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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第1章「未開拓遺跡編」
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第8話「災い転じてなんとやら」

他サイト様との投稿のズレが生じていました。

今回で修正させていただきます。

「あ……」


 助けた青年が走り去っていくのを見届けたタイヨウであったが、走り去った後の道を見るとそこにはボロボロの黒い財布が落ちていた。


「これって……」


 それを拾い上げ財布を見渡す、確信はないがおそらく彼のものであろう。


「ま、またどこかで会えるか!」


 タイヨウは能天気であった。


「あ~! どこほっつき歩いてんのよ! この単純細胞人間! ってどうしたのよその傷! 誰にやられたの!? 言いなさい! 私がぶっ飛ばしてきてやるんだから!」


 一人の可憐な少女が大通りから大声を上げながら姿を現す。

 赤い髪のポニーテール少女はその艶やかな髪を腰近くまで伸ばしている。

 目は切れ長で表情は常に怒っているようだが、透き通った肌で端正な顔立ちをしているため美少女と呼ばれるにふさわしい顔つき。


「いや~、これには色々と深い訳が……」


 その怒涛の言葉攻めに、たじたじのタイヨウ。

 しかし言葉の口撃をやめることはしない少女が、タイヨウをさらに捲し立てる。


「深い訳ってなによ。まさか、また変な事件にでも巻き込まれたんじゃないでしょうね!」


「違う違う、そういうのではないんだ。とりあえずギルドに帰ろう、な。 ネロ」


 タイヨウは急ぐ彼女を制しながら、歩きはじめる。

 ふと手に持つ財布を見て、先ほどの戦いを振り返っていた。


(それにしても、なんであの子はあんなに的確に相手の能力がわかったんだろ……)


「――って聞いてんの、タイヨウ!」


「あ、ごめんごめん」


 隣のネロに思慮を邪魔され、考えることはやめてしまった。


 人々の行動の自由を少しでも奪おうとする熱い太陽が体をじりじりと焼き付け、この街を照らし続ける。

 神を信じ、神に愛されていると信じている人々はこの祭りに幸せな暮らしを願い続けるのであった。


 * * *


「あいつらどこに行きやがった……」


 大通りをくまなく探し、必死にチンピラ達を探すもこの広い街で見つかるわけはなかった。


 すっかり日も暮れ、祭りも終焉に向かっているのか人通りも少なくなってきている。

 夕焼けに照らされた町は赤く彩り、昼間とは正反対と言っていい雰囲気を醸し出していた。


 しかし、そんな街の雰囲気に浸っている場合ではない。

 命と同じ価値の財布がないから。


「はぁ、財布があったとしても今日は飯抜きか……」


 その言葉を口に出した途端、悲惨な現実が自分を襲ってきた。

 脇道に腰を下ろし、再び大きなため息をつく。


「今日は早く寝て、また明日小銭稼ぎに行かないと……」


 かたいアスファルトを背に、目をつぶった。

 まだ寝るのには早い時間であるが1日中走り続けたせいで疲れもピークに達していてすぐに寝られそうだ。


「こんなところで寝てたら、風邪ひくよ?」


 目を瞑ろうとした寸前で、可愛らしい女性の声が耳に届く。


「ん?」


 目を少しあけ、声の主を視認しようとするも、1度閉じようとした目はなかなか上がることを許さず、もう一度目を閉じた。


「お~い、聞こえてる~? 起きろぉ~」


 頬がつんつんされる感触があるが、眠さが限界のため起きることができない。

 しかし、徐々につんつんからツンツンに強さがグレードアップしていきさすがに煩わしさを覚えてくる。

 さらにツンツンがヒートアップしていき、顔ぐりぐりされ始めていく。

 そしてそれが最終進化してグリグリとなって俺の顔をこねくり回し始めた。


「いや、やめろよ!」


 勢いよく飛び起き、その主に対して反射的にツッコミを入れる。


「あ、起きた」


 俺が起きたと同時に少し驚く彼女。


「いや、どなた?」


 反射的に攻撃的な態度をとってしまったが、目の前にいたのは顔も見たことがなければ、会ったこともない女性であった。

 寝ぼけ眼のせいかぼんやりとしかその人物を捉えられない。


 考えてみれば俺に知り合いなんて、この街には一人もいなかったっけ。


「私? 私はちょっと心配性な通行人」


「いや、そういうことではなく……」


 俺が求めた答えは、彼女がなぜ自分に声をかけたのかということ。

 もちろん、心配性な通行人であれば声を掛けることはあるのかもしれない。

 しかし、経験上こういうとき声を掛けてくれるのはその街の兵士が多数を占めていた。


 したがって、このように若く可憐な女性が声を掛けてくることは今までなかったのだ。


 可憐な女性?


「一応会ったことがあるんだけどなぁ……」


「え?」


 改めて彼女の顔をしっかりと確認し、眠たい目を擦りながら重たい瞼をしっかり開ける。


「あっ……」


 驚きのあまりか、感嘆の声が漏れ出る。


 なぜ一目見ただけで気付かなかったのか。

 その美貌は見るものを必ずと言っていいほど振り返るほどのもの。

 端正な顔立ちに長いまつ毛。

 少し垂れ下がった粟色の双眸がその顔の美しさをより一層際立たせ、肩まで伸びた艶やかな茶色の髪を両サイドで結ぶ。

 この女性は今日射的屋で出会った、奇跡の顔を持つ人であった。


「やあやあ。思い出してくれたかい?」


「まあ、あなたみたいな美人を忘れることはできないっすね」


「さっきまで忘れてたけど」


 その女性が微笑みながらぼそっと俺の言動を指摘する。


「というかなんでこんなところで寝てたの?」


「まあ、色々ありまして」


「う~ん、その色々っていうところが気になっているところだけど」


「話すと長いんですが、本当に短くかいつまんで話すと……」


「話すと?」


「財布を無くしました……」


 俺が発した言葉が自分の耳に届くたびに、声がどんどん細くなっていった。

 顔も項垂れ、喋ることも億劫になってしまう。


 まあ財布あってもここで寝てたけど。


 ぐぅ~


 さっき寝ていたところで起きてしまったことで、体からも悲鳴のように切なく非情な音が腹の中で鳴り響いていた。


「あらら、お腹が鳴っちゃってるねえ」


「まあ、そういう事なんで。 今日のところは大人しく固いアスファルトのベッドで寝てやろうと思っていたところっす」


「そっかぁ。じゃあお邪魔だったかな?」


「いえいえ、美女に心配されただけ今日はいい日になりましたよ」


「ふふ、ありがとう。でもこんなところで寝てたら休めるものも休めないよ?」


「お金ない俺からしたら仕方ないことっす。この冷たいアスファルトの上でふて寝決め込むのが趣味なんで」


 彼女も悟ったのか屈んだ足を伸ばし、ひらりと身を回転しその場を去ろうとする。


 それを確認して横になって眠りにつく。


 なんて悲しい人生なのだろうか。

 もう2度と喋ることはないであろう美人と仲良くなるチャンスではないのか。

 これを逃したらバラ色の人生が手に入らないのではないのか。

 でも、無理なものは無理。

 だってお金がないんだもん。

 お金が無ければ高級なディナーにも連れて行けなければ、高いアクセサリーを渡すこともできない。

 そして最高級ラブホテルにも泊まれないのだ。

 しまった、ラブは余計だった。


「そっかぁ。せっかくならご飯ぐらいご馳走してあげようと思ったのに」


「え」


「はあ、君がもういいって言うから帰るしかないなあ」


 わざとらしい声ではっきりとその言葉が自分の耳に届いた。


「さあ、行きましょう。ところで、あなた、いや神様。お名前のほうは?」


 先ほどまでふて寝をしようとしていたが、彼女の隣に一瞬で立ってみせる。

 なんだ、元気ではないか我が体よ。


「ふふっ。素直でよろしい! 私はヤマト・プリステス、ヤマトでいいわ」


「さあさあ、ヤマトさん! どちらに行きましょう!」


 心も一気に晴れやかになっており、語気も強まる。


 歩くスピードも、話す言葉も、元気も全てを取り戻した気分だ。

 それを見ていたヤマトさんも自然と口角があがり、俺を見つめている。


 ヤマトさんは聞いてもいない、俺のこれまであった話を遮ることはなく微笑みながら聞き続けてくれていた。

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