ランドセルの殺し方
「ねえ、ランドセルってどうやって殺したらいいのかなあ」
「やっぱり高い所から落としたり?」
「ハサミでブサッと刺すだろ!」
何人かの子供が、物騒な相談をしていた。
『ね、ねえ、ランドセルが可哀想だよ……』
加えて相談の中心には、姿は子供ではあるがこれも物騒な幽霊が一体。
この妙な状況には、少し訳があった。
◇
校庭の隅に佇む、今は使われなくなった建物。そこの裏手の片隅に……幽霊は居た。
『いいなあ』
幽霊はただ佇んでいた。
何故この場所に居るのか。何故幽霊なのか。分からない。
幽霊なので、友達も居ない。そして、成長もしない子供姿のまま、そこに縛られ続ける。
毎日の登下校で子供達が背負う、色とりどりのランドセル。それがまるで生の証の様にキラキラと見えて、羨ましく眺めていた。
「ねえねえ、ランドセル欲しいの?」
突然、そうやって声を掛けてくれたのは、晴天の様な空色のランドセルを背負った女の子。
快活な姿に、私の背には無いカラフルなランドセル。幽霊は、今までに無かった期待が募り、思わず頷いていた。
その女の子はちょっと強引で、何とクラスの皆に幽霊を紹介してくれた。
実は、ランドセルをじっと見つめてくる幽霊として有名だったらしく、幽霊はその事に悶えたが、クラスの皆は割とあっさり受け入れてくれ、幽霊の悩みを一緒に考え始めた。
「ランドセルは、うちかばん屋だからさ、寄付出来そうなの持って来るよ」
「でも、幽霊ちゃんにどうやって渡すの? 透けてるから持てないんじゃない?」
「ランドセルも……幽霊になれば渡せる……?」
と相成って、冒頭の物騒な相談話となったのだった。
◇
あれやこれや考えて、とりあえず渡してみようと、かばん屋の子供が、店で売れ残って倉庫の隅にあったレンガ色のランドセルを渡してみたら……幽霊は受け取れてしまった。
「そういやうちの親、売れ残りを”デッドストック”って言ってたな」
「なるほど、”死んだ在庫”って事だから、渡せたのね」
『でも嬉しい……ありがとう』
売れ残りとはいえ、カラフルなランドセルを手にした幽霊は、皆と同じになれた気がしてほほ笑んだ。
その後、幽霊はお気に入りのランドセルを背負い、子供達の登下校を長きに渡り見守ってくれたという。
何で幽霊は成仏しなかったって?
それは、今はもう使われていない場所から生まれたから。
【死から幽霊が生まれる】なのだとしたら、幽霊は意外と近くで生まれているのかもしれない。
年末の大掃除でそういうデッドなスペース、有効活用出来ないかなと考えては断念してはや数年……うちにも幽霊が生まれそうです。
お読み頂きありがとうございました。うちにもデッドがあるよ、幽霊生まれそうという方もそうでない方も、いいねやご評価など良ければお願いいたします。