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ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
暴力的幸運

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ベードの決意

ギルド内はとても閑散としていた。6人パーティーが机を囲んでいるだけで、いつも受付にいるイメージのドーンもいない。受付にいるのは一人だけで、リュクスがドーンに食事に連れられたときにいた人物であった。


「どうも、こんにちは。」


「おや、こんにちわ、君は確か先輩、ドーンさんが最近気にかけている人だね。」


「そうですね、挨拶しておきます。僕はリュクスです。こっちはベードです。」


「うぉん。」


おとなしく座っていたベードが小さく一鳴きしたのをみて、少し驚きの表情を見せるがすぐに温和な顔に変わった。


「自分はクエルムです、よろしくお願いします。そちらはインヴェードウルフですよね。すごいですね、そんなにおとなしいなんて。私は炎術を得意としているのですが、近接戦闘はあまり得意ではなく、術の発動も遅いので素早い狼型の魔物は苦手なんですよね。発動までの時間を稼いでくれるような人と組まないといけないので、自分は今回の討伐隊に加わらず、こうして後方事務を担当していますよ。」


「なるほど、もしかしてドーンさんも討伐に参加しているんですか?」


「えぇ、ドーンさんも討伐に出ています。索敵能力はこの街一ですからね。ドーンさんにご用でしたか?」


「いえ、討伐隊の話を聞こうと思っていただけなんです。どのくらいの人数参加しているのか、どう展開しているのかなどですね。」


「なるほど、それならギルド長に通したほうがいいですかね。ギルド長も自分と同じく後方事務で残っていますので、ギルド長室を訪ねてみてください。」


「わかりました。」


リュクスは言われるままに階段を上ってギルド長室へと来たわけだが、何度も来ていい場所なのだろうかとすこし疑問になる。今は討伐隊関連で忙しいのではとも考えたが、案内されたのだから問題ないかとノックした。


「失礼します。」


「ぬぅ?そなたか。今日はどんな爆弾かの?」


「やめてください、人を爆弾扱いするの。」


「ほほっ、冗談じゃよ、して何用じゃ?」


「討伐隊の話を聞こうと思って、受付の方に話をしたら、ギルド長にとおしたほうがいいといわれました。聞きたいのは、どのくらいの人数参加しているのか、どう展開しているのかなどですね。」


「なるほどの、その答えをどうするかはクエルムにはちと早いかの。そうじゃの、なぜそれを知りたいと思うのかにもよるのじゃが、場合によっては答えることができぬ。」


「なるほど、それもそうですよね。ベード、お前はもう決まってるんだろ?」


「ばぅ!」


リュクスは感じ取っていた東門を見つめるベードの目と決意じみた声、ベードが追われた群れを見返してやりたいと決めたのだ。リュクスはベードをそっと撫で、高ぶってるだろう気持ちを落ち着かせる。


「ふぅむ、ベード殿も討伐隊に参加、もしくは討伐隊と会わぬように戦わせたいということかの。」


「そんなところです、教えていただけますか?」


「そうじゃのぅ、その前に二つほど話すことがある。その話をしようかの。」


「はい、聞かせていただきます。」


「まず、従魔証を付けた魔物が門を通る時の話じゃ。まだこの街を出ぬそなたにはあえて言わなかったのじゃが、従魔証を付けているのであれば、門を通る際に認証の魔道具の水晶、あれに従魔証をかざしてから通行するほうが良いのじゃ。もっとも他の街ではという話じゃがの。この街ではすでに儂もトレビスも街長も、おぬしと従魔が共になら門を自由通行することを認めておる。」


「街長も認めてくれているのですか?」


「こちらで手続きは済ませておくといったであろう。」


「そうでしたね。ありがとうございます。」


「礼はよい。今の話で他に疑問に思ったことはないかの?」


「他に疑問に思ったところですか?もしかして僕と従魔が共になら門を自由通行できる、ってとこですか?」


「察しがよいの、ここからは聞かなかったことにしてもかまわん。従魔証をかざせば通行許可が出る。つまり門などは無理じゃが自動で開く扉の場合は、これ以上は言えぬ。」


自動で開く扉のことを思い出す。北門が閉まった後の扉も南東の扉も証明をかざすと少しの時間勝手に開くおおよそ20秒ほどだろう。もし証明をかざした後に人が通らなくても勝手に閉まる。

リュクスがいたのでベードも一緒に入れたわけだが、その短い時間に魔物が狙って入ってくることはないだろう。証明をかざして通る人が普通はいるのだから。

もし魔物が来てたとてこちらは聖域だ。魔物は弱り対処も楽にできるだろう。そもそも聖域を嫌う魔物が聖域に入ろうとするわけがない。だが従魔証をかざせばあの扉が開くなら、ベードやレイトは自由に街外に行き来できるというわけだ。

リュクスはちらりとベードを見る。相変わらずおとなしく伏せているだけで、アーバーギルド長の言葉を理解をしているのかしていないのかはわからなかった。


「その話、僕聞いちゃってよかったんですか?」


「知らぬ。従魔証を流してくれた友人から聞いた話じゃ。そもそも王都の従魔のほとんどが移動用として使われておる。つまり、体格が大きいものばかりじゃ。知っておったとしても、扉を通れぬ個体、または通れたとしても無理が必要な個体じゃろう。」


「なるほど、王都の従魔がそういう個体ばかりなら普通に門を通るでしょうね。」


「そなたの従魔はそんな大きさではないからの。さらに言えばじゃが、門や扉の認証はあくまでも犯罪歴の確認のためで、従魔だけが通ったとしても認証されるのはそなたじゃ。そなたに犯罪歴がなければ何も問題はないの。ただし、従魔が不祥事を起こした場合、そなたの罪になる。それだけは心得よ。」


「はい、わかりました。」


アーバーギルド長が何をもってそこまでリュクスを信用してくれているのかはわからなかったが、普通知りえないし使うこともないだろう情報ではあるのだろう。


「そしてもう一つの話じゃが、討伐隊が組まれ冒険者のほとんどが東にと出払ったために、西の森の冒険者が少なくなったことじゃ。いつもは人気のあるスポットじゃからの、人の少ないのは今だけじゃろう。」


「なるほど。」


リュクスにとっては魅力的な話だった。蜘蛛の魔物がどんなものなのか見てみたい気持ちもあり、戦うことも想定している。ただすでにベードで目立ってるので、人の多いと聞いていた西の森に行くのを結構ためらっていたのだ。


「そなたがどうするのかはそなたが決めよ。東に出払っているのはこの街の冒険者の8割ほどじゃ。だいたい2500人くらいかの、普段はあまり仕事しない者まで混ざっておる。おそらくインヴェードウルフを束ねるボスとして進化した個体もあらわれているはずじゃからな。そやつを見つけるためにかなり広く展開させておる。さすがに北方面に広がる別種の狼の縄張りまで、やつらが侵攻してないとよいのじゃが。」


「北の別の狼ですか?」


「そうじゃ、インヴェードウルフよりも圧倒的に驚異的な狼の縄張りじゃ。しかも群れでなく1個体のみで広大な縄張りを敷いているのが特徴じゃの。北の南兎平原の街道がまっすぐでなく、途中から西側に曲がっておるじゃろう。西側に森と街の切れ目となる大きな丘があっての、そこは聖域であるという理由もあるんじゃが、直進出来ぬ大きな理由はその狼じゃ。種族名は儂ら冒険者ギルドでも現在不明、偵察に行ったものは命からがらだったそうじゃ。」


「え、そんな危険な魔物がいるんですか?」


「そうじゃ。じゃが縄張りにさえ入らなければ手を出しては来ぬ。むしろその存在がいるおかげで、他の危険な魔物がこの付近には少ないともいえる。それゆえに大きな討伐隊も組まれずに放置されておるのじゃ。最近じゃと、何人かの来訪者が無謀にも挑んで敗北した様じゃの。」


来訪者たちは王都を目指し北を目指すわけだ。だが北を目指すなら馬車か徒歩。つまり徒歩を選んでまっすぐ北に行った人が犠牲となったのだろう。

同じ境遇ではあるはずだが見知らぬ他人でもある。リュクスは軽く黙祷だけすまし、別の気になったことを尋ねた。


「少し時間をとってすいません。ところで、2500人って思ってるより少ないと思うのですが。」


「ふぅむ、確かにこの街の大きさからすれば少なく感じるかもしれぬが、この街自体がそれほど人の多い街ではないのじゃよ。町長に聞かねば詳しくはわからぬが、6万いかぬほどじゃったかの。そのほとんどが職といえるものにつかず、採石という手段で稼いでおる。この街の一大産業であり南西で行われている聖域境界壁の石の採取じゃ。おぬしはそっちのほうには行ったことあるかの?採石が行われておるので、一度見てみるのもいいかもの。」


「そういえばそっちのほうにはいってないですね。でもなんで南西だけなんですか?」


「東側は土質が多いのもあるが、何より壁が修復する時間が西のほうが短いのじゃよ。昔は東側でも採取してたのじゃが、修復に長いと10日はかかる場合もあったそうじゃ。西側なら長くても5日には修復する。そういう面も含め、人を調整するのであれば西だけのほうが良いのじゃ。」


「なるほど、確かに広範囲で人を統率するのは大変ですよね。」


「そうじゃ。冒険者のように、何かあった時に証明ですぐわかればよいのじゃが、採石程度にいちいち証明は必要ないのでの。採石場にある露店や近くの商店に直接売り込めばそれで金は入る。取りすぎぬように、ある程度の見張りも必要じゃからの。」


「なるほど、結構いろいろ事情があるんですね。」


「まぁ、街の住人のことなどおぬしはほとんど知らんじゃろ。気にせんでもよい。儂とトレビスと街長の仕事じゃ。なにやら話が脱線しすぎたかの?」


「いえ、大丈夫です、いろいろ知れてよかったです。」


「そうか、そういってくれると嬉しいの。じじいの話は長いといわれたりしたら、儂は悲しいからの。ところで、この後はどうするのじゃ?」


「そうですね、インヴェードウルフの生態を聞いて魔物についてもう少し詳しく知りたくなってきました。せめてこの街の近くや、隣町に行くまでの魔物などの情報だけでも。」


「ふむ、良い心がけじゃの、ついでに他の術法についても調べるとよいと思うぞ。そなたほど術法の安定性があれば、もっと複雑で威力のある技も使えるじゃろう。自身で見つけるのであれば、そのほうが良いじゃろうが、ヒントくらいに使うと思ってもよい。資料室は儂の部屋の隣にある、ある程度は丁寧に扱うように。」


「なるほど、ありがとうございます。」


以前に聞いた術法のスキルアーツをまとめた書のことだろう。リュクスは新しい技に思いをはせる。自身で考えようと思っていたのだが、書を頼って発想を得るのもいいだろう。

それほど脅威ではないグリーディードッグに思わぬ苦戦したのだ。もう少し強くなりたいとリュクスは願う。伏せてるベードや、頭上のレイトに頼るだけにはなりたくないと、まずは二匹ではできないだろう情報戦から始めるのだった。

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