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ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
暴力的幸運

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37/325

狼大討伐の終わり

リュクスが豚肉サンドを200を超えるほど作り終えるころには、日は傾きあたりが赤く染り、街灯の光が付いて通りを照らし始めていた。リュクスが隣で豚肉を焼く間、モイザは目もくれずに木の実を茹でることに注力していた。

運び役として動いていたレササには小サイズの袋型ポーチをリュクスが付けた。器用に入れていくので問題なく使いこなせるようだ。

リュクスも始めはレササについていっていたのだが、偶然にもリュクスの無人露店に人がいたのだ。それもフードをかぶっているためリュクスからはどんな人物かわからないというのに、リュクスはじっと見らている感じがして居心地が悪かったのだ。

リュクスがサンドを追加すると、1つ買い取りすぐに中央方面へと歩いていったが、識別でもされていたのではないかと不安になったので、他の人が露店にいるときに近寄りたくないと思うようになってしまったリュクスであった。

東門を通り中央へ向かう人が多くなったのが要因の一つだろう。レササに任せてリュクスは自身を少し臆病者だと卑下する。有名になること自体は悪くはないと思う反面、生産で有名になると生産物目的で寄ってくる人もいると考えたのだ。

リュクスとしては生産以外にも目を向けるつもりであり、なによりこの街にはもうそんなに長くはいないつもりなのだ。北はレイト東はベード西はモイザ達とテイマーとしてはコンプリートしたのだから。

とはいってもすぐに出発するわけではなく所用はある。とくにモイザ達のことでリュクスは考える。全員を連れて行くわけにはいかないのだ。

土地を買っておいてよかったと改めてトレビス商長に心の中で礼をする、この土地の中なら木々が成長すれば、蜘蛛たちだけでも問題なく暮らせるはずなのだから。

あるいは野生に返すという選択肢もあるとリュクスも一度は考えたが、一度仲を持った蜘蛛たちが冒険者などに殺されてしまう可能性を生むわけだ。蜘蛛たちが野生に帰ることを望まない限りそんな未来はリュクスには考えられなかった。

もちろんリュクスとしても望まれたのであればそれも選択として受け入れるつもりではある。だが今の蜘蛛達は非常に楽しそうに作業しているのだ。リュクスからも義務感で蔕取りだの糸玉作りだのしてるわけではないように見えた。

リュクスが蜘蛛たちのことを考えていると、南東の扉が開くのが見えた。現れたのはベードで、リュクスはすぐに土地にと迎えていた。もちろんベードの上にはレイトが乗っていたのだが、レイトはベードの上からリュクスの頭上にと飛び乗った。

一瞬たじろいだリュクスだが、飛び付かれた痛みも重みもなくレイトは定位置に陣取る。しゃがまなくても頭上に乗れたんじゃないかとリュクスは思ったが、ベードのことを気にかけてくれていたのだからと、礼代わりにレイトをなでておく。


『ん。』


「ん?」


レイトのほうから声が聞こえた気がしたリュクスだったが、鳴き声だったのかと、ベードに目を向ける。別れたときよりも少し体格が大きくなり、毛並みも黒さが増していた。目立った怪我もないようで安心する。リュクスの知る展開としては目に傷でもついていたりするからだ。


「強くなったんだよね?識別してみてもいい?」


「ばう!」


------------

対象:ベード・アルイン

種族:ナイトバイトウルフ

主人:リュクス・アルイン

スキル:〈牙技〉〈爪技〉〈聖族言語〉〈潜伏〉〈影術〉〈夜陰〉

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見た目が変わっているのと同じようにベードの種族も変わっていた。ナイトバイトウルフはリュクスの読んだ資料にはなかった種族である。

勝手に進化してくるとはリュクスも予想外ではあったわけだが、この短期間で強くなったのは事実だろう。リュクスは頭上のレイトを見つめ、この先生が何かしたのだろうと結論付けた。


「まぁなんにせよ、よく頑張ったみたいだね。満足した?」


「バウ!」


「そうか、満足できたならよかった。」


群れを見返せたんだろうベードは満足げに一鳴きした。リュクスはベードに豚肉を取り出して食べさせつつ、首元をわしわしと撫でる。


「グルル。」


ベードは気持ちよさそうに声を上げつつも、肉をほおばるのをやめない。ふとリュクスは視線に気が付く蜘蛛達が見ていたのだ。撫でる手をやめ紹介を始める。


「えっと、モイザ達の先輩?従魔たちだ。僕の頭の上のがレイト、狼はベードだ、一応先輩だから気を遣うように。」


リュクスは分け隔てなくしたいとも思いつつ、上下関係はしっかりとさせておいた。モイザならばベードにも劣らない気配があるが、ベードの狼ならではの速さでかく乱されれば、技術はあるモイザでも負けるかもしれない。なによりリュクスは競わせるより従魔にした順番に上下関係を付けたほうがいいと考えたのだ。

もちろんレイトは例外だとリュクスは考えている。何か気に食わないことがあったならば力を見せて従わせそうな不安すらあるのだ。


「この蜘蛛達は二人と別れた後に従魔にしたんだ。少し体の大きいマザーがモイザで、あとはその子供たちって言っちゃっていいかな?」


「――――。」


モイザがうなずき、蜘蛛たちも一匹一匹手を上げていく。ベードもうなずき返し、レイトも頭上で見えないがうなずいた気配がしたので、リュクスはこれでお互いの紹介はいいだろうといい加減休むことを考える。


「挨拶も済んだところで、僕は宿に帰りたいんだけど、レイトはついてくるとして、ベードはどうする?」


「バゥ!」


「付いてくるのね。じゃあモイザ、悪いけど料理セットは片づけるよ。」


「――――。」


ベードは付いてきたいようで一緒に宿へと帰る。料理セットを片付けるとモイザたちは残って巣作りの続きをするようだ。21匹が付いてきてしまうと部屋が埋まってしまうのもあって待機なのだ。

宿に戻り休んだ翌日、リュクスは手癖でサンドを追加製作していた。昨日かなりの数を焼いたというのに、また120枚も焼いてしまったのだ。だが食べ歩くのにも焼肉サンドは丁度いいのだから仕方ないのかもしれない。

次は茹で豚でサンドを作るか、はたまた茹で緑甘樹の実を挟んだ甘いサンドでも作ればおやつになるだろうかと、サンドに一緒に挟む食材も買おうと決めつつ、リュクスは商業者ギルド横の店に到着した。

店頭には出ていないのだが、店員に尋ねれば雨をしのぐ屋根はあるはずだとリュクスは睨んでいた。他の農地で屋根を張った場所があったのを見てきたからだ。

リュクスが店員に声をかけると、すこし待つように言われ、2階に上がり食材を見つつ待機。だが甘味になりそうなものはリンゴ以外一切売ってない。

フルーツサンドならば生クリームがほしいとリュクスは考えたのだが、そもそも乳製品を見てない。イビルブルという魔物はいるようだが乳牛ではないのだろう。

リュクスは仕方なしにと葉野菜を買い足す。店員がいなくとも無人露店と同じように、水晶による取引きが可能なのだ。食材を見ることに満足し、1階に戻って農具を見ているリュクスに店員が声をかけてきた。

店員の後ろではトレビス商長がにこやかに微笑んでいる。どうやら以前と違い呼ぶのに時間がかかったようだ。店員はお辞儀すると店奥に下がっていった。


「リュクス様、お待たせして申し訳ありませんでした。本日はどのようなご用件でしょうか。」


「別にほかの方でも対応いただける内容だと思ったんですが、実は自分の土地に屋根がほしいんです。

それもできるだけ大きいものを。蜘蛛達が土地に巣を作ったので、雨をしのげるようにしたいんです。」


「なるほど、そのようなご用件でしたか。でしたら、この時期はもうしばらく雨は降りませんのでご安心ください。例年通りでしたら、早くてもあと7日間は降りませんね。20日晴天という時期で、おおよそ100日ごとに発生する気候で、気温が急に変化したのち20日間以上は晴天が続くのです。」


リュクスはこの世界に来てから13日目であることを思い出す。異世界に来た来訪者たちがすぐに大雨に見舞われたりしないように、二神が受け入れる日を調整したなどリュクスの知るところではない。


「どうりで雨が降らなかったわけです。」


「もっとも晴天が終わった後は大雨が数日続くことが多いので、冒険者の皆様にとっては晴天の間が稼ぎ時なんですよ。大雨になるとこのあたりの魔物は姿を見せなくなるので、この時期に狼大討伐が行われたのは幸いでしたね。冒険者の皆様にも資金に余裕ができたはずです。大雨の間も稼げそうでありがたいです。」


「その大雨が来る前にはしっかり屋根を張りたいですね。モイザ、じゃなくって蜘蛛達にとって街の中という環境が初めてなうえに大雨が来るとなるとやはり不安ですから。」


「そうですね、リュクス様の土地は壁際とはいえ風もきついでしょう。いえ、壁際ではなくなるんでしたね。」


「ん、壁際ではなくなるんですか?」


「そういえばリュクス様は来訪者の方でしたね。ではまず、狼の群れが増え縄張りを増やしたからといって、なぜここまで大規模に討伐隊を組むのかご存知ですか?」


「えっと、危険だからというだけではないってことですか。」


リュクスとしてはてっきり道中の危険が増えるのを抑える討伐だと思っていたのだが、トレビス商長の質問からそれだけではないのだろうとは思う。


「もちろん危険性の上昇も原因の一つですが、何より一番は聖域の拡張を行えることなのです。」


「聖域の拡張、ですか。」


「そうです、私たちのこの街が広がるのですよ。昨日のうちにインヴェードマスターウルフの討伐が報告され、職員に確認させたところ一気に森が後退していたそうです。」


「森が後退するんですか?」


「はい。邪神の域である森だけに発生する現象ですが、森の支配力を持つ魔物が討たれると、邪神の域である森の木々がなくなり、聖域から見れば森が後退しているといえるのです。今回討伐されたのがリーダーではなくマスターという種族であったこともあり、かなりの森の後退が発生したようですね。」


森の木々が消えるというのがいまいちリュクスには想像つかなかったが、邪神の力が弱まり魔物たちの住む場所が減るという現象なのだろうとひとまず納得した。


「ただし森を放置すればいずれ浸蝕を始めます。そうなる前に新たに聖域となる石壁が作られるのです。すでに王都から高等転移術式により、選りすぐりの術士が転移してきております。彼らの手によって、本日の光の刻より作業が始まり、光八の刻にはすべての作業が終了するでしょう。私もこれから作業風景を見に行く予定です、ご一緒にどうですか?」


「遠巻きに見るくらいなら見てみたいですかね。」


「なるほど、では途中までご一緒しましょう。雰囲気が苦手だと思いましたらお声がけください。その際は別れて、一度リュクス様の土地の南端で会いましょう。」


「わかりました、お気遣いありがとうございます。」


東側がすべて騒がしくなるのかと身構えたが、東南の扉はこんな時でも人気ないのかとリュクスは安心する。そうでなければトレビス商長が合流地点として提案しないはずだ。

トレビス商長と共に、お祭り雰囲気かと東門付近に来たリュクスだったが、集まった人の多さは想像以上で、リュクスでは人酔いしそうなほどだった。

これでは見たいものも見れないとリュクスは東門付近からすぐに離れ北側に移動。トレビス商長は東門前の人だかりで何かやるようなのですでに別行動である。時間も昼時なのもあってちらほらとサンドイッチをほおばってる人をリュクスは見つめ、自分で作ったサンドを同じようにほおばる。やはりつまみながら歩くにはちょうどいいと満足する。

北側から見て回ったリュクスだったが、真っ白なローブを纏った15人が両腕をかかげていた。石壁でしばらく見えなかったのだが、北東の扉があけ放たれたままになり、ゆっくりと地面から石壁がせりあがっているのを何とかリュクスは見れた。

北東の扉も人は多かったのだが流れがスムーズで、リュクスは波に飲まれただけだったのだが、大体今の石壁から家3件分くらい離れた位置でせりあがってきているのだが、リュクスが見たときにはまだ膝下ほどまでしか出来上がっていなかった。

リュクスが歩く途中感じたのは石壁のあたりの空気が濃く感じたことだ。この世界では魔素が濃いと言った方が正しいだろう。石壁を作るのにかなりの魔素を使ってるのが原因であった。

折り返しに通り抜けた東門のあたりは人が多かったのだが、リュクスが今いる南側はほとんど人はいない。南側は畑地帯で北のほうは民家地帯というのもあるのだろう。ちなみにトレビス商長は東門にて旅商の露店を開き売り子をしていた。

リュクスは最後に南端に配置された人の頑張りを見てたのだが、動きもないので飽きてしまう。見どころなど石壁がせりあがっていく様子と、空気中の魔素を感じるくらいなのだろう。

石壁が膝元を超えたあたりで術師は掲げていた腕を下ろした。せりあがり続ける石壁を見つつ、ポーチから丸椅子を取り出して座り込む。休憩というよりは後は見守るだけという感じなのだろう。近場で見ていた数人も東門のほうにと戻っていった。

リュクスも土地に戻ると見張りをしていた蜘蛛の一匹が気が付いた。足についた従魔証に目を向けるとレサンなことがわかる、従魔証により識別しなくとも見分けが付くようになったわけだ。

レサンは土地の奥にある蜘蛛の巣のほうにと走っていき、すぐに戻ってくる。ベードとモイザとレササを呼びに行ったようだ。ベードも目立つので東門手前から別行動でここで待ってもらっていた。

モイザとレササは何か用事があるのだろうとリュクスは思い、まずはレササに目が行く。レササの背には昨日渡した小ポーチが付いたままである。移動を楽にするために渡したのだが、気に入っているようで回収しづらいと、レササにあげたつもりだったのだが、レササはリュクスに袋を見せてくる。


「もしかして中身を見てほしいの?」


「――――。」


モイザがうなずいたのを見て、リュクスはレササからポーチを一度受け取り中身を確認した。中身は蔕の取れた緑甘樹の実100個が入っていた。リュクスも現実逃避はできないと改めて向き合う。

土地の中央ほどに埋めた10個の緑甘樹は、昨日の若木姿ではもうなかった。10メートルほどの立派な木に成長しているのだ。夜の間にここまで育ったというのか。育つのが早すぎる。

とはいえ木の実が取れたなら蜘蛛たちの食事となる。樹液もすでに食べれるのだろうかとリュクスは緑甘樹を見つめる。西の森と同じほどの高さに育ってるので樹液も出る可能性はある。緑甘樹の実はとりつくされているようだ。


「それでこのまま渡してきたってことはまた鍋がほしいのかな?」


「――――!」


モイザがうなずき合わせるようにレササも何度もうなずく。リュクスはすぐに料理セットを準備、箱から展開したところで、モイザが鍋を持ちあげた。さらに脚立をレササが立て、モイザは鍋を持ったまま脚立を上り、しっかりコンロに設置した。

リュクスが水石を渡すと、モイザは足で器用に握り水が出ること確認した。そして水石を糸で足に固定すると鍋に水を張っていく。火の調節をするためのつまみを器用に回して点火。鍋が沸騰したらちゃんと弱火にと変えている。

魔素を持つものならだれでも使えるとあったとはいえ、蜘蛛であるモイザがここまで使いこなすのかと驚いているリュクスをモイザが見つめる。緑甘樹の実がほしいのだろうとポーチごと渡すと、中から取り出して茹で始めた。

この調子ではもう一つ料理セットを買いたす必要がありそうだとリュクスは考える。屋根さえ張れば土地に置きっぱなしでも平気だろう。

レササは巣に戻らず、調理作業をするモイザをじっと見つめている。2セットほど茹でた緑甘樹の実を袋に入れたモイザがレササにと振り向くと、レササも脚立にと昇り始めた。

そしてレササはモイザの上に陣取り、おたまがレササにと受け渡された。ここからはレササが料理するようだがあの体勢で大丈夫だろうかと不安げに見つめるリュクスに後ろから声がかかる。


「驚きました、まさかレッサースパイダーが料理しているなんて。」


「うん、僕も初めは、ってトレビス商長!」


「おや、こちらで合流するとお話ししていたはずですよ、お疲れ様です。」


レサンとベードがトレビス商長の両隣にいるので案内されたのだろう。キラキラと目を輝かせたトレビス商長に、長ーく拘束されるのだろうと思いリュクスは大きく息を吐いた。

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