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ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
暴力的幸運

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蜘蛛たちの手伝い

リュクスは土地について早々、緑甘樹の実を埋めたところに腰を超えるほどの若木がはえているのを見つける。識別結果は緑甘樹の若木とでたのだ。異世界の木はこんなにも成長が早いのかと現実逃避する。

リュクスもわかっている。そんなわけはおそらくない。リュクスのスキルの影響なのだろうが、暴力的幸運の力なのだろうと思い込む。なんにしろこの成長速度なら蜘蛛たちに栄養を与えてくれるようになるのも遅くないだろう。

リュクスは若木にそっと手を触れ、もっと大きくなれよと一人つぶやいた。緑甘樹の木の次は露店の問題である。朝に入れたはずのサンドは当然のように売り切れてた。急いでサンドを100作り上げて追加。さらに一人一日5つまでの制限をかけ、値段も200リラにと増額する。急な高騰にこれで買いあさらなくなるだろうとリュクスは一人うなずく。

展示ケースにサンドを入れるとこをじっと見ていたモイザが急に体を丸め、糸玉をバスケボールほどの大きさで作り上げた。そして糸玉を器用に展示ケースにと入れ込んだ。


「モイザが手伝ってくれるの?」


「――――。」


モイザがうなずいた。どうやら本当にリュクスを手伝うようだ。他の蜘蛛たちも続々と糸玉を作って、展示ケースに入れていく。


「ありがたいんだけど、もしかして今から緑甘樹の実がほしいの?」


「――――!」


今度はモイザは首を横に振った。どうやら違うようで、ただ手伝いたいだけのようだ。だがじっとリュクスを見つめている、別のものがほしいのだろうかとリュクスはモイザに尋ねる。


「昼飯にほしいのかと思ったんだけど、何かほかに欲しいものがある?」


「――――。」


「リンゴの木か、あれがほしいのか?」


「――――。」


他の土地に生えるリンゴの木を見つめていたのだが、どうやらリンゴが気になる様子のようだ。鞄に残る緑甘樹の実で済まそうと思っていたリュクスだが、東門への大通り沿いにある農家の中にリンゴの果樹園で無人露店を出している場所があったのを思い出した。


「ちょっと売ってるか見てくるか。でもその前に糸玉に値段を付けるから待ってね。糸を作るのは各自自由に、無理に作らなくていいからね。ただお金にはなるから、売り上げはみんなで使おう。」


蜘蛛達にお金の概念がわかるか不明だが、それでもリュクスは多少はやる気が出るだろうとことづけたのだ。そして蜘蛛の糸玉の値段に悩む。レッサースパイダーの糸玉でも最低価格で250リラを付けるようにとトレビス商長は怖い言い方で伝えてきたのだ。

300リラと設定しようとしたリュクスだが、サンドのことを思い出して350リラの値段に設定。売れないときにまた下げればいいと考えたからだ。さらに一人2個までの設定を付けた。今は数も少ないのだから購入制限も必要だろう。

そしてモイザの糸玉は最低でも倍といわれたのだ。希少性を考えいきなりの1000リラで値段設定するリュクス。この値段でも買う人はいるかもしれないだろうと強気の心構えである。

次にリュクスはリンゴを買いに大通りを歩く。今は東門への大通りの人通りは非常に少ない。門近くには人がいないほどなのだ。リュクスがリンゴを売る無人露店につくまで5人としかすれ違わなかった。

無人露店にはリュクスの以前の記憶通りリンゴの実が売られていた。一つ60リラであり、1リラ1円とすればかなり安いが、南端の街の他の物価を考えると高価な部類である。購入制限がかけられていて50までとなっていたが、リュクスは50個を買い込んだ。

さらにリンゴの苗木も売られていたため、リュクスは苗木も制限である3つを購入。苗木はひとつ2000リラとかなりの値段だが、買えないものでもないと思いきったのだ。

思わぬ収穫もあり。リュクスはルンルン気分で自分の土地に帰宅する。蜘蛛たちは他にすることもなかったせいか、糸玉作りに精を出していた。勝手に補充しているのでリュクスの手を煩わせることもないのだ。ありがたいとリュクスはうなずきつつ、蜘蛛たちがひとしきり玉を作り終えたところで声をかけた。


「みんな!リンゴ買ってきたけど、すぐに食べる?」


「――――!」


蜘蛛たちがリュクスのもとに一斉に集まってきた。リュクスはモイザから順にリンゴを投げていく。皮がついたままだったが、モイザはリンゴにと触肢を突き立てる。

そのまま少しかじり、シャクシャクと食べ始めた。緑甘樹の実のようにすすって食べるわけではないようだ。他の蜘蛛たちもモイザと同じように食べ始め、リュクスもつられてリンゴを皮ごとかじってみた。

シャクっとしたいい歯ごたえ、甘味よりも酸味のほうが少し強いがそのまま食べれるおいしさに、リュクはシャクシャクと芯は残したが、一つ丸々食べてしまった。蜘蛛たちも芯を残し食べ終えたようだ。


「器用に芯を残してるんだね。適当に埋めておいてほしいけど、できる?」


「――――。」


モイザは首を横に振る、さすがに土堀能力はないようだ。リュクスは鍬を取り出し、穴をあけて自身が食べたリンゴの芯を入れ込んだ。蜘蛛たちもまねるように入れたので、とりあえず埋めてしまった。

肥料くらいにはなるだろうと、リュクスは次に苗木を取り出し植え始める。

膝ほどのリンゴの苗木も元気に育ち、緑甘樹のように蜘蛛たちに栄養を与えてくれることを願い、リュクスは頑張ってくれよと軽くつついた。


「とりあえずみんなにはここで待機してもらうけど、問題はない?」


「――――。」


「よかった、土地の柵に直接糸を這わせたりはしないでね?なんか巣作りが必要だったら、専用の場所に柵くらいなら何とか作ってみるけど。すぐにいるかな?」


モイザがうなずいたので、とりあえずでも巣を張る場所がほしいのだろうとリュクスは判断する。苗木の時にはまだ使わなかった自動柵生成の杭を取り出した。


「それじゃあ離れててね、危ないから。」


リュクスは巣の位置は東門側はまずいだろうと南側にと移動する。蜘蛛たちのためにもかなり広範囲になるように杭を打ち付けた。膝と腰の間くらいの高さまで打ち付けたが、それ以上は刺さらない。四方に打ち付けた杭のでっぱりはそれぞれの杭に向くように打ち付けたのだ。最後に杭の上のスイッチを押すと、杭と杭の間からうねうねと木の棒が生え始める。

杭と同じ高さまで伸びると、棒同士に木が伸びて柵に囲われた場所が出来上がった。リュクスなら無理やり超えられなくもない高さだが、蜘蛛たちには少し高いだろうかと考えたが、森の木々はもっと高かったことを思い出す。


「どうかな、こんなもんでいい?内側にもう一つくらい柵必要かな?」


「――――。」


モイザが首を横に振り、ほかの蜘蛛たちに足で指示を出す。できた柵の中にさっそく糸を這わせ始めたようだ。これで新しい住処である巣ができる。そこでふとリュクスは気が付く。この世界に来てから雨を見ていないのだが、もし雨が降れば巣がダメになりそうだ。雨よけの屋根が必要かとまた相談事を抱え込みつつ、今はどうにもできないと切り替えた。


「それじゃあ僕は料理の続きをして宿に戻るよ。緑甘樹の実の蔕取りに時間かかりそうだから宿でやりたいんだ。」


「――――!」


リュクスの言葉にモイザは何かを伝えるように首を横に振る。さすがにどうしたいのかリュクスにもわかりづらいが、緑甘樹の実を欲している雰囲気だけは察知し、緑甘樹の実を取り出した。モイザはすぐに欲するように足を動かす。


「やっぱりこっちも食べたかったの?なら今蔕取ってあげるね。」


「――――!」


「えっと、ちがうの?そのまま渡せってことかな。」


否定の首振りだったのでリュクスは蔕をとらずそのまま緑甘樹の実を渡す。モイザは受け取った木の実の蔕に糸を巻き付け始める。そして足で木の実を固定、触肢で糸の撒かれた蔕部分を掴む。そして器用に足で木の実を回していくと、蔕の部分とともに皮が少し取れたのだ。

リュクスが剥いたときほど綺麗ではないが、これならば触肢ですすることも刃を通すこともできるだろう。だがリュクスにも思うところがあった。


「こんなことできるなら僕が取ってあげる必要なかったじゃん。」


「――――!」


首を横に振って否定したモイザはリュクスのことを足で指し示した。リュクスがいるからこそできたことなのだと言いたそうに感じ、識別してスキルを見れば何かわかるだろうと確かめる。


「モイザのスキルの一つかな?確認してもいい?」


「――――。」


------------

対象:モイザ・アルイン

種族:レッサーマザースパイダー

主人:リュクス・アルイン

スキル:〈操糸〉〈牙技〉〈毒生成〉〈統制指示〉〈分担指示〉〈技術貸借〉〈分体生命〉〈聖族言語〉

------------


了承を受けてリュクスは改めてモイザのスキルをしっかり確認する。操糸というスキルが糸玉生成する力なのだろう。統率指示は蜘蛛たちにいろいろ命令してるところをすでに見ているのでリュクスも納得する。

そして技術貸借というスキルにリュクスは目を付ける。スキル能力を識別できるわけではなかったが、文字通りならばと思い当たる。


「技術貸借ってスキルで僕から技術を借りた、という感じかな?」


「――――。」


モイザはうなずいて肯定した。人のスキルを借りれるとはすさまじいスキルだとリュクスは思ったが、さすがに無制限に誰からでも借りれるとは思わなかった。リュクスがテイムしたからリュクスのスキルを使えたのだろうと考える。


「まぁ僕のスキルなら無断で使ってくれて構わないよ。何か困ったらいつでも使ってね。ところで、もしかしてだけど緑甘樹の実の蔕剥きを手伝ってくれるという話だったりする?」


「――――。」


モイザがうなずいて肯定し、さらに5匹が横に並ぶ。貸借というスキルなのだ、借りるだけでなく又貸しができるのか。これならば宿でやるより早そうだとリュクスは他の作業に取り掛かる。


「よし、みんなどんどんやってくれ。僕はここで茹でる作業をするよ。」


リュクスたちはちょうど巣を作る場所として東門からは遠い位置に移動していたのだ。ここなら茹でて匂いがでてもそれほど問題にはならないだろうと料理セットを取り出す。

モイザたちはリュクスから残った緑甘樹の実を受け取り、モイザにならって蔕を取り始めた。リュクスはさっそくモイザが蔕取りした緑甘樹の実を茹で始める。

朝にアーバーギルド長にもって行く分として、先に皮を剥ききった緑甘樹の実を茹でた際、実が溶け切って鍋の中が甘い茹で汁になってしまったのだ。

なにか使い道があるだろうと、リュクスは鍋ごとポーチに封印した。セットの鍋が2つ無ければすぐに使うか捨てるかの二択になっていただろう。

今リュクスが使っているのは厚底鍋で、朝に使ったのは小さい鍋である。水量を多くできるので一気に茹でるには便利だろうが、一つだけを茹でた朝に使った際には少々不便だっただろう。実際今も一つ茹でるだけなためリュクスは水量を少なく済ませている。

沸騰を確認したリュクスは火を弱めて茹で始める。溶け切った緑甘樹の実を見てからは、皮つきのものでもおたまで確認しながら茹で上げる。


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対象:茹で緑甘樹の実

皮が付いたまま茹で上げられた緑甘樹の実

熱により中身の甘さが和らいでいるが、外皮は固くなっている

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出来上がりを識別で確認し、満足げにうなずくリュクスのローブをぐいぐいと引っ張る存在がいた。リュクスが振り向くとモイザがローブを引っ張っていたようだ。モイザが3つほど剥いて持ってきていたようだ。


「もしかして、茹でたのも食べたいの?ならこれを食べてみる?」


「――――。」


リュクスが差し出した茹で緑甘樹の前にしたモイザから、一瞬じゅるりという音が聞こえた錯覚がして、リュクスは首を横に振る。そしてなぜか緑甘樹の実を食べず、モイザはじっと鍋を見つめていた。


「まさかと思うけど、今度は料理をしてみたいとか?」


「――――!」


「ちょ、ちょっと待って!確かいいものがあったはず。とりあえずそれ食べちゃっていいから。」


モイザは3度もうなずいて肯定したので、リュクスは慌てて自身の露店横まで走る。探してたものは木製の脚立で、しかもモイザが乗っても平気そうなほど頂点の広い脚立である。

脚立自体は土地を貰った時からおいてあるものだが、おそらくリンゴの果樹の採取用にとトレビス商長がおいたのだろうとリュクスは予測していた。

ポーチにも入れずにリュクスは脚立を鍋前に運んできた。丁度リュクスの胸ほどの高さがある脚立なので、モイザが乗れば鍋の中を覗けると考えたのだ。

喜ぶようにモイザは脚立にと昇る。それも糸を使って3つの木の実を運びながらだ。傍らには皮の残骸があったので、茹で緑甘樹の実は食べ切ったようだ。

リュクスをまねしておたまを前足でつかもうとしてるが、蜘蛛の足ではさすがに難しいようだ。どうするのかとリュクスが見ていたが、おたまの持ち手にある穴に脚を突っ込んだ。器用におたまを操って鍋から何度も出し入れして確認した。そして鍋の中に木の実を3つ投入した。

リュクスは好奇心から鍋の中を覗く。一つの木の実をおたまで何度かつつきながら確認するモイザの目は真剣そのもので、ジッと鍋の中を見つめている。

リュクスが茹で上げた時間と同じほどしかたっていないはずなのに、リュクスにとってはとても長く感じる緊張感のある時間となった。

茹で上げの時は瞬時で、リュクスが鍋横に置いておいた一つの皿に、茹でた3つの緑甘樹の実をしっかり湯切りして乗せていく。出来上がったのを見ると少し茹で過ぎたようで、皮が余計に硬くなっていた。

モイザはこれが確実に初めての料理だったのだから十二分な成果だとリュクスは思う。これもモイザの技術貸借のスキルで、リュクスの料理のスキルを借りた力なのだろう。

リュクスはモイザがこうしてスキルを借りて使うのが好きなのか、それとも別の目的があるのだろうかと悩むが、モイザが自分の茹でた緑甘樹の実を見た後、蔕取りしていた一匹、レササのほうに向いて指示を出す。

レササだと分かったのは識別したからだ。さすがに識別しなければ雄雌でも見た目の差がない彼らを見分けるなどリュクスにはできなかった。


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対象:レササ・アルイン

種族:レッサースパイダー

主人:リュクス・アルイン

スキル:〈操糸〉〈牙技〉〈聖族言語〉

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「ごめんレササ、許可も取らず識別しちゃったよ。」


リュクスが声をかけたが、レササには首を傾げられた。リュクスには意味が分からないというより、気にも留めてないと感じとれたのでいいのだろう。レササは皿を器用に持つと、露店のほうにと歩いて行った。


「え?ちょっと待って!それ値段登録する必要あるから!というか切れ目入れたほうがいいはずで、ってもうあんなとこに!あぁ、追いかけるしかないか。モイザにはお皿必要だよね?とりあえずある分おいていくから!」


レササはあっというまにだいぶ離れ、モイザはいつの間にかまた茹で始めていたので、リュクスは慌てながらもポーチから買い貯めておいた皿を取り出して鍋横に置いた。

リュクスは何とかレササと露店で合流した。レササは茹で緑甘樹の実だけを展示ケースに入れたが、サンドもそのまま販売で、緑甘樹の実には皮もあるのからこのままでもいいかとリュクスは、茹でた分の値段を考える。

蔕剥いただけで200リラといわれていたのもあり300リラの値段をつける。さらに識別だけではわからない追記説明をパンフレット片手に入力する。識別結果の下に蔕のない部分から刃を入れて皮を剥いてくださいと追加記入された。

これで茹で緑甘樹を売るのも問題ないだろうとリュクスが安心したのもつかの間、レササが皿を持って戻っていくのを見てすぐについて戻る。モイザはすでに新しく6つ茹であげ2皿分作り上げていた。

料理も他の蜘蛛に任せるのかとリュクスは考えていたのだが、いまだにモイザが担当し続けてるようだ。蔕取りはすぐに他にやらせたのだが、まさか料理にはまったのだろうかと首をかしげる。

考えられることとしてはモイザは20匹の母であることくらい。母性が料理の楽しさを目覚めさせたなんてリュクスは思いついたわけだが、実際のところは不明である。

真剣なモイザを邪魔しても悪いと、リュクスは黙って隣のコンロでサンド作りを始める。今日中に狼の討伐活動が終わるのであれば、ベードとレイトが帰ってくるかもしれないと、宿に戻らず開けた土地で待つことに決めたのだった。

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