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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第3章「七大ギルド新人戦編」
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第89話「憧れていた世界」

「なんと、なんと! 新人戦が始まるまで全くの無名だったカナタ選手、新人戦で注目を集め、最終的には『神の実績(シン・クラス)』であるジェット選手を打ち破ってしまいました! これを奇跡とと言わずになんて表現すればいいんでしょうか! 今私たちはまさに新たなスターを見つけてしまいましたあ!」


 アナウンサーの観客に同調されたのか口調も激しくなっていた。


 異世界に来てから初めての経験だった。

 いや、元の世界の微かな記憶を辿ってみてもこんな経験はないだろう。

 異世界に来てこの景色を見たいと思っていた。

 これこそが俺の思い描いていた、煌びやかな異世界だ。

 人に褒められ、人から注目を浴びる。


 でもやっぱり俺はこの場所に立つべきではないと改めて思った。

 俺はこんなに拍手を送られるほど、人としてできてはいない。

 遺跡の盗掘、路上睡眠、その他の軽犯罪等々。

 思い出せばキリがないことをこの異世界でしてしまっている。

 もっと他にいるはずだ。

 この世界は思っているよりもずっとずっと広い。

 俺が異世界に来ている時点で二つも世界が存在するから。


 さあギルドに帰ろう。

 ヤマトさんの手料理が楽しみだ。


 * * *


「すげえ……」


「嘘でしょ……」


 タイヨウとネロは真剣にカナタの戦いを見ていた。

 ヤマトが隣でちらちらと見ていたが彼らは瞬きなんてしていなかった。

 それもそのはず、カナタはタイヨウとネロの能力をまるで自分のものかのように扱っていたから。

 しかも自分達よりも遥かに高いレベルで。

 今まさに彼と彼女はカナタとの実力差を肌で感じ取ったのだ。

 カナタの強さを、カナタの底知れぬ能力を。


「勉強になったでしょ?」


 ヤマトは微笑みながらタイヨウとネロに語り掛ける。

 意地悪な質問だ。

 勉強になることなんタイヨウ達が一番わかっている。

 ただそれをあえてヤマトは問いかけた。

 カナタに付いていけば間違いはないと。

 まだネロにはカナタに対して疑念がある。

 タイヨウもきちんとカナタの実力を見ていない。

 だから、今嘘なんかつけないこの場で見ることができたのは大きいことだ。


「ヤマトさん知ってましたか、あいつがあんなに強かったって」


「私も初めて見たよ。 でも、わかってた。 だって普通の人間が〈危険領域ブラック・テリトリー〉を生き延びれるはずがないもん」


「……それ本当ですか?」


「……噓でしょ、ヤマトさん!」


「え!? どういうことヤマト姉!」


「それは本当か、ヤマト……」


 タイヨウとネロが驚いた顔をして、ヤマトを見つめる。

 加えて、近くに座っていたチェロといつも口数が少ないタイガーが反応を示していた。


「あれ、言ってなかったっけ?」


「ヤマトさん前に黙っていた方が面白いからって言ってましたよ……」


 ヴィオラがため息交じりに肩を落とす。

 こういうヤマトの発想に常に振り回されているのがヴィオラらしさだが。


 ヤマトは鼻が高かった。

 だからこの事実を黙っていたのかもしれない。

 〈危険領域ブラック・テリトリー〉を生き抜き、〈未開拓遺跡ラビリンス・リメインズ〉でタイヨウとネロを助け、魔族侵攻で【天使の加護ブレッシング・エンジェル】を守り、果ては『神の実績(シン・クラス)』に勝ってしまった。

 ヤマトが気まぐれで拾った子は、もしかしたら常軌を逸した子なのかもしれない。

 いや、もう仮定の話ではない。

 彼は、カナタ・アゼレアは間違いなく強い。

 そしてそれが大衆の目に晒された。

 その事実がこんなにも嬉しいことはなかった。


「やっぱり恰好いいね、カナタ君は……」


 まだ歓声は鳴りやんでいない。

 そして【天使の加護ブレッシング・エンジェル】の面々はヴィオラにずっと質問をしている。

 おそらくヤマトに聞いても満足のいく答えはもらえないと思ってのことだろう。

 だから、ヤマトは近くにいる誰にも聞こえない声でぼそりと呟いたのだった。


 * * *


「……すごい」


「だめかー!」


「カナタ、強い」


 エド、シダレ、ヨシノが驚くのと同時に感嘆の声を漏らす。

 【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】が座っている席は盛り上がってはいなかった。

 今回、この特別試合は【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】はジェットを応援すると決めていた。

 もちろんカナタを応援していないわけではない。

 ただある意味、彼女らにはジェットに期待していた部分があった。

 カナタに自分達の成長を見せたいと思っていたからこそ、ジェットに勝ってほしかった。

 自分達は負けてしまったけれど、『神の実績(シン・クラス)』になった【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】のエースなら勝ってカナタをぎゃふんと言わてくれる、そう思っていたはずだ。

 でもやっぱりカナタは強かった。

 〈桜の遺跡ブロッサム・リメインズ〉で自分達の命を助けてくれた恩人は、数年経ってもヒーローのままだったのだ。


「あれがカナタ君、私達を救ってくれたヒーローだよ」


 アルはコロッセオの中央に位置するカナタを見つめていた。

 そして改めて、自分の気持ちが嘘ではないことを確認する。

 アルがカナタに抱いてしまっている感情は、好意だけでは収まらない。

 〈桜の遺跡ブロッサム・リメインズ〉で出会ったときからずっと、カナタを敬愛していた。

 本当は【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】に入って、この子達の道しるべになって欲しかった。

 ずっと隣にいて欲しかった。

 でも、カナタはどんどん遠くに行ってしまう。

 アルは嬉しいような、悲しいような複雑な感情を抱いてしまっていた。


「アルさーん、おーい」


「え?」


 隣にいたエルゼに声を掛けられ、はっとするアル。

 カナタを思ってしまったあまり、現実から離れてしまっていた。


「さ、アルさん。 とりあえず二人を迎えに行きましょ!」


 エルゼが快活な声でアルを誘う。


「そうね」


「アル・グリーンさんでしょうか?」


 アルも他の人に付いていこうと席を立った時、黒服に身を包んだ背の高い男性に声を掛けられた。

 アルは誰か全く分からなかったが、丁寧な所作によってそこまでの警戒心を持っていない。


「どちら様でしょうか?」


 アルはきょとんとしながら黒服の男性の名前を聞く。


「私は【仮面の道化師(クラウン・ジョーカー)】のレギオン・スカーと言うものです」


「どうしてあなたがここに?」


「実はうちのマスターがアルさんを呼んでおりまして、今回は迎えに来た次第でございます」


「ブルシットが私に?」


 アルは脳内を検索してみたが、思い当たることはなかった。

 ブルシットとは旧知の仲ではあるが、今まで一回も二人きりで喋ったことはない。

 アルはあまりブルシットは得意ではなかった。

 あの攻撃的な性格、誰にも構わずつっかかるブルシットは温厚なアルにとってしてみれば真逆の性格なのだ。

 ただブルシットからの誘いを特に断る理由もなかった。

 優しいからこそ、ブルシットに何か特別な理由があると思ってしまっている。


「アルさーん、どうしたのー?」


 さっさとカナタとジェットを迎えに行こうとするエルゼが大きな声でアルを呼んだ。


「ごめん、ちょっと私用事できたから先に行ってて!」


「はーい!」


 コロッセオの性質上、空間の上下で会話するため自然とアルの声も大きくなる。

 ただ周りはこの会話など聞こえていない。

 『神の実績(シン・クラス)』を倒したカナタの賞賛でいっぱいだ。


「さあ、アルさん行きましょう。 私がご案内させていただきます」


 ニコッと笑ったレギオンの顔は完璧だと言っていいほどの笑顔だった。

 どこにも人間味がない、作られたような笑顔。

 だからこそアルの頭には少しだけ疑念がよぎる。

 しかしそれはただの杞憂に過ぎないと結論付けた。

 仲間同士で疑い合うことなど、アルは考えてもいないことだから。

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