新しい宿とスキル
西門への大通りに向かうため街の北と南をつなぐ大通りを歩いていたリュクスは旅商らしき露店を発見した。明らかに周りの露店とは違い移動用の車輪がついているのだ。
珍しさにひかれて商品をみればラッシュホグの肉が結構な量余っているようだ。なんでも解体状況が普通の物より悪く、使える肉の部分が減ってしまっていて、使えない部分は切り落とし済みだがそれでも輸入品としては価値が低めなんだそうだ。リュクスが値段を聞くと50で500でいいといわれた。
リュクスもラッシュホグの肉は街の露店でもまれにだが売っているのを見ていた。だいたい数は少なく10しか取り扱っていなく、それで500リラの値段がつけられていたが、その値段でも売れる現場を見ていた。
ただここでは街の露店の展示ケースと違い、展示ケース自体はあったが鑑定内容が見えていなかった。話を聞けばまれに鑑定内容付き、個数表示付きのケースを持ち歩いている旅商もいるようだが、そういうのはかなりの金持ちだそうだ。
基本は自分で看板を出して商品アピールするか。こうして聞かれるまで答えないかのどちらかだそうだ。当然前者は自分の今持っている商品に自信があり、後者は自信がないのでまず値段からいってくる。
つまり彼もリュクスの思った通り旅商であるようだ。個人店舗を持っている彼は聞かれればきっちりと答えているので別に詐欺ではない。
聞かれたことには、普通は嘘をつかずにこたえなければいけない。旅商でも取引結果は商業者ギルドに伝わる。ここに売り場を出しているということは商品登録を行っているはずで、それ以外の商品を売ったりしたのがばれたら犯罪者行だ。
特に魔道具系統の商品は識別しただけではわからないことも多いために、商業者ギルドの店では実演販売を行っている。リュクスは料理キットを試しているときに近づいてきた店員の話を思い出していた。
でもどんな風にしたって、旅商を相手に取引するなら素材の鑑定は基本するべきなのだろう。リュクスが識別すると確かに解体状況が悪く利用できる肉が減っていると出た。受けた説明以上の不安面は見当たらなかったが、店員はもう売れるなら50を250でもいいと言ってきたために、リュクスは買い取りをきめた。
そんな寄り道もあったがリュクスは糸車の看板の店に到着した。明らかに今までの施設よりでかい。値段を聞いて無理だったら簡易宿に戻ればいい。そんな風に勇気を出してリュクスが入ると、エプロン姿のヒュマの女性が受付をしていた。
「いらっしゃーい!うちの宿にようこそ!ここはちょっとくらいお汚ししてもいい部屋とか、大きい物作るための広い部屋もあるよ!生産者のための宿だね!お兄さん、どんなへやがいいかな?」
急にぐいぐいくる店員の対応に押されつつもリュクスに料理以外の予定はない。レイトがいるのでこの店に来たわけなのだがそこは話さずに希望を伝える。
「料理をするので、汚れてもいい部屋ですかね?」
「料理する部屋ね!もしかして料理道具は持ち込みかな?そうなら備え付けよりちょっと安くなるよ!」
「えっと、お値段きかせてもらっても?」
「うーん、お兄さんどのくらいいる予定?」
さすがに中も見ずに何日いるか決められない。さらに言えばリュクスはいつかは他の町に行く予定なのだ。
「値段とか、内装とかで気に入ったら、もしかしたら長くいるかもしれません。」
「ほーほー、なるほど!それじゃあお汚ししてもあんまり問題ない、おひとりさまのお部屋でも、料理スペースと食事スペースはあったほうがいいよね。机は3人くらい呼び込めるのついてる部屋でもあんま値段変わらないし、ここなら長くとっちゃってもいいんだよね。というわけで27のお部屋!そうだなぁ10日で1500リラでどうかな?部屋の中見てきて決めてよ!あ、27の部屋は左の階段から2階ね!」
リュクスは鍵を渡されてしまったのでとりあえず部屋を見てみることに。左の階段の二階に上がったら、右側の手前から2つ目の部屋が27の部屋だった。奥まで4部屋あり両側で8部屋。結構ドア離れてるが一部屋が広いのだろうかと、リュクスは部屋に入ってみる。
充分に広い1LDKの部屋といえるだろうか。キッチン用と思われるタイルスペースは何も置いてないが自分の生産道具を持っている人用の部屋を案内されたのだから当然だろう。肘かけはないけど柔らかな長ソファーもある。机も4人が座って料理を並べても、ゆとりのありそうな大きさ。木製の椅子も背もたれ付きのが四つしかも座布団付き。スライドドアで仕切りができるようになってる奥のベッドルームにはダブルサイズの大きさのベッド。トイレもゆったりできるスペースがある。なお便器内はやっぱり何かがうごめいていた。
これが生産者用の宿なのかと改めてリュクスは見渡す。生産スペースは広いタイル状の場所。あそこなら料理だけじゃなく、いろいろ広げても問題ないだろう。だがこれで10日で1500は安すぎるんじゃないかとちょっと受付に話を聞きにもう一度に戻った。
「どうでしたお兄さん!いい部屋でしょう。」
「良い部屋なんですけど、あれで10日で1500?安すぎませんか?」
「うーん、設備併用じゃないのはあんまり人気なくて、あれくらいの生産スペースじゃできるのも限られちゃいます。案外人気度は低めのお部屋なんですよ。ちゃんと頑張らないと10日で1500リラって稼げないですし。」
リュクスとしては一気に儲けたわけだが、特に生産だけとなればしっかり頑張らなければ稼ぎが足りなくなるだろう。やばかったら10日で退散すればいいかとリュクスはこの宿に決めてしまうことにした。
「じゃあ10日間お願いします。」
「はぁい!でも初回サービス!1000リラでいいよ!先払いしてね!あとお部屋の中の壊したりしたら、さすがにダメだからね。修繕費もらうよ!ただトイレとかベッドとかでなんか変な感じしたらすぐ言ってね!こっちの整備不良だったらしょうがないから!もし整備不良なんかあったら、あの人でもただじゃおかないけど!」
リュクスにしてみればあの人とは誰を思って言っているのかは不明だったが、初回特典ということで500リラおまけしてもらえ、いい宿に出会えたとリュクスは思う。
あの黒兎の人に感謝したリュクスだったが、もしかしてレイトの幸運なのかとちらりとレイト方向に目を上向ける。ずっと寝息を立てているからそれはないだろうと差し出された証明に証明を重ねた。
「もしなんか必要な材料があったら受付来てね!別料金だけど売ってあげれるのもあるよ!」
「あ、それじゃあ調味料って何かあります?」
「調味料かぁ、あんまり凝ってるのはないけど、東の森のほうで取れる岩塩と、アブラナっていう植物から作った油ならあるよ。」
「おぉ、いいですね!ぜひどちらもそこそこの量欲しいです。」
「あいよ!塩はこの瓶ので1つ100リラ、油はこの瓶で1つ50リラだよ。」
塩は食卓塩の瓶が2倍くらいに長くなった瓶に詰まっておりそれで100リラ。よく使うものだが1つでしばらくは持ちそうである。口を開いて見せてもらったリュクスだが、かなり穴が大きい。中の岩塩には削り漏れで出ただろうでかめの粒が見える。詰まらずに振りかけられるようにこうなっているんだろう。
油は1Lペットボトルの大きさで50リラ。揚げ物料理をしようと思えばたくさん使うもので、すぐになくなるかもしれないとリュクスは2つ購入した。
部屋に入ったリュクスは早速料理準備。料理セットを出すと豚肉にレモングラス、そしてお買い上げした油と塩を用意。フライパンに油を敷いてちょっと厚めに切った豚肉に塩で下味をつけて焼き上げる。
ジューという音にやっぱこれだとリュクスはうなずく。素焼きも悪かったわけではないが、しっかりとこの音がするのは油あってこそだ。レモングラスは火を通さずに添えるだけで完成させた。
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対象:ラッシュホグの厚切り焼き
塩の下味のみで焼き上げられた分厚いラッシュホグの肉
添えられたレモングラスの酸味がアクセント
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肉の匂いに我慢できなかったのか、リュクスは机にはもっていかずその場で切り分けて一口ほおばった。豚肉そのものの味がガツンと広がるワイルドな味わい。
さらにリュクスは添えたレモングラスと一緒にも食べてみる。酸味が効いて肉の味が引き締まる。また一味変わっておいしいとうなずいていた。
残念なのは食うのに箸しかないことで明日にでもナイフとフォークとスプーンを購入しに行こうと決めていた。
「きゅ!」
「ん、なんだ起きたのか。お前はノビルだろ。」
食べ終えたリュクスはレイトの要望に応えてすぐにノビルの準備を済ます。とはいってもポーチの中に切り分けていたノビルを取り出し、根も葉も一緒に皿にのせただけだが。レイトは葉から食べ尽くして、そのあと根を味わうように食べていた。好きなものを後に食べるタイプなんだなとレイトの一面を知れた。
レイトは満足したのかソファーに飛び乗り真ん中を占拠。ほとんど落ちなさそうな見た目だが、毛とか大丈夫だろうかとリュクスが少し不安に思うも、レイトはそこで寝てしまった。
リュクスとしては食べてすぐ寝るのはあまり好きではない。そういえばと草原ではちらりとしか見れなかったレイトを改めて識別してみた。
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対象:レイト・アルイン
種族:サチュレイトフォーチュンラビット
主人:リュクス・アルイン
スキル:〈飽和幸運〉〈極雷魔法〉〈縮地〉〈異常耐性〉〈属性耐性〉〈察知〉〈飢餓耐性〉〈環境適応〉〈隠蔽〉〈種族偽装〉〈感知阻害〉〈天雷災〉〈聖族言語〉
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改めて見たレイトのスキルだがリュクスからすれば愛くるしい見た目からは想像できないようなスキルが多い。ノビルにつられただけのやつではないことはさすがにわかる。
そしてレイトの名前にもリュクスの縛り名がついている。おそらくテイムした影響なのだろう。主人もきちんとリュクス・アルインと識別結果ではでている。
極雷魔法というのでただの雷魔法ではないというのはさすがにわかるが、極まっているほどすさまじい威力ということだろうか。見てみたいような見たくないような不安感がリュクスを襲う。
飢餓耐性はおそらく飢餓状態をどこかで体験して得たのだろう。環境適応は飢餓状態に陥った土地から離れたことで得たのではないかとリュクスは考察する。
聖族言語が一番後ろにある。リュクスに出会ったことかテイムされたことで聖族の言葉を認識し始めたとか、そんなところなのではないだろうかと思ったからだ。
他にも怪しいスキルはあるがリュクスが何より不安なのが、一番先頭の飽和幸運というスキル。おそらくこれが鉱山伝説を起こしたスキルだろうと詳しく見れないか試すが、なにも追加で識別できる気配はない。
今のリュクスではスキル情報を見れないのかとも考えたが、レイトが隠蔽してる可能性もある。むしろここまでなら見せてもいいぞというレイトの寛大な処置かもしれないとレイトを見つめる。この寝ている毛だまはとんでもない存在であることに間違いない。怒らせないようにちゃんとノビルを献上することに決めた。
それよりもリュクスがレイトのスキルを見ていて思い出したのは自分のスキルに新たに何かついていたことだ。改めて自身を識別すれば、やはり一番最後に暴力的幸運というスキルが追加されている。見なかったことにしたいがそうもいかないと暴力的幸運というスキルを識別してみる。
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対象:スキル〈暴力的幸運〉
何者からか幸運の祝福を受け続けているようだ
暴発しないのが不思議なほどに幸運が膨れている
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幸運を引き寄せるスキルであることはわかったし、何のせいでこのスキルがついたかはリュクスにもわかった。そして自身のスキルならば識別できることもわかったリュクスだったが、それ以上にどっと精神的疲労が押し寄せる。ドーンの気持ちを少し理解しつつ、現実逃避するかのようにローブを脱ぎ捨ててダブルベッドにダイブイン。ふかふかの布団にくるまれてそのまま眠りについてしまった。
本日20時 2つの閑話が更新されます。
うち片方は世界設定になります。




