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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第3章「七大ギルド新人戦編」
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第73話「成果」

「来たか」


 タイヨウが全力で駆け抜けて行った先には腕を組んでいたイチルが待ち構えていた。

 前戦ったときと明らかに魔力の量が違う。

 加えて質という部分に重きを置いても以前よりかは遥かにいい。


「今度は真剣勝負だ」


タイヨウがイチルを前にして、堂々と戦うことを宣言する。


「ああ俺もそのつもりだ」

 

 以前のイチルならば、正々堂々戦うことなど望んでいなかったはず。

 このイチルの佇まいは自信の表れだとも取れた。

 

 タイヨウも魔力を炎に変換し、体に纏う。

 相手にとって不足はないと、体が本能がそう言っているような感覚だった。

 タイヨウが魔力を解放したと同時にイチルも魔力を高め臨戦態勢。

 息を合わせたようにお互いが駆け出して行った。


 ゴンッ


 拳と拳がぶつかり合い、激しい魔力のぶつかりによって周りの木々が揺れる。


「おらああああああ」


「うおおおおおおお」


 両者一歩も引かない拳のぶつけ合い。

 しかし、イチルの魔力量が若干上回っていたためタイヨウが押されてしまった。

 イチルはその隙を見逃すはずはなく重たい一撃をタイヨウのみぞおちに入れ込む。


「ぐっ!」


 タイヨウがその攻撃を喰らったことにより、イチルと距離をとる。


「おいおい、まだまだこれからだろ」


 イチルがニヤリとした笑みを浮かべながら指を動かす。


 タイヨウが若干奥手になっているのには理由があった。

 その理由とは、イチルの能力。

 あの路地裏で出会った時に使われた不可解な能力だ。

 カナタが言うには、視認外からの攻撃によって魔力を増幅させるのでは推測していた。

 であればタイヨウは常にイチルを視界に留めさせておく必要がある。

 しかし、イチルも前会ったときよりも強く素早くなっている。

 以前戦ったときでさえ、イチルの動きは追えなかった。

 目を閉じてなんとか魔力の動きを終えていたが、今のイチルに前のような魔力の粗さはない。

 よってこの前の作戦は通じないということだ。


「やるか……」


 タイヨウがぼそっと呟いた。

 イチルにはまだ余裕が見られる。

 だったら試すにはいい機会だ。

 修行をしていた時に編み出した技を。


「来ないなら俺からいくぜえ!」


 タイヨウの目にはイチルが向かってくる姿。

 しかし普段見ているよりもスローに映る。

 それはこの能力の賜物なのだ。


「『太陽が変わる日(ムーンライト・サン)』」


 タイヨウはイチルの目の前から姿を消した。

 そしてイチルの背中を捉え、凄まじい速さで拳をぶつける。


「っ!」


 イチルは吹き飛ばされることはなかったが確実にダメージを負っているようで、表情から余裕は消えた。

 タイヨウが身に纏うのは青色の炎。

 やる気ではなく、悔しさを燃やして。

 『太陽が昇る日(バニシング・サン)』と比べてパワーは劣るが、スピードは格段に速くなる。


「お前も強くなったということか」


 イチルは笑っていた。

 この笑みは心の底から戦えることに嬉しさを感じているからなのか。

 その嬉しさであればタイヨウも同じだった。

 強い奴と戦うことで自分も成長できるから。

 あの悔しさを二度と起こさないためにも、強くなるしかない。

 強い奴と戦うことが今のタイヨウには必要なことだから。


「いくぞ」


 タイヨウは言葉を吐き捨てた瞬間、イチルの目の前まで到達する。

 背後を取りに行くわけではなく、正面からイチルにぶつかりに行く。


 イチルもファイティングポーズを取って自身の顔面を覆ったが、タイヨウの凄まじい速さの連打攻撃はその防御の隙間さえも縫う。

 右にガードが偏れば左に移動して顔面にパンチ。

 左にガードが寄れば、左にフェイクを入れて右側にパンチ。

 タイヨウは一撃一撃全てクリティカルヒットさせている。


 タイヨウの攻撃が一通り放たれた後、イチルは膝から倒れた。


「よしっ!」


 タイヨウはそれを見て小さくガッツポーズをする。

 そしてネロと離れた場所まで戻ろうとした。

 人数ではイチルを撃破してやっとトントン。

 まだ勝ちを喜べる状況ではなかった。


「————へっ」


「っ!」


 少しの余裕。

 たった一呼吸。

 カナタから忠告を受けていたはずだった。

 戦いになる以上、隙を作ってはいけないと。

 常に隣には魔獣がいるという意識で戦えと。

 タイヨウはその瞬間激しく後悔を覚えた。

 イチルという自分と実力が近い相手に勝ったというのがタイヨウの慢心を招いてしまう。


 でも、気付いた時には遅い。


 イチルの拳がタイヨウの背中にぶつかる。

 すぐさま身を翻して距離を取ったタイヨウであったが、一番警戒していた視認外からの攻撃を喰らってしまったことに焦りを感じていた。

 冷や汗のようなものがじんわりと額に滲んでいるのがわかる。


「おいおい、勝ったとでも思ったか?」


 イチルの魔力は上昇し、対照的にタイヨウの魔力が減少する。


「『狡猾で卑怯な手(ダーティ・ダークネス)』発動!」


 イチルが駆け出してくる。

 この能力の発動によってタイヨウの頭には視認外からの攻撃を考えていなくても体が勝手に追ってしまう。

 そうなっている時点で、タイヨウは圧倒的に不利。


 イチルは能力をちらつかせて攻撃をしてくる。

 タイヨウは能力を意識しなくてはならずに、攻撃が億劫になり防御に徹してしまう。


 * * *


「圧倒的な不利な状況になった時ってカナタは何を考えるんだ?」


 こんがり焼け、表面には所々焼き焦げた跡がある魚を食べながら、タイヨウが俺に不思議な質問をしてきた。

 やっと魚ぐらいは取って来れるようになったと思ったら、まさかの技術的な質問。

 珍しく真っ当な質問をしてきたタイヨウにいい加減な答えを返すわけにはいかない。


「うーん、そうだなあ。 まず、逃げることを考えるな」


「逃げれないってなったら?」


「それでも逃げる」


「それでも逃げれなかったら?」


「土下座してでも時間を稼ぐ」


「それはできないんじゃないか?」


 タイヨウが苦笑いを浮かべ、頬をポリポリと掻く。


 しかし、これが俺の戦い方だった。

 まずは自分の命を確保し、心のゆとりを取り戻し冷静になった時にどうするかを考える。

 考えながら戦う、体が勝手に動くから戦うといったような高度な技術は俺にはない。

 だったら無理にその天才に近づく部類になろうとしなくていい。


「自分にとってどうするのが正解だと思う?」


 質問に質問で返すのはあまりよろしくはないが、タイヨウにはもっと自分の頭を使う必要がある。

 バカでも脳みそはついているのだから、使わなければもったいないのだ。


「俺だったら逃げずに戦っちゃうな」


 タイヨウは焚火をずっと見ながら言葉を述べた。


「じゃあどう戦うんだ? 正面からぶつかるだけか? 敵の弱点は?」


「え、えっと……」


「タイヨウ、戦闘時にはここまで考えなくてはならない。 ただ戦闘時そんなことを考えている余裕はないし、それを実現する準備もできていない。 だからこそこうして修行しているときに考えなければならない、体を作らなきゃいかん」


 そして一呼吸置き、タイヨウをちらっと見たうえで俺は話を続けた。


「だからこそ俺は考える時間を作るために逃げる、これが俺の戦いの最適解だ。 タイヨウ、お前はどうなんだ?」


「俺は……」


 タイヨウは自身の両手を見つめた。

 考えればいいんだ。

 正解は出なくてもいい。

 答えを出すという過程が必要だから。

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