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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第3章「七大ギルド新人戦編」
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第71話「勝つ可能性」

「はい、これ約束の『魔装武具マジック・アイテム』ね」


「あざっす」


 試合開始前、俺はヤマトさんに注文しておいた『魔装武具マジック・アイテム』を取りに来た。

 今回の新人戦では『古代武具ロスト・アイテム』の使用は禁止らしい。

 まあ新人の中で『古代武具ロスト・アイテム』を持っている奴は俺しかいないようで、実力差以外のところで差が出てしまうのはどうやらこの新人戦の理念に反するらしい。


 『古代武具ロスト・アイテム』の所有に関しては保留という形で今は見送られている状況。

 本来であれば魔族侵攻が終わった後に回収される予定だったが、どうやらポチが直接ミエルに直談判をしに行ってくれたらしい。

 そのおかげで保留の状態になっているだとか。

 よくできた妹だ、今度会ったらよしよししてあげよう。


「タイヨウ君の方はどうだった?」


「俺の中ではまだまだですが、形にはなったでしょう」


「ふふっ、さっすがぁ」


 ヤマトさんがニヤリと笑いかけてくる。


「で、ネロの方はどうなったんすか?」


 褒められることには慣れていないので、すぐに話を切り替えた。


「うん、ばっちし! カナタ君に言われた通りやっておいたよ」


 そう、ヤマトさんには事前にネロの修行の内容を伝えておいた。

 どうせ実績もない俺の意見など聞かないネロのことだ、ヤマトさんに頼み込んで修行をつけてもらうに違いない。

 だったらヤマトさんに言わせればいいだけだ。


 こんな事する必要はないと思っていたが、ヤマトさんに任せるのは本当にやめろとクロガネさんにしつこく止められたので仕方なく伝える事にした。


「それにしても、どうして魔力を解放し続けるだけなの? カナタ君ならもっと能力の細かい指示できただろうに」


 ヤマトさんが顎に手を当てながら考えているようだ。

 しかしヤマトさんが考えているほど複雑なものではない。

 至って単純な理由だった。


「俺があれこれ言ってあいつらの形が変わるのが怖いんすよ、能力とか魔力の使い方は人それぞれなんであれこれ指導すると壊しかねないんでね」


「なるほどねえ。 でもそれと魔力の解放し続けることと何か関係あるの?」


「魔力を解放し続けることは単純な体力の底上げっすよ。 土台をしっかり作っておけばあとは積み上げるだけなんで」


「すごいね、カナタ君」


 ヤマトさんが口に手を上げながら驚いた様子。

 何か不思議な事言ったっけ俺。


「当たり前のことを言っているだけですよ」


「その当たり前のことがわからない人もいっぱいいるよ。 私だってそのうちの一人だし」


 えへへへと照れながらヤマトさんは笑う。


 ヤマトさんのような才能に溢れた人に、俺みたいな凡人が勝つには頭を使うしかない。

 これはタイヨウ達にも言えることだ。

 圧倒的な強者に追いつくためには、その人を上回る練習量が必要。

 そしてその練習をするのにも体力がいる。

 その体力をつけるために、森に一か月軟禁した。

 体力がなければ、土台がなければ上に何かを積み上げることは不可能だ。

 それに土台がしっかりしていればどんな物を積み上げても早々に崩れることはない。

 だからこそ、彼らにとって土台を作ることが今一番必要なことなのだ。


「じゃあまだ勝てないってこと?」


 ヤマトさんがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 そうヤマトさんが言った通り、勝つ可能性は限りなく低い。

 なぜなら俺が行ったのは土台を作っただけだから。

 ここに彼、彼女がどれだけの者を積み上げているのかどうかが勝負の分かれ目だろうな。


 それにしても本当にこの人は頭がいいのか悪いのかわからない。

 まるで俺の思惑を全て知っていたかのように。

 それだけ彼女のたまに見せる鋭い洞察眼は凄まじいと思ってしまう。


「そうですね、俺はまだ勝てるとは思ってません。 ただ一回限りの勝負、勝つ可能性は十分あります」


 俺も少し笑って見せた。

 ヤマトさんに見せてやりたくなってしまったから。

 タイヨウの成長した姿を。


「応援してる」


「そうですね、俺も近くで応援しときます」


「ふふっ」


 おそらくヤマトさんはわかっている。

 今回、俺が何もするつもりはないことを。


 * * *


 即席で作ったにしては豪華な作りのコロッセオに、ヤマトは関心していた。

 コロッセオの真ん中にはスクリーンが映し出されており、全方位から新人戦の模様が中継されるようになっている。


「ほんと【機械仕掛けの工場(サイバー・ドクター)】の技術力ってすごいね」


「そうですね、日に日に進化しているような気がします」


 ヤマトの隣にいたヴィオラも技術力の進化に関心しているようだった。

 【機械仕掛けの工場(サイバー・ドクター)】はこの国でも随一の技術力を誇る。

 『魔装武具マジック・アイテム』に関しては九割作っており、このギルドは技術力で国に貢献していると言っても過言ではない。


「あの、隣座ってもいいですか?」


「あ、はいどうぞ」


 ふと声を掛けられたヤマトが返事をする。

 ヤマトの隣に座った女性は黒髪で短髪。

 ボーイッシュな見た目に見えるが、顔立ちは整っておりクールビューティな人物だった。


「あれ、ティアちゃんだ!」

 

 ヤマトがしっかりと顔を確認したのちにティアであることを確認する。 


「お久しぶりです、ヤマトさん」


 ティア・アゼレア。

 最近『神の実績(シン・クラス)』になったばかりの【王の楽園(キングダム・エデン)】第二支部リーダーだ。


「ティアさん、なぜここに?」


 ヴィオラが首を傾げながらティアに質問を投げた。


「本来ならば【王の楽園(キングダム・エデン)】を応援しなければいけない立場ですが、今回ばかりはどうしてもここの席で【天使の加護ブレッシング・エンジェル】を応援したくて」


 ティアが照れくさそうに笑う。


「あ、さてはカナタ君目当てだな?」


 このこのと言いながら、ヤマトは肘をティアに押し当てる。


「お兄ちゃんがこのギルドで何をしているのかできるだけ近くで見てみたくなってしまったんです。 お兄ちゃん元気にしていますか?」


 ティアが笑う姿はあまりヤマトも経験がなかった。

 部下に厳しく、自分にはもっと厳しい。

 その厳しさがあるからこそ、【王の楽園(キングダム・エデン)】の第二支部は強者が揃っている。

 そんなティアを知っているため、今隣に座っているティアはいつものティアではないことはすぐにわかった。


「うん、カナタ君はこのギルドに欠かせない存在になってるよ。 たぶん今日それがわかると思う」


「そうですか……」


 ティアは少し寂しそうな表情を浮かべていた。

 家族が遠くに行ってしまう感覚はヤマトも近しいことを経験している。

 だからこそ、見守られるうちに見守ってあげなくてはならないのだ。


「さーお待たせしました! 七大ギルド新人戦の開幕がもう間もなくに迫っております。実況は私【海岸の歌姫シュノーケリング・ラバーズ】のナツミと解説は【慈しみの愛(プリズム・キャンサー)】のエース、イザベラさんです! イザベラさん、よろしくお願いします!」


「よろしく~」


「うおおおおおおお」


「イザベラさあああん!」


「こっちみてくれええええ!」


 イザベラの声に、男ファンの歓声が沸き上がる。


「相変わらずイザベラは男人気すごいね」


 ヤマトも場内この場内のどよめきに驚きを隠せないでいる。

 

「イザベラさん、この戦い鍵を握るのは誰になりそうですか?」

 

 アナウンサーが快活な声でイザベラに話を振る。


「そうだねえ。 新人戦だから未知数な部分は多いんだけど、新加入のイチル君とカナタ君が鍵を握るんじゃないかな」


 イザベラは多くを語らず、端的に解説をした。

 

 新人と言っても、七大ギルドに所属してる者であるので大なり小なりある程度の知名度がある。

 よって、参加している者の凡その戦力は把握できてしまう。

 ましてや【王の楽園(キングダム・エデン)】などのビッグギルドになってしまえば、戦いにおいて非常に重要な能力さえも知られてしまっている。

 

 であるならば、七大ギルドの中で知名度がないのイチルとカナタに自然と注目が行くというもの。


「なるほど。 欲を言えばもっとイザベラさんの解説を掘り下げたいところですが、試合会場の準備が整ったようなので早速行きましょう!」


 ナツミの言葉と同時に目線がスクリーンに集中する。


「では第一試合【天使の加護ブレッシング・エンジェル】VS 【仮面の道化師(クラウン・ジョーカー)】、スタートです!」

 

 ヤマトも漏れずに、スクリーンじっと見つめた。

 大きな期待と、少しの不安を胸に背負いながら。

 

「さあ暴れてきなさい少年少女たち」

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