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ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
最後の大樹へ

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魔王城と城下町

魔王城城下町とだけ聞けば、恐怖の象徴が至る所に配されるようなおどろおどろしいイメージや、はたまた魔族が自由奔放に暴れる無法地帯を思い浮かべるだろう。

しかし、リュクスたちの目の前に広がるのは、いたって普通の活気あふれる街並み。

入り口こそ赤いレンガで作られた巨大な防壁が張られていたが、その先は普通の農業地帯だった。


中央に伸びるレンガの道から、左右には巨大な農地が広がり、昼間にもかかわらず、デモナもビスタも入り混じってせっせと農作業にいそしんでいる。

特に遮るものもなく、彼らからも聖族であるリュクスと先行する魔王の姿も見えているだろう。

デモナであれば、気配を消しつつも背後を歩くベードにも気づいているかもしれないが、特段リュクスたちを意識することもなく、そのまま働き続けていた。


巨大な農業地帯を抜けた後は、民家が立ち並ぶエリアになる。

どの家も特に珍しくもない、戸建ての洋風木造建築だ。

ただし、ここは不毛の地であり、正常な木々を気軽には手に入れられないのだろう。

補修跡や新築らしき家は黒ずんだ木を使用している。

もっとも、それほど忌避感を覚えるようなものでもなく、来訪者であるリュクスにしてみれば、黒い木造住宅くらいにしか見えなかった。


住宅エリアを歩く人々もビスタとデモナしかおらず、リュクスは時折物珍しそうな目線を浴びたが、魔王もいるはずなのに話しかけられることもなく進んでいく。

リュクスも人々を見て気が付いた。

今まで出会ったデモナにはヒュマに似た姿をした者もいたが、この街のデモナはすべて、ビスタに似たいわゆる獣人系しかいないことに。

そのデモナたちは赤黒い角と翼を生やすが、誰もかれもそれほど大きいものではないことに。


「あの…」


「聞きたいことはあるだろうが、今は周りの目も多い。城についてから話そう。」


「…了解です。」


リュクスは質問しようとしたが、魔王は振り返りもせずに牽制する。

ある意味では街を知らぬと無知を晒すマネである。

こんな道のど真ん中で話していい内容なのかとリュクスも思い、言葉をのんだ。


長い住宅街を抜けると中央広場に出る。

大きなラウンドアバウトになっており、円の中では成人のデモナとビスタが、形の小さな野菜や羽がむしられているだけの一羽丸々のままの大きな鶏肉を配っていた。

ビスタの老夫婦や子供のデモナが受け取り、自宅へと帰っていく。

野菜が上手く育たないのはおそらく濁った魔素の影響なのだろう。それでも農業に携われないものを養える程度には収穫できるのだろう。


鶏肉のほうは何の肉かとリュクスが識別をかけると、バジリスクの肉であることがわかる。

石化毒をもつ巨大な魔物ではあるが、ここに住む彼らにとっては貴重な食糧なのだろう。


住宅街を抜け、魔王城付近になると、大きな空き地が目立つ。

さらに城の前にも入口より巨大で、なぜか青い色をしたレンガの壁がせり立つ。

正面には人が数人は入れるくらいの門。門番にはデモナが四名配置され、各々がまったく異なる武器を携え構えていた。

おそらくデモナウェポンなのだろうが、厳重な雰囲気はまるで住民を寄せ付けさせたくないように見える。


門番のデモナたちがリュクスたちに気が付くと、驚いた表情をしつつも、武器を消すように仕舞い、駆け寄って来た。


「ま、魔王様!出かけておられたんですか!お疲れ様です!」


「かしこまった態度は結構。客がいるのだ、早く通してくれ。」


「はっ!」


門番たちは一瞬リュクスたちに目を向けたが、魔王の指示通りすぐに門を開きに戻っていく。


「あの、僕のことは説明しなくていいんですか?」


「我は魔王ぞ?その客というだけであいつらには十分だ。」


「そ、そうですか。」


ここまでで一番魔王らしい回答だとリュクスは思いながら、連れられて魔王城までたどり着く。

魔王城というが、細長い尖塔が何本も立ち並び、中央の主塔を囲むように大小の塔が階層状に配置された縦に伸びるシルエット。

最も高い主塔は、空を突き刺すようにそびえ立つ。

リュクスが元の世界で直接ではないが見たことのある、北欧風の城といった雰囲気だ。

唯一不思議なのは、この建物も青いレンガ作りだという点くらいだった。


外観も余計な装飾は一切なく、守ることだけを目的に削ぎ落とされた造りだった。

城の中も機能美こそあれど、豪華さとは程遠く、石の匂いがわずかに残る、実務本位の空間だった。


ここにはデモナしかおらず、ヒュマやエルフ、ドワーフに似た姿をしているものもいる。

彼らが魔王に気が付き姿勢を正すが、魔王がご苦労の一言で解散させると、どこか緊張した面持ちで、破滅の大地の対策を語りながら歩いていく。

もはや魔王城というより、戦闘対策本部とでもいうような雰囲気が漂っていた。


魔王と共に螺旋階段を上り、もっとも高い中央主塔の最上階の部屋へたどり着く。

中に入ると、執務机の上にたくさんの資料が積み上げられているのがまず目に入る。

入って右手には談話するための低いテーブルとやわらかなソファー。

魔王が先に座り、リュクスも対面に座るよう促された。


「ふぅ…君があれこれ言わず、ここまで付いて来てくれて助かった。」


「あの、どういう意味ですか?」


「ここならば、他のものに会話を聞かれることはない。魔王である我への態度を気にする者もいないのだ。」


「な、なるほど。」


魔王というトップの立場は、気軽に話せる友もいないような環境で、リュクスが気軽に質問できる環境を整えるのも一苦労なのだとあらためて思い知らされた。

ソファーに深く座り力を抜いていた魔王だが、表情を改めリュクスに向き直る。


「気が付いたかもしれないが、街の者には我が魔王であることを広めていない。魔王という存在は知っているが、顔も知らないというものばかりなのだ。」


「確かに、あなたが歩いているのに注目されてるのは僕と従魔たちくらいでしたね。」


もし彼が魔王だと広めていたならば、街の人々もこの城のデモナたちのように姿勢を正すか、はたまたもっと平伏するかしていただろう。


「ただでさえ不毛の土地だ。人海戦術である程度は畑も軌道に乗っているが、余計な気苦労は我と兵士だけでいい。」


「それで城の前にあんな城壁を立てているんですか?」


「いや。あれは最後の防壁だ。万が一、この城も破滅の地に飲まれてしまったときに、少しでも時間を稼ぐためのな。」


「あっ…そうでしたね。」


魔王が執務机の向こうにある窓を見つめる。

今の位置からでは外は見えない高さにある窓だが、あちらは南側で、この高さから覗けば破滅をもたらす白の大地が一望できることは理解できた。


「レンガで城壁を作ったのは、この城に築き直した過去の魔王だ。その際におのれの魔素を注ぎ、より強固で破滅の砂にも侵食されにくい城壁を作り出した。それがあの青いレンガ城壁なのだ。」


「なるほど、魔素によって色を変えてるんですね。」


リュクスの言葉に魔王が軽く頷き、軽く右手を握った。


「そして今は我が魔素を注ぐ役割を継ぎ、強固な状態を保っている。」


「逆に言えば、注がなければ保てない、ということですね。」


「その通り。もっとも、この城より南側に三層の青い城壁を築いているが、そのどれも破滅の砂に触れさせたことすらないがな。」


「え?それじゃあどうやって侵食されにくいと知ったのですか?」


「もちろん、さらに南に別の青いレンガ城壁を築き、確かめたのだ。」


リュクスは息をのむ。

それはつまり、破滅の大地が世界を食うところを目の前で確かめているということでもあるからだ。

より確実に防ぐためとはいえ、どれだけ恐ろしい行為なのかと身震いすら覚えた。

だが同時に、リュクスも右手を強く握る。


「…早く大樹を癒さないとですね。」


「それはありがたいが、他にも気になっていることがあったのではないか?」


「街の人たちのことですね。デモナにしては角も翼も小さい人が多かったですけど、彼らがビスタとのハーフなのでしょう?」


魔王は少し驚いた表情をしつつも、即座に頷く。


「そうだ。本来デモナは魔獣の姿に寄るほど力を増すが、彼らはビスタの姿に似ているにしてはデモナとしては魔素が少ない。だからこそ、戦いは純潔のデモナである我らが行うのだ。」


「それも、僕が大樹を癒したら、もしかしたら終わるかもしれませんけどね。」


「それはとてもありがたいことだ。我だけではあの破滅の地は抑えきれない。デモナにも、少なくない被害者が出ているのだ…」


魔王の表情は喜びと悲しみの入り混じるような柔らかな笑顔だった。

リュクスとしては緊張をほぐすための言葉だったが、それこそが魔王の望むことなのだと、立ち上がる。


「案内してください。力の大樹の元へ。」


「もちろんだ。」


魔王はすぐに表情を改め、ソファーから立ちあがるも、その目は期待に満ちていた。

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