第75話「森の妖精達」
「お疲れ様」
ヴィオラからの労いの言葉を受け、タイヨウとネロは照れくさそうに腰を下ろした。
「それにしてもタイヨウ、強くなってるね!」
ヤマトも自分勝ったかのようにタイヨウ達の勝利が嬉しいようだ。
「まだまだっすよ」
タイヨウは少し照れながらも、次の戦いに向けて余念はない。
この次の戦いには【王の楽園】が待ち構えているのだから。
「ヤマトさん、私は二人倒したんだよ!」
ぷくーっと頬を膨らませたネロが嫉妬からかヤマトをジト目で睨む。
「もちろんネロちゃんも頑張ってたよ」
えらいえらいと言いながら、ネロの頭を撫でるヤマト。
その行為だけでネロは心底嬉しそうにしており、頬っぺたが落ちそうなほどにやけていた。
「あれ、カナタ君は?」
ヤマトが辺りをきょろきょろと見渡すもカナタの姿はない。
「カナタなら【森の妖精】のところ行くって言ってましたよ」
ネロが思い出したようにカナタの行方を告げた。
「あ、そっか。 これから【森の妖精】と【慈しみの愛】の試合だもんね」
「カナタって【森の妖精】となんか関係があるんですか?」
ふと疑問に思った事を口に出したタイヨウ。
カナタと別れる時に特に不思議には思っていなかったが、今考えれば何か関りが無ければ【森の妖精】との試合を見に行くはずがない。
カナタの性格をわかってきたタイヨウの頭にはクエスチョンマークが浮かんでいた。
「あれ、知らなかった? カナタ君は【森の妖精】と一緒に〈桜の遺跡〉を開拓したんだよ」
「「「「え?」」」」
この場にいるヤマト以外の面々が口を大きく開けてヤマトに注目した。
驚くのも無理はなかった。
〈桜の遺跡〉は国が歴史上、学術上ともに価値があると認めた特別指定遺跡。
今のところ立ち入ったことがあるのは、国の中でも超がつくほど偉い人。
そして、〈桜の遺跡〉を開拓した【森の妖精】だけのはず。
開拓メンバーは【森の妖精】だけだと聞いていたからこそ、タイヨウは驚きを隠せなかった。
まさかそこにカナタがいたという事実はここにいるヤマト以外の全員が初耳のはずだから。
「お兄ちゃんいつの間にそんな事してたの……」
近くに座っているティアも動揺も隠せていない。
「カナタって元々【森の妖精】に入ってたってことですか?」
タイヨウが自身の疑念を晴らすように聞く。
周りにいた者もヤマトの答えを待ちわびているようだった。
「ううん所属はしていなかったみたい。 でも、アルさんが言うにはカナタ君がいなかったら〈桜の遺跡〉は開拓できていなかったみたいだよ」
「〈桜の遺跡〉が開拓されたのは六年前、つまりカナタは十歳?」
ヴィオラが顎に手をやりながらカナタの年齢を計算した。
「そう、すごいよね」
ヤマトが嬉しそうに笑う。
ネロもこの事実には方唾を飲んで黙るしかできていないようだった。
タイヨウもネロと同じく、言葉を失ってしまう。
タイヨウはカナタが何者なのかよくわかっていなかった。
自分よりも強く、自分よりも多くの知識を有している。
いや、他の『神の実績』と比べても遜色はない。
あの〈未開拓遺跡〉でA級魔獣を難なく討伐し、魔族侵攻の時もカナタは身を呈してZ級から【天使の加護】を守ったのだから。
そんなカナタがなぜ表舞台に出てこなかったのか、タイヨウの中では不思議でならなかったのだ。
他の人が〈危険領域〉を生き抜いた事実は知らないで当たり前、でも【桜の遺跡】を開拓した事実は誰もが知れる真実。
しかしカナタは歴史を塗り替えたことを自慢することなく、ひけらかすわけでもない。
タイヨウの目にはそれが眩しく、格好よく映った。
弱冠十歳にして歴史を動かした彼に早く追いつきたいと感じてしまった。
いつかカナタに肩を並べたいと、そう思うほどに。
「やっぱりすげえな、カナタは……」
タイヨウは考える間もなく、カナタへの尊敬を口にしていた。
その思いを夢で終わらせないためにタイヨウは深く心に刻んだ。
* * *
「カナタ君こっちこっち!」
観客席をうろちょろしていた俺をいち早く見つけていたアルが、大きく手を上げて居場所を教えてくれた。
円状に囲まれたコロッセオの最前列には俺が約束していた人物二人が座っている。
そしてなぜか真ん中に席が空いている。
「久しぶりだね、カナタ」
にこやかに、爽やかに挨拶をしてくるこの高スペックな青年。
顔も小さく、体も細い。
一見、ひ弱そうに見える彼であるが魔力の量は化け物クラス。
彼はジェット・ロースター。
最近『神の実績』になったばかりのニュースターだ。
「元気だったか、『神の実績』様」
冷やかすようにジェットに挨拶をしてみる。
「やめてよ、まだ実感ないんだからさ」
俺の冷やかしも構わず、にこやかに笑い続けるジェット。
こいつは俺のどんな冗談も、こうやっていつも笑ってくれてたっけ。
ジェットとこうしてからかうのも六年振りともなれば懐かしくなっても致し方ない。
「あれ、エルゼはいないのか?」
「エルゼはエド達のコーチだから、試合会場にいるんじゃない?」
「そうか、良い判断だな」
エルゼ、エド、シダレ、ヨシノ。
【森の妖精】が誇る、四大美女。
【森の妖精】がいる地域〈天下の分かれ目〉では有名な美人達だ。
隣に立たれるだけでも俺は卑屈な気持ちになるほど、彼女たちの輝きは眩しく華があった。
そう考えたら、ジェットも大変だな。
周りに男はおらず、まさにハーレム状態と他の男共からは言われるかもしれない。
でも現実はそうではない。
俺が憧れた異世界転生ハーレムみたいにはならない。
考えて見てほしい。
周りの目から俺はどう映っていたと思う?
え、なんであんなブ男と一緒にいるの?
だの。
あんな陰キャがなんで【森の妖精】に入れるんだ?
だの。
お、俺もも、【森の妖精】に入れてほしいんだな。
だの。
おっと最後に至っては俺が肩を組むほど嬉しくなってしまった、クソデブ汗どばどばオタク野郎だった。
こいつだけは俺が許した存在だったのをすっかり忘れていた。
アルになんとかこいつを【森の妖精】にと懇願したが、他四名の美女により即却下となってしまった。
ちなみにだが、このオタク野郎は彼女らのストーカーだったらしい。
人は見かけに寄らないもんだなあ。
「お前も大変だな」
「え?」
ジェットは何を言ってるのかさっぱりわかっていないだろう。
異世界の主人公はそのぐらいで鈍感でいいんだ、ジェット君。
「さあ、お待たせ致しましたあああああ! 本日二試合目【森の妖精】vs【慈しみの愛】の試合が始まります!」
試合開始を知らせるアナウンサーの情熱の籠った声が聞こえてくる。
ということは、そろそろエド達の試合が始まる知らせだ。
〈桜の遺跡〉で出会った少女達はどこまで成長しているのだろうか。
かつての少女らは一体どんな風に変わっているのだろうか。
初めてかもしれないな、こんな気持ちになるのは。
彼女らの成長を見守ってやれるほど俺も人生に余裕があるわけでもない。
彼女らを評価してあげれるほど俺に実力はない。
それでも彼女らの進化をこの目で見れることが嬉しかった。
「かましてやれ」
俺の口からは自然と笑みがこぼれているのがわかった。




