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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第4章「奪還編」
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第98話「二つの問題」

「あ、カナタ君おかえり~。 遅かったね?」


 いつものように満面の笑みで明るく迎えの挨拶をしてくれるヤマトさん。

 やっぱりネロは返って来ていないようだ。


「ただいまっす、ちょっとトラブルがあって」


「そうなんだ、大丈夫だった? ってあれ、ネロちゃんは?」


 ヤマトさんがきょとんとした顔で尋ねてくるが、ネロの行方は俺が一番知りたい。

 もしあの時ネロが逃げきれていればとっくに【天使の加護ブレッシング・エンジェル】に到着しているはずだ。

 俺はイザベラさんと別れてからネロが逃げて行った道をくまなく探したが、ネロはどこにもいなかった。

 森の中で一つだけ見つけたのは戦いの痕跡。

 それもおそらくネロの能力によるものだった。


「あ~、ネロは買い物してから帰るって言ってたんで数日後には帰ってくると思いますよ」


  感情のない声で答えてしまう。

  しかし、俺がネロの事を喋るときは決まってこういうテンションになるので怪しまれはしないだろう。


「そうなんだ。 なんかカナタ君、お疲れだね?」


 相変わらずヤマトさんは勘の良い人だ。

 彼女の場合、正確には洞察力が優れていると言った方が正しいか。


「長旅だったんで。 ところで、タイヨウは?」


「タイヨウならいつもの所で修行してるよ~」


「ありがとうございます」


 ネロがさらわれたことをギルドのメンバーに話すべきか、移動中ずっと頭を悩ませていた。

 ヤマトさんに言えば、すぐにでもネロを連れ戻せるかもしれない。

 ヴィオラさんに相談すればもっといいアイデアをくれるかもしれない。

 皆に伝えれば、簡単に事が運ぶかもしれない。

 しかし、ネロを強引に連れ戻したところで次に待ち受けるのは【天使の加護ブレッシング・エンジェル】の処遇だ。

 だからネロがさらわれたことは【天使の加護ブレッシング・エンジェル】には言わない方がいいと結論付けた。


 相手はトルール家。

 国の中でもトップの位置に君臨する大貴族だ。

 七大ギルドとは言っても【天使の加護ブレッシング・エンジェル】は知名度、実力ともに最弱(ギルドマスターが真面目にやっていないせいで)。

 ネロを連れ戻したその後のことを考えるとどうしても、誰にも話すことはできなかった。

 ただ俺一人でトルール家に向かったところで、何もできなくて終わる。

 だからタイヨウを連れて行くことにした。

 ヤマトさんを連れいき万が一の事があった場合は『神の実績(シン・クラス)』を剥奪される。

 いや、それ以上の刑になってもおかしくはない。

 そのリスクとタイヨウの『一つ目の実績(モノ・クラス)』が剥奪されるリスクを考えればタイヨウの実績が剥奪される方がいい。

 タイヨウには申し訳ない話だが、俺も苦渋の決断だった。


「あ、そうだカナタ君。 さっきヨシノちゃんがカナタ君を探しにきてたよ?」


「ヨシノが?」


 ヨシノが所属しているギルド【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】がある<天下の分かれ目キャッスル・サンリバー>は【天使の加護ブレッシング・エンジェル】がいる場所からは隣の町。

 この場所に来ようと思えば簡単に訪れられる距離ではあるが、それにしても妙だ。

 ヨシノのようにきっちりとした性格の者が俺に何も連絡なしに来ることはない。

 何か良からぬ問題でも起きていなければいいが。


「うん。 もしカナタ君が帰ってきたら時計台の近くの宿にいるから来てくれって」


「わかりました」


 ヨシノが【天使の加護ブレッシング・エンジェル】に来た理由は気になるが、ネロが攫われたのは刻一刻を争う。

 今はタイヨウにこの事実を伝えなくてはならない。


 * * *


「タイヨウ」

 

「お、カナタか。 クエストから帰ってきたんだな」


 森の中、一人で魔力を練り込んでいたタイヨウに話しかける。

 魔力の練り具合から見てもタイヨウは恐ろしいスピードで成長している。

 俺が修行を一緒にやっていた時に比べて、魔力の質が明らかに違う。

 綺麗、という表現が正しいのか。

 この魔力の整い方を見れば彼が一切修行で手を抜いてこなかったのが証明されている。

 

 しかし、今はタイヨウの努力に感心している場合ではなかった。


「で、どうしたんだ。 こんなところに来て」


 俺はタイヨウにネロが攫われてしまったことを説明した。

 できるだけ端的に分かりやすく。


「そんな、急いでヤマトさんにも……」


「それは駄目だ。 さっきも言ったが俺らの目的はバレずに何事もなかったかのようにネロを連れ戻すことだ。 バレてしまえば最後、俺らは殺される」


「でもヤマトさんなら上手くそこもできるんじゃないか?」


「いや、もしかしたらそうかもしれないがやっぱりリスクの方がでかい」


 タイヨウの意見は最もだ。

 ヤマトさんほどの実力があればもしかしたら簡単にネロを連れ戻せるかもしれない。

 でもやっぱり俺は彼女を『神の実績(シン・クラス)』としてではなく、一人の人間として見てしまう。

 だから、彼女が人生を失ってしまうリスクを考えたら頼めなかった。

 『神の実績(シン・クラス)』はいわば国の軍事力と言っても過言ではない。

 <危険領域ブラック・テリトリー>に囲まれているこの国から見れば『神の実績(シン・クラス)』が動くことは、国の戦力が動くようなもの。

 『神の実績(シン・クラス)』はそれぐらいの目で見られているってヴィオラさんが言っていた。

 だから国からの信頼がある彼女が動けば、大貴族であるトルール家よりも優待してくれるかもしれない。

 でも万が一が、千に一つが俺の頭にこびりついている。

 だから、ヤマトさんには頼めなかったのだ。

 

「だから俺らで行くしかない。 ただお前にも選ぶ権利がある、断ってもらっても構わない」


 俺はタイヨウの目を見て伝えた。

 こう言ってしまえば正義感の強いタイヨウは断れない。

 ずるい事をしてしまったと自分で思っている。

 俺がもっと強ければ、力があったらタイヨウに頼らずとも一人でネロを連れ戻せたのに。

 

「行こう!」


 タイヨウは俺の予想通り二つ返事で了承してくれた。

 タイヨウが持つ真っすぐとした瞳に俺は目を合わせることができなかった。


「すまんな、タイヨウ」


「え、何で謝るんだ?」


「お前なら断らないってわかっていたのにも関わらずお前を誘った。 本当なら俺一人で行けばいいだけだが、俺では力不足もいいところだ」

 

「気にすんなって、俺らは仲間だ!」


 顔を上げた瞬間、タイヨウの眩しすぎる笑顔が映る。

 やっぱり、タイヨウは良い奴だ。

 人が良すぎるのだ。

 彼は逆に人間としては異質な存在かもしれない。

 仲間のためなら自分の身が犠牲になっても構わないと心の底から思っている。

 彼はそういった状況になれば一番に自分の身を捧げる。 

 だから危ない。

 だから彼を放っておけないのだ。


「ありがとな、タイヨウ」


「おう! でもそうと決まったら出発するのは早いほうがいいんじゃねえか?」


「ああ、その通り出発は明日だ。 作戦は俺が考えておくから、お前は明日のために万全のコンディションで来てくれ」


「了解!」


 手のひらと拳を突き合わせ、タイヨウは明快に返事をしてくれた。


 作戦は慎重に考える必要があるが、時間がない。

 俺も帰って考えなくてはならないが、ひとまずヨシノの元に行かなくては。

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