家完成
リュクスがリターンロケーションを使えるようになった翌日となったが、リュクスは自分の土地に行かず商業者ギルドの店にと足を運んでいた。
作業員をねぎらいサンドをまた作ることも考えたのだが、作業してるところを中断させるだろう。それならば出来上がりを楽しみにしようとリュクスは思いなおしたのだ。
追加分の野菜の購入と、畑に植えれるものを探しに来たリュクスだったが、この世界の野菜には種が必要であり、ここでは取り扱っていない。
街の畑では種を作り出すスキルを持っている人材もいるのだが、個人の畑分を作り出すので精いっぱいで売り物としては出てこず、販売している種を探すなら南肉の街のさらに隣町である菜葉の街に行く必要があるとリュクスは伝えられた。
まれに旅商が種を流すことがあるらしいのだが、育った野菜は連作できるものではなく、一度育ち切った後は枯れてしまううえに、野菜たちも育ちが悪く普通の物より小さい物ができる程度。いわゆる本来取り扱うべきでない粗悪品を売っているということだ。
肉も売りに出されているがアタックラビットとラッシュホグの肉以外は売っていない。イビルブルの肉はギルド用と限定的な店用におろされていると聞いてリュクスは少し残念がる。
マヨネーズを売り出しているのに卵そのものは売り出ていない。理由はリンゴの加工品を輸出して卵の産地でマヨネーズに加工し再輸入しているからだ。
卵を輸入してると話を聞いた気がしたリュクスだったが、どうやらごく少量で店売りに出せないそうだ。入用ならばトレビス商長に相談してくださいと言われたリュクスは諦めた。最近明らかにいろいろ融通されすぎているので、また優遇案件を自分から増やすのもとためらったからだ。
以前もリュクスは思ったことだが、食材の種類が少ないのだ。新しいコーナーができるのか何も並んでいない展示ケースがあるが、以前購入した野菜と2種の肉とマヨネーズそして白パンというくらいなのだ。
南肉の街にはもっと周囲の街からの輸入品が多いと聞いたリュクスは、次の街で食材のバリエーションを増やせばいいかと野菜の追加購入のみで店を後にした。
そのまま南兎平原にとリュクスは足を向けた。アタックラビットの炭の回収依頼を朝に受けてきていたからだ。前回はレイトの協力のもと炭の回収を楽にこなすことができたわけだが、今回はついてきたベードとも別れ完全にリュクス一人でアタックラビットを見つけて倒していく。
光の刻を過ぎた昼食の時間になり、別行動で兎狩りを楽しんできたベードがリュクスと合流する。中サイズ袋型ポーチをいっぱいにしてきたようで、200匹分の死体が入っていた。リュクスは炭の依頼分である10体分は集めきっていたのもあり、昼食を終えたリュクスは特訓と思い解体に取り掛かった。
リュクスは解体しつつふと思い出す。ベードの袋に狼の死体は入っていなかったのだ、さすがに回収するのは嫌だったのか、はたまた近くの他の冒険者が回収したのか。
話を聞こうにも当のベードはアタックラビットを取り出し終えた小サイズの袋型ポーチをもってまた走っていってしまったのだ。仕方なしにとリュクスは黙々と解体作業を続けた。
集中して解体していたのだがやはり長丁場になってしまい、帰る頃には夕暮れだった。合流したベードの袋の中身がまたアタックラビットで満杯なのをみて、リュクスは解体所に頼むことに決めた。そんな過ごし方をしたリュクスは、翌日の朝にまずがっつりラッシュボアサンドの製作300個。これでもトレビス商長からもらった肉は半分も使っていないのだが、1刻半ほどで作り終えて自分の露店にと向かう。
リュクスは自身の露店にサンドを追加しつつ、土地の変わり具合に不安になっていた。まず南東の扉付近にあるでかい家が目に付く。あれがリュクスの家となるようだ。そして広めに作られた屋根だけが張られた箇所、蜘蛛たちが雨風をしのぐ用として頼んだのだが、それにしても広すぎるように思えた。
木々の配置場所を考慮してか、すでに苗木の生えた部分には屋根がない。それはリュクスとしてもありがたかったのだが、苗木が明らかに多い。200はあるように見えたのだ。そしてこれ以上増えないようにとの考慮か柵で囲われていた。
リンゴの木と緑甘樹が半々ほどで並んでいるようだが、どれがどちらかなど識別しても大変だと、苗木の形の違いだけで判断した。
蜘蛛達の巣は大きな屋根のある中央付近に移動し巣も大きく広がっていた。作業員たちが勝手に移動させられるものでもないので、モイザと相談して移動したのだろうとリュクスは予測する。
元蜘蛛達の巣があった場所には、なぜかノビルが大量に生えていた。少し離れた別の柵内にレモングラスも生えている。ノビルほどではないが十分多いようだ。
大きくリュクスの土地の景色が変わったわけだが、リュクスとしても気に入っていないというわけではない。こういうのもありかと南東側に移動した。すでに露店は小さく見える程度で、人がいることもわかるか怪しい。その上中央の蜘蛛の巣で視界はより悪い。
家の正面は石畳みの広場となっていて、そこに作業員とトレビス商長が集まっていた。広場から少し離れたところには一面だけ壁のない小さめの小屋があり、中には料理セットと脚立が配置されている。蜘蛛達専用の料理場所が作られたようだ。中で料理していたのはレササであった。完全に料理担当になったのかもしれない。
「お帰りなさいませ、リュクス様。出来上がりはいかがでしょうか?」
「十二分ですよ。ありがとうございます。後は家の中も見てみたいですけど。」
「では皆さんに解散指示を出した後に、私が家の中をご案内いたしますね。」
「よろしくお願いします。それと作業員の皆さん、ありがとうございました。」
「おう、こっちもいい仕事出来たぜ。面白い体験もできたしな。俺達は一旦土地から出ちまうと、契約上また中には入れねぇが、なんかのようで近くに寄った時は蜘蛛達に挨拶位しておくぜ。」
すんなり作業員が入れたのでリュクスは意識してなかったのだが、契約が終わると再度入ることはできないのだ。しっかり作業員たちを見送り終え、リュクスはトレビス商長とともに家に移動した。
リュクスの家となるらしいこの家はこの街の民家と同じ三角屋根であり、石材で固めた床下以外は木製である。建物の高さ的には一階建てだ。だが街の民家と比べてもかなり横に広い。
入り口は広場から正面にある。入り口以外の3面には大きい窓が付いていて、人が通れるような大きさではないが、蜘蛛達ならば普通に通れそうである。
外観を一通り見終えて中に入る。ベードは中までついてきたが、モイザは外で待つようだ。モイザは家の中が苦手なのかもしれないとリュクスは考え、家の中を堪能し始める。
入るとすぐに玄関口が作られていて、靴を脱いで上がるようになっている。宿屋では靴を履いたままだったが、民家では靴を脱ぐのが主流なのかと少し不思議に思いつつも、リュクスは靴を脱ぐことに躊躇などない。
玄関部分からドアを開けさらに家の中へ。広いダイニングには大きなテーブルもあるのだが十分に開放的である。奥にはキッチンスペースもあり、魔導コンロや魔導水石が設置されているようだ。
「こちらのキッチンの下棚には鍋やフライパンなどの基本的な道具が入っています。上棚の左側には食器類が入っています。20セットほど用意させていただきましたが、足りない場合は商業者ギルドの店をご活用ください。」
「そんなに使うかはわからないですけど、ありがたくいただいておきます。」
「では他の部屋もご案内いたしますね。こちらのカウンター側の奥の扉がお手洗いとなっております。寝室はダイニングのテーブル横のあちらの扉になっております。なお一番奥の一角は何もない部屋になっておりますので、簡易神殿を設置する際にお使いください。」
簡易神殿の部屋まで用意してくれたようだが、帰還石での転移を想定してのことだろうとリュクスは考えた。空き部屋は明日確認すればいいと、まずお手洗いを確認する。
結構広めなトイレで2畳くらいの空間となっていた。狭いトイレ好きでは不安になる広さだろうが、リュクスは気にすることもない。糸車の宿もこのくらいの広さのトイレだったのだから。
トイレ確認もほどほどに寝室方面に移動する。部屋は十二分に広く、ベッド上には外から見た広い窓もついている。どうやら外は畑側のようで窓から少し木々が見えた。置かれているベッドはダブルベッドであり、横開きのドアのクローゼット部屋も設置されている。なかなかに豪華な家であるわけだ。
ダイニングに戻り改めて大きなテーブルに向けられた椅子に座る。なぜか4席用意された椅子があるわけだが、この机なら8人は座れるはずである。とはいえリュクスがそんな人数を家に招くこともないだろう。しいて言うならば、トレビス商長が今は来訪中であり、リュクスの向かいにと座った。
「お気に召しましたでしょうか?最低限の必要と思うものは用意したのですが。」
「充分すぎますよ。満足しました。こんなにもらっていいのか不安なほどです。」
「何をおっしゃいますか。リュクス様のおかげでこの街にかなり多くの旅商の方が来ております。我々もかなり稼がせていただきましたよ。それだけでなくあなたから得た従魔の情報でも王都よりかなりの額をいただきました。これくらいでは少し足りないかもしれませんね。」
「そうなんですか。でも本当に充分なのでこれ以上は大丈夫です。」
「かしこまりました。では私たち商業者ギルドからは以上になりますので、ご自宅でごゆっくりしてください。もしこの街から出発する際はこちらに声をかけてくださいね。」
「出発する際は声をかけさせていただきます。ありがとうございました。」
リュクスが礼をいうとトレビス商長は席を立ち家を出る。リュクスは家の外まで見送りした後、宿を引き払うために現在宿泊中の生産宿にと向かうことにした。
だが歩きながらリュクスはふと思い出す。延長金を払っていなかったのではないかと。たどり着いた宿屋にて不安げに聞いたリュクスだったが、知らぬ間にトレビス商長名義で延長料金が払われていた。この宿は延長料金の返金はなくカギを返すだけとなった。
トレビス商長の手回しの良さを頭から拭い去る。せっかく家ができたのだから今日は家を堪能しようと考えたのだ。
そして明日は簡易神殿の作成。帰還できることを確認出来次第、リュクスはこの街を出発することに決めた。家ができて早々の出発なわけだが、この街でできることはあらかた済ませた。家とは帰ってくる場所であってずっと居続けるだけの場所でもないのだからと。
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