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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第4章「奪還編」
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第94話「影の刺客」

 俺はフリルを取り出した。

 それと同時に、俺の首元に変な気配を感じる。

 体を多く反らせ、その斬撃に近い気配を避けた。


「見えねえ……」


 俺の首を掠めた殺意は、明らかに俺の首を狙ったもの。

 俺らの馬車への襲撃から常時魔眼を解放しているが、何も魔力が感じられない。

 この状況から察するに、敵は何らかの能力を使って透明になりかつ魔力を消している。

 俺の感覚だが、このツタの中にはすでに十人ほど侵入している気がする。


「少年君、その態勢から動かないでね~」


 俺が体を起こそうとした瞬間蠱惑的な声が聞こえてくる。


「まじかよ」


 目では見えていないが、イザベラさんの声がした方から圧倒的な魔力を感じた。

 

 俺の態勢がきついことは言うもでもないが、今は『神の実績(シン・クラス)』を信じるしかない。

 この場で一番信用できる力は紛れもなくイザベラさんだ。


「『死に至る歔欷の毒(ポイズン・デビル)』」


 イザベラさんから放たれたのは、髑髏形の毒。

 俺がそれを毒と認識したのは、色や形だけではなかった。

 その毒が俺の周りにいるであろう、人間に付着したからだ。


「う、あああああ」


「あ、う、があああ」


「だあああ!」


 空間の所々から悲鳴が聞こえてくる。

 イザベラさんが放った能力によって、透明の敵が出現したのだ。

 これで片付いたと思い、さすがにきつくなってきた態勢を戻そうとしたところで俺の前髪を何かが掠めた。

 ふわりと俺の黒い髪が宙に舞い、いつもの位置にあるはずの前髪が少し切られていた。


 その後、周りから血しぶきが上がる。

 イザベラさんの魔力も落ち着いたことを確認し、ようやく辛い態勢の体を起こす。


「美人なのにやることえげつねえな」


 イザベラさんは手を頬に当てながらうっとりとした表情を浮かべていた。


「ふふっ。 褒め言葉、だよね?」


 目は、笑っていない。

 だから俺も愛想笑いを浮かべておく。


「てか、今考えたらこうやって狙われるんだから俺達のも同じ馬車にしといてくださいよ」


「ん? 王女様が乗っていた馬車は、あれじゃないわよ」


 イザベラさんが指を差したのは、俺らが乗っていた馬車の一つ後ろの馬車。


「なるほど、最初からあれはダミーだったってことですね」


 王女が狙われるのは承知の上。

 わざわざダミーのためにあんなに豪華な馬車を用意した。

 おそらく、王女が乗っていた貧相な馬車は内装こそ綺麗だろう。


「でも、おかしいわ。 狙わうなら、あの豪華な馬車が真っ先に狙われるはずなのに……」


 確かにイザベラさんの言う通り。

 狙うなら明らかに王女が乗っていそうな馬車のはず。

 それなのに、狙ったのは俺らが狙ったのは先頭の馬車。


「うーん、可能性があるなら私達の中に裏切り者がいるとか?」


 イザベラさんは顎に手を当てながら真犯人を探している。


「それはないでしょう。 だったらもっと早く王女を殺せるでしょうに」


「それもそうね、でもだったらなおさらわからないわ」


 狙っていたのは王女ではない。

 だとすると、犯人は何を狙っていたのだろうか。


「ま、いいわ。 あ、そうだカナタ君、まだ私達を襲撃した敵がいると思うから探してきてくれる?」


「え、なんで俺?」


 俺らの馬車を襲撃した敵を考えていたところに絶妙な間でイザベラさんに俺に頼み事をした。

 まさにこのタイミングしかないという間で。


「あなたしかいないでしょう。 私と近衛兵は王女様を守らないといけないし、ネロちゃんは可愛いし」


「最後のネロが可愛いってところがよくわからないんですが……」


「よろしくね」


 ニコッと微笑んだイザベラさんの圧は凄かった。

 A級魔族と対峙した時のような感覚。

 この圧に何も言い返せなくなり、なぜだか俺が悪いみたいな空気が流れている。

 この人の本当の恐ろしさは内に秘めた凶暴性ではなく、周りの空気を支配し人の心に漬け込む凶悪性なのかもしれない。


「はい……」


 言い返せない自分が情けない。

 しかし、冷静に考えてみれば適任なのは俺しかいない。

 このクエストの目的は王女を怪我一つなく<新しい世界の入り口(ニュー・タウン)>まで護衛することだ。

 このクエストを達成することに一番重きを置く必要がある。

 だとすれば、この中で一番強いイザベラさんが残るのは当然。

 それにネロの能力は一対一の戦闘には向いていない。

 そう考えれば、必然と俺になってくるということだ。

 イザベラさんはわざと圧をかけているように振る舞っているが、多分彼女なりの最適解を導き出してのことなのだろう。

 彼女も彼女を演じているのかもしれない。

 この人も難儀な性格をしている。


 それに、見えない敵に対して俺の勘はマッチする。

 俺の魔眼が見えない敵に対して効果はなかったが、<危険領域ブラック・テリトリー>で培った(勝手に付いてしまった)勘は効果的だ。

 魔獣の敵意と人の敵意はどちらも似たような感覚がある。

 人の敵意は相手を殺したいという自然的な要因が大きな割合を占めるが、魔獣が発するのは純粋な殺意。

 そのため魔獣の殺意は察知しやすいが、人の敵意は気づきにくい。

 なんせ人には感情と言う他の種族に比べて傑出した機能が備わっている。

 それに感情なんか関係なく殺意を出すことも可能。

 これが人間が人間たる所以だろうな。


 ただ、俺が人間の殺意に適応できないわけではない。

 <危険領域ブラック・テリトリー>にいた魔獣は人間の殺意に近しい殺意を持つ。

 なぜ<危険領域>の魔獣が人間に似た殺意を持っているのか。

 それは<危険領域ブラック・テリトリー>の名のという通り生きているだけで死と隣合わせの特殊な区域だからだ。

 あの場所では魔獣も生きることで精一杯だった。

 楽に生きているのは、カースト上位の魔獣だけ。

 そう考えると<危険領域ブラック・テリトリー>もこの世界と似ているのかもしれない。

 能力のある者は上に行き、ない者は恐怖から逃れ続ける。

 その色がより鮮明に反映されているのが<危険領域ブラック・テリトリー>だ。


「気をつけなさいよ」


 珍しくネロが俺を心配してくれた。

 見えない敵に対してのせめてもの慰めだろうか。


「ああ」

 

 俺も軽い返事で済ませてしまったが、彼女も少しは気にかけてくれるぐらいの関係性になっただけ良い兆しかもしれない。

 それは俺にも言えることだった。

 短いと言われれば短い期間かもしれないが、俺も少しだけこいつらに情が湧いてきてしまっている。

 【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】の連中もそうだった。

 最初は仲良くする必要なんてないと思っていたが、気づいたら顔見知りにまでなり、時が経てば応援するまでになっている。

 やっぱ人生ってわからないものだ。

 だから、面白いのかもしれないが。

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