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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第3章「七大ギルド新人戦編」
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第88話「本気」

 こんなに大衆の面前で能力を発動するのは愚の骨頂。

 能力なんか隠してこそ強い。

 隠すから相手が詮索し、それによって戦い方が大きく変わる。

 だからあまり新人戦の開催はよく思っていなかった。

 大衆の気持ちを鑑みれば魔族侵攻で傷んだ心を癒すのは新しいヒーローの登場だということも理解はできる。

 しかし、本当の意味での成長はこの大会ではできない。

 魔族との戦いの経験値を増やすには〈危険領域ブラック・テリトリー〉を旅するのが一番(俺が実証済み)。

 この戦いは大衆のために用意された見世物でしかないと思う。

 〈未開拓遺跡ラビリンス・リメインズ〉の調査といい、この新人戦の開催といい、俺からすれば【王の楽園(キングダム・エデン)】には良いイメージがない。

 まあ、俺が気にしたところで意味はないし、何もできない。

 仕方がないのだ。

 古代武具ロスト・アイテム欲しさにこの新人戦に参加した時点で俺の負け。

 そして、ここでジェットに勝たなければ今後の俺の人生が左右されかねない。

 背に腹は代えられないっていうのはこのことか。


「はあー。 仕方ねえなあ」


 魔力を練り、一気に魔力を解放する。

 『敗者の勝ち方ジャイアント・キリング


「こっからが本番かな」


 ジェットが引きつったような笑みを浮かべた。

 この能力は【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】達のおかげ?で獲得した能力。

 俺が自分よりも強い奴に勝つために作った能力。

 能力の獲得は過去の強烈な経験によるところが多い。

 それだけ脳に深く刻まれた記憶でないと再現するのが難しいからだと思う。


 〈桜の遺跡ブロッサム・リメインズ〉で死にたくないという生への依存がこの能力を発現させたわけではない。

 才能への強い憧れがこの能力を呼んだ。

 その才能とは、俺の目の前に立ちふさがるジェットだ。

 あの時、こいつに勝ちたいと思った。

 俺が珍しく悔しさで頭が一杯になった。

 もしかしたらここでこいつに勝つことが、俺が望んでいることかもしれないな。


「じゃ、時間もないことだし遠慮なく」


 言葉だけをその場に残し、ジェットの後ろへと立つ。

 炎を纏った拳でジェットを殴った。

 寸でのところで俺の拳をジェットの金棒で防がれたが、この拳に金棒のヘッドについている棘は効かない。

 金棒と拳の間に炎を挟むことでダメージは防げる。


「『太陽が昇る日(バニシング・サン)』」


「このっ!」


 ジェットが重厚な金棒を軽々と振るう。

 しかし、ジェットの金棒の動きはツタによって止める。

 細いツタを生やし、何重にもすることでツタの強度を増すことができる。

 ジェットの手の可動が固定された一瞬の隙は見逃さない。

 その瞬間にツタでジェットを固定した。


「『弧人に咲く一輪の花アイデンティティ・フラワー』」


「っ、くそ!」


 ジェットが何とか魔力を使ってこのツタから逃れようとするが、俺もそのツタには魔力を流し込んでいる。

 しかも俺には魔眼があり、ジェットが体のどこに魔力を流し込んでいるかが見えているので、ジェットがこのツタから抜け出すことは困難。

 棘のあるツタがジェットの体を突き刺し、痛々しい血が流れだしている。


 ジェットだからといって、戦闘になれば殺す気でかかる。

 〈危険領域ブラック・テリトリー〉を過ごしたからこそ、ちょっとの甘えが命取りになることは痛いほど知っている。


「こんのっ、ぐおおおおおお」


「おい、まじかよ」


 ジェットは魔力が使えないからと自身が持つ膂力のみでツタから出てきた。


 やっぱりどこまでも化け物。

 〈桜の遺跡ブロッサム・リメインズ〉で出会った時よりもさらに化け物じみている。

 こいつは戦いながら常に成長をする。

 これがジェットの一番の魅力である底知れない可能性だ。


「やっぱり、ここでお前に勝っておく必要がある。 そうしないとアルに舐められちまうからな」


「アルさんはずっと君のことを尊敬しているよ。 でもそれは君の実力に惚れているからじゃない、君の人柄が好きなだけだ」


「言ってくれるなあ、ジェット。 さあ残り時間も僅かだ、大層にいこう」


 フリルと金棒が激しくぶつかり、火花が散る。

 魔眼が無ければジェットの動きを捉えられていないだろう。

 魔眼に映る魔力の軌道。

 これによって予測がつくから、何とかジェットの動きについていける。


 やっぱり、俺だけの力では勝てない。

 魔眼も『偽りの英雄(ライアー・ヒーロー)』も全てはアザゼルからもらったもの。

 『敗者の勝ち方ジャイアント・キリング』も結局他人に依存した能力だ。

 俺は何も持っていないし、何も凄くはない。


「でも、お前に勝つためなら俺はどれだけ惨めなことでもやってやる」


「じゃあ、さっさと僕に勝って見なよ!」


 ジェットの金棒が顔面に当たる。

 勢いそのまま俺は地面に倒れ伏せた。


「これで僕の勝ちだ」


 ジェットが金棒に魔力を込めて全力で殴ってくるのがわかる。

 だから目を開いてなくとも、肌で感じることができた。


「……その慢心さえなければ、お前はもっと早く『神の実績(シン・クラス)』になってたかもな」


「え?」


 その瞬間、俺は背中からツタを生やした。

 正確に言うならば、地面から生やしたツタをジェットにバレないように服の中を通してジェットに絡みつかせた。


 顔面で金棒を喰らった理由はこれのため。

 ジェットは戦闘になれば必ず大技で仕留めたがる癖がある。

 俺は過去に何度もジェットに忠告したはずだが、戦闘になればその時の記憶はなくなってしまうらしい。

 まあその分突拍子もない攻撃ができるのが、このモードの魅力だが。


「俺の勝ちな」


 ジェットの首元にフリルをかざし、勝利を静かに宣言する。


「あは、やっぱりカナタは強いな」


 突如優しい顔に戻り、本来のジェットが帰ってきた。

 俺もフリルを仕舞い、戦闘が終わったことで一息つく。


「お前に時間稼がれてたら、勝ち目なんて最初からなかったよ」


「それはお互い様だろ。 僕だって能力を使えなかったんだから」


 ジェットは俺の能力を知っている。

 『偽りの英雄(ライアー・ヒーロー)』を知っている者なら、時間さえ稼げば俺を優に倒せる。

 ただジェットはそれをしなかった。

 お互い様と言っているが、この特別試合でなくなんでもありの戦闘だったら俺はとっくに負けている。

 だからこの勝ちは俺が勝ち取った勝利ではない。


 場内は静まり返っている。

 それもそうだ、新人戦で批判まみれだった俺に誰が賞賛などするのだ。

 『神の実績(シン・クラス)』であるジェットの雄姿を見て、観客は歓喜したい。

 ある意味新人戦に参加した者は当て馬のような扱いだ。

 まあそれがこれの特別試合の狙いだろう。


「んじゃ、俺は帰る……」


「うおおおおお!」


「すげえええええ」


「きゃー!」


「すげえぞー!」


 一瞬で観客の歓声が大きくなった。

 口笛を吹く者、立って拍手をする者、とにかく騒ぐ者。

 卑屈な俺でもわかってしまう。

 これは俺に向けられた賞賛だと。

 俺が勝ったことに対する賛辞なのだと。

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