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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第2章「魔族侵攻編」
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第64話「鉄の掟」

 俺とシェムハザの攻防によって周囲の建物が崩れて行った。

 近辺を満遍なく使い、縦横無尽に駆け回る。

 『偽りの英雄(ライアー・ヒーロー)』の発動時間は残り少ない。

 ありったけの魔力を解放してシェムハザに挑むしかないのだ。


「おらっ!」


 シェムハザの糸が俺を追従してくるが、建物を上手く使い何とか躱す。


 建物に囲まれている分、俺は有利な状況となっていた。

 そしてここら辺は俺も馴染みがある。

 地形を味方にできているのだ。

 これならば全開のシェムハザと戦える。

 建物を嫌がってシェムハザは建物を壊していくが、その隙は自分にとって好都合。

 土煙が巻き起こり、建物も密集しているおかげで姿を隠すことができていた。

 俺には魔眼があるし、それがなくともシェムハザの魔力は大きいため位置は手に取るようにわかっていた。


「ちょこまかと!」


 シェムハザが空を飛びながら虫篭のように糸を仕掛けてくるが、この魔力でできた糸はフリルと相性がよい。

 シェムハザにも徐々に苛立ちが積もっているのもわかる。


 空を飛んでいる間は建物に姿を隠す。

 そしてシェムハザが痺れを切らし、下りてきたところを奇襲する。


「くそっ!」


 これぞヒット・アンド・ハイド作戦。

 〈危険領域ブラック・テリトリー〉はこれで生きていたと言っても過言ではない。

 たまにポチを囮にして、敵を奇襲するポチ・アンド・オトリ作戦もあった。

 その度にポチは口を聞いてくれなくなったけど。


「終わりにしよう」


 建物の陰で俺はフリルに魔力を注いだ。

 これで決着をつける。

 この性根の腐った野郎を殺す。


「くそが! 殺す、絶対に殺してやる!」


 シェムハザは俺のいる位置などわかっていない。

 隠れることは空を飛ぶよりも得意なのだ。


 シェムハザが魔力を手に集中していつでも俺の奇襲に備えていたが、もう俺の刀はシェムハザに届いていた。

 胴体を切り裂き、その傷から黒色の血が大量に溢れ出す。

 口からも黒血を吐き、その場に倒れるシェムハザ。


 ギリギリだった。

 能力、魔眼、経験。

 俺の持つ全てのカードを切って戦った。


「……ろす、殺す殺す殺す殺す殺す……」


 シェムハザはまだ死に切れていないようだ。

 

 Z級だとか魔族とか俺には正直わからない。

 でも俺の平和的な生活を脅かし、俺の家族にも手を出すのであれば話は別だ。

 俺らの命を取りに来たのであれば、俺もこいつの命を奪う。

 それがこの異世界の理だと思っている。


「じゃあな、シェムハザ」


「———カナタ君、大丈夫?」


「っ!」


 倒れたシェムハザの先にいたのはヴィオラさんだった。

 この近辺には【天使の加護ブレッシング・エンジェル】がある。

 あれだけの戦いをしていれば、ヴィオラさんが様子を見に来てもおかしくはない。

 ただヴィオラさんは勘違いをしている。

 戦闘はまだ終わっていない。

 それに俺が戦っているのはただの魔族ではない、人間そっくりの知性がある魔族なのだ。


「逃げてヴィオラさん!」


「人間は全員俺の人形だ!」


 シェムハザが倒れたまま糸をヴィオラさんに伸ばす。

 そしてその糸は先ほどポチを操った糸ではない。

 人を殺すための糸。


 俺はヴィオラさんの元へ最後の魔力を使って駆け出す。


「ぐはっ……」


「え……」


 口から血が溢れ出してきているのがわかる。

 熱く、不味い、何度も味わったことのある血の味だ。


「カナタ君!」


 俺はそのままヴィオラさんの元へと倒れてしまった。

 力が出ない。

 今ので『偽りの英雄(ライアー・ヒーロー)』の効果が切れた。

 能力が切れたということは、魔力がない。

 つまり、魔眼も発動しない。


「くそっ……」


 俺はなんとか自分で立ちあがった。

 まだシェムハザは死んでいないから。

 俺の恨みを晴らせていないから。


 その時、シェムハザの後方から黒色のゲートが開いた。

 そこから姿を現したのは桃色の髪で目に包帯を巻いている幼女だ。

 しかし、一瞬で人ではないことはわかる。


「シェム、あなたを助けるのはこれで二度目。 もう次はないわ」


「まだだ!」


 シェムハザも何とか立ち上がる。

 こいつ、まだやる気か。


「サタン様からの命令よ。 この侵攻は終わり」


「どういうことだ」


「思ったよりも人間に力があったみたい、うちの仲間の何人かは死んだわ」


「ちっ」


 シェムハザはなぜか納得したようだった。

 この戦闘狂がこんなにあっさり引くとは。

 サタンという魔族は一体何者なのだろうか。


「あなた達何が目的なの!」


 ヴィオラさんが去ろうとしていくものに対して叫んだ。


「人間はそんな事知らなくていい」


 ピンク髪の幼女がボソッと呟く。

 ヴィオラさんも警戒しているようでそれ以上聞くことはなかった。


「……シェムのせいで負けっぱなしみたいになって嫌だわ」


 そう言うと黒色の大きなゲートが空に開く。

 不穏な空気感がここら一帯を包み込み、嫌な汗がじりじりと俺の体から噴き出しているのがわかった。

 何回、何体倒せばいいのか。

 終わりのないような戦いに珍しく俺も絶望してしまった。

 空から降ってきたのは何度も見たA級魔獣、それも数十体。


「お土産よ」


 そう言い残し、シェムハザとピンク髪の幼女はゲートへと消えて行った。


「ヴィオラさん逃げてください」


「ダメよ、カナタ君も一緒に……」


「いや、ここでこいつら食い止めないと【天使の加護ブレッシング・エンジェル】に危険が及ぶ。 それだけは何としてでも止めないといけないんで」


 こんなに格好いい事を言ってしまう自分に少し笑えてしまう。

 でもこのギルドを守りたいのは本音だ。

 この戦いが終わればヤマトさんの作る温かく美味い飯が待っている。

 だからここで俺が逃げるわけにはいかない。


「グギャー!」


 一体の魔獣が大きな雄叫びを上げたことを皮切りに一斉に俺の元へと突撃してくる。


 この状況でも笑ってしまう。

 でも、それでいい。

 死にそうになるぐらい辛い時だからこそ、せめて笑う。

 アゼレア家、鉄の掟その一だ。

 俺はフリルを構え、来たる魔獣を睨みつける。


 さあて、どこまで耐えられるかな。


 俺の元へと魔獣が一斉に攻撃してきたその時、一瞬にして魔獣の頭が飛ぶ。


「あぶね……」


 九死に一生を得たとはまさにこの事。

 それに俺はこの魔力を感じたことがあった。

 一目見ただけこの人がギルドマスターだとわかっていた。

 それなのに、死んだ目のおっさんって言ってごめんなさい。


「わりぃ、遅くなった」


 地面にバタバタと倒れていく魔獣。

 その間から出てきたのは、【天使の加護ブレッシング・エンジェル】のギルドマスタークロガネさんだった。


「マスター!」


 ヴィオラさんの嬉々とした声が聞こえた時、俺は目の前が真っ暗になった。

 さすがに魔力の使い過ぎか。


「よくやったよ、さすが【天使の加護ブレッシング・エンジェル】の一員だ」


 クロガネさんのその言葉が嬉しかった。

 これで俺もギルドの一員になれた気がしたから。

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