別行動
リュクスはギルドで魔物と火術の情報を集め、宿に帰宅後は追加のサンドを作り足して就寝。
翌日は商業者ギルドの店にて従魔でも使えるアイテムポーチがないかと探しに来ていた。店員が裏に入ると、すぐにトレビス商長が出てきた。
「リュクス様のご要望に応えられる商品がありますよ!素材を触れさせるだけで収納できるアイテムポーチがあります!サイズは中サイズになりますが1万リラでどうでしょう?」
「たぶんですけど、それってかなり安いですよね?」
「お気になさらず。ご購入しますか?」
「まぁお言葉に甘えて買わせていただきます。」
大きな買い物でリュクスの証明内残高が10万と少しになった。だがトレビス商長がこれで終わるわけがなかった。
「さらにラッシュホグの肉を1000仕入れさせていただきました。」
「1000って言われても、僕そんなに入るポーチ持ってませんよ?」
「はい、特大サイズの袋型ポーチならば余裕で入る数なので入れてお譲りします。15000リラでいかがでしょうか。」
「えっと、いかがでしょうかといわれましても。」
「ポーチの中には醤油、マヨネーズ、塩とリンゴ油も5瓶ずつ入っております。」
「一体どれだけ僕に渡す気ですか?はぁ、分かりました。買わせていただきます。」
押し付けられるように購入したリュクス。40万以上あった金は、あっという間に10万を切り、89320リラになってしまったが、南端の街ならば余裕でしばらく生活できる金である。
商業者ギルドを出たリュクスは次の目的地の南東扉に行く前に、自身の露店を覗きに来ていた。露店に並ぶ人はいないが、東門に向かう人はそれなりの数がいる。
露店に人が並んでいない理由はすぐにわかった。すでにサンドが売り切れてたのだ。兎肉も1000の買取を終えていた。売り上げをためていた水晶の残高21700リラ。
特大ポーチを買った以上の売り上げが出てきてしまったわけだが、リュクスは意識を切り替えるように露店下のアイテムボックスから兎肉を100とりだし、小サイズの袋型ポーチにしまった。
これ以上は買い取る理由もないとリュクスは兎肉の買取をストップさせた。昨日作り足したサンドを100追加したが、一日で売り切れてしまったのはさすがに予想外だったリュクスは値段を185に変更しておいた。
買取のない状態なためリュクスは水晶から証明にお金を引き出す。だが直接証明に送るよう設定すると、売り上げ金額がわかりにくくなりそうだと、水晶にためる状態を維持することに。
リュクスはそのまま自分の土地を通り南東扉へ。東門から南東扉への道もあり、リュクスの土地が丸見えなわけだが、その道を通る人も南東扉を使う人もまずいないので、リュクスとしてはちょうどいいのだ。
認証水晶は高い位置にあるが、ベードが少し飛びあがって一瞬従魔証をかざしただけでも扉は開いた。リュクスも一応証明をかざしてから外に出て、しゃがみこんでベードと目線を合わせた。
「昨日いった通り、僕は西の森に行くよ。蜘蛛からとれる糸がほしいからね。でも僕と一緒に西の森に行ったら、きっと討伐隊が進んじゃってベードを追い出した狼を見返す余裕はなくなると思う。ベードが行くと決めたから僕は止めない。でも無理はしないでね?他の人間、じゃなくって聖族の人種はベードを襲う可能性もある。近づけば従魔だとわかるだろうけど、下手に反撃したり近寄ろうとしたりせず逃げちゃっていいよ。しつこく追い回してきたら他の狼や犬になすりつけちゃえばいい。ちゃんと守れる?」
「ばぅ!」
「よし、じゃあポーチを付けるぞ。仕留めたらこのポーチをくっつければ、多分死体でもそのまま回収できるはず。そんなに多くは入らないから気を付けてね?なんとなくわかったかな?」
「ばぅ。」
犬狼の森の眼前で、リュクスはベードの従魔証に括り付けるように、中型のポーチを取り付けた。ベードはリュクスの言葉にうなずいたのだが、リュクスはまだ後ろ髪を引かれる思いだった。
「きゅ。」
「レイト?ベードについていってくれるのか?」
いつの間にかリュクスの頭上からベードの体上にレイトは移動していた。顔を少し上げているのを見てリュクスがレイトの顎下をなでると気持ちよさそうに目を細めた。
レイトが付いていくならば、何か起きても何とかしてくれるだろうとリュクスは安心感を持ちつつ、帰ったらまたノビル大盛をごちそうしないとと頭に入れた。
「僕が遅くなっても、扉前の僕の土地にいれば誰にも手を出されないはずだよ。よし、いってこい!」
「きゅ。」「バウ!」
ベードはひときわ強く声を上げ、森へと走っていった。その足はかなり速くリュクスからあっという間に見えなくなった。リュクスは一人次の目的地へ。目指すは西の蜘蛛の森だ。
リュクスは西門に向かうのではなく、南端の大通りを進む。道中で採石現場を見てみようと思ったからだ。現場の近くは大通りまでカツンカツンと音が聞こえてくる。さらに道行く人々は腰にピッケルを付けている者が多い。
入り口に木組みが張られらた洞窟からは、両手に抱えた大きな箱を持って出てくる人もいる。アイテムポーチのない人の運ぶ手段をリュクスは垣間見たわけだ。ポーチと思われる袋を腰に付けてる人はピッケルのみで行き来してるのだから。
人口的にもどれほどではないかと思っていたリュクスなのだが、洞窟を行き来する人数はかなり多く、しっかりした人の波がある。南西にも扉はあるはずだが、そこに行くのが困難に思えた。道横で進むタイミングをうかがっていたリュクスにドシドシと大きな影が近づいてきていた。
「んん?新人か?採石か?」
「いえ、違います。ちょっと通り抜けようと思ったんですけどね。」
近づいてきていたのは猪のビスタだ、リュクスよりも頭3つ分以上背も高く、横のガタイもでかい。リュクスに近づいてきたのは新人で困っているところかと思ったからのようだった。
「通る?ここをか?変なやつだな!ついてこい!」
「えっ?」
猪のビスタはずかずかと大通りの壁沿いを歩き始める。つまり洞窟の入り口のある場所を通っているのだが、彼が通ろうとすると人の波が止まるので、リュクスはおとなしくついていくことにした。
止まってる人たちも不機嫌な感じはなく、どうも!と大きな声をかけてきたり、お疲れ様です、おはようございますと、挨拶をしてくる人ばかりだ。採掘地帯の7つの洞窟を過ぎると、南西の扉はすぐに見えた。
「通れただろ?ガハハハッ!」
「っ!あ、ありがとうございます。」
バシッと背中をたたかれたリュクスは少しびっくりしたのだが、助かったのは確かなので礼は欠かさない。
「蜘蛛森か?ここから?西門行けよ!それか呼べ!ガハハッ!」
「え、あぁ、はい。」
「サンギリーだ!気軽に呼べ!あばよ!」
「えっと、では。」
豪快な嵐のような人だったとリュクスはサンギリーを見送る。一番近い洞窟に入っていったのだが、他の人と違いサンギリーはピッケル持っていなかったはずだ。何かスキルがあるのだろうかと考えたが、リュクスが一人考えても仕方ないと扉をくぐった。




