹄部分や骨もあったはずだが完全に溶けたのだ。
茹で汁を識別したリュクスだったが、茹で汁ではなく汚染された水と識別された。これは使い物にならないとリュクスは料理セットの一部に搭載されている廃棄口を開けて流し込んだ。廃棄口の中ではトイレと同じように中で何かがうごめいているのだが、リュクスはみなかったことにして豚足を一回識別した。
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対象:ラッシュホグの四つ足
人には特に用途のないラッシュホグの足
煮ても焼いてもすべて溶け落ちる
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料理する前に識別しておけばわかったことなのにとリュクスは落胆する。そもそも貰う前に識別すれば受け取ることもなかっただろう。土に埋めれば肥料くらいにはなるのだろうが、わざわざ土地に戻り埋めることもないとリュクスは残りの足も、自身で解体した豚の端材も廃棄口に突っ込むことにきめた。
廃棄のために袋からどさどさと出してた豚足達でさすがのリュクスでも少し気持ち悪くなる。見ないようにしながら他のことを考える。端材から汚染された水なんてものも出来てしまったので、本当に端材の中には用途のあるものもあるのかと。
そこで思い出す。もう一個特大ポーチに突っ込んだ問題児がいたのを忘れてたことを。似たような文面だからこいつも駄目だろうと識別しなおす。
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対象:甘すぎる水
甘すぎるため特に用途のない水
なにかを茹でた後のため温かい
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緑甘樹の実の皮を全て剥いてから茹でた後にできた水である。何かに使えないかとずっととっておいたリュクスだが、無理だろうと廃棄口に捨てることに。モイザがどこか残念そうな目で見てたのだが使うかと聞けば首を横に振ったので、失敗料理だと思い廃棄口に流し込んだ。
少し落ち込んだ気持ちに気合を入れ直し、料理の為にも今日はこの後ショッピングだとリュクスは思い起こす。露店周りと店を見て回ろうと考えたのだ。
「僕は買い物に出かけてくるよ。モイザは申し訳ないけどまた留守番で。料理セットは置いていくけど、料理はとりあえ自分の分以外はなしでおねがい。ポーチの食材は自由に食べていいからね。」
「――――。」
料理素材ポーチはモイザに渡してあるからとリュクスは宿を出る。まずは中央に向かって何件かあった露店を見て歩く。リュクスは朝のうちはできる限り目に入れないようにしていたのだ。
南肉の街は歩く人々は南端の街よりもやはり多く、大通りは普通に歩けるのだが、狭そうな通りはかなりごった返してる。近道もあるかとリュクスは少し思ったが、ごった返す通りに行く気にはならず基本は大通りを進む。
西大通りは人の多さに比べると南端の街よりも露店の数は少ない。所々に露店を出してるのだが、売り物は肉や野菜じゃなく壺や壁飾りのような装飾品ばかりで、人もあまりよりついていない。
「さて、どうしようか。」
リュクスは思わずつぶやいてしまった。他の大通りに行けば食材になるようなのを買える露店もあるかもしれないが、商業者ギルド直轄の店ならば確実だろう。しかし商業者ギルドの位置がわからない。
困ったら冒険者ギルドといきたいが、リュクスは残念ながら冒険者ギルドの場所も知らないのだ。探すにしても、もし冒険者ギルドが南端の街と作りが違うと分からない。悩みながら中央看板まで歩いてきてしまったのだ。
「きゅ…」「ばぅ…」
「そんなあきれたような声出さないでよ。」
レイトだけでなくべードにまでやれやれといったような感じでため息のような一鳴きをされたリュクスは、考えなしに行動しすぎたとさすがに反省する。出る時には宿屋の人がいなかったが、水晶で呼び出せば来てくれるだろうと考え来た道を戻っていった。




