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職とスキルについて

肉体を得たリュクスは、一通り体を動かしてみる。腕を上や横に思いきり伸ばしたり、屈伸したりして、本当に何の問題もないことを確認し終えると、イリハアーナ様の声が頭に響く。


「問題ないようですので次に移らせていただきますね。これからあなたの職業を決めていただきます。」


「僕が自分で選べるんですか?」


「はい。といっても選べるのは基本職五つかランダムかです。基本職はウォーリアー、ハンター、ウィザード、クラフター、ファーマーですね。」


「なんとなくはわかりますが、それぞれの特徴を聞いてもいいですか?」


「長くなりますが、あなたなら聞いて来ると思ってました。いいですか?」


「はい。」


大体のイメージが付くとは言えリュクスの今後の一生にかかわる問題なのだ。今のうちに詳しく知っておくのは必要だろう。


「では、さっそくウォーリアーから説明いたしましょう。いわゆる戦士ですね。戦士といっても、騎士や傭兵、護衛など、初めに就く方がもっとも多い職業です。特に近接戦闘に長けた職であり、あらゆる武器を扱えます。もちろん、素手も含まれます。


ハンターは主に弓術を扱い、獲物の発見・観察・調査・分析・解体などに長けています。また、ダンジョンでの罠の発見や解除はもちろん、罠を設置し、獲物をおびき寄せる技術など、狩りと探索の技術を身に着けたい場合はこちらですね。


ウィザードは、いわゆる魔法使いや癒し手ですね。術法に長けた職業です。よくイメージされる、炎の球を放って攻撃するというものはもちろん、光の力を癒しに変え、魔力で肉体や疲労の再生を促す癒しの力や、剣に魔法の文様を描き、雷を纏わせることで強化するのも、この職からの派生と言えます。さらに、クラフターにも通じる部分として、薬草・水・ガラス瓶を用意し、錬成の術法でポーションを作り出すこともできます。


クラフターは生産職です。鍛冶・裁縫・細工・料理・調合など、冒険にも日常生活にも重宝します。ちなみに、五種の職の中ではクラフターを初めに選ぶのがお勧めです。もちろん、初めから戦いたいのであれば、先ほどの三職から選んだほうがよいでしょう。


最後はファーマーですね。こちらも生産職ですが、農業や畜産業に特化した職業です。食に直結する、とてもやりがいのある職業ですが、来訪者の中でこの職を選んだ方は、今のところごく少数です。意外と農具も武器になるので、実は強いのですけどね。


基本職については以上となります。何か質問はありますか?」


「質問はないんですが、簡単には決めれないです。」


大まかにはイメージ通りだったが、リュクスは悩みに悩む。どの基本職も魅力的で、やりたいことが満載だ。今までとはまったく違う生活になりそうで、楽しみが尽きない。


「やはり簡単には選べないようですね。大丈夫ですよ。例えばですが初めにウォーリアーを選んでも、魔法が使えないわけではないのです。もちろんウィザードよりも難しいですが、剣を使いながら魔法も使い、魔剣士となった例もあります。」


「魔剣士ってことはウォーリアーみたいな英語名じゃないんですね。」


「そうですね。あなたたちの言う漢字のことが多いですが、カタカナの場合もありますよ。ちなみにですが、わたくしが生み出したのは、先ほどの五つの基本職だけで、いわゆる上位職は聖族の皆様が作り上げたものなのですが、そうなると自由度が一気に増すのです。もう、何でもありですよ。剣豪もいますし、剣魔士という方もいます。魔剣士と何が違うんでしょうね。他にも、一つの魔法を極めることで職となるのですが、例を挙げれば炎を極めると、炎術士となったりします。」


「ほんとに何でもありですね。」


「わかっているのは、職業とはその人がどのような人物なのかを表す称号の一つだということです。職業称号とでもいいましょうか。職業は一つしか選べませんが、その恩恵は偉大です。その職業に適した能力が育ちやすくなり、関連する力がより強くなります。


たとえば、剣士なら剣による攻撃力が上がり、炎使いなら炎の威力が増します。【囮盾】という職業もありますが、囮と盾の役割を担う者として、ウォーリアーの時よりもさらにその能力が向上するでしょう。こうした特性から、おそらく上位職が決まる際には、その方向へと自然に導かれ、剣士が剣豪に、炎使いが炎術士に、そのように進化していくのです。それこそが、職業というものなのです。」


リュクスはここまで話を聞いて、一番の疑問をぶつける。それは、自分たちのように途中から突然やって来た来訪者ではなく、この世界に元から住んでいる人々のことだった。


「先ほどの説明を聞くと、その基本職五つは現地の方々も選んでいるということですよね?」


「はい、そうなります。年八つになると教会に来てもらい、(わたくし)の力で職業を授けるのです。基本的には基本職を選ぶ方が多いですが、まれにランダムを選ぶ方もいますよ。まだお悩みならあなたもランダムにしてみますか?」


「ランダム、ですか。実際どういうのが選ばれるんですか?気にはなっているんですよ。」


「ランダムは基本職五つ以外のいわゆる下位職といわれる職業が選ばれます。一応はハンターの派生であるアーチャー、ウォーリアーの派生であるランサーなど一つの武器に特化した職や珍しいところではキャリアーという運び屋の職になった方もいますね。


基本職と同じように、あとから進路変更もできますが、大きなメリットがあるんです。基本職を選ぶと職業適性スキルを覚えるんですが、そちらもランダムになるんです。」


「それは、メリットなのですか?」


職業にそぐわないスキルを覚える可能性もあるということだろう。リュクスにはそれがデメリットにしか思えなかったが、メリットとなる点はどこにあるのだろうか。


「そうですね。では、スキルについて説明しましょうか。覚えたスキルは常に発動しています。たとえば、剣術は剣を持っていないと使えませんが、持っているときは常時発動します。識別系スキルも同様で、常に機能していますが、意識して見ることで情報を読み取ることができます。


意識しないと効果が現れにくい点は、剣術も同じです。剣術のスキルを持っていれば自然と剣の腕は上がりますが、さらに意識して使うことで、技として昇華されます。たとえば【スラッシュアップ】や【ブラッドスタブ】といったような、個々に得る特別なスキルアーツへと発展するのです。


スキルはそれ自体の効果だけでなく、スキルアーツも鍛えれば鍛えるほど、より強力になっていくわけです。」


「スキルにスキルアーツですか。覚えただけでは完成ではないということですね。」


「そのとおりです。それを踏まえたうえで、職業適性スキルについて説明しますね。


職業適性スキルは、わたくしから授けるスキルの一つです。本来、スキルは独自に特訓して習得するものですが、住人の方々と違い、来訪者の方には幼いころからコツコツ学ぶ期間がありません。


そこで、あなたの年齢相応の基本技能はもちろん、こちらの世界では学べないような技能もスキルとしてお渡ししています。


……あれ? そういえば、年齢についてお話ししましたっけ?」


「してませんが、話が脱線してませんか?」


「いえ、スキルにも関係する大事なことなので、先に説明させていただきます。


先ほど顔を変えた際に、こちらでの十八歳程度の顔に変化しています。おそらく自意識では違和感を感じるかもしれませんが、冒険者登録などをするときに年齢の欄が十八歳となりますので、ご了承ください。なお、こちらでの成人年齢は十五歳で、ほとんどの方が十歳には働き始めます。」


十八歳ほどと聞いて、リュクスは顔をペタペタと触り始める。心なしか、確かに肌にハリツヤが少し戻った気がした。元々は30歳に近い年齢だったのだから。


顔を変えられた時にリュクスの違和感が少しだけ残ったのは、元々彼が童顔だったためだ。実は、他の来訪者たちは顔をいじられた時点で、すぐに若返ったことに気づいた者が多かった。


「お話をそらしてしまい、申し訳ありません。その十八歳ならばわかりそうな基本技能として、まず会話や読み書きは問題なく行えます。ただし、一部の古代言語や、今回の来訪者の方々とは異なる異界の言語などは、解読のスキルが必要です。


もう一つの基本技能として、通貨認識があります。こちらでは紙幣は存在せず、魔術移転による受け渡しに書面を使うことはあります。貨幣としては、石貨と石板貨があり、石貨は一リラ、石板貨は五リラとなります。そして、銅、鉄、鋼、銀、金、白銀と価値が上がっていきます。銅貨は十リラですね。」


「貨幣認識もスキルなのですか?」


「基本技能なのでスキルとは違うものです。なのでスキルとは別に授けることができます。それ以外の例えば解体は、あなたがそちらの世界で動物の解体をある程度行っている環境だとスキル習得なしに発現します。一、二回ではなく、常用していることが重要ですね。」


リュクスは動物の解体なんてしたことはないので勝手にスキルとして得られることはないだろう。逆に何ならば得られるだろうかと今までの自分を少し思い出す。


「そういった必要スキルを習得するのに選択式なのが基本職の五つです。ただし、職を確定した時点で、発現可能性のあるスキルは自動発現します。剣道というものを常用している方なら、自動的に剣術のスキル発現ですね。そういった自動発現とは別に最低でも五つほどはスキルを選択していただきます。」


「なんだか人によってスキル取得数が違う、みたいな言い方ですね。」


「はい、そのとおりです。才能や努力の可能性というのは、神である身なので、ある程度分かってしまうのです。与えるスキルは特殊なものになるので、かなり消滅しにくいものになります。ですので、お渡ししたスキルを隅に置き、他のことを先に習得しようとする来訪者の方もいらっしゃいます。


悪くはない方法なのですが、あからさまな意思を持つ方には、申し訳ないのですが5つのみにしています。他のことを努力し、保険として使うスキルなら最低限で十分でしょう。逆に、明確な意思を持ち、一つ一つのスキルを選ぶ方には、十ほど差し上げたこともあります。」


「そんな意思もわかってしまうんですね。」


つまり、今のリュクスの心持ちもばれていたということですが、それが神という存在だと改めて感じたのであった。


「さて、わたくしがお話ししたいのは、ランダムで得られるスキルについてです。ランダムで選ばれたスキルは職業スキルの中から選ばれるだけでなく、統合する可能性もあるのです。二つから四つほどのスキルが、統合条件が合えば一つにまとめられるのです。たとえば、四つのスキルが一つに統合された場合、さらに三つのスキルを付与することがわたくしの制約になっています。」


「統合っていうのは普通に選択した場合は起こらないんですか?」


「そうです。わたくしが直接意思をもって付与してしまうと制約によって統合されることはありません。自力で二つのスキルを鍛えあげ統合していただく必要が出てきます。」


「それも制約なのですか。」


「はい、神である身ですが来訪者のかたを招くにあたり制約を課しているのです。質問にはできるだけ正しい回答をと心がけています。暮らしていくための力を授け生きる目的を持たせることですね。」


神という立場でも、何でもかんでも好きにできるわけではないようで、リュクスたちを呼ぶために制約を付けたということですが、誰と結んだ制約なのだろうかと考えてしまう。


「あなたは本当に他の来訪者の方と違う、良い目をしていますね。この状況で高揚するだけでもなく、激怒するでもなく、他のことを考慮する冷静な部分がある。あなたには何か可能性があるように感じます。少しくらいのえこひいきは問題ないでしょう。

絶対に後悔させませんので、ランダムをやってみませんか?万が一結果に満足いかなければ、特別に基本職への転職スキルを付与します。あなたならば、十のスキル付与でも問題ありませんよ。ここまでお話ししたのですから。」


「良いんですか?そんな処置をしてしまって。」


「なにも問題ありません。いったん九つのスキル付与で止め最後に転職のスキルを付与するだけですから。」


「まぁ、そこまで言われたらランダムでやってみますとしか言えませんよ。」


神のやりたい放題っぷりに、さっきまでの悩みも消え、困ったように肩をすくめたリュクスは、ランダム職業にすると決めたのであった。

23/7/31 リラの説明を変更しました

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