無人露天
リュクスはノビル取りに南兎平原にと向かう前に商業者ギルド横の店に来ていた。ベードは店前待機かと思われたが、店員に訪ねればトレビス商長から事情を聞いていたようで、ご一緒にどうぞと案内された。
始めの目的はお金に余裕ができたのもあって野菜などの食材を買うためであったが、リュクスは1階にてアイテムポーチが並べられているのを見つけてしまった。
唯一おいてある鞄型は小サイズで10000リラとかなり高価なうえ、鞄型はすでに持っているリュクスは袋型のほうに目を移す。袋型の小で5000リラ、中で8500リラと袋型もかなりの値段だが、リュクスは中サイズを購入した。
さらに防具も購入。皮の腕あてと皮の靴である。リュクスの今の靴は布の靴で、イリハアーナ様からのもらい物でもあり、履き心地自体は悪くないのだが、防具としての性能はないうえに、草原や森を歩くなら革製のほうがより歩きやすくなるだろうと考えたからだ。
そして腕あては魔物に噛まれたときに腕を守ることができそうだと購入した。レッサードッグにかまれたことを思い出したのだろう。
当然装備は使い続ければ消耗もする。とはいえギルドの店で修理依頼を出すことができると購入時に店員からおそわる。1階でかなり消費してしまったリュクスだがメインは2階だ。
ギルドの店の2階では食材や素材を扱っている。南端の街の店では野菜の種類は少なく、試験で使ったパプリカ以外の野菜だけだったが、数は取り扱われていた。東が農地になっているので当然なのかとリュクスは納得する。
野菜の入れてあるケースに名前も出ているのだがリュクスは識別もきちんとしていく。とはいえどれも元の世界でリュクスが扱ったことのある見た目で、見た目通りの名前と識別結果であった。
一番の特産と思われるリンゴはとにかく多い。ケースにはどこの畑で取れたなど書いているが、識別したところで識別結果も同じで違いも判らず、とりあえず目についたものを買うことにした。
そんな散財した後、南兎平原で街道から草原に入ろうとしたところで、レイトが急にリュクスの頭から降りて来た。
「きゅ。」
「ばぅ?」
「きゅ!」
「がぅ!」
「え?二人だけではなしあうなよ。ってあれ、ベード!?」
二匹での会話の内容はリュクスでもわからなかっただが、なぜか気合を入れたベードは先に草原に入っていってしまった。
「きゅ。」
「え?心配するなって感じ?自由にさせる?」
うなずいたレイトは小さな前足でリュクスを手招く。何かとリュクスがしゃがむと即座に頭上にと乗ってきた。軽くため息をつきつつ、リュクスも草原にと入り、出会ったアタックラビットを処理しつつ、以前見つけたノビルの群生地へとたどり着いていた。
ノビルと共にレモングラスを20ほど発見したリュクスはまとめて回収。ノビルもたっぷり100以上を袋型中ポーチにと集め終えたところでベードが走り寄ってきていた。
リュクスを鼻で押し、どこかに案内したいようだ。案内された場所にはアタックラビットが10匹、山になっていた。自由に狩ってこさせれた結果なのだろう。体には牙跡も爪痕も少なく、殆ど頭への致命傷でとどめを刺してあった。
リュクスが肉にすることを考えてなのだろうが、リュクスが解体したため上手なものと比べれば肉量は少し減っただろう。
解体を終えるころには日が落ちかけていたために、リュクスは急いで帰宿。宿に帰り夕食を済ませたリュクスは寝る前にパンフレットを開いていた。
翌日、東門への大通りを歩くリュクス。やはりまだベードへの目線は多いが仕方ないだろう。門の手前の空いた土地につくと、トレビス商長が待ち構えていた。
「お待たせしましたリュクス様!無人露店と農具をご用意しましたよ!露店は昨日中に設置させていただきました!こちらでよろしかったですか?」
門から離れた側のリュクスの土地の端に、すでに無人の露店が設置されていた。丁度大通りと露店の間は人一人分ほど、その部分だけ柵がへこむように設置されていた。
「仕事が早すぎませんか?まぁ大丈夫ですけど。」
「それはよかったです!では早速ご登録を。」
無人露店には展示ケースの横に取引用の魔道具である水晶が設置されている。そこに証明を重ねることでリュクスの証明と水晶を連携させる。
「パンフレットにも載せてありましたが、こちらは少し特殊な露店となっています。一度一つでも商品を展示いただくと、アイテムポーチを触れさせるだけで、中身の同じ商品を直接補充ができ、さらに下部はアイテムボックスとなっていてそちらに入れるだけでも、当然補充することができます。」
「べ、便利な露天ですよね。ほんとによかったのでしょうか。」
リュクスはパンフレットでも見たのだが、レンタルの露店よりも便利な機能がついてるようで、おそらくタダ同然にこれを設置したのだろう。リュクスはちらりと頭上を見る。これもレイトの力の影響なのではないかと。
「もちろん、リュクス様が露店を展開する利益を考えれば問題ありません。炭火焼露店のほうはまだご用意できておりませんが、取り急ぎこちらを用意させていただきましたので。」
「わかりました。とりあえずさっそく商品を入れたいのですが、ちょっとご相談が。」
「はい、お聞きいたしますよ。」
「実はサンドなんですけど、値段設定に悩んでいるんです。とりあえず一つは展示ケースに、残りはポーチから移しちゃいますね。」
豚肉サンドを展示ケースに入れれば、ケース上部に豚肉サンドの情報が表示される。サンドだけが入ったポーチ2つ分を展示ケースに触れさせると、在庫数の表示が124個となった。
「かなり作りましたね。これは豚肉の仕入れ数を上げる必要がありますか。仕入れ数はこちらで何とか対処しておきます。おっと、値段でしたね。そうですね、使った材料のみ考えれば適正価格は150リラといったところですかね。」
「えっ、そんな値段付けちゃっていいんです?」
「そうですね。ただリュクス様のサンドには付加価値を必要とすると思いますので、180リラでも売れると確信しております。とりあえず私は180でも買いますね。」
「な、なるほど、ではちょっと下げて175リラにしておきますね。」
「それでもよろしいでしょう。すぐに売り切れてしまわないことを祈ります。」
リュクスが露店の値段設定をすると、トレビス商長は露店のケース横の水晶に証明をかざす。ケースが開きサンドが一つだけ出てくる。トレビス商長は取り出したサンドを頬張ってあっという間に食べきってしまった。
「ふぅ、ごちそうさまです。」
「いえ、ご購入ありがとうございます。炭火焼のほうもよろしくお願いします。」
「かしこまりました、では良き商業を。」
トレビス商長はお辞儀をすると足早に中央方面へ、おそらく商業者ギルドに帰るのだろう。露店にはサンドが売られているだけで少し寂しい。
せっかくなのでアタックラビットの肉を一度入れてすぐに取り出す。ケース上部に証明を重ねれば買取中に変わり、上限と値段の文字が浮かび上がる。
パンフレット通りに上限の文字に指を当てて1000までと声に出せば、上限1000で設定される。値段は一つ5リラに設定。冒険者ギルドなら10集めて30リラと聞いていたので、ここに売れば少しもうけが上乗せされるようにリュクスは設定したのだ。
気をつけなきゃいけないのは証明の残高だろう。無人露店で買取する場合、証明の所持金から勝手にお金から使われるのだ。逆にこの水晶にのみリラを入れておけば、水晶のリラから先に消費される。
ちなみに売り上げは一度水晶にためておくことも、直接証明に送るようにもできる。売り上げを水晶ためにすれば、いったん水晶に金を預け、売りも買いも無人露店で並べれば、外出先で思わぬ出費をして買い取り額を払えなくなるようなことがなくなるわけだ。リュクスはとりあえずでアタックラビットの肉分である5000リラを入れた。
買取したものを取り出す際は下のアイテムボックスから好きな数を取り出せるので、これでアタックラビットの肉に困ることはないだろう。露店はサンド売却とアタックラビットの肉買取の二つだけだが、他も思いつかなかったリュクスは後ろから感じる視線に振り向く。
東門の人通りが増えてきていた。リュクスではなく露店とベードに目が集まっていたようだ。6人固まっているパーティーも見える。インヴェードウルフの討伐隊の一つなのだろうとリュクスは次の作業に移った。
露店横の農具を回収したリュクスは、土地の奥に移動した。さすがに目線の多い東門側で作業する気にはなれなかったからだ。
ベードに離れておくよう言いつけたリュクスは、地面の土に鍬を振り下ろす。農作業など初めてだったが、テレビやゲームでは見たことがあったので真似したのだ。しかしリュクスが思っている以上に簡単に鍬は地面に刺さったのだ。
ザクッザクッザクッと2畳分ほど耕したところで、少し疲れてきたリュクスは手を止める。耕すのに体力を使うのは当然だが、この広さでもリュクスでは一苦労のようだ。
もっといい方法を考えなければと思いつつ、一休みしたリュクスは耕したところにノビル、対角にはレモングラスを20ずつ植えた。種もない野草の増やしかたなどリュクスは知らないため植えただけとなってしまったが、すでに水の入っていたジョウロで水をやる。水ならば魔道具でいつでも補充できる世界だ。水やりにも困らないだろう。
耕してる間、ベードは東門を出ていく人たちを見続けていた。リュクスの横に伏せていたが、眼はしっかりと開き、門を見つめていたのだ。農作業をして朝とは言えないほどの時間になったのに、いまだに東門に人が向かって行っている。
「…ばぅ!」
「お、なんだ?あぁ、そうか、決まったんだな。」
ベードが討伐に参加するか決まったようだ。とはいえ討伐隊がどのくらい組まれてるのか話を聞いてからのほうがいいだろうとリュクスは冒険者ギルドへ向かった。




