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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第3章「七大ギルド新人戦編」
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第70話「初戦と次戦」

蝋燭しか灯っていない暗い部屋で二人の人物が座っていた。

 一人は黒いスーツを身に纏い、きっちりとした姿勢を保っている。


「で、偽典を奪うのは誰にするんだ?」


 逆に砕けた姿勢、砕けた言葉で質問をする男。


「私が決めているのは【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】のアル・グリーンと考えております」


「なんでアルなんだぁ?」


「ギルド単位で戦闘力を考えた場合、【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】が一番奪いやすいという判断を致しました」


 スーツの男は淡々と丁寧な言葉遣いで説明を続ける。


「まあタイミングはお前に任せるが、いつアルを拉致る予定なんだぁ?」


「今回の新人戦の最中に、と考えております」


「お前のことだ、失敗はしないんだろうよ」


「はい、慎重に計画を立てております」


 スーツの男が表情を変えることはない。

 それに声のトーンも全く変わらない。

 それがこの男の不気味さを物語っていた。


「畏まりました。 ただ注意するべきは【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】のジェットです。 あの男が立ちはかれば偽典の獲得は少し困難なものになってしまいます。 そこであなた様にやっていただきたいことが……」


「おう、なんでも言ってくれよ。 なにせ偽典が待っているんだからなあ」


「ありがとうございます、ブルシット様」


 * * *


「遅い!」


 王都〈セルティナ〉に建設されたコロッセオ。

 たった一か月程度でこれほど大きな特設会場を作ったのは素直に驚いた。

 このスピードで建設されたということは、もしかしたら前からギルド対抗戦の開催は予定されていたかもしれないな。


「悪いな」


 顔中傷だらけのタイヨウが少し口角を上げながら詫びを入れる。

 この傷にタイヨウの修行の成果が出ていると言っても過言ではない。


 ネロを見ても所々テーピングが巻かれており、その姿だけでネロがきちんと修行を重ねていたことが分かる。


 横にいたヤマトさんをちらっと見ると何やら誇らしそうにしていた。

 ヤマトさんもしっかりとネロの面倒を見てくれていたようだ。


「あ、タイヨウとカナタも着いたね」


 声が聞こえてきた方を振り向くとそこにはヴィオラさんの姿が見えた。


「えっと、カナタ達には喋る時間なかったから改めて説明しちゃうね。 今回の新人戦は三対三のトーナメント形式で行われるわ。 試合の場所はここから近所の森で行われるそうよ」


 ヴィオラさんはおそらくタイヨウの為に説明してくれているのだろう。


 ほら見てみろ、タイヨウが驚いてるぞ。

 予想通りタイヨウが驚いている様を確認し、ヴィオラさんは言葉を続けた。

「それで対戦相手が今決まったわ。 初戦は【仮面の道化師(クラウン・ジョーカー)】、それに勝てば【王の楽園(キングダム・エデン)】ね」


「【王の楽園(キングダム・エデン)】……」


 ネロがぼそりと呟く。

 憧れ、因縁があるチーム。

 ネロにしてみれば様々な感情が入り混じっていることだろう。


 二回戦目に最強とされている【王の楽園(キングダム・エデン)】とぶつかるのは傍から見れば運が悪いと映るかもしれない。

 しかし、タイヨウとネロにとってみれば最高の舞台が用意されているようなものだ。

 負けても当然のように流され、勝ったら注目されるのだから。


「初戦はお前らかよ」


 ん?

 なぜかこの声を聞いたら体の奥底から怒りが沸き上がってきたぞ。


「よお」


 振り向いた先にいたのは、かつて俺の財布を奪った(正確に言えば奪ってなかった)イチルの姿が見えた。


 彼が俺の財布を盗んでいなかったのは認めるとしても、俺に絡んできたのは今でも忘れていない。

 そうだよな、タイヨウ?


「初戦ってことはお前【仮面の道化師(クラウン・ジョーカー)】に入ったんだな!」


 タイヨウ君? なんで君はちょっと嬉しそうなんだい?

 あの時俺を助けてくれた、悪を嫌う正義のヒーローはどこに行ってしまったんだ。


「ふんっ。 【王の楽園(キングダム・エデン)】と戦う前にいい腕鳴らしができていいぜ」


 相変わらずのイチルの態度。

 ただこいつには少しだけ感謝しているのも事実。

 〈未開拓遺跡ラビリンス・リメインズ〉ではネロとタイヨウの命を救ったのはイチルだから。

 イチルがいなければもしかしたら、彼と彼女は助かっていなかったかもしれない。

 まあ俺がこいつの命を助けたのだから、トントンってところか。


「タイヨウ、こんな雑魚になんかに構わないことね」


 ネロも相変わらずだ。

 一応あなた命助けてもらってるからね?


「ふんっ負け犬は吠えとけばいいさ。 どちらが強いかは戦って決めればいい」


「その通りだな」


 俺もイチルの意見には同意だ。

 ありきたりの言葉だが、勝った奴が強いのだ。

 勝負になる以上は過去の実績や名声などは関係ない。

 その一回限りの勝負で決まる。

 まさかイチルからこんな言葉が聞けるとは思っていなかった。

 人間というのは成長できるんだな。

 それに【仮面の道化師(クラウン・ジョーカー)】に入る事ができる実力も持っている。

 元々のポテンシャルは高いとは思っていたが、所詮井の中の蛙と言ったところだった。

 何がきっかけでここまで成長したかは知らないが、タイヨウ達にとっても良き相手となるだろう。


「雑魚に何を言われても響かないわね」


「あん!? もういっぺん言ってみろ!」


 ネロの煽り文句にイチルも反応を示した。

 やっぱり人間はすぐには成長しないかもしれない。


「おい、あれ【王の楽園(キングダム・エデン)】じゃないか?」


「ほんとだわ、私サインもらいにいこうっと!」


 イチルとネロが喧嘩している最中に、周囲がざわざわとし始めた。

 瞬く間に多くの人だかりでここら一帯は込み合い、通り過ぎていく人に肩をぶつけられる。

 しかし、その人はぶつかったと分からないほど興奮しているのか謝ることもせずに一目散に目当ての場所へ駆けだしているようだった。


「なんだあれ?」


 喧嘩が中断されたネロに喋りかける。


「あれが【王の楽園(キングダム・エデン)】のメンバーよ」


 人混みの隙間からちらっと見えた男女三人組。

 あれが『黄金世代ゴールデン・ルーキー』の筆頭。

 一瞬見えただけだが、真ん中にいた青年に目がいってしまった。

 他を寄せ付けないオーラがあるのが印象的だったから。

 魔力ではない、純粋な人のオーラ。


 強い奴には共通して独特のオーラがある。

 死んだ目のクロガネさんであっても、いつも何を考えているのかわからないヤマトさんであっても独特のオーラが存在するのだ。

 もしかしたら、他の人は気づかない事かもしれない。

 しかし、〈危険領域ブラック・テリトリー〉を旅するにはその小さな違いを感じなければ死に直結したのでその感覚は秀でている自信はある。

 めちゃくちゃ可愛いかった兎型の魔獣に実は喰われそうになることある?


 兎にも角にも若くしてそのオーラを纏っているのは大したものだ。


「へっ、あいつらを早くぼこしてえぜ」


 イチルも敵意剥き出しでその人だかりを睨みつけて、この場を後にした。

 タイヨウ、ネロの視線も【王の楽園(キングダム・エデン)】に釘づけだ。


 この世代の者は皆【王の楽園(キングダム・エデン)】に対して何かしらの意識はあるのかもしれない。

 名実ともに人気の【王の楽園(キングダム・エデン)】。

 例え才能があるものがこのギルドにいたとしても、この新人戦に来られるのはたった三人だけ。

 才能だけではくぐり抜くことが困難な狭き門を突破してきた者達を意識しないほうがおかしいか。

 

「ビビったか?」


 俺は煽るように二人に言った。


「「全然!」」


 二人は息を合したように声を揃える。


「ふっ、それならいい」


 愚門だったかもしれない。

 あの修業を一か月続けられた今の彼らに怖い者なんていないはず。

 それは俺も経験があること。

 

 であれば、あとは倒すのみだ。

 簡単なことだな。

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