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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第4章「奪還編」
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第97話「逃げた先にあった光」

 ネロは走ってとにかく走って逃げていた。

 残してきたカナタのことが気掛かりではあったが、自分が逃げないことにはカナタの行動が無駄になってしまうから。


 でも、今のネロには力があった。

 ネロは自分の実力を過信しているわけではないが、どうしても幼い頃の自分と比べてしまう。

 何もできなかったあの時。

 守られてばかりだったあの時。

 でも、今は違う。

 今は強くなっているから。


 ネロは逃げていた足を止め、後ろを振り向き杖を構える。


「もう私は、逃げない!」


 ネロは溜めていた魔力を一気に解放した。

 地面の土が隆起し、その部分からツタが生える。


 ネロを縛りつけていた過去がこの能力を発現させたのだ。

 棘はネロの痛みを。

 太く逞しい幹はネロの成長を。


 彼女はこの能力を気に入っていた。

 能力が発現した当初のネロのツタは道に生えた雑草程度の太さ。

 棘などついてもいなかった。

 しかし、ネロが修行をつけていくにつれツタは太く長く、そして恰好よく生えてきたのだ。

 ネロにとっては、その成長が何よりのモチベーションだったのだ。


 追手のメイドは足を止め、自動小銃を構える。


「打つなら打てば?」


 ふてぶてしい態度のネロにメイド達が一斉に銃を乱射する。

 それぞれの銃口から火花が散り、激しい銃声が森に響き渡った。

 それでもネロは焦らない。

 ネロの目の前には一瞬にして壁のようなツタが生え、銃弾を防ぐ。

 ネロのツタは魔力が籠っているわけではない。

 だから銃弾はネロのツタを貫通するはずだが、それはツタが一本の場合のみ。

 このツタは何重にも重なっているため、銃弾はネロの元に届くはずはなかった。

 これはカナタが新人戦の時、ネロの能力を使用した際に使った技。

 ネロはあの瞬間カナタが自分の能力を使ったことに対して驚いてはいなかった。

 本当に驚いたのはネロよりもネロの能力を巧みに操っていたこと。

 カナタを舐めていたネロだったからこそ、その驚きは人一倍衝撃になった。

 ヤマトが連れてきたどこにでもいそうな平凡な男。

 そんな男が『神の実績(シン・クラス)』に勝ってしまった。

 【天使の加護ブレッシング・エンジェル】が歓喜し、観客も湧く。

 そんな中でネロはこれほどない屈辱と、代えようのない悔しさがネロの全身を襲っていた。

 ギルドの期待がカナタに向いてしまったと思ったから。

 自分の唯一の居場所が取られてしまうような気がしたから。


 ただそのおかげでネロはその日から修行をサボることはなかった。

 雨が降ろうが、風が吹こうが、雷が落ちようがただただ修行を続けられた。

 だからネロは目の前に対峙するメイドがいても焦らない。

 ネロの経験が、ネロの努力が、彼女の不安を掻き消していたのだ。

 

 ネロはさらに魔力を解放する。


「『弧人に咲く一輪の花アイデンティティ・フラワー』」


 能力を発動し、メイド達の足元からツタを生やす。

 メイド達が捕まったことをツタで確認したのち、ネロは目の前作った壁であるツタを取り払った。


 メイド達は何とかツタから脱出しようとするが、身動きが取れていない。

 メイド達の足元から生やしたツタには棘をつけてはいないが、代わりにツタの強度を増していたから。


 ふう、と一息つく。


「っ!」


 ネロは直後、体に感じた違和感により木陰に身を隠した。

 そして頭があった位置に目にも止まらぬ速さの弾丸が飛んできていたのだ。

 正確に頭を狙っていたと、その弾道によってネロは判断する。


「スナイパーね……」


 ネロの体が反応した理由は突発的に発動された魔眼によるもの。

 何とか使いこなせるように修行はしていたが、何せ使った事のない能力だったため修行もどうやればいいかがわからない。

 カナタに魔眼の使い方を聞くなど、ネロができるはずがない。

 ふとしたタイミングで魔眼を発動できた時には使用後、体にとてつもない倦怠感が襲ってきた。

 つまり、ネロはまだ魔眼を自分の意志では発動できない。

 しかし緊急事態、こと自分の身に危険が迫った時には自動的に魔眼が発動する。

 それは、護衛クエストのときに確認できたことだった。

 あの時はカナタが先陣を切って動いたが、カナタが動くよりも先にネロは能力を使っていたのだ。


(今ならできる!)


 ネロは魔眼を発動した。

 ネロの目に映ったのは、ネロが銃弾で撃たれる未来。

 そして、一瞬だけ微笑んだ女性の姿が映った。


「なんで、あなたが?」


 ネロの口から出た言葉は切なく、儚い一言であった。


「ネロ!」


 森の奥、ネロが向いている方向から姿を現したのは彼女が愛してやまない人物。

 ネロは知っているこの彼女の姿を。

 幼い時に出会った彼女の姿を。

 かつて自分の命を助けてくれた恩人の姿を。


「ミア?」


「さあ帰りましょうネロ。 温かいスープを作ってあげるわ」


 ネロは自然と涙が零れていた。

 死んだと思っていた家族が目の前にいる。

 かつてミアを失った悲しみ、トルール家から出て行った時から持っていた罪悪感が全て取り払われた気分だった。


「ミア、あなた本当にミアなの?」


「ええそうですよ、ネロ様」


 幼い頃に出会った頃と全く変わらない。

 時折見せる愛の籠った微笑に、美しく真っすぐな瞳。

 この人物こそ紛れもなく幼い頃にネロが憧れていた人だ。


「変わっていない?」


 ネロが言葉を発した瞬間、ネロの頭に銃が放たれた。


 そのままネロは地面に倒れる。

 ネロの体を伝っていたのは痛みと強烈な睡魔。

 

 体が倒れていくときにネロはミアの姿を見ていた。 


「殺してないでしょうね?」

 

 ミアは銃を撃ったメイドに向かってはっきりとその言葉を言った。

 そしてミアは違う顔へと変化する。

 そうミアの顔はネロが幼い頃出会ったときから何一つ変わっていなかった。

 そんな事はあり得ない。

 ネロでさえ、年を取って成長している。

 いくら大人の成長は見えにくいとは言え、年を取れば必ず体は変化する。

 つまり変化がなかったということは、明らかに人間としておかしいのだ。


「麻酔銃だ」


 ネロの目にぼんやりと映ったのは二人のメイド。

 そこにミアの姿はない。

 そして答えがわかったところでネロは意識を失った。

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