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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第3章「七大ギルド新人戦編」
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第69話「修行」

「あれここって……」


 タイヨウが辺りをキョロキョロと見渡しながら思い出したように喋る。


 そう、ここは〈未開拓遺跡ラビリンス・リメインズ〉周辺の森。

 俺が知っている中だったらここら辺で一番魔獣が活発な地域だ。


「で、俺にどんな修行をつけてくれるんだ?」


 タイヨウが鼻息を荒くしながら、今から行う修行の内容を聞いてきた。

 これから来たる地獄を知らずに。


「これから一ヶ月間ここで暮らしてもらう、ただそれだけだ」


「え?」


 タイヨウはキョトンとした顔を浮かべる。

 タイヨウの頭に浮かんだ疑問符もわかる。

 しかし、タイヨウを強くするにはこれが一番最適解であると俺は思っていた。


「ただし、条件が一つだけある。 それは日が昇っているうちは魔力を解放し続けることだ」


「魔力を解放し続ける?」


「ああ。 それだけで十分だ」


「えっと、新しい技の習得とかは?」


「必要ないな」


「魔力の使い方とかは?」


「俺の魔力の使い方を教えてもお前覚えられないだろ」


「な、なるほど……」


 タイヨウはなぜか俺のことを強いと思ってくれている。

 そのためかネロのような反抗心を燃やすことはせずに、俺の言う事に納得まではいかないがやるしかいないと思っているようだ。

 それだけで最初のステップは完了した。

 一番俺が高い壁だと思っていたステップがなぜか簡単に行ってしまった。

 俺に力があれば「悔しかったら俺を倒せ」ぐらいに言ってやることもできるがそこまでの力はない。

 結果で黙らせることはできないからこそ、素直に聞いてくれるのは有難い。


「よしタイヨウ、まずは飯からだ。 料理はしてやるが食材はお前自身が採って来てくれ」


「わかった!」


 タイヨウは魔力を解放し、森の奥へと駆け出して行った。


 * * *


「おい、タイヨウ魔力出てないぞ」


「う、え、あ、忘れてた……」


 思ったよりも早いな。

 魔力は多いのに、使い方が悪い。

 だからたった三日間でさえ、魔力が途切れてしまう。


 魔力がなければ飯を食うこともできない。

 飯も食わなければ注意散漫となり、今のタイヨウのように何もやる気が出ず頭は常に真っ白になる。

 それに魔力は体力に似たようなもの。

 飯を食わなければ魔力の回復も遅い。

 悪循環としか言いようがないこの状況。

 それでいい。

 むしろ早い段階でこれに気づけたのはタイヨウにとって大きい。


「ゴウルルルルルル」


 狼型の魔獣、マーナガルムが群れを成して俺らの目の前に姿を現す。


「ほらタイヨウ。 飯が来てくれたぞ」


「お、おう……」


 会話すらもできないほど体も限界に近いだろう。

 でもこういう時だからこそ、魔力をどう使えば倒せるのかを考える。

 考えた結果をすぐに実践し、体が覚える。

 この森で、この修行でやりたいのはまさにそれだ。

  

 タイヨウは微かな炎を体に纏い攻撃を仕掛けた。

 ただ、いつもなら一撃で倒せているはずの魔獣が倒せない。


「ぐああああ」


 タイヨウの足、肩、至る所にマーナガルムが噛みつく。


「タイヨウ、普通にやったらお前が死ぬだけだぞ。 頭使って戦え」


 タイヨウは馬鹿だ。

 ただしそれはあくまで現代のルールに則った時の話。


 タイヨウはその高い戦闘IQで考えなくても体が動いてしまう。

 それは別に悪いことではない。

 センスはあるに越したことはないから。

 ただしそれだけではクロガネさんやヤマトさんのように圧倒的な魔力を持つ者には勝てない。

 センスが同じレベルであったとしたら、決めるのは魔力量になってしまうから。

 時間を掛ければもしかしたらヤマトさん達にも手が届くかもしれない。


 でも違うだろ、タイヨウ。

 お前を庇って、お前の目の前で死んだマークに追いつくには時が経つのを待つわけにはいかない。

 未来に懸けたところで期待通りの結果にならないかもしれないしな。

 だったら考えるしかねえんだよ。

 どうやったら勝てるか、どうやったらマークに追いつけるか。

 どうしたら、マークを超えるヒーロになれるのかをな。


  「また繰り返すのか?」


  戦闘中のタイヨウに語りかける。


 「また何もできずに負けるのか? 負けて悔しくて落ち込むだけなのか?」


 タイヨウの体から血が流れだしている。

 体力も限界に近い。

 そんなことはわかっている。

 でもあの時も同じ状況だったはずだ。

 目の前に魔獣の大群、それも留まることを知らずに溢れてくる。

 体力もなければ、精神的にも参ってしまうあの状況。

 人はすぐには変われない。

 一生を懸けても変わらないのかもしれない

 意思を持ち続けると意気込んでも、変われないのが人間だ。

 だったら環境を変えてしまえばいい。

 あの時の絶望を忘れない環境に身を置けばいい。


 それが今だ。


「ぐっ……」


「変わりたいなら、人を守りたいなら、今やるしかねえぞタイヨウ」


「ぐ、うおおおおおおおおおお」


 タイヨウから魔力が沸き上がっている。

 噛みついていたマーナガルムがどんどん焼き焦げていった。


「はあ、はあ、はあ……」


「タイヨウ、魔力」


 釘を刺すようにタイヨウに忠告を入れる。


「嘘だろ、カナタ……」


 * * *


「ヤマトさん、ここって……」


 ネロはこの土地を知っていた。

 そしてこの場所には苦い思いでしかない。

 魔獣にコテンパンにやられた、あの〈未開拓遺跡ラビリンス・リメインズ〉の近くだったから。


「そう、ここら辺じゃ一番魔獣が活発な地域」


「なるほど、さすがヤマトさん!」


 ネロはヤマトの成すこと全て肯定的であった。

 たった一言であるのに、全てをわかったかのように振る舞うネロ。

 ヤマトはネロが尊敬している人物の一人。

 人柄、実力、顔、ヤマトの全てに憧れ尊敬している。

 そんな憧れの人物とこうして一緒になって修行ができている。

 それだけでネロは強くなった気がしていた。


「あ、そうだネロちゃん。 クロガネさんには人に教えられないって言われたけど、こう見えて私『神の実績(シン・クラス)』なの。 だからネロちゃんには一つだけ注文つけていいかな?」


「はい、もちろんです!」


 ヤマトからの助言に心を躍らすネロ。

 そう、彼女は『神の実績(シン・クラス)』なのだ。

 そんな人物が教えることできないなんてあり得ない。

 だからきっとこれから話すヤマトの言葉はネロにとって大変貴重なものになるに違いはない。


「じゃあネロちゃん、この修業期間中魔力をずっと出し続けていて」


「魔力を出し続ける?」


「うん、これだけやってれば絶対大丈夫だから!」


「え、はい!」


 正直、魔力を出し続けることが自分の力になるとはネロにとってみれば考えにくいことだった。

 確かにずっと魔力を放出し続けることは大変な事なのかもしれない。

 しかし、ネロからすればその修行は拍子抜けだった。

 ヤマトにはもっと難しく、厳しい修行の内容が来ると思ってしまっていた自分がいる。

 でもきっとヤマトの考えはネロがどんなに頭を捻ってもわからない。

 それがヤマトの魅力の一つではあるが。

 

「じゃあ早速始めてみよう」


 ヤマトは言葉と同時に天に向かって光を放った。

 ネロはこの能力を一度だけ見たことがあった。

 それはヤマトの修行に付いていったとき。

 ヤマトをおもむろにこの光を空に向かって放った。

 そしてこの光の正体は、魔獣を呼び起こすための信号弾のようなものだ。

 そしてこの光に群がってきたのは狼型魔獣マーナガルム。


「え……」


 突発的なヤマトの能力にネロは驚いてしまうが、これも修行のうちなのだろう。

 毎日思うほど憎いトルール家を滅ぼすためにも、ネロはここで立ち止まるわけにはいかない。


「やってやるわ……」


 ネロは能力を発動し、地面から巨大なツタを生やす。

 マーナガルムが絡みとられ、黒血を流しながら死んでいく。


「うん、いいね。 じゃあもう一回やってみよう!」


「ヤマトさん、厳しすぎませんか?」


「まあまあ、これぐらいなら大丈夫でしょ!」


 休む間もなくヤマトが信号弾を発射する。

 普段なら魔獣の戦闘を終えたところで魔力を温存できるが、ここに群がる魔獣は待ってくれない。


 でもこれぐらいのことをしなくては、ロアに勝つこともトルール家を滅ぼすこともできやしない。

 ネロのうちに秘めた憎しみが込み上げてくる。


(見ててね、ミア……)


 このペースで能力を使っていたら、魔力はすぐに底を尽きてしまうだろう。

 それでもネロはペース配分を考えることはしなかった。

 憎しみが、怒りが、冷静さをないものにしているから。

 でも、こうでもしないと自分で勝手に限界を決めてしまう。


「都合がいいじゃない」


 新人戦で絶対にロアに勝つ。

 まずはそこを目標に置く。


 ネロは憎しみを前面に出しながら魔獣と戦い続けるのだった。

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