第93話「護衛」
馬車に揺られながら、窓の外を眺めていた。
太陽の光も差し込むことで車内も暖かくなりうとうととしてしまう。
馬車には近衛兵一人と俺とネロ。
特に会話なんてなく、眠たくなってしまうのは自然の理。
しかし、これは仕事。
俺はこう見えて、仕事となれば熱心に取り組む。
人参を目の前に置かれた馬車馬のように。
俺で言い換えればお金を吊り下げらた、哀れな人であるが。
でもそれだけお金を大事に思っている。
この世では一番信頼できるものだからな。
何にも代えられない俺の唯一の精神安定剤。
だからこそ金が絡めば熱心になるのは当然だ。
「つーか、こんなに警備いるのか?」
さすがに暇が勝ってしまったから、俺はネロへと言葉を懸けた。
「まあこの国の王女だから、このぐらいの警備でも少ないほうでしょ」
「そういうもんか」
「そういうもんよ」
ネロも暇だったのか、面倒くさそうに俺の言葉に応えてくれた。
しかし、ネロと会話などないに等しいので会話のキャッチボールもすぐに終わってしまう。
ちなみに、俺はあまり会話が得意なほうではない。
それもそう、子供の頃の多感な時期を<危険領域>で過ごしてしまったのだから。
それに相手はネロ。
会話レベルの難易度は上級超えて、G級だ。
生半可な理論武装では太刀打ちできない。
ちなみに、俺が好きなのは大剣。
「つーか魔力があるんだったら、移動とかなんとかなるんじゃねえか? こう車に魔力注いで的な?」
この異世界はまだまだ文明としては遅れている。
比較対象が俺のぼんやりとした記憶でしかないが、魔力と言う現実からは程遠い存在があるのにも関わらずだ。
これだけ不可思議な力があるのに、移動手段や連絡手段それに類する近代的な発明がない。
魔力があるのに移動もまだ馬車で行っているというのは少しばかり気掛かりだった。
「それは無理よ。 あんたみたいに魔力の使い方が器用ならできるのかもしれないけれど、普通に魔力が使える人で魔力を動力のように使うのは至難の業よ」
「じゃあ、魔力を注ぐことでエンジンのようにできる、そんな魔力を変換できる機械なんかねえのか?」
「口で言うのは簡単よ。 でも魔力の変換は思ったよりも複雑で難しいわ、それに魔力の仕組みだってまだ解明されたわけじゃないんだし」
言われてみれば確かに、この国には魔力についての文献が少ない気がする。
だから魔力を使える者は己の経験で魔力を解明していくしかない。
そういえば俺がアザゼルに聞いた知識をタイヨウにひけらかしたところ、感動して俺を尊敬の眼差しで見つめていた。
この魔力の知識をヤマトさんに話してみても驚いていた。
何でも、俺の知識は知らない角度からの知識らしい。
『神の実績』であるヤマトさんが驚いたとなれば、この国の魔力への知識のレベルは推し量れる。
となると、やっぱりこの国<プラシアス>の魔力のレベルはまだまだってことだ。
「でも魔装武具のような武器もあるんだから、できそうなもんだけどな」
「それは【機械仕掛けの工場】にでも聞いてみなさい。 あそこがこの国の魔装武具製造率の九割近くを担っているみたいなもんよ」
「へえ。 じゃあもしかしたら、すぐ出来ちまうかもしれねえなあ魔力を注ぐだけで走る車」
「さあね、私たちは待つことしかできないわ。 それに何かの圧力がかかっているのかもしれないし……」
「圧力?」
ネロは俺の隣に座る近衛兵に目を向けた。
なるほどな、隣にいる奴には一番知られちゃ不味いことってことか。
「え~、もし私の事を怪しんでいるようでしたら心配なく。 私はあくまでも王女様の護衛がお仕事ですからね、仕事以上のことは何も知りませんよ」
はにかんだ笑顔が印象的な男性。
近衛兵の衣装と言うべきか、金属でできた胴当てを身に着け肘にも金属の防具を纏っている。
頭にも銀色のヘルメットを被っているが、そこまで重厚な防具ではなかった。
今回は移動が多いからか甲冑のように重たい装備は外してきており、いつも街で見かける近衛兵よりかは装備が軽そうだ。
「近衛兵っていうのも大変よね、王女様を守ることに人生を捧げるなんて」
ネロが憐れむような声で近衛兵に語り掛ける。
ネロの事を知らなければただの嫌みでしかない。
しかし、ネロは自分の人生をめちゃくちゃにされた身だ。
だからこそ、自由に生きられる選択肢があるのは羨ましく、そして腹立つのだろう。
「そんなことはありません!」
「え?」
急に声を上げた近衛兵にネロは体をビクッと震わす。
「私はこう見えて、治癒不可能な病に侵されていました。 そんな時、私の命を救ってくださったのが王女様なのです。 私はその時決心しました、この人の為に生きると、この人の為に命を捧げると」
「あっそ」
ネロは近衛兵の情熱に愛想をつかしたのか、窓の外へ目を向けた。
嫌みを言ったつもりが、近衛兵の忠誠心はネロの想像以上だったらしい。
「ん?」
ネロを眺めながら、ネロが向いている窓の方を眺めていたら何かおかしな空気を感じた。
俺は気配に敏感だ。
<危険領域>のせいで遠くから自分に迫る危険にも察知できるようになってしまった。
だからわかる、今この場に危険が迫っているということが。
「伏せろ!」
俺の言葉に反応して、この馬車内にいた近衛兵とネロが伏せる。
その瞬間に馬車にある窓から矢が飛んできた。
「ネロ! 今すぐ能力使って全ての馬車包め!」
「私に指図しないで!」
反論するように言葉を重ねてきたネロだが、ネロもこの状況を察知しておりすぐさま能力を発動した。
そしてネロの能力『弧人に咲く一輪の花』によって縦に並んでいた馬車を囲む。
俺達の馬車は一番先頭。
そして真ん中には王女が乗っている豪華な馬車がある。
クエストは、王女を傷一つなく送り届けること。
ただ、王女の傍にはイザベラさんがいるのでひとまずは大丈夫だろう。
となれば俺らがやるべきことは敵の位置を探し、始末することだ。
俺は馬車の扉を蹴破り、外へと出る。
魔眼:『深淵への誘い』
魔眼を使いあたりに魔力の反応がないかを調べる。
しかし、魔眼に敵らしい反応はなかった。
「どこにもいねえ……」
「はあ? いないわけないでしょ!」
ネロも馬車から飛び出し、周りを見渡している。
「いや、見当たらねえ。 遠くからの狙撃か?」
狙撃にしてはあまりにも正確。
窓の中にいる俺らの頭を確実に狙っていた。
それにしてもなぜ一番前の馬車を狙ってきたのか。
狙うなら、王女が乗っている豪華な馬車のはずなのに。
「ん? ネロ、ツタ塞がってねえぞ」
「はあ? んなわけないでしょ、私はここら一帯を包んだはずよ!」
俺が見たのは、人ひとり入れるぐらいの穴。
しかも、切り裂かれたような跡。
何かおかしい。
このツタを見る限り明らかに、人為的に作られた切り傷。
ネロの能力でこんな
「王女様! ご無事でございますか!」
その瞬間に俺達と一緒に乗っていた近衛兵が外に出てきてしまった。
「馬鹿野郎、外出るんじゃねえ!」
「あ……」
その瞬間近衛兵の首が刎ねられ、目の前で血しぶきが吹き散った。




