第91話「トイレと天使様」
「トイレ、トイレ……」
イザベラさんと会った緊張からか、催してしまいこのどでかい城の中へとお邪魔した。
それも壁を伝って中へと侵入。
一見不法侵入に見えるが俺にはトイレに行きたいという免罪符が付いている。
「いや、どこだよトイレ……」
中に入ったはいいが、扉が多すぎてどれがトイレなのかわからない。
絶対こんなに部屋いらないだろ。
でもどうやらこれが金持ちの金の使い方らしい。
てか、そんなに金あるんだったら俺に少し分けてくれてもよくね?
どうせ空き部屋あるんだったら、俺に一つくれてもよくね?
まあ俺だったら絶対に渡さないけど。
「おっと、そんな事考えている場合じゃねえ」
さすがに我慢の限界だった。
今俺が取るべき行動は片っ端からドアを開けていくこと。
背に腹は代えられないし、漏らすことは不法侵入に代えられない。
片っ端から扉を開けていきたいが、一つの扉それぞれに鍵がかかっており開く扉が一つもなかった。
ガチャガチャとドアノブを回していくも扉は開かない。
その音が余計俺の尿意を増幅させた。
扉を片っ端から俺の目の前には大きな扉があった。
他の扉と比べても一際大きく、一層豪華。
内開きのドアなのだろうか、扉には取っ手が付いておりドアノブ型ではなかった。
扉に手をかけた瞬間、俺は他のドアに比べて重さがないことに気づく。
ここしかない。
俺の中で完全に答えまで辿り着くことができた。
それはなぜか。
なぜなら、トイレは人が入っていれば扉が閉まる。
ということは、トイレだと判断するために大きな扉にトイレを設置しているのではないのか。
なんて冴えているのだ今日の俺は。
この極限状態だからこそ、俺はこの考えに行きつけた。
まさにゾーン状態。
そして俺は勢いよく扉を開ける。
俺の目に映った世界はトイレ、ではなかった。
まず目の前に見えたのは、白色の天蓋がついたアンティークなベッド。
キングサイズと呼ぶのにふさわしい豪華なベッドである。
ただそのベッドも俺の目には、一つの置物としか映らなかった。
その隣に座っていた人物に目を奪われていたから。
ベッドのわきにいたのは下着姿の可憐な少女。
太陽光によって一際輝く肌色の肢体。
銀髪の髪は癖っ毛が一つもないほど丁寧にとかれ、その髪から見える顔は天使のような顔立ちだった。
欧風の顔立ちで、大きな瞳はずっと見つめ合ったら蕩けてしまいそうなほど神々しい。
そして俺はどうやら最悪なタイミングでこの扉を開けてしまったらしい。
これから服を着るという寸前で俺が突入したという流れになっている、と思う。
目の前にいる少女も、何が起こっているのかわからない様子で固まってしまっている。
俺は一旦、冷静に扉を閉めた。
どうするべきか。
俺が何を説明したところでどうせ何を言っても信じてもらえない。
しかし、俺の言葉を聞いてくれないと犯罪者となってしまう。
不法侵入に加えて、覗き。
そしてここは国のトップが住まう城。
無期懲役、果ては死刑となってもおかしくはない。
「えっと、まずは俺の話聞いてくれない?」
「きゃ」
少女が叫ぼうとした瞬間俺は少女の元へと一瞬で駆け寄り、口を塞ぐ。
「んー、んー!」
半泣きの彼女の口を押えるのはかなり心にダメージが蓄積されるが、今は心のダメージを気にして入られない。
ここを切り抜けられなければ、俺の人生は詰んでしまう。
「お前の気持ちは痛いほどよくわかる。 何も知らない男にこうやって拘束されていることは本当に怖いことだ。 ただ俺は本当にお前に危害を加えるつもりはない、ただ、ただトイレに行きたいだけなんだ!」
最後の言葉を叫ぶように彼女に伝えた。
危害を加えているのにも関わらず、危害を加えていないと言ったのはあくまで彼女に信用さしてもらうため。
「頼む、信じてくれ……」
俺なりに半泣きの顔を作ってみる。
状況が状況であるから、何を言っても信じてもらえない。
ただ俺の熱意(トイレに行きたい気持ち)が彼女に届くことを信じるしかない。
「ん……」
彼女の半泣き顔は崩れることはなかったが、暴れることはなくなった。
俺もそれに釣られるようにゆっくりと彼女への拘束をほどく。
「お願いします! 信じてくださいいいいい!」
秘技、土下座。
魔力も使用せず、発動条件もない。
ただし、己の自尊心の失われてしまうという恐ろしい必殺技。
俺の奥義と呼べるにふさわしい必殺技だ。
今回は出力最大。
床につけたおでこから血を出しそうなほど、擦り付ける。
「あの、顔をお上げください」
「へ?」
ゆっくりと顔を上げると、服を自分の体に巻き付け下着姿をみせないようにしている女性が優しい目を俺に向けてくれていた。
恥ずかしさや恐ろしさを拭いきれていない彼女ではあるが、どうやら信じてもらえたようだ。
「あの、ひとまず御手洗いはあちらです……」
彼女のその言葉を聞いた瞬間、抗えない尿意が俺の全身を伝った。
俺は彼女が示した先へと一目散に行き、用を足したのだった。




