第83話「力の差」
「ごほっ、ごほっ!」
タイヨウは満身創痍であった。
ジェンからの度重なる攻撃により、息をするのもやっと。
まだこうしてタイヨウが戦闘不能になっていないだけ、良く出来ているとした方が表現としては適切だ。
タイヨウはジェンと戦う前にしっかりと準備はしてきた。
小さな脳みそを何とか回転させ、どうすれば戦えるかを必死に考えた。
そうであるのに、ジェンはタイヨウの予想を遥かに上回る動きを見せていた。
常に前向きなタイヨウでさえも絶望してしまうほど、ジェンとの間には明らかな力の差が存在していたのだ。
〈未開拓遺跡〉でA級と戦った時のあの衝撃に近い。
そのオーラを同じ人間が纏っている。
同じ世代の者が宿しているのだ。
これが『黄金世代』のトップであり、【王の楽園】エース、ジェン・ブラッド。
「こんなものか、タイヨウ・ステップズ」
ジェンの表情は一貫して冷徹だった。
笑うこともなく、疲れが顔に出ていることもない。
唯一目の奥から伝わる密かな怒りのみだ。
何かに取り付かれたようにタイヨウを淡々と攻撃する。
その攻撃に隙なんてものは存在しない。
タイヨウは反撃することも、抵抗することも許されなかったのだ。
「タイヨウ・ステップズ、なぜお前のような人物をマークさんが庇ったのかがわからない」
「うっ!」
倒れているタイヨウのみぞおちに蹴りを入れるジェン。
私怨に近いような恨みが籠っているとタイヨウは感じていた。
「マークさんは僕の師匠だった……」
ジェンの声質が少し寂しそうなものに変わる。
何とか腕でジェンの攻撃をガードするが、一撃が重く身動きも取れない状況であるため確実にタイヨウにはダメージが積み重なっていく。
でも、それよりもタイヨウはジェンの言葉の方が大事だった。
彼がマークに何を思って、何に憧れていたのか。
彼の悲しみを受け入れるべきであると、タイヨウの直観がそう言っていたのだ。
「マークさんは確かに俺がいなければ勝っていたかもしれない」
「っ!」
血相を変えたジェンが固く握った拳を乱雑に振りかざしてくる。
「君はなぜそれを自覚していてここに立っていられるんだ!」
拳に怒りが乗っているかのように、横たわっているタイヨウに乗っかり殴って来ていた。
ジェンにあった冷静さはジェンが喋れば喋るほど消えていき、代わりに怒りが増幅してジェンに纏わりついている。
「自覚したからこそ、自分の弱さを認めたからこそ、ここに立ってる」
でもタイヨウはジェンに語り掛けることをやめない。
それがジェンを逆なですることになってもタイヨウは伝える。
言葉に出して伝えることが必要な事だと信じているから。
「許せない、君のことは一生を掛けても許せないかもしれない」
「それでいい」
タイヨウはフッと笑った。
誰が見ても明らかに負けている状況でもタイヨウは笑っていた。
マークを失った悲しみはタイヨウが一番わかっている。
一番近くでマークを失い、自分のせいでマークは死んだ。
あの時の絶望をまだ乗り越えたとまでは言わない。
でもその悲しみを、絶望を背負っていくしかないのだ。
「ジェン、ここで俺はお前を超える。 俺が強くなることがマークさんが望んでいることだから」
「黙れえええ!」
ジェンはタイヨウを蹴飛ばした。
ジェンに魔力が集中する。
それに呼応するようにタイヨウも魔力を練り上げた。
「『神速の流星群』!」
「『太陽が昇る日』!」
魔力同士のぶつかり合い。
意地とプライドを懸けた、育てられた者と託された者の戦い。
ジェンとタイヨウの攻撃はどちらも炎を使った能力。
炎を纏った拳と炎を纏った足。
一進一退の攻防ではあるが、ややタイヨウが押され気味だった。
しかし、タイヨウは押されていること以外の違いにいち早く気が付く。
その異変は上空から感じていた。
ちらっとタイヨウが上空を見やると、上から降って来ていたのは隕石。
正確に言うのであれば魔力。
それが隕石のようにタイヨウがいる辺りに向かって降り注いだ。
これを実現させているのはジェンの恐ろしいほどの魔力量。
加えてその魔力をコントロールできるジェンの器用さ。
魔力の扱い、量、質、全てにおいてタイヨウより上。
まるでマークを見ているようだった。
そして隕石の魔力がタイヨウの周辺に降り注ぐ。
この場所からジェンはいち早く離脱していた。
タイヨウは『太陽が変わる日』を使ってなんとか避ける。
しかし、避けた先でぶつかったのはジェンから放たれた強烈な魔力。
威力は今降り注いでいる魔力の隕石と遜色はなかった。
「うっ!」
ジェンの魔力が当たった場所を押さえながら、タイヨウは片膝をついて倒れる。
「君は僕には勝てない。 何も持っていない君に僕が負けるわけもない」
ジェンはタイヨウを睨みつけている。
ジェンはタイヨウを倒すことでしか心の隙間を埋められないのだろう。
だからこうして完膚なきまでに叩きのめしている。
ジェンが勝てる瞬間はいくらでもあった。
決着を着けようと思えばタイヨウを倒すチャンスはいくらでもあった。
しかし、ジェンはそれをしなかった。
それはタイヨウを圧倒したいからに違いない。
マークを失った悲しみが冷静なジェンをここまでさせているのだ。




