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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第2章「魔族侵攻編」
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第61話「家族」

 〈危険領域ブラック・テリトリー〉生活五年後。


「ポチ~、飯まだ~?」


 森の小さな洞穴の中でいつものように腹を空かしながら、ポチが作る飯を待っていた。

 もうすっかりこの生活に慣れてしまった自分が怖い。

 これだけ大変な毎日を送っているのにも関わらず、時が動き続けた結果気づけば五年の月日が経っていた。

 日付を数えることはやめていたが、アザゼルと約束があったため年数は数えるようにはしていた。

 一年が始まれば、すぐに一年は終わる。

 始まれば長く見える一年は、終わってみればとてつもなく早く感じる。

 一生この生活をしろと言われて嫌な事には変わりはないが、恐怖心などは少し前に比べたら薄れてきているため心の底から嫌だという気持ちはなかった。

 これが慣れってことなのかもしれない。


「できたよ、お兄ちゃん」


 焚火の上でスープを作ってくれているポチも今はこのようにコミュニケーションが簡単に取れている。

 いつからだろうか。

 あの時、死ぬ寸前までいった時からか。

 ワームウッドから逃げ、苦しい現実から逃げたあの時。

 それでも、彼女のため、ポチの為に帰って来られたあの時。

 何とか逃げなかったおかげで苦しい現実にも立ち向かえていける。


 だからポチには感謝しかしていない。

 彼女のおかげで今の自分があると言っても過言ではないから。


「「いただきます」」


 しっかり手を合わせてご飯を頂く。

 今日は魔獣のテールスープ。

 鼻をツンと刺激してくる香ばしい草の匂いと、魔獣の独特の苦みが癖になる。

 決して美味しいとは言えない料理。


「美味しいね、お兄ちゃん」


 そんなことは口が裂けても言わないようにしている。

 ポチのこの笑顔を見れば料理に対して不味いなど言えない。

 心で思っても駄目だ。

 それにポチと一緒に食えばなんだって食える。


「やあやあ、元気だったかね諸君」


 洞穴の入り口からひょっこりと顔を出してきたのは、この地獄に落とした張本人であった。


「よくのこのこと俺らの前に顔を出せたな」


 スープを啜りながら、アザゼルを睨みつける。

 アザゼルはゆっくりとこちらまで歩いて、焚火を囲んで俺らの近くへと腰を掛けた。

 自分がしたことに全く責任を感じずにいるこの姿に少し懐かしさを覚えてしまう。


 ポチは不思議そうにアザゼルを見ていた。

 どうやって振る舞えばいいのかわからなかったのか、とりあえず木でできたお椀にスープを入れて差し出した。


「ありがとう」


 ポチに笑いかけながらスープを啜って一息ついていた。


「いやなんでそんな落ち着けるんだお前!」


 鋭いツッコミを久しぶりに放ってしまった。


「まあまあ」


「まあまあって……」


 相変わらずのマイペース。

 久しぶりにこの振り回される気持ちを味わう。

 もうすでに怒りがピークに達しているが、こいつが来たのは理由がある。


「約束の日か……」


 長いようで短かった五年間。

 今を思えば早かったと思うが、特定の時点を思い出せば辛かった記憶しか思い浮かばない。


「うん」


 微笑を浮かべてこちらを見てくるアザゼル。

 その心は何を思っているのだろうか。

 俺が生きていてよかったと思っているのか。

 よくこんな地獄にいて生きていたねと嘲笑しているのか。

 表情だけでは何もわからないし、こいつに聞いたところで俺の欲しい答えは返ってこない。

 なぜ俺ら二人ここの暮らしを強いたのか。

 なぜ、本当に苦しい時に助けに来てくれなかったのか。


 しかし、怒りはとうの昔に忘れてしまった気がする。

 だから今こいつを怒る気にもなれなかった。

 やっとここから出られるという開放感しかない。

 それに、俺とアザゼルの間にはどう足掻いても埋められない実力差がある。

 あのワームウッドよりも遥かに高い壁。

 もしかしたら、アザゼルを見ていたからワームウッドにも立ち向かえたのかもしれない。

 だから俺はこいつの言う事成すこと、暇つぶしのような道楽に付き合うことしかできないのだ。


「でこれから俺とポチはどうなるんだ?」


「そうだね。 でももう私から教えることはないから、あとは自由に生きてくれ!」


「お前は五年間何もしなかったし、今更何を言われたところで動じないがそんな胸張って言う事ではない」


 師匠のような言い草のアザゼルを横目で見る。

 なんでこんなにデカい面ができるんだ、こいつ。


「どうだった、ここの五年間は?」


 含みのある言い方だ。

 まるで知っているみたいな顔をして、それでもアザゼルは俺に五年間の暮らしを問う。

 決して一言では言い表せない。

 一言で終わらせられない。


「辛かったよ、辛いって言葉じゃ足りないぐらいにはな。 それでも何とか生きてやったよ、ポチがいたからな」


 俺はポチの頭を撫でた。

 この五年間はポチなしには語れない。


「そっか……」


 一瞬だがアザゼルの顔は寂しい表情を浮かべた。

 もしかしたら、アザゼルにも人の心は多少なりともあるのかもしれないな。


「で俺らをどうするつもりだ、約束の五年が過ぎたぞ」


「言ったでしょ、自由に生きなって。 君はもう一人で生きていけるから大丈夫」


 アザゼルははっきりとその言葉を口にした。


 一人で生きていけるのか。

 この異世界に来て十年。

 外の街に出たこともなければ、この世界の常識など何一つ備わっていない。


 でも、不思議と不安はなかった。

 この地獄に比べたら外の世界は天国に違いないから。

 何が起こってもこの生活よりかはましなはずだから。


「じゃあお前とは今日でさよならだな」


 アザゼルを見つめる。

 こいつに感謝をしてしまっている自分がいる。

 この異世界に転生して誰にも何も教わらないまま生きていたら、俺はとっくに死んでいたかもしれないから。

 だから例え地獄に放り込まれても許せてしまうのだ。


「そう。 私たちとはお別れ」


「私たち?」


「ポチちゃんは私がもらっていくよ」


 てっきりポチは俺が連れていくと思っていた。

 五年間ずっと一緒にいたからこそ、いない方がなんかもどかしい。

 でも俺は受け止めるしかできない。

 アザゼルには何を言っても無駄だ。

 それは修行期間からわかっていたことだった。

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