雑草識別と野外料理
ドーンと別れたリュクスはさらに5匹をファイアボールで炭にし、3匹は杖で殴り倒して解体の練習台にしたところで街に戻る。教えてもらったアタックラビットの看板の店でウサギステーキなる皿に3枚の焼かれた兎肉の乗った料理を50リラで食べたのだが、比べちゃいけないのだがイビルブルステーキの味をほんのり思い出してしまって物足りなく感じたようだ。
かけられているソースの味付けはリュクス好みで悪くなかったが、肉の質が違いすぎるんだろう。ただ半日以上動いていたからかリュクスはがっつり平らげたわけだが。
そのあと宿でぐっすりと眠ったリュクス。翌朝も昨日と同じくらい目が覚めたが、まず宿泊延長を行った。次の闇の刻には宿の鍵がなくなってしまうためだ。宿の中に居なければ宿泊終了で勝手に消えるのを待てばいいのだが、リュクスはまだこの宿に泊まるつもりのようだ。
宿を出てまずリュクスが向かったのは商業ギルド横の生産用具を売る店だった。そこで頭を悩ませたのはお金のことだ。昨日の稼ぎは100リラなのに、その後150リラも使ってるわけだ。いい加減しっかりと金策を行わなくてはいけない。
露店での販売も考えたが、一応の金はあるわけで、どうしても今日中にさらなるお金が欲しいというわけではない。明日ドーンに渡す予定の兎の炭を量産するのが無難だろう。
金策の考えをまとめたリュクスだったが、現在商業ギルド横のお店1階で商品をじっと見つめていた。お金を持っていないのに入ったのではなく、残金を気にしたのが商品の値段を見たときだったのだ。
あまりにもリュクスにとって魅力的な商品があるのが悪い。魔力料理道具セットというものだ。魔力を流すと火が出る魔道コンロに鍋とフライパン。魔力を流すと水が出る魔道水石に包丁にまな板。混ぜるための菜箸にできた料理を乗せるための皿と箸が5つずつ。地形の悪い場所でも使える簡易机までついてる。それらを全てをしまい込み開ければ即座に取り出せる四角い箱の魔道具付き。そんな便利セットが1000リラで売っているのだ。
魔道コンロと魔道水石は術法のような魔素の消費はなく、術法が苦手な人も使え安心という説明付き。さらにはお試しもできるようでリュクスが早速説明にしたがって四角い箱の側面を二度叩くと箱が開いて机が出てきて、机の上には料理器具がそろう。
どう仕舞われていたのかわからないがこれも魔道具の力かと、リュクスはコンロも試してみる。出てきた火はガスを使ってないからか完全に赤かったが、火加減の調節は元の世界のキッチンと同じくつまみで調節できるようで強火弱火も問題ない。
しかも料理道具セットをしまう四角い箱の状態で鞄型ポーチ小に入れた場合なら一枠分しか使わないようだ。残り五枠になるがと悩んでいたはずのリュクスなのに店を出たときは残金440リラになっていた。
リュクスとしては早速料理練習したいところだったが、まずは兎炭を集めなければと意識を切り替える。北門から出てすぐの街道沿いには兎狩りの人があちこちまばらに見えていたが、街道を進んでいくとさらに人数は少なくなる。そこからさらに街道から離れるように草原に入っていく。数匹兎に突進されたが杖で対処し完全に人の気がなくなったところで解体も済ませた。
後はそのあたりにいる兎たちを見つけてはファイアボールで焼いていく。リュクスはアタックラビットをほんのりかわいいと思っていたことも忘れて、金稼ぎのために15匹を炭にと変えていた。これで昨日の5個と合わせて20。渡したのは10なので100まではあと70と結構必要だ。
15回もファイアボールしたリュクスだが、軽く息をついた程度でとりあえず肉体的には問題ない。とはいえ気持ち悪さが出てきてしまっては元も子もないと今日はここで打ち止めと決めたようだ。
当然兎に出会うたびに識別をしていたリュクスだが、少し気になったことがあった。兎らは草食兎なのは識別結果からわかっていたことだが、つまりこのあたりに生えてる草を食べてるってことだ。
もしかすればこのあたりのただの雑草と思ってたのも、意外と人でも食べられるのではないのかと、さっそく雑草に鑑定を始める。
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対象:メヒシバ
人には特に用途のない雑草、アタックラビットの主食
対象:オヒシバ
人には特に用途のない雑草、アタックラビットの主食
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いくらリュクスが識別していってもオヒシバ、メヒシバ、オヒシバ、メヒシバ。さすがにもう見える範囲じゅうやってるような気分で嫌になってやめたくなってきたリュクスだが、識別で見える内容が変わっていた。
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対象:メヒシバ
人には特に用途のない雑草、アタックラビットの主食
土さえあればいくらでも繁殖する雌蕊の雑草
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無駄に続けたかいがあった。オヒシバは雄蕊とあるのでこの二つがあればいくらでも繁殖するのだろう。さらにずっと見続けたからか少し葉の太い違う雑草を見つける。
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対象:ノビル
根に小さな白い球根を持つ野草
アタックラビットにとっては根も葉もご馳走となる
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リュクスもオヒシバメヒシバだらけでまさか本当に人も食える野草といえるものを見つけられるとはと感動すら覚えた。兎を倒したあたりを探し続けたかいがあったようだ。
よく見れば周辺にいっぱい生えてた。群生地なのかもしれない。リュクスは鞄型アイテムポーチの中を思い出す。すでに料理セットで1枠。兎の炭が1枠。数匹分の解体した皮と足と肉が1枠入っている。杖は別にしたいので1枠で残り2枠が空いている。とりあえず1枠に入る分だけを取ることに決めたようだ。
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対象:レモングラス
レモンのような酸味のある匂いと味のする薬草
草食の魔物も食さぬこの草は虫型の魔物は近寄りもしない
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ノビルを見ていているとまた違う葉を見つけ、識別すればレモングラスと出た。リュクスは使ったことはないけど食べれる野草であることは知っていた。
お茶とかスープに使うんだったかとうっすら思い出す。もしかして露店の兎の薬草焼きはこれ使ってたのかも知れないなどと考えながら、周囲も合わせて20本あったのを摘んでノビルと同じ枠に入れる。
それまでにかなりの数のノビルを入れたからか数本入れようとしても入らなかった。どうやら限界になるととにかく入らないようだ。仕方なしに入れたレモングラスも取り出して枠を分けることにした。
レモングラス付近はまた生えてくるかもと、リュクスは離れてた位置で料理セットを取り出す。四角い箱を底である模様部分を地面にして側面を叩けば、箱は広がって机が出てきて、机の上には料理器具がそろう。
店で試した通りの道具なことを確認したリュクスはコンロの上にフライパンを置いて火をつけた。料理油なんてないので素焼きにはなるが、素焼きでもフライパンは焦げ付かないらしい。
リュクスはあまり大きくない兎肉を1つにレモングラス2つ分を刻んで乗せて、まずは一緒に焼いてみる。ほのかに薫る酸味は本当にレモンのようだ。焼きあがったので皿にのせてみる。すぐに食べたいリュクスだがしっかり識別した。
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アタックラビットの薬草風味焼き
酸味のある薬草で、風味づけされながら焼かれた兎肉
消化促進作用のある薬草が使われているため食しやすい
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消化促進作用とはレモングラスのことだろう。薬草風味焼きとは出たが露店の兎肉には消化促進ってのは出なかった。識別が育って露店の表示より詳しくわかるようになったのか、はたまた露店の薬草は違うものを使っているのか。
リュクスにはわからなかったが空腹を満たすために今は目の前の兎肉に大きくかぶりつく。それだけで半分は無くなってしまう大きさだが、広がるさわやかな風味。噛み応えもあるけど不快感はない。露店で串焼きを食べたときの肉の味のえぐみも少なくなってる。
元の世界で野外料理はバーベキューくらいの経験しかなかったが、材料も少ないのになかなかおいしいじゃないかとリュクスは自分の料理に満足する。自分で取って、自分で作ったっていうのが、またポイントが高いのだろう。
今まっすぐ帰ればちょうどいい夕飯時になるだろうがと悩んだが、自分でもう2つ作って食ってしまうことにしたようだ。今度は2つ分同時に一緒にフライパンへ入れたが、これなら3つくらいまでなら一緒に焼けそうだ。
焼き上げたので食べてみるたリュクスだが、レモングラスの風味は少し薄れ肉のえぐみが増し、噛み応えも硬くて悪くなっていた。焼き色的には同じに見えたがまさか焼きすぎたのだろうか?2つ同時に焼いたのがまずかったのか?とにかく出来が悪かった。
食べれなくはなかったが、やはりできるだけおいしく食べたいのが人の性。まず考えたのは肉の質。解体の腕が上がれば兎肉でもさらに味がよくなるかもしれない。解体も続けていればスキルとしてつくのだろうかと考える。
それはさておき一食分としては十分食べたように思えたリュクスだったが、朝から今の今まで口にしていなかったこともあって少し物足りないと腹をさする。せっかく料理道具を出したのでノビルの処理をしてみることに。
リュクスとしてはノビルというのは根の丸い部分を食うイメージだったが識別の内容的にうまく調理すれば葉も食べれそうであるが、今は調味料もないので魔道水石から出した水でよく洗った後、とりあえず根と葉を切り分けた。
半分の5つ切り分けたので、根の丸い部分を1つをそのまま一口。青青しいネギのような風味が広がる。これ兎肉と一緒に焼いたら絶対おいしかったやつだと少し落ち込みつつも、次はやってみようと思いなおし、根をもう2つポリポリと食べてしまう。
調味料など何もつけてないのに意外とおいしいようだ。さらにもう2つと手を伸ばし掴んだ瞬間、リュクスは後ろから背中をドスッとどつかれた。
「うぐっ、なんだ?」
「きゅー!!」
鳴き声を上げたのはアタックラビットだった。この付近のはあらかた片づけたはずなのに一体いつの間に?まさかゲームのようにリポップしたわけじゃあるまいしと頭を悩ませる。
「きゅ、きゅ!」
「な、なんだなんだ?」
リュクスの脚にこびりついてくる、なんだこのかわいい生き物は!今までのアタックラビットはただ突進してくるだけの生き物だったがこいつは違うようにリュクスには思えた。しかし魔物であることには変わらないわけで、叩き潰すか燃やすべきかとも考えたが、リュクスは自身の職業を思い出す。そう彼はテイマーなのだ。
テイムといううってつけのスキルがあるのだ。なんとなくこのアタックラビットを倒してしまうのは忍びないと兎に手をかざし思い切ってリュクスは叫ぶ。
「テイム!」
「きゅ?」
どうやらダメだったようだが、リュクスは体に大きな倦怠感を感じた。おそらく魔素が少なくなったのだろう。つまりテイムは魔法で発動自体はしたようだ。ただ倦怠感からもおそらくもう一度やるのは危険だと判断した。
「きゅ!」
「うっ、さっきからなんだよ?」
明らかにリュクスの右腕を狙って突撃してきたのだが、以前腹に突撃されたアタックラビットの時よりはあまりいたくはない。何か意図があるのかと右手の中を見れば切り取ったノビルの茎があった。
「食いたいのか?葉じゃダメか」
「きゅ…」
リュクスは左手に葉を見せたのだが右手にくっつく。根の部分はリュクスも気に入っていたが、かわいい顔で見つめられてしょうがなしにと、2つの根を手に広げると、すべて咥えて逃げて行ってしまった。
「あっ、おい!いや、しょうがないか。」
そんな簡単になつくわけない。いい経験だったと思うことしたリュクスは空を見上げる。まだ日はあるが奥まで来るのに時間がかかった。帰ることを考えればこれ以上暗くなると危険と判断し、街に戻ることにした。
草原奥から街道に戻る途中は行きと同じルートをリュクスは通ったが、アタックラビットに会わなかった。あのノビルを食って逃げたウサギはノビルに目がくらんでちょっと遠くから来たのだろう。
 




