第72話「作戦」
試合開始前。
特に緊張することはない俺だが、試合となると少しばかり緊張してしまう。
タイヨウとネロは各々準備体操を始めている。
どうやら今回ばかりは俺よりもこの二人の方が経験はあるらしい。
「慣れてんのか試合とか?」
「そうだな、非公式だったけど色々なチームと試合やってたな」
「まじかよ、なんか俺珍しく緊張してるぞ」
「へえ~、あんたの頭に緊張なんかないと思ってたわ」
「俺をどんな奴だと思っている」
こんなことならよっぽど〈危険領域〉にいた方が安心できる。
まあしかし、ここまで来たら引き下がれない。
優勝をして『古代武具』を持ち帰る。
それが俺の命題だからな。
「で、カナタこの試合の作戦はあれで行くのか?」
「ああ、ネロもそれでいいだろ」
「あんたに従うのは癪だけど、その作戦には大賛成よ」
チームワークなんて俺らにはいらない。
だったら一人が一人に勝てばいいだけの簡単な話だ。
「よし、じゃあいくぞ」
「おう!」
「ええ」
タイヨウとネロは気合を入れなおした。
そして試合開始のブザーが鳴る。
それと同時にタイヨウとネロは駆け出して行った。
俺はその二人に付いていくことなく、この場で寝ることにする。
これぞ今回の作戦『俺だけ寝て、あとはお前らやっといて』戦法。
* * *
「おーっと、ここでカナタ選手まさかのふて寝だあああああ!」
アナウンサーであるナツミもこの行動に驚いているようだ。
ヤマト達にはナツミの声だけが伝わるが、その声だけでもカナタが寝ることは想像もしていなかったみたいだった。
「あははははは」
ヤマトもこの行動に笑いを隠せないでいる。
「お兄ちゃん、何してるの?」
ティアも驚きを隠せない。
いや、ティアだけではない。
この会場全体からどよめきが沸き起こっているのだった。
「これってどういう作戦か知ってます、ヤマトさん?」
ヴィオラも開いた口が塞がらないまま、ヤマトに質問を投げかける。
「私は何も聞いてないよ。でも、たぶんこの試合はネロちゃんとタイヨウに任せるってことだと思うよ?」
「え?」
「この試合に二人で勝てないと、【王の楽園】には勝てないってことなんじゃないかな」
その言葉を聞いてヴィオラも納得してしまったようだ。
ヤマトはスクリーン上に映った、寝ているカナタをじっと見ながらカナタについて思いを馳せた。
これがカナタ・アゼレアだ。
【天使の加護】の若い新人に、最高の一人が加わった。
タイヨウとネロ、戦闘力だけ見れば周りのギルドと比べても遜色はない。
ただ、経験においてはまだまだ足りない。
当たり前のことだ、二人はまだ若いのだから。
しかし、そこに〈危険領域〉を生き抜き魔力に関しての知識を豊富に持つカナタが加入した。
タイヨウに悔しさをバネに、ネロには憎しみを力に変えることを教えてくれた張本人だ。
ヤマトがネロとの修行中行っていたのは、カナタに言われていた事を伝えるだけの役割。
多分途中からネロも気づいていただろう。
ヤマトの口からは聞けることはないことを、ヤマトから言うはずもない事をネロに伝えていたから
タイヨウとネロも理解しているはずだ。
カナタが遥か高みにいるということを。
単純な実力差では測れないカナタの凄さを。
そうであるならば、自分達の成長をカナタに見せるために戦ういい舞台ではないか。
その成長はヤマトがずっと見たかったものでもある。
「頑張れ」
ヤマトは心を躍らせながらカナタ達の戦いを見守った。
* * *
タイヨウ、ネロは魔力を全開に出しながら森を駆け抜ける。
いつもなら魔力を温存するために移動には魔力を極力使わないようにしていたが今はそんなことを考えずに済む。
それは絶対カナタとの修行のおかげだ。
「危ない!」
「わかってる!」
タイヨウが突然声を上げた。
タイヨウの目線の先には小さな光。
おそらく敵の『魔装武具』だ。
カナタの修行期間、魔族と隣り合わせで生活していたため自分に危害を加えるものに足しての危機察知能力が上がっていた。
森で一か月も過ごしていたため、この薄暗い環境でも目が冴えている。
ネロもその光に気づいたようで能力を使い、ひとまず射線を切った。
「タイヨウ、あなたは先に行きなさい。 あの弱虫は私が倒すわ」
ネロとタイヨウはツタに背を向けた状態で目を合わせた。
「わかった、気をつけろよ」
「あんたもね」
タイヨウとネロはここで離れた。
元々作戦の内容はタイヨウとネロは別鼓動。
一対一を仕掛け、最後に残った一人は早い者勝ちで戦う。
己の成長を見せつけるためには最高の舞台。
ネロと別れたのちタイヨウは一目散に魔力が漂っている場所へと走った。
おそらくそこにいるのは、タイヨウも認めている実力者がいるから。




