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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第3章「七大ギルド新人戦編」
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第85話「高い壁」

「……カナタ・アゼレアか」


 ジェンには隙も無ければ、体力の消耗もそこまでは見られない。

 俺も途中からしか見ていなかったが、明らかにジェンも全力を出していた。

 それなのにも関わらず、ジェンは呼吸が既に整っている。


「やっぱお前すげえな。 そりゃ世代ナンバーワンって呼ばれるわけだ」


 素直にジェンの強さに感心してしまう。

 手前みそになってしまうが、タイヨウも前に比べたら格段に強くなっていた。

 ただそれでもナンバーワンには勝てなかったのだ。

 これが今のタイヨウの実力。

 その現実を受け入れるしかない。

 それに負けることは悪い事ばかりではない。

 今この場で実力が一番上のものをこの目で見れたのは大きい。

 タイヨウがその目で確認して体感できたことこそこの試合に意味がある。


 まあ、本音を言えばもちろん古代武具ロスト・アイテムは欲しかった。

 しかし、そこまで悔しくない自分もいる。

 あの短い修業期間を一緒に過ごしてしまったからこそ、タイヨウに少し情が湧いてしまっているのも事実みたいだ。


「さあどこからでもかかってこい」


 ジェンが俺を睨みつけて戦いを構えた。


「やめろよ、俺はお前と戦う気ないぞ」


「何を言っているんだ?」


 ジェンの眉間にしわが寄せられた。


「タイヨウとネロが戦闘不能になった時点で【天使の加護ブレッシング・エンジェル】は負けだ」


「まだ君が残っているじゃないか」


「俺はこの新人戦に懸けてねえからいいんだよ」


 と、とりあえず建前まみれの嘘をついてみる。


「君は僕の感情を逆なでしにきたのか? 新人戦に懸けていないだと、冗談でもそんな事を言うのはやめてくれ」


「俺は至って本気だが?」


 ジェンは何を言っているんだろうか。

 別に新人戦に参加する理由なんて人によってそれぞれでいいだろ。


「君みたいに遊び半分で新人戦に来ている者を見ると虫唾が走る。 魔族侵攻を経験して君は危機感を抱かなかったのか?」


「別に」


「はあ……。 君と喋っていると普段コントロールできるはずの怒りが膨れ上がってきてしまううよ」


 なんか俺変な事言ったか?

 どんどんジェンの怒りが膨れ上がっていくと同時に、魔力が上がっていってるんだけど。


「じゃあ僕から行かしてもらう!」


 ジェンが言葉を放った瞬間俺の元へと駆け出してくる。


「まあ待てよ」


「え?」


 そしてジェンは見事に転んだ。

 俺は事前に剣の魔装武具マジック・アイテムをトラップワイヤーのように張り巡らせておいた。

 剣の魔力を極限まで細くし、できるだけジェンに気づかれないようにしていた。

 通常状態のジェンであればもしかしたら気づいていてもおかしくはなかったかもしれない。

 しかし、なぜかジェンは怒りに満ちてくれているおかげで俺の魔装武具に気づくことはできなかったようだ。


「ぷっ、はっはっはっは」


 無様に転んだジェンに思わず笑ってしまった。

 あれだけクールな奴がこんなに見事に転んだのだ。

 滑稽以外のなんでもない。

 最高に気分が良い。


 でもいかんいかん。

 人の不幸を見て笑ってはいけないと教えられたではないか。

 あ、でもこの世界では誰にも教わっていないからいいか。


「君は本当に僕を怒らせたようだ」


「こんなことで怒りを制御できないなら、笑われる練習でもしてみたらどうだ?」


 俺がニヤリと笑った瞬間、ジェンは眼前まで来ていた。


「【天使の加護ブレッシング・エンジェル】降伏しまーす」


「っ!」


 ジェンの右足が俺の頭に当たる寸前で俺は降伏宣言をした。

 ジェンだからこそこの攻撃を止められた。

 止められると思っていた。


「【天使の加護ブレッシング・エンジェル】より降伏が宣言されました。 【王の楽園(キングダム・エデン)】の勝利です」


 アナウンスが森一帯に鳴り響き、この試合が決着したことを知らせる。


「君は本当に何がしたいんだ? 君の噂は聞いている、〈未開拓遺跡ラビリンス・リメインズ〉でA級を倒し魔族侵攻ではZ級と渡り合ったはずだ」


「噂だろ」


「それなのになぜ君は僕と戦わないんだ」


「わかんねえ野郎だなあ、俺はお前を倒すことに興味はねえんだよ、お前を倒したら古代武具が手に入るっていうなら話は別だがな」


 それに俺はもう魔力がない。

 仮に能力を使って倒そうと思っても普段の半分の時間しか戦えない。

 その時間でこいつを倒すことはかなり難しい。

 俺が戦うにせよ、降伏するにせよ俺は負けているのだ。


「君みたいな者が七大ギルドにいることが心底嫌で仕方がないよ」


「俺も同感だ」


 振り返ることはしなかった。

 彼も彼なりに『黄金世代ゴールデン・エイジ』を背負っているのだろう。


 タイヨウとの違いはそこかもしれない。

 マークを失った悲しみ、マークという英雄を亡くしたこの世界。

 次なる英雄になるという覚悟がジェンにはある。


 ただこの戦いを終えた後のタイヨウはもっと強くなるぞ。

 あいつはそういう奴だ。

 だから負けたということは非情にタイヨウにとってプラスとなるのは間違いない。


「ジェン、お前の弱点はお前より強い奴が近くにいないことだよ」


 この言葉だけジェンに投げかけ、俺はこの場を去った。


 * * *


「な、なんと【天使の加護ブレッシング・エンジェル】カナタ選手が降伏宣言! これにより勝者は【王の楽園(キングダム・エデン)】です!」


 ナツミの熱狂的なアナウンスにより会場が湧く。

 しかし、会場全体で祝福しているような感じではなかった。


「ねえ【天使の加護ブレッシング・エンジェル】のカナタって人なんで降伏したのかな?」


「ジェンに勝つなんて無理だと思ったんだろ」


「なんかあの子感じ悪―い」


「【天使の加護ブレッシング・エンジェル】ならああいう事やっても不思議じゃないだろ。 七大ギルドに名前があるのもヤマト・プリステスがいるおかげだろ」


 観客がざわついており、真面目に戦っていたはずの【天使の加護ブレッシング・エンジェル】を批判する声もちらほらと聞こえていた。


「あの子何してんの!?」


 チェロがヤマトの肩を掴みながら横に縦に振り回す。

 カナタの事を知らないものからすれば、チェロの反応は正しいものだ。

 もう少しで勝てる試合を戦うこともせず放棄したのだから。


「まああれがカナタ君だから」


 ヤマトもこればかりは笑いながら流すしかない。


「どういう事なのさ、お姉ちゃん!」


 チェロはヤマトそっちのけで姉であるヴィオラに話を振った。


「私に聞かれても……」


「ティアさん!?」


「さあ?」


「タイガー!?」


「……知るわけない」


「もう一体何がどういうことなのさー!」


 チェロは頭を抱えた。

 チェロからすれば弟と妹のように接してきたタイヨウとネロがもう少しであの【王の楽園(キングダム・エデン)】に勝てたかもしれない。

 この試合に勝っていれば【天使の加護】の知名度はおろか、新人戦に出ている三人の名前が売れるかもしれない。

 だからこそ、チェロはその悔しさを簡単に拭う事はできなかった。


「でもあれは負けだよ」


「え?」


 ヤマトが諭すようにチェロに告げる。


「タイヨウとネロが負けた時点でこの試合は彼らの負け。 カナタ君は最初からそのつもりだったよ」


「どういう事?」


「カナタ君は古代武具ロスト・アイテムよりもタイヨウとネロちゃんの成長を取ってくれたんだよ」


「意味わかんないよ……」


 チェロはヤマトの言葉を聞いて俯いてしまった。

 【天使の加護ブレッシング・エンジェル】は血が繋がっていなくても家族のような存在だ。

 皆それぞれに何か理由があって【天使の加護ブレッシング・エンジェル】に流れ着いている。

 チェロからすれば小さな頃から面倒を見ている弟と妹のような存在のタイヨウとネロが負けることは自分が負けたことぐらい悔しかった。

 あと一歩、あと少しで勝てそうだったから余計悔しいのだ。


「カナタっていう子は本当に信頼できるの?」


 チェロが悲壮な声でヤマトを見つめる。


「わからない、私もまだ彼の全部を知っているわけじゃないから。 でも〈未開拓遺跡〉ではタイヨウとネロちゃんの命を助けてくれたのはカナタ君だよ」


「だからって信頼できるとは思えない」


「そうだね。 でも私は思うんだ、カナタ君はいつか【天使の加護ブレッシング・エンジェル】を救ってくれるヒーローになるってね」


 ヤマトはチェロの頭を撫でる。

 今にも泣きそうなチェロをなだめるように。

 チェロもまだ子供だ。

 タイヨウとネロより少し歳が上なだけ。

 お姉ちゃんをしているからこそ、チェロはしっかりしなければならない。

 彼らを導かなくてはならない。

 だからカナタをまだ信用できない。

 本当にカナタに託していいのか、カナタはタイヨウとネロを強くしてくれるのだろうか。


「大丈夫、いつかわかるときが来るわ。 それまでは少し待っていて頂戴」


 チェロはそれ以上反論することはしなかった。

 完全にカナタを信頼できていないし、不信感の方が強いのも事実。

 それでもヤマトが言うならとチェロはこの試合の結末を飲み込んだ。

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