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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第3章「七大ギルド新人戦編」
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第76話「妖精達とカナタ」

「負けちゃったね……」


「うん……」


「……」


 ヨシノの言葉を受け、残る二人は顔を俯けることしかできていなかった。


 【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】と【慈しみの愛(プリズム・キャンサー)】との試合は二対〇と惨敗。

 この悔しさを簡単に拭う事はできなかった。

 この新人戦から必死になって練習してきたから。

 エルゼにしごかれて、何度も泣いた。

 何度も逃げ出しそうになった。

 それでもみんなで傷をなめ合って、反省して、笑って、なんとか乗り切ってきた。

 それなのにこんなに呆気なく負けてしまったのだ。

 落ち込む以外できなくて当たり前。


「何俯いてんの」


 戦いを終えた彼女の元にコーチとしてこれまで練習に付き合ってくれていたエルゼが姿を現す。


「エル姉」


 桃色髪のシダレが申し訳なさそうな顔でエルゼを見上げた。


「はい、負けは負け。 後悔なんて尽きないわ、だったら次を見据えて今後自分達がどうすればいいかを考える!」


 エルゼは手をパンっと叩いて彼女達を鼓舞する。

 エルゼは常に前を向いていてくれた。

 コーチとしても、自分たちの姉貴分としてもいつも元気を分けてくれた。


「なんかエルゼ、カナタみたい……」


 銀髪で目がくりくりの可愛らしい見た目をしているエドがぼそっと呟く。


「カ、カナタは関係ないでしょ!」


 顔を赤らめながら必死に否定するエルゼ。


 その光景を見て、ヨシノは感傷に浸ってしまった。

 ここにカナタがいればなんて言ってくれるのだろうか。


 おそらく、まだまだだなと決して褒めてはくれない。

 でもヨシノはそれだけで嬉しかった。

 カナタは決して教えない。

 自分達で考えろと常に言っていた。

 考えて、頭を使って、それを実践する。

 単純なようで一番難しいことをカナタは無言で教えてくれていた。


 だから悩む時間などはない。

 頭を使ってなぜ負けたかを考える必要があるのだから。


「みんな、なんで負けたかを考えよう!」


 ヨシノがシダレとエドに言葉を掛けようと思ったとき、先にシダレが声を出した。

 昔だったら悔しくて泣いていたはずのエドが率先して導いたのだ。


 年下のはずなのにいつの間にかこんなに逞しくなっていると、ヨシノは感心してしまった。


(私も成長しないとな……)


「その通りだ、シダレ」


「え?」


 彼女たちが振り向いた先にいたのは、〈桜の遺跡ブロッサム・リメインズ〉で出会った不思議な少年。

 すっかりと身長も伸びており昔の可愛らしいカナタの姿はなかった。

 だが、面影はきちんとあった。

 それに雰囲気もそのまま。

 決してオーラがあるとは言えない。

 決して強そうに見えるとは思えない。

 でも、ヨシノ達が憧れるヒーローの姿はそこにはあった。


 * * *


「よっ」


 懐かしさに溢れた【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】の面々。

 金髪で顔にあるそばかすがチャームポイントのエルゼ。

 常におっとりした雰囲気で糸目が可愛いヨシノ。

 ツンツンした元気印のシダレ。

 人見知りでおとなしめのエド。


 普通だったら喋ることさえ躊躇われるこの四大美女に俺がこうして挨拶できるだけでもおかしい話だが、実は面識があった。

 かつて〈桜の遺跡ブロッサム・リメインズ〉を一緒に開拓した者達。

 異世界において俺に楽しみを作ってくれた、恩人達だ。


「カ、カナタ!?」


 エルゼ、何をそんなに動揺しているんだ。

 俺、もしかしてブサイクになってたりする?


「カナタさん」


「カナタ!」


「カナタ」


 駆けつけるようにシダレとエドに囲まれる。

 よかった、まだ覚えていてくれてた(泣)。


 試合が終わった後だというのに、有り余る元気で俺に質問攻めをしてくるシダレ。

 その後ろでぼそぼそと質問攻めをしてくるエド。

 なんて可愛らしい光景なのだろうか。


「まあまあ、落ち着いて飯でも食いに行こうぜ。 その時にゆっくりと喋ってやるから」


「絶対よ!」


「絶対」


 はきはきとした声のシダレと後ろでぴょんぴょん跳ねるエドに念を押される。

 五年も会っていなければ、積もる話もあるのは俺も同じだ。


 後で宿舎に行くと伝えたら、シダレとエドはさっさと宿舎に帰ってしまった。

 どうやら女の子には準備があるらしいようだ。

 気付いたら娘が大人になっていた気分だ。

 この時期ぐらいからお父さんと一緒に洗濯しないでって言われたり、目を合わせてくれなくなったり、お母さん伝手で話すようになったり。

 結婚してないのに悲しくなってきた。


「お久しぶりですね、カナタさん」


「久しぶりだなヨシノ。 元気だったか?」


「ええ、おかげさまで。 カナタさんが来ているって知っていたら私たちもう少し頑張れたかもしれません」


 ふふっと笑うヨシノ。

 ヨシノと俺は同い年のはずなのに、なぜかヨシノには大人な雰囲気が漂っている。

 これが余裕というやつか。

 つい最近まで飯を食うのにも苦労していた俺にはないな。


「関係ないだろ、別に」


「ふふっ」


 なんか俺の周りには俺を振り回してくる女性が多い気がする。

 ヤマトさん、ヨシノ、アザゼル。

 ヤマトさんとアザゼルはからかってくる感じ。

 ヨシノに至っては俺のことを年下のように、弟のように扱ってくる。


「カナタさっきの試合どうだった?」


 先ほどまで動揺していたエルゼが今度は一転真剣な眼差しで俺に尋ねてくる。


「別に悪い戦いじゃなかった。 人数有利を作ることに関しては作戦を立てていたと思うが、なかなか現実は思い通りに事は運ばない。 それに対応できずに負けた、つまり経験の差ってところだな」


「なるほどね……」


 エルゼが俯きながら考える。

 エルゼがこうも立派になるとはな。

 元々、エルゼはしっかり者ではあるがどこか主体性に欠けていた。

 自分の中に芯の通った意見があるのにも関わらず、それを黙って隠してしまう。

 この才能にいち早く気付いていれば、〈桜の遺跡〉攻略はもっと簡単になっていた。


 アル曰く、エルゼをコーチにさせたことでエルゼに主体性が生まれたらしい。

  彼女に隠された才能は、分析能力にある。

 頭の回転は俺が見て来た中でも段違いに速い。

 もし仮にエルゼと〈危険領域ブラック・テリトリー〉を旅できれば苦労をすることはなかったかもしれない。

 それだけ彼女の分析能力は秀でているのだ。


 だから彼女らの心配はしていない。

 俺が言っていたように【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】が負けたのは経験の差。

 その事実はエルゼも知っているはずだ。

 俺に聞いたのはあくまで自分が気づいていない点があるかどうかを確認しただけだろう。


「私たちのことは私たちで何とかするわ。 それで明日の試合はあなたも真面目にやるんでしょ、カナタ」


 エルゼが微笑を浮かべる。


「まあ俺がやれることはやる」


「応援するわよ」


「カナタさん、私も陰ながら応援します」


 ふふっと笑うヨシノ。


 変なプレッシャーが圧し掛かってしまった。

 【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】の試合を見たら俺にも変な気合が入ってしまった。

 彼女たちに恰好悪いところは見せたくない。

 俺にも男としてのプライドがあってよかった。


 まあ勝つか勝たないかは実際のところ、俺は関係ない。

 タイヨウとネロ、【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】にも負けない若き才能溢れる二人に託されているから。

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