表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第2章「魔族侵攻編」
61/143

第60話「経験」

「よし、これで終わりっと」


 俺は負傷者の手当てを済ませ一呼吸ついた。


「すまないな……」


 【慈しみの愛(プリズム・キャンサー)】の新人に謝礼される。


「まあ、こういう時はお互い様だ」


 いつもならこんな言葉出さないけど、この状況で変な尖り方はしなくていい。

 俺も人付き合いは最低限していかないといけないことは、この街に来てから思ったことだ。

 ヤマトさんに助けられ、ギルドで飯も食べられた。

 ということはこいつに恩を売っておけばもしかしたら飯をご馳走になれるかもしれない。


「君、名前はなんていんだ?」


 そんな俺の邪な気持ちをよそに、手負いながらも爽やかスマイルを作って話しかけてくれる。

 滴り落ちそうになる涎をなんとか押さえながらその返答をする。


「俺はカナタ。 カナタ・アゼレアだ」


「アゼレア……」


「で、お前は?」


 これも一つの会話のキャッチボール。

 名前を聞かれたら聞き返すのがマナーだろう。

 あれ、俺いつの間にこんなに立派になっちゃったの。


「ああ、俺はシャオレン・マッカラン。 よろしくな」


「ああ、よろしく」


 俺もシャオレンの隣に腰を下ろし少しばかり談笑してしまった。

 このレベルの好青年だと話のテンポもよく、ついつい喋ってしまう。

 この異世界には友達のような存在はいないに等しいので、同年代のやつと腰を据えて喋れるのは嬉しかった。

 俺の同年代って言ったら、バカとツンデレぐらいしか近くにいないからな。

 会話のレベルを合わせられるっていうのもスキルなのかもしれない。


「誰か、動ける人いない!?」


 談笑に没頭していたところに、女性の声が聞こえてきた。

 表情に焦りが見える。

 息も途切れ途切れで、膝に手をついていることから全力でこの場所まで走ってここまで来たことがわかった。


「どうかしたのか?」


 シャオレンが立ち上がり、その女性に質問を投げる。


「ティアさんが、ティアさんが!」


「まずは一旦落ち着こう。 ティアさんがどうかしたのか?」


「すごい魔力を持った人が現れて、それで私たちを庇って、それで……」


 シャオレンが背中をさすりながら落ち着かせようとするも、彼女は冷静さを保つことができていない。


「それで?」


 シャオレンは険しい表情で尋ねる。


「私たちを庇いながら戦ってたから、ティアさんが傷だらけになっててもう死にそうだったの!」


「それは不味いな。 あのティアさんが押されていて、そして人型となればそれはおそらくZ級だ……」


 シャオレンは顎に手を当てて何かを考えているようだった。


「でも、この場で助けに行ける人は……」


 俺はその言葉を聞く前に、そろりそろりと逃げていく。

 このままでは変な事に巻き込まれてしまうのを何とかして避けなければ。


「カナタ!」


 その声を聞いた瞬間体がビクッと反応を示す。


「は、はい?」


 自然と声も上ずれ、体の緊張が声に伝わってしまった。


「この中で動けるものは君だけだ。 頼む、ティアさんを助けに行ってくれないか!」


 シャオレンの顔は真剣そのものだ。


 待て待て。

 俺が行ったところで何ができるというのだ。

 ティアは俺よりも実力は何十倍も上。

 そんなティアの加勢に行ったところで、俺も殺されて終わり。

 嫌だ、行きたくない。


 でもシャオレンや周りの雰囲気に飲まれてしまいその反論を心の底に仕舞うしかなかった。

 異世界に来ても結局人に気を遣ってしまう。

 でも裏を返せばなんて気が利く男なのだろうか。

 そんな自分に酔ってしまうが、今はその時ではない。

 よし、決めた。

 このまま別の場所に行った振りをしてやり過ごそう。


「カナタ、そっちじゃないぞ!」


 え、もうバレたの。

 仕方ない、ここは素直に言うしかないようだ。


「無理」


「どうして!?」


「俺が行ったところで何も状況は好転しない」


「君が行ったら何かが変わるかもしれないだろ?」


「むしろ悪化する」


 目を合わせずに淡々とシャオレンの問いに答える。


「もしかしたら助かるかもしれない命がそこにあるんだぞ!」


「……おい」


 この言葉には流石の俺でも黙っていられなかった。


「何が助かるかもしれない命だ、お前に力がないから誰も助けられないんだろ。 助けるって行為は誰でもできることじゃねえんだ。 人を助けたいならまずお前が強くなってから物を言え」


 人を助けることは〈危険領域〉を経験したからこそ、とんでもなく大変なことはわかっていた。

 自分の命を救うことは当たり前であり、難しい。

 それがこの平和ボケしている連中にはわからないのだろうか。


「じゃあ、僕が行く」


「待ってシャオレン! あなたの今の体で助けに行っても何もできないわ!」


 助けを呼びに来た女性が立ち上がろうとしたシャオレンを支えながら、必死に止めようとしている。

 シャオレンは動くたびに痛そうな顔を浮かべているが、こつこつ歩いて行こうとする。


 少し頭に血を浮かべた自分だったが、自分よりも遥かに焦っている者を見たら心が少し落ち着いた。

 それのおかげで俺がやるべき事もわかった。


「わかったシャオレン」


 俺はシャオレンの前に立ち頭を掴んだ。


「え?」


 急に頭を掴まれたシャオレンは顔に疑問の表情を浮かべている。


「少し頭冷やせ」


 俺は掴んでいる手に魔力を集中した。

 そしてそのままシャオレンは倒れていく。


「あなた何をしたの!」


 女性が倒れているシャオレンを庇いながら、俺を問い詰めてくる。


「軽い脳震盪を起こしただけだ、体に異常はない」


「何がしたいの!」


 女性も落ち着いてはいなかった。

 もちろん俺が急にこの行動を起こしたのも理由の一つに挙げられるが、この場にいる者全員冷静さが欠けているのだ。


 これは経験がない彼ら彼女らからすればしょうがないこと。

 責めるべきは経験のない若者を呼んだギルド連合。

 掘り下げていけばこの国が悪いのだ。


 俺はこの場を立ち去ることにした。

 このままここにいれば、この女性も俺を警戒し続けなければならない。


「ねえ、あなたカナタ・アゼレアでしょ」


 俺は無言で振り向く。


「ティアさんってあなたの家族じゃないの?」


「……どういうことだ?」


 言葉の意味がわからなかった。

 俺はこの世界に家族など一人しかいない。

 それにその家族は消息不明なのだ。


「ティア・アゼレア。 アゼレアなんて珍しい名前、あなたとティアさんしか聞いたことないわ」


 雷に打たれたような衝撃だった。

 なぜ忘れていたのか。

 いや、それはしょうがない。

 もしティアが、本当に俺の知っている人物だとしたら姿が変わりすぎているから。


「ティア……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ