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ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
赤月祭

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318/325

新たな旅立ちの日

各地の教会は、基本的に休むということを知らない。

朝であろうと夜であろうと、人々を受け入れる。

教会によっては小規模な癒しを行う場もあり、本来ならポーションで癒すような怪我や病気を、低価格で治療することもある。

そのため、もし教会を一時的に封鎖する場合は、住民たちへの通達が義務付けられている。


南端の街も例外ではなく、成人の儀の日には転移室の整備を理由に一時封鎖されたばかりだった。

さらに十日後の夜も、まとめ役であるアールグレンの指示によって神官たちは休みを取り、魔素不足という名目で教会は再び封鎖されていた。


アールグレンはひとり教会に残り、窓から差し込む月の光を浴びるイリハアーナの像と向き合っていた。

人が抱えられるほどの小さな像は、教会の誰よりも高い場所から、静かに彼を見下ろしている。


時刻がちょうど闇の刻を迎えた瞬間、像の足元が淡く光り始めた。

その光は青い線となって下方へと流れ、床を走って壁にたどり着く。

そして壁面に青い光で模様が描かれていき、それが完成する頃には、光が収まって白い扉が出現していた。

教会入口の木製の扉とは違い、白い壁の中に同じ白の扉が浮かび上がっている。


「これが、神の力…」


美しい光景に見惚れていたアールグレンは、思わず膝をつき、両手を組み合わせて天へとかかげる。

そして目を閉じ、静かに祈りを捧げた。


翌朝、リュクスが目を覚まし、朝食の準備を始めようとしたところで、扉を叩く音が聞こえてきた。


「誰だろう?ノックなんて珍しいね。」


『アーバーだ。先日、訪ねてくると言っていただろう。』


「あぁ、なるほど。」


すぐに玄関へ向かい扉を開けると、レイトの言葉通りアーバーが立っていた。

その足元には、レササの姿もある。


「こんな朝早くにすまぬの。早速じゃが、レササ君に証明の登録をしたい。」


「大丈夫ですよ。えっと、同伴したほうがいいですよね?」


「そうじゃな。頼む。」


リュクスが外に出ると、アーバーによるレササの証明登録が始まった。

真っ白なカードにレササが前足を押し当てると、わずかな痛みに小さく身を震わせて足を引く。

だが、リュクスの目には、カードは依然として何も書かれていない白いままに見えた。


「あれ、何も書かれてませんけど。」


「当然じゃ。証明の情報は登録者以外には見えん。レササ君に確認してくれ。」


「そういえばそうでした。レササ、ちゃんと文字は出てる?」


『はい。私の名と主の名が刻まれています。』


「それはよかった。ちゃんと僕とレササの名が出てるみたいですね。」


「うむ。安心したわい。…しかし、いつの間に文字を覚えたのじゃ?」


『取引の際に、覚えたほうがよいと 、トレビス商長に教わりました。』


「…トレビス商長より教わったそうです。」


「ぐぬぬ、またあやつか…まぁよい。これでレササ殿と個人取引できる。水晶をつかった金銭のやり取りじゃと、商業者ギルドに嗅ぎつけられるからのぉ。」


安心したように満足げに頷くアーバーに、リュクスは少し首をかしげた。


「あの、金銭のやり取りが見えないのは問題じゃないんですか?」


「それは問題ない。おぬしは商業者ギルドに登録しておる。その従魔との取引ならば、何の不正にも当たらん。」


「それなら安心しました。でも、商業者ギルドに知られてもよかったのでは?」


「それはいかん!あやつに知られたら、手広く売れなどと言い出すに決まっておる!あの酒は儂とドーンだけで密かに楽しむのじゃ!」


「そ、そうですか。一応、僕も料理に使ってますし、レイトも飲んでますけど…」


「それは構わん。要するに、トレビスのやつに売り出せる量があると嗅ぎつけられないでほしいのじゃ。儂らの分が減る。」


気まずそうに目をそらすアーバーに、リュクスは苦笑しながら静かに頷いた。


「わかりました。できるだけ隠します。まぁ、朝食を食べたらすぐに出発するので、知られることは少ないと思いますが。」


「む。そうか。もう出るのか。」


「はい。準備はこの数日で全て済ませたので。それに、転移でいつでも王都でも自宅でも行き来できるはずなので。」


「そうじゃな。南とも転移は可能なはずじゃ。儂も南への扉の件で忙しくなる。酒を受け取ったらギルドに戻るぞ。」


「はいはい。すぐにお渡しますね。」


催促されて、リュクスはポーチからすぐに酒瓶二本を取り出し手渡す。

アーバーはすぐにそれをポーチにしまい込み、証明書を取り出してリュクスへ金銭を渡した。


「おそらく、儂とおぬしで金銭のやり取りをすることは、しばらくないじゃろうな。じゃが、たまには顔を見せに来るとよい。」


「わかりました。」


アーバーはギルドへと戻り、リュクスも改めて朝食を済ませる。

そして、いつも連れ歩いている六匹の従魔たちと共に教会へ向かった。


教会前はいつもより少し人が多く、冒険者らしい人々が集まっていたが、成人の儀の時ほどではなく、リュクスは気にせず中へ入っていく。

教会奥では、強面こわもての冒険者四人に囲まれながらも、真摯に対応するアールグレンの姿があった。


「お話しした通り、無条件で通せるのはAランク以上の冒険者のみになります。Dランクですと申し訳ありませんが、対応はできかねます。ご相談は私どもではなく、冒険者ギルドへお願いします。」


「なんだと?」


一人が険しい顔で前に出ようとしたが、すぐに別の一人が肩をつかんだ。


「おい、やめておけ。無理に通っても冒険者はく奪になるだけだ。」


「次の方もいらっしゃっています。ここは一度お引きください。」


「ちっ。仕方ねぇ…」


強面の一人が苛立たしそうにアールグレンをにらみ、さらには待っていたリュクスにもにらみを利かせてくる。

だが、残る三人が慌てて彼を壁に押しつけた。


リュクスは少し苦い顔をしながらも、首をかしげて奥へと進む。

そして、アールグレンに軽くお辞儀した。


「アールグレンさん、お久しぶりです。」


「お久しぶりです。Sランクのリュクス様ですね。ご用件は、やはりこの扉の先ですか。」


「そうですね。えっと、通っていいんですかね?」


先ほど門前払いを食らっていた四人組にリュクスが振り向くと、押さえつける三人も、押さえられていた一人も青ざめた顔をしていた。


「Sランクのあなたなら問題ありませんよ。どうぞ、扉はご自身の手で開いてください。」


「わかりました。」


リュクスからすればいつの間にか出来上がっていたイリハアーナ像の下の白い扉。形こそ扉だとわかるが、取っ手のようなものはない。

リュクスが両手を扉に押し当てると、次の瞬間、扉の枠が青く淡く光り輝いた。

すると、リュクスが力を入れていないのに、巨大な扉が鈍い音を響かせて動き出す。


開ききったその先には、明るく真っ白な空洞の部屋と、さらに続く真っ白な洞窟が見える。

白い壁全体が淡く光っており、道ははっきりと見えるが、まぶしいというほどではない。


「扉はあなたを認めました。では、いってらっしゃいませ。」


「えっと…はい!いってきます!」


少し困惑しながらも、リュクスは扉の先へと歩き出す。

真っ白で何もない空洞の部屋に入ると、背後の巨大な白い扉がひとりでに閉じていった。


リュクスは一瞬だけ後ろを振り返ったが、すぐにベードを呼び寄せ、その背に乗り込む。


「ベード、一気に駆け抜けてくれるかな?」


『もちろん了解です!』


真っ白な洞窟へと、ベードは駆けだしていく。

その先に待つであろう、南の地を目指して。


一方、教会では扉が閉まった後、アールグレンがいまだに残る強面四人組に笑みを向けていた。


「先ほど、あなたたち四人がかりでも開かなかった扉です。私どもならば確かに開けることはできますが…今通っていったあの方のように、自らの力で開けられる実力をつけたほうがいいですよ。」


強面四人組は壊れた人形のように何度もうなずきながら、教会を逃げるように後にした。


静まり返った教会に一人残ったアールグレンは、憂うようにイリハアーナの像を見つめていた。

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