第68話「強さの秘密」
「というわけで、七大ギルドで新人戦が開催されることになったわ」
ヴィオラさんがひとしきり新人戦についての説明をしてくれた。
もちろん、ギルドマスターであるクロガネさんは横で聞いているだけ。
きちんと目も死んでいる。
ヴィオラさんの話を聞くとどうやら魔族侵攻を受けて、国の防衛力増強のためにギルドから底上げを図るらしい。
まず手始めに七大ギルドの新人戦を開催するとのこと。
うん、俺には関係のない話だな。
「よし、やる気出てきた!」
なぜだ、タイヨウ。
「やってやろうじゃない!」
意味が分からんぞ、ネロ。
タイヨウとネロはなぜかやる気だが、俺にその情熱は全く伝わっていなかった。
何が新人戦だ。
新人戦という名の見せしめ。
観客も入って、戦いを見守られるなんて恥ずかしいわ、しんどいわ、何よりなんで俺みたいな雑魚がいるんだって変な空気になってしまうだろうが。
「ちなみに、優勝賞品として『古代武具』出るらしいよ」
ヤマトさんがぼそりと呟く。
俺の耳がその言葉をスルーするわけはなかった。
「よし、タイヨウ、ネロ、今から修行しに行くぞ。 朝から晩までみっちり俺がしごいてやるから覚悟しとけよ」
「え、ほんとか! カナタに修行つけてもらえるなら百人力だ!」
「はあ? あんたさっきまで顔クロガネさんみたいになってたくせに何言ってんの?」
ネロちゃん、わざわざクロガネさんまで攻撃しなくていいんだよ。
優勝賞品が出るとなれば話は別だ。
それに『古代武具』というこの異世界でもかなり希少なものが出るならば、俺だって大会に出るしかない。
そのために必要な事は俺自身のレベルアップではなく、タイヨウとネロのレベルアップだ。
どうやら新人戦にでる連中は『黄金世代』と呼ばれており、『二つ目の実績』なんかはざらにいるらしい。
「そうと決まったら今日から修行開始だ。 飯だけ食ってすぐに集合な」
「はい!」
タイヨウ君、いい返事だ。
「嫌だ。 こんなむさ苦しい奴らと修行なんてしたくない」
ネロさん、言葉遣いには気を付けるように。
こう見えて意外に俺ガラスのハートなんだから。
同世代の女の子にそんな事言われたら俺のライフはゼロよ。
「まあ、それもそうだな。 俺も勢いで言っていたが、俺が教えるよりもずっと適任な人がいた。 じゃあヤマトさんはネロを、クロガネさんがタイヨウをお願いしますね」
ネロの言っていることもわかる。
というか、俺が教えるよりも絶対この人達のほうが適任だ。
「え、私?」
ヤマトさんがきょとんした顔を浮かべた。
何を驚いていらっしゃる。
俺よりも格段に強いあなたが教えた方がいいでしょう。
「カナタ、それは辞めとけ」
クロガネさんがむくりと起き上がり俺に忠告をした。
「どういう事っすか?」
俺もクロガネさんの言っている事がわからず、つい聞き返してしまう。
ヤマトさんは『神の実績』。
クロガネさんはギルドマスター。
これ以上の適任がいないだろうに。
「俺とヤマトが教えたら大変なことになる」
「というと?」
「俺とヤマトは感覚で戦うタイプだからな。 今までそれで何とかなってきたせいで、魔力の使い方とかは考えたこともない。 よっぽどお前が教えたほうがこいつら強くなるぞ」
まじかよ。
本当にこの人はバケモンだな。
感覚であんな繊細な魔力の使い方をされては俺の血の滲むような努力とは何だったのか。
であれば一つだけ疑問が出てきてしまう。
「じゃあ何でこいつらこんなに強いんすか?」
ふと言葉にしてしまった。
ネロの冷たい視線は一旦そらしておくとして、タイヨウとネロが誰かに教わらずここまで強くなれるとは考えにくい。
もちろんこの二人には魔力の才能が備わっているとは思うが、それに気づけなればただの宝の持ち腐れ。
それに気づいた誰かがいなければ、こんなに強くはなれない。
それに気づかずここまでなったクロガネさんが特殊なだけだ。
てっきりヤマトさんが教えているのかと思ったらどうやら違う。
では一体誰が教えたというのだ。
「うーん、タイガーとチェロがいればな~」
「タイガーとチェロ?」
「あ、そっかカナタ君は会ったことないんだったね。 【天使の加護】にはねもう二人だけ仲間がいるの。 今はクエストに出てて帰ってきてないんだけど、うんと強い二人がタイヨウとネロちゃん教えていたんだよ」
「なるほど、そういう事っすか。 じゃあその二人かなり強い人っすね」
「え、なんでわかるんだ!?」
タイヨウのお手本のようなリアクションについいい気分に浸ってしまう。
まあ俺には魔眼があるからな。
魔力の使い方は一目見れば、上手いか下手かぐらいはすぐに見分けられる。
タイヨウとネロの魔力の使い方は上手い部類に入る。
上手い、というよりは基礎がしっかり出来ていると言ったほうがいいのか。
これから成長していくためには欠かせない部分がきっちりと押さえてあるそんな感じだ。
加えてこの二人の戦闘には粗さがなかった。
武術を習っていたかのような体の使い方だったから。
あれこそ、センスでは到底身に着けられない動き。
誰かの戦いの型を真似し、実践に生かす。
見本となるような動きがなければ、あのような戦い方はできない。
「タイガーには力勝負で勝てないし、チェロには魔力勝負では勝てない。 そんな二人だよ」
なるほど、ヤマトさんがこれだけ過大評価しているということは間違いなく強い。
こう見えてヤマトさんは意外に負けず嫌いだからな。
あの時の射的を見ていればわかる。
そんなヤマトさんが単純な力勝負と純粋な魔力勝負で負けるというのだ。
「まあ、そういうわけだ。 だからカナタ、お前が教えるしかない」
クロガネさんは肩肘をつきながら気だるそうに俺に二人を任せた。
まあ、これも『古代武具』のためか。
「私は嫌よ。 こいつなんかに教わるぐらいなら一人でやった方が何倍も強くなれるわ」
「それならそっちの方がいい。 ただ一人でやっているとどうしても知らないところで手を抜いてしまう、だからヤマトさん、ネロの修行見てやってるだけでいいんで付いていってもらえます?」
「うん、それぐらいだったら私でもできるよ」
ヤマトさんがニッコリと笑った。
一ヶ月後に開催される新人戦。
どこまでタイヨウ達が成長するかってところだな。




