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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第3章「七大ギルド新人戦編」
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第79話「作戦遂行」

「おいおい、どこに逃げてやがるよ」


 タイシの煽り文句が森に響き渡っている。

 俺には歩く音がこつこつと聞こえており、タイシの位置はおおよそだがわかる。


 この機会を見逃すわけにはいかない。

 次の一撃に全てを懸ける。


「まあ、探すなんて面倒くさいことやめるよ」


 そう言ったのちに辺りに凄まじい魔力が巻き起こった。


「よし、これで綺麗になったよ」


 木々が倒れていく音が聞こえてきた。

 おそらくだが、俺が木陰に隠れているとでも思って辺りの木を全てなぎ倒したのだろう。


 残念だがその読みは外れている。

 なぜなら俺は、お前の下にいるのだから。


「終わりだ」


 俺は敵の位置を魔眼で把握できる。

 音や視覚を遮られてしまう地中は人間が戦うには圧倒的不利な場所ではあるが、

 先ほどタイシの能力によって土煙が巻き起こった間に俺は地面の中へと潜り込んだ。

 この地面の洞穴はタイシと戦う前にせこせこと作っておいた穴。


 俺が地面から登場したタイミングで、地面に張り巡らせておいた魔装武具をタイシの背中向けて発射した。


「おっりゃ!」


 俺の魔装武具が当たりそうな瞬間、タイシが能力を発動して地面を叩き割る。

 それによって魔装武具の軌道が変えられ、俺の攻撃がタイシに当たることはなかった。


「まじ?」


 魔装武具が壊れた音が聞こえた気がする。

 高いグラスを割ってしまったときの、あのどうしようもない絶望感と同じだ。

 そんな音が俺の頭に鳴り響き、襲い掛かる焦燥感が心にも伝播した。


「あんまり舐めるな、俺は【|王の楽園《ルビをキングダム・エデン力…》】だよ」


 歯を食いしばり怒りを滲ませている。


「やっぱり俺が言ったこと根に持ってるんじゃねえのか?」


「下級ギルドの大して強くもない雑魚にそう思わていること自体ムカつくんだよ」


 プライドさえ邪魔をしていなければこの男はもっと上にいたのかもしれない。

 自分の立場に奢ることはなくどんな敵でも分析し自己研鑽を積めば、俺に楽に勝てたかもしれない。

 敗北をきちんと自分の中で認め、向上心を持っていればもしかしたら未来はジェン・ブラッドを追い抜く逸材だったかもしれない。

 たらればの話になってしまうが、才能があるからこそもったいない。


 羨ましいのだ。

 俺からしてみれば、圧倒的な才能を持っているのだから。

 【王の楽園(キングダム・エデン)】期待の新人ともなれば、一般人から見てもその才能に嫉妬して者は少なくない。

 ただ才能も磨かなければ意味はない。

 タイシ自身が勝てないと思ってしまっているから、ジェンとロアに勝てないのだ。

 自分より強い者に立ち向かえない。

 それではあの二人に追いつくことも勝つこともできない。

 【王の楽園】で三番目で良いと思ってしまっている時点でそこで成長は止まる。

 

 そして俺のような下級の者に対しては当たりも強く、威張って前に出てくる。

 戦いである以上その余裕は絶対にあってはならないのに。

 だから俺みたいなやつにも足元をすくわれてしまうのだ。


「さっさと終わりにしよう。 お前を見ているだけで腹が立ってきちまうよ」


「そうだな、俺も疲れた」


 魔力の暴力を弾き、地面に隠れながら機を伺ったが、タイシは【王の楽園(キングダム・エデン)】。

 簡単には倒されてはくれなかったのが事実として残っている。


 だから俺も作戦を考えてきた。

 決して一筋縄ではいかないと思っていたから。

 いくら【王の楽園(キングダム・エデン)】の新人だからって油断はできなかった。

 このちょっとした意識の差がこの勝負の運命を握っていたのだと思う。


「じゃあな、雑魚よ」


 タイシが地面を蹴って、こちらに一瞬で辿り着く。


「ああ、これで終わりだ」


 その瞬間に俺は魔装武具で自分とタイシ巻き付ける。

 タイシと俺は背中合わせに引っ付き合い、他人から見れば「あいつら何をしているんだ?」と侮蔑の目で見られてもおかしくはない。


「なんだよ、これ!」


「相討ち」


 そして俺を目掛けて魔力弾が飛んできた。

 飛んでくる方角はタイシ側。

 目で追えるぐらいの魔力の弾丸。

 普通にしていれば、目視でも避けられる。

 しかし、今は俺とタイシは身動きが取れない状態だ。

 鞭のような魔力は複雑に絡み合わせている。

 そのため動けば動くほど身動きが取れなくなっていく仕組みだ。


  「クソっ! 俺がこんな雑魚に負けるわけないんだよ、俺は【王の楽園(キングダム・エデン)】で『黄金世代ゴールデン・エイジ』と呼ばれてるんだぞ、そんな俺がこんなところで負けるわけには……」


「そんなお前だから、俺みたいなやつに負けるんだ。 お前の負けだよ、負け犬君」


 俺の言葉が終わった瞬間、タイシに魔力の弾丸が当たる。

 この弾丸は爆弾のようなもので、元々の魔装武具は『グレネード・ランチャー』だ。

 追尾型の魔装武具で試合開始直後、この時間に俺に攻撃するように設定しておいた。


「今度はしっかり作戦組み立ててこいよ」


 倒れたタイシに捨て台詞のように言葉を吐き捨てた瞬間、大きな爆発が巻き起こった。


 * * *


「な、なんと! 開幕早々【天使の加護ブレッシング・エンジェル】カナタ選手が【王の楽園(キングダム・エデン)】のタイシ選手を落としました! ジェットさん今の戦いどう見ましたか?」


「そうですね、カナタ選手の作戦通りって言ったところでしょうか。 ただその緻密に計画された作戦を確実に実行したカナタ選手は見事だと思います」


 観客は驚きのあまりざわついている。

 観客の大多数が【王の楽園(キングダム・エデン)】の圧勝で終わると思っていたから。

 逆に【天使の加護ブレッシング・エンジェル】の応援席は熱狂に満ち溢れていた。


「やったー!」


 ヤマトが大きく喜び、隣にいたティアを抱擁する。


「さすがお兄ちゃん」


 ティアも喜びこそ大きくはないが、表情は綻んでいた。

 もちろんヴィオラも大喜びだ。


「あれが最近入った新人か……」


「魔力の使い方、私より上手かも」


 ヤマト達の後ろから、強面な声と可愛らしい女性の声がする。

 それはヤマトやヴィオラが聞きなじんだ声だ。


「チェロ! タイガー!」


 ヤマトが振り向きざまに二人に挨拶をする。

 

「やっほー!」


「……」


 快活な返事をするのがチェロ。

 タイガーはコクっと頷くのみだ。

 ヴィオラと同じような深緑の髪ではあるが、ヴィオラと比べてまだ幼い。

 彼女こそ、ヴィオラの妹チェロ・モルガン。

 

 そして隣に立っている屈強な見た目をしている男がタイガー・ハウスト。

 これでもかというほど筋肉が盛り上がり、類を見ないほどの巨躯。


「ヤマト、彼の冒険者クラスは?」


 黙っていたタイガーだったが、低い声でぼそりとヤマトに尋ねた。


「彼はまだ『何もない実績(ミーデン・クラス)』だよ」


「そんな奴がどうしてうちに?」


「私が拾った」


 ヤマトは得意気にカナタを拾ってきたことを自慢する。


「……」


 タイガーがその言葉を追求することはなかった。

 先の試合を見ればカナタの実力は、この会場にいる者が知ることになったから。

 素人目から見ればカナタはたまたま勝ったと思う者もいるかもしれない。

 

 しかし、力のある者が見ればあの二人の実力差は明らかなものであった。

 序盤から終盤まで確実にペースを保っていたのはカナタだったから。

 魔力量と運動量が倍近く違う相手と互角に戦っていた時点で賞賛されるべき戦いだ。

 そして弱いカナタを演じることでタイシが錯覚する。

 そうすることでカナタは自分のペースで戦いを有利に進められていた。


 予め用意しておいた魔装武具の時間経過による攻撃。

 この高度な作戦を確実に遂行し、タイシとの戦いに勝利した。

 これこそがカナタが優れているという紛れもない証拠になるのだ。

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